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第20章 とある国と聖なる乙女
第847話 姿を見せたのは『人質』でした
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とりあえずサーシェルには知っている限りの事を教えてもらおう。
「もしやサーシェル先生は王妃様が『アルタシャ』だと言われている件について何かご存知なのではありませんか?」
「え? いえ。そんな事はありません!」
そこまで力を入れて否定したら、むしろ知っていると白状しているようなものだけど、どういう事なんだ?
「聖女に対する扱いといい、この国は一歩間違えば危うい状況にある事はサーシェル先生もご存知ですよね。だからわたしに協力していただけないでしょうか」
聖女教会は普段は国政に関わるような事はしないが、回復魔法の独占を揺るがすような真似をすれば容赦せず、全力で相手を滅ぼそうとする。
今のところフラネス王国はそこまでしていないようだが、聖女達を無理に移住させるような行為が、その準備と見なされる可能性はあるはずだ。
「そんな事は分かっています。だから王妃様は――何でもありません」
いま何か口走りかけた? やっぱり何か重要な事を隠しているらしい。
推測だが学長やサバシーナと共に、王妃の重要な情報を隠蔽しているのだろう。
おそらくスコテイが探ろうとしている事がそれなのではないか。
いろいろな可能性が考えられるが、いかに喋りたくなくとも今はサーシェルに聞く以外の手段がない。
まだオレを信頼していないのだろうけど、ここは無理を押すだけだ。
「その王妃様が――」
オレが問い詰めようとしたところで、神殿側にあった保健室の扉が急に開く。
「失礼します。サーシェル先生はおられますでしょうか」
入ってきたのはオレと同年輩の『男子生徒』だった。
ええ? ここは男子禁制だったのではなかったの?
「……」
そしてその男子生徒はオレの容姿を見て、明らかに驚いた様子を示している。その反応はこっちにとってはいつものことだけど、場所が問題だろう。
だがここでサーシェルは、むしろ安堵した様子でオレに背を向けて男子に向き直る。
「おお。アイウーズ君。やはり郷里とは勝手が違うので体調がすぐれませんか?」
「長旅の疲れが残っているのかもしれませんね」
あれ? まるで当たり前のように男子生徒に応対しているぞ。
ああそうか。この保健室は神殿と一つになっているところからすると『男子禁制』の場所に入っていないんだ。
たぶんサーシェルは碧空学園と蒼穹女学院、双方の保険医を兼ねているんだろう。そんなわけでここは男子生徒も顔を出す事が出来るわけだ。
前の世界のエロ漫画だったら、まさに男女で秘め事を行う絶好の舞台だけど、もちろん現実にそんな事はあり得ない。
アイウーズと呼ばれた少年は、赤い髪で整った容姿の貴公子然とした相手だ。
結構、いいところの貴族らしいな。
いずれにしても第三者がいるところで、サーシェルと込み入った話ができるはずがないのでここはオレが引くしかないな。
詳しいことは後で聞くとしよう。
「それでは気分もよくなったので、ここで失礼させてもらいます」
「待ってくれないかな」
「え?」
思わぬ事に制止の声はアイウーズからかけられた。
「あのう。何か御用でしょうか?」
貴公子然とした相手がオレに呼びかけてきた場合、何が起きるのはだいたい予想はできる。そしていつもろくな事にならないと決まっているのだ。
「名乗りが遅れたが、僕の名前はアイウーズ・グラフト。グラフト公国の公子だよ」
その国の名は午前中の授業で聞いたな。
フラネス王国とは南方で国境を接する属国だったはずだ。
ただ属国と言ってもいろいろな形式がある。
普通に『属国』と言えば建前上は独立国だけど、実態は大国のいいなりになっている国の事を指すだろう。
だが本当のところ話はもっと複雑である。
現実には独立国家であるが、そこのトップが大国の元首を主君と仰ぎ『自分は大国の承認を得てここの領主となった』という大義名分で国を治める事もある。
また国力に差があるので同盟関係を結んだ時に、一方が宗主国となる事もあるが、これも政治的な方便に過ぎない。
場合によっては貢物目当てで名目上の属国になることすらある。
この場合の『貢物』とは建前の上では属国が宗主国に差し出すものだが、実際には宗主国の方がはるかに多くのものを与えており、儲かるのはむしろ属国の方だった。
もちろんそうやって自国の文物を与える事で、相手を文化・勢力圏に引き込むわけだが、当然ながら出費もかさむ。
ある時には貢物への返礼が少なくて怒った属国の使者が、このままでは帰れないと相手国の領内で略奪していたこともある。
さらには元の世界ではある国が近隣の大国と戦争し、双方が多大な犠牲を出した後、講和交渉において『我が国の要人にお前の国の官職をよこせ。こっちが属国になるから貢物を受け取れ』と要求して断られた事すらあったとか。
いずれにしても属国になった場合、臣従の証として人質を差し出す事も多い。
そうするとこのアイウーズという少年は、人質として来ているのか。しかもこの発言からすると、最近になって『留学生』という形で入学したに違いない。
表向きは『属国から我が国の優れた文化・文明を学ぶために留学してきた』という扱いなのだろうな。
「正直に言って、ここに来るのはいろいろと心配だったけど、君に出会えてこれは運命だったと確信できたよ」
おい。アンタは初対面の相手に対し、何を嬉しげに語っているんだ?
図々しいにも程があるだろ。
しかしオレの場合、そういう厚かましい――そして多くの場合、地位の高い――男に事欠かないのである。
「もしやサーシェル先生は王妃様が『アルタシャ』だと言われている件について何かご存知なのではありませんか?」
「え? いえ。そんな事はありません!」
そこまで力を入れて否定したら、むしろ知っていると白状しているようなものだけど、どういう事なんだ?
「聖女に対する扱いといい、この国は一歩間違えば危うい状況にある事はサーシェル先生もご存知ですよね。だからわたしに協力していただけないでしょうか」
聖女教会は普段は国政に関わるような事はしないが、回復魔法の独占を揺るがすような真似をすれば容赦せず、全力で相手を滅ぼそうとする。
今のところフラネス王国はそこまでしていないようだが、聖女達を無理に移住させるような行為が、その準備と見なされる可能性はあるはずだ。
「そんな事は分かっています。だから王妃様は――何でもありません」
いま何か口走りかけた? やっぱり何か重要な事を隠しているらしい。
推測だが学長やサバシーナと共に、王妃の重要な情報を隠蔽しているのだろう。
おそらくスコテイが探ろうとしている事がそれなのではないか。
いろいろな可能性が考えられるが、いかに喋りたくなくとも今はサーシェルに聞く以外の手段がない。
まだオレを信頼していないのだろうけど、ここは無理を押すだけだ。
「その王妃様が――」
オレが問い詰めようとしたところで、神殿側にあった保健室の扉が急に開く。
「失礼します。サーシェル先生はおられますでしょうか」
入ってきたのはオレと同年輩の『男子生徒』だった。
ええ? ここは男子禁制だったのではなかったの?
「……」
そしてその男子生徒はオレの容姿を見て、明らかに驚いた様子を示している。その反応はこっちにとってはいつものことだけど、場所が問題だろう。
だがここでサーシェルは、むしろ安堵した様子でオレに背を向けて男子に向き直る。
「おお。アイウーズ君。やはり郷里とは勝手が違うので体調がすぐれませんか?」
「長旅の疲れが残っているのかもしれませんね」
あれ? まるで当たり前のように男子生徒に応対しているぞ。
ああそうか。この保健室は神殿と一つになっているところからすると『男子禁制』の場所に入っていないんだ。
たぶんサーシェルは碧空学園と蒼穹女学院、双方の保険医を兼ねているんだろう。そんなわけでここは男子生徒も顔を出す事が出来るわけだ。
前の世界のエロ漫画だったら、まさに男女で秘め事を行う絶好の舞台だけど、もちろん現実にそんな事はあり得ない。
アイウーズと呼ばれた少年は、赤い髪で整った容姿の貴公子然とした相手だ。
結構、いいところの貴族らしいな。
いずれにしても第三者がいるところで、サーシェルと込み入った話ができるはずがないのでここはオレが引くしかないな。
詳しいことは後で聞くとしよう。
「それでは気分もよくなったので、ここで失礼させてもらいます」
「待ってくれないかな」
「え?」
思わぬ事に制止の声はアイウーズからかけられた。
「あのう。何か御用でしょうか?」
貴公子然とした相手がオレに呼びかけてきた場合、何が起きるのはだいたい予想はできる。そしていつもろくな事にならないと決まっているのだ。
「名乗りが遅れたが、僕の名前はアイウーズ・グラフト。グラフト公国の公子だよ」
その国の名は午前中の授業で聞いたな。
フラネス王国とは南方で国境を接する属国だったはずだ。
ただ属国と言ってもいろいろな形式がある。
普通に『属国』と言えば建前上は独立国だけど、実態は大国のいいなりになっている国の事を指すだろう。
だが本当のところ話はもっと複雑である。
現実には独立国家であるが、そこのトップが大国の元首を主君と仰ぎ『自分は大国の承認を得てここの領主となった』という大義名分で国を治める事もある。
また国力に差があるので同盟関係を結んだ時に、一方が宗主国となる事もあるが、これも政治的な方便に過ぎない。
場合によっては貢物目当てで名目上の属国になることすらある。
この場合の『貢物』とは建前の上では属国が宗主国に差し出すものだが、実際には宗主国の方がはるかに多くのものを与えており、儲かるのはむしろ属国の方だった。
もちろんそうやって自国の文物を与える事で、相手を文化・勢力圏に引き込むわけだが、当然ながら出費もかさむ。
ある時には貢物への返礼が少なくて怒った属国の使者が、このままでは帰れないと相手国の領内で略奪していたこともある。
さらには元の世界ではある国が近隣の大国と戦争し、双方が多大な犠牲を出した後、講和交渉において『我が国の要人にお前の国の官職をよこせ。こっちが属国になるから貢物を受け取れ』と要求して断られた事すらあったとか。
いずれにしても属国になった場合、臣従の証として人質を差し出す事も多い。
そうするとこのアイウーズという少年は、人質として来ているのか。しかもこの発言からすると、最近になって『留学生』という形で入学したに違いない。
表向きは『属国から我が国の優れた文化・文明を学ぶために留学してきた』という扱いなのだろうな。
「正直に言って、ここに来るのはいろいろと心配だったけど、君に出会えてこれは運命だったと確信できたよ」
おい。アンタは初対面の相手に対し、何を嬉しげに語っているんだ?
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