異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
876 / 1,316
第20章 とある国と聖なる乙女

第876話 厄介な公子の真意とは

しおりを挟む
 アイウーズ本人に何らかの意図があったとして、幾ら何でも自分の実力でこの国をどうにか出来るとまでは思っていないはず。
 そうするとこれまでの行動は――

「もしかすると……あなたは自分が命を落とせば、このフラネス王国が混乱するだろうと考え、敢えて危険に身を晒しているのですか?」
「明確な見込みがあったわけではないさ。それに僕だって別に自殺したい訳では無いよ」

 そうだよな。だから魔法の護符で自分の身を守っていたのは間違いない。
 それでも随分と行動が大胆だと思ったが、あれも『出来れば死にたくないけど、別に死んでもいいさ』という意識の表れだったのだろう。

「ただ僕としては死んでも構わないと思っていたのは否定しないよ」
「それがあなたなりの『復讐』だったのですか」

 アイウーズにすれば生まれてからずっと『王を僭称する反逆者』と教えられてきたフラネス王国に膝を屈し、その国王に対して地位を承認され、人質として差し出されたわけだ。
 しかも本人の置かれた立場とは関係なく、祖国では『裏切り者』という心無い批判がぶつけられているというなら、やけになっても不思議ではない。

「そうかもしれないね……正直に言えば自分でも何がしたいのかよく分からないのさ」

 まるで他人事で『ちょっと困った』かのように、アイウーズはその肩をすくめる。
 困っているのはこっちの方だけどな!

「利口に振る舞うなら『留学生』としてこのフラネスで貴族たちと人脈を築き、将来はグラフトに戻って国を継ぐというしかない事ぐらい理解しているよ」

 人間は時として利口に振る舞う事が出来ずに、厄介な事態を引き起こしてしまう――と言うのは、オレにとっても身につまされる話ではあるな。
 要するに『坊やだからさ』という奴である。
 それでもアイウーズの態度はやっぱりどこかおかしいが、今はツッコミよりも正道に返す事が優先だ。

「これからでも遅くありません。あなたもそう振る舞うべきでしょう」
「君もフラネス貴族だから、それが当然だと考えるのは承知しているつもりさ」
「立場なんて関係ありません!」

 オレはフラネス王国の事よりも、知り合いが命を落とすような事を可能な限り避けたいだけなのだ。

「僕の立場など関係ないと言ってくれるのは嬉しいね」

 やっぱりコイツは意図的に都合よく受け止めているな。

「もしも君が国に戻る時、いっしょに来てくれる事を了承してくれていたのなら、僕ももっと自分の身を大切にしていたよ」
「それはわたしに責任転嫁しているという事でしょうか」
「まさか。今からでも君が僕と来てくれるのならば、喜んで何でも望む通りに振る舞うさ」
「故意に話をずらしていませんか?」

 もちろんこちらには誰だろうと妻になる気などさらさら無いが、平然と笑顔で自分の命を標的にするような壊れた性格をどうにかしてから女を誘え。
 しかしアイウーズが殺されても別に構わないと考えて振る舞っている理由は、命を狙っている相手にも原因があるらしい。
 しかしそれも分からない話だ。
 イオドに聞いた話からオレはアイウーズの命を狙っているのはフラネス王国の属国となったグラフト公国との戦争を再開させる事を望む、両国の強硬派のどちらかだろうと推測していた。
 しかしそいつらの思惑通りになることをアイウーズが望んでいるようにも見えない。
 そうするとアイウーズが先ほど口にした、自前の情報網で得た『何か』がこのような行為に駆り立てる原因になっているようだ。
 だがそれはいったい何だろうか?

「断っておくけど、僕は別に破滅願望があるわけでは無いよ。愛国心もあるつもりだ。だからグラフト公国が滅びるのを望んでなどいないさ」
「つまりあなたは自分の命が失われるのが、フラネス王国に打撃を与えるものだと考えていると言うことですか?」

 オレの問いかけに対し、我が意を得たりと言わんばかりにアイウーズは頷く。

「そうすると、君としては全力で僕を守ってくれるよね」
「こういう場合、全力で引っぱたく方が普通だと思いますけど」

 少々どころでない剣呑な視線を注いだつもりだが、アイウーズはむしろ嬉しげな様子だ。

「君にだったらいつでも構わないよ。何だったらトドメを刺してくれてもいいぐらいだ」
「あなたの知っている情報を聞き出したら、そうしてもいいかもしれません」

 ここでオレは改めてアイウーズをにらむ。

「教えて下さい。あなたはいったい何を知っているのですか? あなたが死んだらこの国に何が起きるのです?」
「君ほどの相手でも、分からない事はあるんだね」
「あなたの事を筆頭に、世の中には分からない事だらけですよ!」

 そう叫んだ瞬間、オレとアイウーズの周囲に幾つもの影が立ち上った。

「え? まさか!」

 思わずあたりを見回すと、どうやら霊体らしい。
 しかも明らかにオレ達、と言うよりもアイウーズへの敵意を示しているぞ。

「やっぱり来たようだね」

 アイウーズは覚悟したような、それでいてどこか嬉しげにつぶやく。どうやらここで殺されても、オレが守ってもどっちでも本人の目的は果たせるらしい。
 ええい。こんな奴は見殺しにしてやろうかという考えが、心の片隅に浮かび上がるが重要な情報を得るまでは生きておいてくれなければ困る。
 決してアイウーズの事を心配したわけではないからな!
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...