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第20章 とある国と聖なる乙女
第878話 気づいた襲撃者の正体は
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これまでアイウーズの暗殺に強力な魔法使いを複数使い、しかも幾度も繰り返し付け狙う行為がどうにも不可解だった。
しかしこれがあくまでもフラネス王国の混乱を目論んでいるとすると、アイウーズを襲撃したのも単純に毎朝登校してくるから狙いやすいかったというのが最大の理由だろう。
王妃も蒼穹女学院にちょくちょく顔を出しているけど、動向を事前に調べるのは難しいだろうし、何よりあそこは守護精霊のサバシーナがいるから襲撃は難しい。
他の要人も似たようなもののはず。
アイウーズは狙いやすいのに加えて、それでフラネスとグラフトに亀裂を入れ、国内に混乱を引き起こす足がかりになるという計算のはず。
そしてそれを実行しているのはたぶんフラネス王国が最近、強制的に首都の一角に移住させるなど統制を強化している宗教勢力だろう。
フラネス王国の統制強化は、今後も統制を次第に強化していって、最終的には彼らの有する魔法の秘密を国家が手に入れ、学校で魔法の適性を計って魔法使いを養成するというものだろう。
二一世紀の人間として考えれば、合理的で先進的な手法に思えるが、この世界においては危険極まり無い火遊びだ。
だが宗教勢力としてもいくら秘密を探られそうだと言ったところで、直接自分たちでフラネス王国を滅ぼすような真似はなるだけ慎みたいはず。
幾ら何でも正面切って争うのは危険が伴うし、何よりもフラネス王国は今のところはまだ各教団を一箇所に集めて統制を強化しようとしているだけだからな。
これだけで国家を打倒するような事をすれば、他国が同様の疑念を抱いていろいろ厄介な事になりかねない。
あと統制を強化されている教団の方も、別に仲良しというわけではないから方針をめぐって意見が一致するとは限らない。
たぶんそちらにも穏健派と強硬派が存在し、そのせめぎあいの中で『穏当な手段』としてフラネス王国の内部を撹乱し、宗教勢力への統制強化どころではない状況に陥らせようとしているのではないか。
そしてそのために選ばれた標的が、グラフトの公子たるアイウーズなのだろう。
宗教勢力が乗り出しているのなら、強力な魔法使いを大勢送り込む事も出来るし、彼等を逃がす事もそう難しくは無いだろう。
アイウーズが知っているのは、恐らくグラフトが屈服する前から、既に宗教勢力の圧力をかけつつあったので、そこで両者が接近していた事があったからなのかもしれない。
そうするとアイウーズを殺害するだけでなく、その後の事も考えていると見るべきだな。
ひょっとすると現国王派に不満を持つ勢力とも手を組んでいて、他にも色々と騒乱を起こそうとしている可能性もあるな。
そんなわけでオレは改めてアイウーズに対して問いかける。
「あなたの命を狙っているのは、この首都の一角に押し込められつつあるいろいろな神の教団なのではありませんか」
「そうか……もう気づいたのかい。さすがだね」
アイウーズは納得した様子で頷く。
「連中はあなたを殺害した後でフラネス王国とグラフト公国を争わせ、混乱させたいのでしょう」
「それぐらいは当然、気づくだろうね」
「何を他人事のように言っているのですか!」
この男は本当に自分の命でフラネス王国に対して、一矢報いてやりたいと思っているのかもしれないが、そんなことをして何になると言うんだ。
オレも『かけがえのない命を大切にしろ』とかそんなありふれた道徳論でどうにかなるとは思っていない。
「君はそう言うが、僕の人生は常に他人に決められて来たのさ。だから自分の命の事も他人事のようなものだよ」
「つくづくあなたという男は軟弱者ですね」
殺意に近い憤りを込めて、オレはアイウーズをにらみつけた。
往年の名作ロボットアニメだったら叫びつつ顔を引っぱたいたところだろう――いや。待て。それはヒロインの立場だな。
何にせよ多数の霊体に追い回されている状況だと考えると、我ながら間抜けな事をしているとしか思えないな。
「いやはや。なんとも手厳しいね」
「あいにくですけどわたしがあなたに要求したいのは、もっと厳しい事ですよ」
「もしかして要求するのは僕の身体かな」
「人肉食の嗜好はないので、あなたの身体をもらってもそのまま捨てるだけです」
故意に空気を読まない返答を容赦なくぶった切って、改めてアイウーズに迫る。
「本当にあなたが命をかけて属国になった祖国をどうにかしたいのなら、自分がグラフト公を継いだ上で、何年かけても力を蓄え、そこで改めて行動すればいいでしょう」
「そんなことは口で言うのは簡単だけど、実行するのは至難の業だよ」
もちろん過去のグラフト公がそれで失敗したから、今の状況があるのはアイウーズも重々承知していることだろう。
「もしも君が協力してくれるというなら、僕も思い直してもいいのだけど――」
「この後に及んで、自分の人生を他人にゆだねるとは、つくづく『軟弱者』なんですね」
「ははは。だったら君はその『軟弱者』を尻に敷いて、グラフト公国を支配しようとかそんな野望はないのかな」
なんとも困った事にこの男には、自分の命まで差し出す覚悟がある癖に、運命は常に他人にゆだねるという『軟弱者としての信念』があるらしい。
どこか立派にも見えてくるのだから、軟弱者でも何でも極めると一周回って凄いのかもしれない。
しかしこれがあくまでもフラネス王国の混乱を目論んでいるとすると、アイウーズを襲撃したのも単純に毎朝登校してくるから狙いやすいかったというのが最大の理由だろう。
王妃も蒼穹女学院にちょくちょく顔を出しているけど、動向を事前に調べるのは難しいだろうし、何よりあそこは守護精霊のサバシーナがいるから襲撃は難しい。
他の要人も似たようなもののはず。
アイウーズは狙いやすいのに加えて、それでフラネスとグラフトに亀裂を入れ、国内に混乱を引き起こす足がかりになるという計算のはず。
そしてそれを実行しているのはたぶんフラネス王国が最近、強制的に首都の一角に移住させるなど統制を強化している宗教勢力だろう。
フラネス王国の統制強化は、今後も統制を次第に強化していって、最終的には彼らの有する魔法の秘密を国家が手に入れ、学校で魔法の適性を計って魔法使いを養成するというものだろう。
二一世紀の人間として考えれば、合理的で先進的な手法に思えるが、この世界においては危険極まり無い火遊びだ。
だが宗教勢力としてもいくら秘密を探られそうだと言ったところで、直接自分たちでフラネス王国を滅ぼすような真似はなるだけ慎みたいはず。
幾ら何でも正面切って争うのは危険が伴うし、何よりもフラネス王国は今のところはまだ各教団を一箇所に集めて統制を強化しようとしているだけだからな。
これだけで国家を打倒するような事をすれば、他国が同様の疑念を抱いていろいろ厄介な事になりかねない。
あと統制を強化されている教団の方も、別に仲良しというわけではないから方針をめぐって意見が一致するとは限らない。
たぶんそちらにも穏健派と強硬派が存在し、そのせめぎあいの中で『穏当な手段』としてフラネス王国の内部を撹乱し、宗教勢力への統制強化どころではない状況に陥らせようとしているのではないか。
そしてそのために選ばれた標的が、グラフトの公子たるアイウーズなのだろう。
宗教勢力が乗り出しているのなら、強力な魔法使いを大勢送り込む事も出来るし、彼等を逃がす事もそう難しくは無いだろう。
アイウーズが知っているのは、恐らくグラフトが屈服する前から、既に宗教勢力の圧力をかけつつあったので、そこで両者が接近していた事があったからなのかもしれない。
そうするとアイウーズを殺害するだけでなく、その後の事も考えていると見るべきだな。
ひょっとすると現国王派に不満を持つ勢力とも手を組んでいて、他にも色々と騒乱を起こそうとしている可能性もあるな。
そんなわけでオレは改めてアイウーズに対して問いかける。
「あなたの命を狙っているのは、この首都の一角に押し込められつつあるいろいろな神の教団なのではありませんか」
「そうか……もう気づいたのかい。さすがだね」
アイウーズは納得した様子で頷く。
「連中はあなたを殺害した後でフラネス王国とグラフト公国を争わせ、混乱させたいのでしょう」
「それぐらいは当然、気づくだろうね」
「何を他人事のように言っているのですか!」
この男は本当に自分の命でフラネス王国に対して、一矢報いてやりたいと思っているのかもしれないが、そんなことをして何になると言うんだ。
オレも『かけがえのない命を大切にしろ』とかそんなありふれた道徳論でどうにかなるとは思っていない。
「君はそう言うが、僕の人生は常に他人に決められて来たのさ。だから自分の命の事も他人事のようなものだよ」
「つくづくあなたという男は軟弱者ですね」
殺意に近い憤りを込めて、オレはアイウーズをにらみつけた。
往年の名作ロボットアニメだったら叫びつつ顔を引っぱたいたところだろう――いや。待て。それはヒロインの立場だな。
何にせよ多数の霊体に追い回されている状況だと考えると、我ながら間抜けな事をしているとしか思えないな。
「いやはや。なんとも手厳しいね」
「あいにくですけどわたしがあなたに要求したいのは、もっと厳しい事ですよ」
「もしかして要求するのは僕の身体かな」
「人肉食の嗜好はないので、あなたの身体をもらってもそのまま捨てるだけです」
故意に空気を読まない返答を容赦なくぶった切って、改めてアイウーズに迫る。
「本当にあなたが命をかけて属国になった祖国をどうにかしたいのなら、自分がグラフト公を継いだ上で、何年かけても力を蓄え、そこで改めて行動すればいいでしょう」
「そんなことは口で言うのは簡単だけど、実行するのは至難の業だよ」
もちろん過去のグラフト公がそれで失敗したから、今の状況があるのはアイウーズも重々承知していることだろう。
「もしも君が協力してくれるというなら、僕も思い直してもいいのだけど――」
「この後に及んで、自分の人生を他人にゆだねるとは、つくづく『軟弱者』なんですね」
「ははは。だったら君はその『軟弱者』を尻に敷いて、グラフト公国を支配しようとかそんな野望はないのかな」
なんとも困った事にこの男には、自分の命まで差し出す覚悟がある癖に、運命は常に他人にゆだねるという『軟弱者としての信念』があるらしい。
どこか立派にも見えてくるのだから、軟弱者でも何でも極めると一周回って凄いのかもしれない。
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