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第21章 神の試練と預言者
第927話 朽ち果てた聖所にて
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テセルはしげしげとフェスマールのこもった『権威の宝珠』を眺めているが、そこでオレに対し改めて向き直る。
「この宝珠だが――」
「あなたには渡しませんよ」
先回りして返答すると、テセルはあからさまに眉をひそめる。
「厚かましい奴だな。自分のものだとでも言うのか」
「少なくともテセルのものでもないですよね」
「お前は僕のものなんだから、その宝珠も僕のもの――」
「その余計なことしか言わない口には、宝珠の代わりに手近な石でも詰め込んでおきましょうか?」
改めてオレがにらむとテセルは大げさな素振りで頭に手をやる。
「おお! 自分のものでもないものを勝手に私物化するとはな。しばらく会わない間に随分とごうつくばりになったものだ。僕のアルタシャがそんな事になっていたとは頭を殴られたかのような衝撃だよ」
冗談めかして言っているが、世界の全てが自分たちの手の内で動いていると言わんばかりの、神造者からそんなことを言われてしまうとは、我ながら少しショックだ。
「後でケルマル信徒を探して渡すのですよ!」
「それでお前はどれだけの報酬を得るんだ?」
「そんなものは期待していません」
オレが言い切ると、テセルは呆れたと言わんばかりにため息をつく。
「お前、その宝珠がどれほどの宝なのか分かっているのか?」
「知りません。興味も無いです。たとえ『国が買える』と言われても、やることは変わりありません」
もちろん金銭的にも、魔法的にも、歴史的にも凄い価値があるのだろう。
だがオレにとっては本当にどうでもいい事だ。
今さらフェスマールとかわした約束を違える気はさらさらない。
「本当にお前は変わり者だな」
「そうですよ。今さら気づいたのですか」
「分かったよ……そういう頑固なところは相変わらずで、少しはホッとしたところだ」
「参考に聞きますがこの『権威の宝珠』はどれほどの価値があるのですか?」
オレにとってはどうでもよくても、世間の基準でもの凄い価値があるなら渡す相手は選ばねばならん。
ケルマルの信徒と言っても信仰心はピンキリだろう。
表向きは敬虔な信徒に見えて、その信仰心は単なるポーズに過ぎない人間はこの世界にも珍しくは無い。
「正確な金額までは相手次第だろうけど、偉大な至宝として何百年でも語り継がれるだけの価値はあるぞ」
元の世界で言えばルーブル美術館だとか、スミソニアン博物館などで目玉として展示されるぐらいの価値があるのは確かだな。
「あとそれに入っている精霊と意思疎通できれば、ケルマル信仰の歴史についても貴重な情報が得られるだろう」
やはりテセルはエリート神造者だけあって、一瞥しただけでフェスマールの存在を察知したのか。
「その知識は我ら神造者にとっても貴重なものだ。もちろん僕の成果となるだろう」
「ならばなおさら渡すわけにはいきませんね」
「そうやって僕の気を引こうと――」
「もう話を打ち切っていいですよね」
オレはそれだけ言い切ると、先に進むことにした。
少し進んだところで『魔法眼』にボンヤリとした魔力が残る場所に出る。
見たところかつては石を積み上げて作った塔だったらしいが、大半が崩れて周囲に散らばり僅かに基部の部分が残っているだけだ。
『その塔は頂部が開いていて、そこから恵み深い父なる太陽の光を大司祭が浴びる神聖な場所だったのだ』
塔の頂部だけ開いているなら、太陽の光が入るのなど一日でもごく短期間に思えるが、ケルマルは一応、太陽神の端くれなので常に陽光で満たされているのかもしれないな。
その時の魔力が今でも僅かに残留しているのだろう。
見ると残骸の中に、ひび割れ崩れかけた祭壇のようなものがある。
『あの祭壇の上に我を置いてくれぬか』
「分かりました」
オレがフェスマールの言葉通りにすると、すぐ周囲に霊体が集まり始まる。
「うう……これは……寒気がするぞ」
同行していたサロールは、霊体を見る事は出来ないにしても、その気配を察したらしく少しばかりひるんだ様子だ。
先ほどからも随分と大人しい様子だったが、やはりイル=フェロ信徒は物理的な脅威には死すらも恐れないが、霊体は怖れ避ける傾向にあるようだな。
『ううむ。残念だがこのままでは彼らを神の元に送る事は難しいようだ』
やはり僅かに残っている力では、出来る事は殆ど無いのか。
こうなるといつも通り、オレが出張るしかないだろう。
「少し失礼しますよ」
オレはひび割れた祭壇に手を当てる。
『何をする気だ?』
「もちろんわたしが力を提供します。よろしいですね」
『信徒ですら無いそなたからか……』
フェスマールにすれば、本来ならばこの神聖な場所に部外者を入れるだけでも不本意な事の筈だ。
ましてや数多くの信徒から霊力を捧げられているオレの力を借りるなど、ケルマル神の僕としては汚点なのかもしれないな。
しかし『権威の宝珠』をこの廃墟から持ち出して、ケルマル信徒に渡す事は問題ないらしい。そう考えるとサロールとフェスマールは妙なところで、両極端というか似たもの同士な一面があるのだな。
「この宝珠だが――」
「あなたには渡しませんよ」
先回りして返答すると、テセルはあからさまに眉をひそめる。
「厚かましい奴だな。自分のものだとでも言うのか」
「少なくともテセルのものでもないですよね」
「お前は僕のものなんだから、その宝珠も僕のもの――」
「その余計なことしか言わない口には、宝珠の代わりに手近な石でも詰め込んでおきましょうか?」
改めてオレがにらむとテセルは大げさな素振りで頭に手をやる。
「おお! 自分のものでもないものを勝手に私物化するとはな。しばらく会わない間に随分とごうつくばりになったものだ。僕のアルタシャがそんな事になっていたとは頭を殴られたかのような衝撃だよ」
冗談めかして言っているが、世界の全てが自分たちの手の内で動いていると言わんばかりの、神造者からそんなことを言われてしまうとは、我ながら少しショックだ。
「後でケルマル信徒を探して渡すのですよ!」
「それでお前はどれだけの報酬を得るんだ?」
「そんなものは期待していません」
オレが言い切ると、テセルは呆れたと言わんばかりにため息をつく。
「お前、その宝珠がどれほどの宝なのか分かっているのか?」
「知りません。興味も無いです。たとえ『国が買える』と言われても、やることは変わりありません」
もちろん金銭的にも、魔法的にも、歴史的にも凄い価値があるのだろう。
だがオレにとっては本当にどうでもいい事だ。
今さらフェスマールとかわした約束を違える気はさらさらない。
「本当にお前は変わり者だな」
「そうですよ。今さら気づいたのですか」
「分かったよ……そういう頑固なところは相変わらずで、少しはホッとしたところだ」
「参考に聞きますがこの『権威の宝珠』はどれほどの価値があるのですか?」
オレにとってはどうでもよくても、世間の基準でもの凄い価値があるなら渡す相手は選ばねばならん。
ケルマルの信徒と言っても信仰心はピンキリだろう。
表向きは敬虔な信徒に見えて、その信仰心は単なるポーズに過ぎない人間はこの世界にも珍しくは無い。
「正確な金額までは相手次第だろうけど、偉大な至宝として何百年でも語り継がれるだけの価値はあるぞ」
元の世界で言えばルーブル美術館だとか、スミソニアン博物館などで目玉として展示されるぐらいの価値があるのは確かだな。
「あとそれに入っている精霊と意思疎通できれば、ケルマル信仰の歴史についても貴重な情報が得られるだろう」
やはりテセルはエリート神造者だけあって、一瞥しただけでフェスマールの存在を察知したのか。
「その知識は我ら神造者にとっても貴重なものだ。もちろん僕の成果となるだろう」
「ならばなおさら渡すわけにはいきませんね」
「そうやって僕の気を引こうと――」
「もう話を打ち切っていいですよね」
オレはそれだけ言い切ると、先に進むことにした。
少し進んだところで『魔法眼』にボンヤリとした魔力が残る場所に出る。
見たところかつては石を積み上げて作った塔だったらしいが、大半が崩れて周囲に散らばり僅かに基部の部分が残っているだけだ。
『その塔は頂部が開いていて、そこから恵み深い父なる太陽の光を大司祭が浴びる神聖な場所だったのだ』
塔の頂部だけ開いているなら、太陽の光が入るのなど一日でもごく短期間に思えるが、ケルマルは一応、太陽神の端くれなので常に陽光で満たされているのかもしれないな。
その時の魔力が今でも僅かに残留しているのだろう。
見ると残骸の中に、ひび割れ崩れかけた祭壇のようなものがある。
『あの祭壇の上に我を置いてくれぬか』
「分かりました」
オレがフェスマールの言葉通りにすると、すぐ周囲に霊体が集まり始まる。
「うう……これは……寒気がするぞ」
同行していたサロールは、霊体を見る事は出来ないにしても、その気配を察したらしく少しばかりひるんだ様子だ。
先ほどからも随分と大人しい様子だったが、やはりイル=フェロ信徒は物理的な脅威には死すらも恐れないが、霊体は怖れ避ける傾向にあるようだな。
『ううむ。残念だがこのままでは彼らを神の元に送る事は難しいようだ』
やはり僅かに残っている力では、出来る事は殆ど無いのか。
こうなるといつも通り、オレが出張るしかないだろう。
「少し失礼しますよ」
オレはひび割れた祭壇に手を当てる。
『何をする気だ?』
「もちろんわたしが力を提供します。よろしいですね」
『信徒ですら無いそなたからか……』
フェスマールにすれば、本来ならばこの神聖な場所に部外者を入れるだけでも不本意な事の筈だ。
ましてや数多くの信徒から霊力を捧げられているオレの力を借りるなど、ケルマル神の僕としては汚点なのかもしれないな。
しかし『権威の宝珠』をこの廃墟から持ち出して、ケルマル信徒に渡す事は問題ないらしい。そう考えるとサロールとフェスマールは妙なところで、両極端というか似たもの同士な一面があるのだな。
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