異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第21章 神の試練と預言者

第966話 迫る天変地異を前にして

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 灼熱に覆われたやしろの中をのぞき込もうとすると、脳裏にフェスマールからの警告が響く。

『これだけの熱気となると、我の守護の力もそう長くはもたんぞ』
「それぐらいは分かっていますよ」

 とにかく急いで中に入り、シャンサの状態を確認せねばなるまい。

「おい。いくら何でも大丈夫なのか?」
「僕もここは逃げた方がいいと思うぞ」

 サロールもテセルもさすがにこの中に入る気にはならないらしい。
 まあサロールは死を恐れてはいないが、無駄な死を美化したりはしないから当然の反応だけど、むしろオレの身を案じてくれているのだろう。

「アルタシャ……お前もこの危機的状況に気づいているだろう」
「この振動ですか?」

 足下から来る振動を最初は『溶岩人形』ラヴァ・ゴーレムのものかと思っていたが、よくよく見ると周囲が軒並み揺れているようだ。
 これは地震と言うよりも、もっと不吉な予感がひしひしと感じられる。

「僕は火山の事は専門外だけどそれでもこれは危険な兆候だと思うぞ」
「噴火が近い……と言うことですか……」

 元からここは活火山だけど、いくら何でもこんなタイミングで都合良く――いや。都合悪く――噴火するものだろうか。

「もしかするとシャンサが力を無理に引き出したので、それで噴火を呼んでしまったのかもしれないな」
「やはり! 偽りの預言者にイル=フェロ神がお怒りになったのだ!」

 テセルとサロールの言葉は正直、どっちもオレとしてはあんまり同意したくはないのだが、最悪の事態を前提として考えねばならないな。

「とにかく急いで行動するしかないということです」

 それならばオレがやるべき事は一つだけだ。

「サロールさんはここにいる人たちに呼びかけて、噴火が近いので急いで逃げるように伝えて下さい」
「それは構わんが……」
「とにかく急いでお願いします!」

 サロールの価値観では他のイル=フェロ信徒も別に『守るべき同胞』というわけではない。
 だがさすがに同じ神の信徒が火山噴火に巻き込まれるのは喜ばしい事ではないだろう。
 幸いにも先ほどのシャンサの暴走で、ここに来ているイル=フェロ信徒達はかなり動揺している様子だ。
 サロールが呼びかけたら、聞き入れてくれるはずだ。

「僕はどうすればいいのだ?」
「テセルは急いで逃げて下さい」
「ええ? それだけかい?!」

 テセルは少しばかりショックを受けた様子だ。
 研究者ならここにいて何がどうなるか見ていろ、などと言いたいところだが、本当にそんなことをしてテセルが命を落としたらこっちがたまらない。

「あなたにそれ以上の事は期待していませんよ! それでは失礼!」

 オレはそれだけ言い切ると、灼熱を吹き出し続ける社の中に飛び込んだ。


 小さな社の積み上げられた石は、触っただけで肉が焼けそうな雰囲気だ。
 いくらフェスマールによって高温から防護されているとは言え、その中に入るのはとてもいい気分ではないな。
 そして高温で空気が歪むその奥にはシャンサ――というよりは、かつてシャンサだったもの――が鎮座していた。
 先ほど見たときからせいぜい数分しか経っていないはずだが、シャンサの身は半ば石化していた。いや。たぶん元の肉の身体に石が割り込んでいったとかそんな感じだろう。
 無理に神の力を引き出した結果、その身にイル=フェロ神の一部である火山を形成する周囲の石がどんどんと同化していったのだろう。

『おお……お前は……』

 シャンサは半ば石化した腕をぎくしゃくと動かして、オレに向けて伸ばしてくる。
 その動きは不気味ではあるが、オレにはむしろ哀れみを感じるところだった。
 だがこれは負傷しているわけでもないければ、RPGでよくあるような『石化攻撃』を受けたのでもない。
 シャンサの身体が火山そのものと一体化しつつあると考えるべきか。
 もう既に人間ですらなくなっているのだ。

『我は神の力を……さらなる栄光を……』

 その顔も半分ほど石化し、それで残った片方の目がオレを凝視している。
 どう見ても正気を失っているのは間違いない。もしかすると目の前にいるオレが誰なのか、そして自分自身が誰だったのかすら覚えていないのかもしれない。
 これがテセルの言っていた『人の身で神の力を宿した事で、心身共に破滅した結果』に間違いない。

『既にあやつは人間ではないし、もちろん神でもない。誰にも助けられる見込みはないぞ。もちろん自業自得だ。そなたも早くこの場を立ち去るがいい』

 フェスマールの呼びかけが聞こえてくる。
 確かにオレも同じ意見だ。

『もう我の力も限界に近い。早く逃げねばそなたも助からぬぞ――もちろんそうなればこの我も一蓮托生だ』

 いくらフェスマールでも火山噴火に巻き込まれたらひとたまりもないだろうからな。
 そしてオレにはシャンサを救ってやる義理もなければ、そんな力も無い。だからさっさとこの場から逃げるのが一番いい選択なのだろう。しかし――

「すみません。フェスマールさんもあと少しだけ付き合って下さい!」
『そなたはそう言うが――』
「魔力ならさっきのようにわたしが提供します!」

 オレはどんどんと石に覆われ、生身の部分はどんどん呑み込まれて行くシャンサに近づきその残った顔の部分を思わず抱きしめた。
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