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第22章 軍神の治める地では
第982話 火の手のもとに向かうと
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見ているとどんどん火の手は広がっているらしく、次第に夜空が赤く照らされつつあった。
あれがただの火事ならともかく、もしかしたらエシュミール軍の焼き討ちか?
いや。ヒクソス軍の敗残兵が統制を失って、放火略奪している場合すら考えられる。
この場合、一番賢い選択は万が一山火事になってこちらに延焼してくる事を考えてさっさと逃げ出す事だろう。
しかしそういうわけにもいかないのだ。
「あれはもしや?」
どうやらクロンも気づいたらしいが、そこで何のためらいもなく駆け出す。
おい。以前にオレを助けた時と同じく、本当に勇敢というか向こう見ずな一面があるな。
これが英雄譚なら颯爽と敵軍を蹴散らすか、ピンチのところで三国志の関羽のような剛勇を誇る忠臣が駆けつけて一発逆転してくれる場面だ。
ヒクソスの敗残兵ならクロンの一括で誇りを取り戻して、祖国防衛のために再び正道に戻るような展開もあるかもしれないが、世の中そんなに甘くない。
だがこんな山間部だから、相手がエシュミール軍にしてもヒクソス軍の敗残兵にしても、さほど大勢がいるわけではないだろう。
大雑把に数十人までなら、オレの魔法でどうにかできるはずだ!
我ながらどんぶり勘定が過ぎると思うが、こうなっては仕方がない。
そんなわけでオレはクロンに追いついて声をかける。
「クロン。あの火の手の元に向かうのですか?」
「な?! どうしてアルが?」
クロンにすれば暗闇からいきなりオレが現れたように見えたのだろう。
「目覚めたらあなたの姿が見えなかったので心配して探したんですよ」
「そ、そうなのか……すまなかった」
クロンも一人涙を流していた事を隠したいのは当然なので、アッサリと納得したな。
「とにかく急ぎましょう」
止めても無駄だと見当はついているので、オレとクロンは山道を進んで峠を越えた。
眼下では小さな村が炎に包まれ、村人達が逃げ惑っているのが見て取れた。
見たところ子供や女性は村はずれにある社に逃げ込んでいるらしい。
そして村の中で動き回っていたのは、オレの予想を大きく裏切る人型の巨体だった。
遠目でも分かるのは、常人の数倍はあろうかという巨躯の怪物がその胸から炎を吹き出して村を焼き払っている事だ。
「あれはまさか?」
そうだ。先日『遺体集め』に出会ったが、エシュミール軍はゴーレムのような魔法で動く怪物を使っているのだったな。
恐らく反抗的な土地に送り込んで、見せしめにするため暴れ回らせているのだろう。
そのためなのかこのゴーレムは建物しか攻撃する意図はないらしく、消火しようと慌てふためいている人間に手出しをしていない。
住居を破壊され民衆の心が折れて、エシュミール軍に屈服すればそれでよし。もしも反抗を続けるなら次は住民の虐殺へとエスカレートしていくのだろう。
気分が悪くなるやり口だが、脅しとして有効なのは間違いない。
「むう! あのような真似は許せん!」
クロンは目をむいて駆け出そうとする。
やっぱり見逃せないか。
もちろんこんなことはあちこちで行われているはずだ。
仮にここであのゴーレムを命がけで撃破したところで、大局には殆ど影響はないはずだし、クロンもそれが分からぬほど愚かではない。
だが目の前で広がる惨劇に見て見ぬふりは出来ないのは、どこかオレと似たところを感じてしまうな。
こうなったら似たもの同士で付き合うしかないか。
そんなわけでオレとクロンは炎を上げている村へと駆けつけた。
見ると村人達は消火を諦めたらしく、とにかく家財や食料を持ち出そうとしている様子だ。
一方でクロンと言えば――
「ぜいぜい……」
「疲れているのに無理しすぎですよ!」
クロンも寝るときに当然、鎧は外していたので今は身軽だが、それでも勢い込んで駆けつけたが肩で息をしている状態だった。
ひとまず『疲労回復』をかけるとクロンも落ち着いた様子を見せる。
だがオレはここでもう一つの深刻で、少しばかり滑稽な現実に気がつく。
「それでクロンは武器もなく、あの怪物にどう立ち向かうのですか?」
「あ……」
クロンは指摘を受けてようやく自分が寝床を出たままで、丸腰なのに気づいたようだ。
まあオレも武器を身につけないのが当たり前なので、その点はすっかり忘れていたから偉そうな事を言えた義理でもないが。
「こ、こうなれば……どこかに武器は……むう!」
「どうしました?」
「すまぬ! 少しだけ待っていてくれ!」
クロンは村はずれにある社に向けて駆け出す。まあ小さいけど寺院だったら、警備用に武器ぐらいはあるかもしれないが、普通なら当番の民兵が使いまわしている粗略な槍ぐらいだろう。
そんなものがあったとしても、あんなゴーレムに太刀打ち出来るとは思えない。
これがよくあるヒロイックファンタジーなら、あそこに伝説の武器がなぜか隠されていて、それでゴーレムを一刀両断にするところだろう。
だがそんなことは現実には起きっこないから、伝説なのである。
仕方ない。こうなったらいつものようにオレがどうにかするしかないか。
オレは覚悟を固めると、暴れ回るゴーレムへと対峙した。
あれがただの火事ならともかく、もしかしたらエシュミール軍の焼き討ちか?
いや。ヒクソス軍の敗残兵が統制を失って、放火略奪している場合すら考えられる。
この場合、一番賢い選択は万が一山火事になってこちらに延焼してくる事を考えてさっさと逃げ出す事だろう。
しかしそういうわけにもいかないのだ。
「あれはもしや?」
どうやらクロンも気づいたらしいが、そこで何のためらいもなく駆け出す。
おい。以前にオレを助けた時と同じく、本当に勇敢というか向こう見ずな一面があるな。
これが英雄譚なら颯爽と敵軍を蹴散らすか、ピンチのところで三国志の関羽のような剛勇を誇る忠臣が駆けつけて一発逆転してくれる場面だ。
ヒクソスの敗残兵ならクロンの一括で誇りを取り戻して、祖国防衛のために再び正道に戻るような展開もあるかもしれないが、世の中そんなに甘くない。
だがこんな山間部だから、相手がエシュミール軍にしてもヒクソス軍の敗残兵にしても、さほど大勢がいるわけではないだろう。
大雑把に数十人までなら、オレの魔法でどうにかできるはずだ!
我ながらどんぶり勘定が過ぎると思うが、こうなっては仕方がない。
そんなわけでオレはクロンに追いついて声をかける。
「クロン。あの火の手の元に向かうのですか?」
「な?! どうしてアルが?」
クロンにすれば暗闇からいきなりオレが現れたように見えたのだろう。
「目覚めたらあなたの姿が見えなかったので心配して探したんですよ」
「そ、そうなのか……すまなかった」
クロンも一人涙を流していた事を隠したいのは当然なので、アッサリと納得したな。
「とにかく急ぎましょう」
止めても無駄だと見当はついているので、オレとクロンは山道を進んで峠を越えた。
眼下では小さな村が炎に包まれ、村人達が逃げ惑っているのが見て取れた。
見たところ子供や女性は村はずれにある社に逃げ込んでいるらしい。
そして村の中で動き回っていたのは、オレの予想を大きく裏切る人型の巨体だった。
遠目でも分かるのは、常人の数倍はあろうかという巨躯の怪物がその胸から炎を吹き出して村を焼き払っている事だ。
「あれはまさか?」
そうだ。先日『遺体集め』に出会ったが、エシュミール軍はゴーレムのような魔法で動く怪物を使っているのだったな。
恐らく反抗的な土地に送り込んで、見せしめにするため暴れ回らせているのだろう。
そのためなのかこのゴーレムは建物しか攻撃する意図はないらしく、消火しようと慌てふためいている人間に手出しをしていない。
住居を破壊され民衆の心が折れて、エシュミール軍に屈服すればそれでよし。もしも反抗を続けるなら次は住民の虐殺へとエスカレートしていくのだろう。
気分が悪くなるやり口だが、脅しとして有効なのは間違いない。
「むう! あのような真似は許せん!」
クロンは目をむいて駆け出そうとする。
やっぱり見逃せないか。
もちろんこんなことはあちこちで行われているはずだ。
仮にここであのゴーレムを命がけで撃破したところで、大局には殆ど影響はないはずだし、クロンもそれが分からぬほど愚かではない。
だが目の前で広がる惨劇に見て見ぬふりは出来ないのは、どこかオレと似たところを感じてしまうな。
こうなったら似たもの同士で付き合うしかないか。
そんなわけでオレとクロンは炎を上げている村へと駆けつけた。
見ると村人達は消火を諦めたらしく、とにかく家財や食料を持ち出そうとしている様子だ。
一方でクロンと言えば――
「ぜいぜい……」
「疲れているのに無理しすぎですよ!」
クロンも寝るときに当然、鎧は外していたので今は身軽だが、それでも勢い込んで駆けつけたが肩で息をしている状態だった。
ひとまず『疲労回復』をかけるとクロンも落ち着いた様子を見せる。
だがオレはここでもう一つの深刻で、少しばかり滑稽な現実に気がつく。
「それでクロンは武器もなく、あの怪物にどう立ち向かうのですか?」
「あ……」
クロンは指摘を受けてようやく自分が寝床を出たままで、丸腰なのに気づいたようだ。
まあオレも武器を身につけないのが当たり前なので、その点はすっかり忘れていたから偉そうな事を言えた義理でもないが。
「こ、こうなれば……どこかに武器は……むう!」
「どうしました?」
「すまぬ! 少しだけ待っていてくれ!」
クロンは村はずれにある社に向けて駆け出す。まあ小さいけど寺院だったら、警備用に武器ぐらいはあるかもしれないが、普通なら当番の民兵が使いまわしている粗略な槍ぐらいだろう。
そんなものがあったとしても、あんなゴーレムに太刀打ち出来るとは思えない。
これがよくあるヒロイックファンタジーなら、あそこに伝説の武器がなぜか隠されていて、それでゴーレムを一刀両断にするところだろう。
だがそんなことは現実には起きっこないから、伝説なのである。
仕方ない。こうなったらいつものようにオレがどうにかするしかないか。
オレは覚悟を固めると、暴れ回るゴーレムへと対峙した。
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