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第22章 軍神の治める地では

第1018話 カルマノスが行った事は

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 駆け出したオレを指差しつつニランザルは叫ぶ。

「撃て! 撃ち殺せ!」

 それを合図として一斉にオレの方に矢が飛んできて、流血と悲鳴が巻き起こる。

「ぎゃあああ!」
「な、何のつもりだ!」

 矢は動き回るオレには命中せず、近くにいる兵員達へと次々に突き刺さって、周囲は大混乱となった。
 自軍の陣地の中で、飛び道具なんか使うものだから、流れ矢が味方に当たったのだ。
 やっぱりニランザルは外交官ではあっても指揮官ではなく、目の前のオレを仕留める事しか考えられなくなっていたようだ。
 当然ながら指揮官らしき人物がニランザルに向けて怒鳴る。

「貴様! 血迷ったか! それとも裏切ったか!」
「ち、違う! そいつは我らの敵なのだ!」

 ニランザルはオレを指差しつつ叫ぶが、指揮官はさらに怒りを示す。

「それが本当だとしても小僧一人のために、我が兵士を傷つけたのか!」

 確かにフードを被って逃げ回っているオレ一人のために、自軍の陣地で矢を放つというのは傍目には愚かしい行為にしか見えないよな。

「そうではない! そいつは……」

 そこまで口にしたところで、ニランザルも『大陸に名を馳せるアルタシャがなぜか一人でエシュミール軍の陣地に忍び込んでいる』という状況が、少しどころかかなり無理がある事に気づいたらしく口ごもる。
 まあオレ自身、自分のやっていることは傍目には無茶苦茶だという自覚はあるけど、普通だったらとても信じられないのは確かだ。
 とにかく今はこの混乱に乗じてゴーレムに近づくと、警備の兵士も動揺しているようだ。

「おい! いったい何が起きた?」
「裏切りというのは本当か?」

 エシュミール軍は調略で敵を裏切らせる事もしょっちゅうなので、当然ながら自軍の裏切りにも警戒が強いらしい。
 この際だからそれも利用させてもらおう。

「あちらでニランザル様が裏切って味方に弓引いたそうです!」
「なにぃ?!」

 兵士が驚愕したところでオレはその横をすり抜けて、ゴーレムにたどり着く。
 もちろんオレに破壊工作など出来ないので、ここはカルマノスに頼るしかないか。

『よくやってくれた。だがそなたにはもう一働きしてもらわねばならぬ』
「どうしろと言うのですか?」
『改めてそなたの霊力を提供してもらいたい』

 ニランザルが飛び込んできたお陰で、ここまでこれたがカルマノスが何をするのかの話はうやむやになってしまったな。
 しかしこの混乱がおさまったらこちらは絶体絶命なのだから、じっくりと話を聞いている時間は無い。
 仕方ないのでここは言うとおりにしよう。

「分かりました。しかしいったい何をするつもりなのですか」

 オレはカルマノスに力を与えつつ問いかける。

『そなたもゴーレムの動力として魔力を発する炉が搭載されている事は知っているだろう』

 よくあるパターンならそれを暴走させるとゴーレムが爆発でもするというところだろうか?
 しかしいくら高価でもたかがゴーレムの一体だ。軍をどうにか出来るとはとても思えない。
 だがここでカルマノスが発した台詞はオレの度肝を抜くものだった。

『その魔力炉には人間の魂が燃料として呪縛されているのだ』
「ええ?! そんな!」

 いや。言われてみればよくあるパターンではあるが、それを本当に聞かされるとさすがにショックだった。

『予がゴーレムを開発させていた時には、罪人や捕虜の魂を使っておったが、これは今でも変わるまい。きっとウルバヌスも征服で多数の捕虜を得て、ゴーレムを量産しておったのだろうなあ』

 おい。なんか懐かしい思い出のように語っているけど、それって人間の魂を兵器の燃料とするとんでもなく外道な行為だよな?
 カルマノスにすれば『罪人の有効活用』なのだろうし、エシュミール軍も死体をアンデッドにして再利用するための専用ゴーレムである『遺体集め』ギャバダー・コレクターを使っているぐらいなのだから、感覚は同じだろう。
 元の世界の基準を適用しても無駄だと分かってはいるが、やはり胸の悪くなる話だ。
 そこまでは分かったが、カルマノスはどうするつもりなのだ?

『皇帝たる予はゴーレムの内部に封じられている魂に呼びかけて、奴らに残された意識を目覚めさせる事が出来るのだ。もちろん皇帝にしか出来ぬ事だぞ』

 それは皇帝だからというよりは、開発時のセキュリティホールを知っているだけという気がするな。

「しかしそれは一体だけなのですか?」
『そなたの力があればこの近くにいるゴーレムの全てに予の言葉が届くであろう』
「それでゴーレムの犠牲になっている魂をみんな解放出来るのですね」

 主力兵器であるゴーレムが全て機能停止すれば、エシュミール軍にとっては大打撃なのは間違い無い。
 単純な戦力の問題に留まらず、他の兵士の士気もがた落ちになるのは確実だ。
 少なくともこれ以上、敵地では戦ってはいられないはず。
 上手くいけばどうにか停戦して犠牲を抑えつつ、事態を収拾出来るかも知れない。
 だがやっぱりオレの見込みは甘すぎた。

『何を言っているか。幾ら皇帝でも呪縛された魂を解放など出来る筈がない』
「ならばどうなるのですか……」

 またしても猛烈な不安がわき上がってくるぞ。

『ゴーレムに取り込まれた魂が意識を取り戻せば、奴らはその魂を焼かれ燃料とされる苦痛から狂乱して暴れ回る事になる。そうなればもう誰にも止める事は出来んのだ』

 げげえ?! それではもしかして!
 オレが驚愕した瞬間、周囲のゴーレム達の目に狂気の光が宿ったのだった。
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