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第22章 軍神の治める地では
第1017話 敵陣での望まぬ再会が
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とりあえずオレはエシュミール軍の陣地に向かう。
普段なら姿が背景に溶け込んで発見されなくなる隠密系魔法である『隠身』をかけるところだが、相手は軍事強国の陣地な上に国王も来ているとなると下手に魔法を使うと、そちらを察知されてしまいかねない。
ここはなるだけ魔法を使わないでおくべきだろう。
そんなわけでフードをかぶりつつ、ひっそりと近づく事にする。
幸いにも周囲には戦さ場見物に来ている地元民もいれば、陣地に物売りの商人が出入りもしており、ただ接近するだけならばさほど危険はないようだ。
一般兵もまた若い女性――おそらくは『商売』に来ている――と談笑していたり、仲間内での賭け事に興じたり、遠目に見た時ほどの緊迫感が漂っているわけではないようだ。
元の世界のように銃弾や砲弾がひっきりなしに飛び交うことも無く、遠隔魔法の使い手は数も魔力も限られているから、そう簡単には使えない。
そんなわけで敵軍と対峙していても、兵士達は常に命がけで緊張していると言うわけでは無い様子だ。
もっともそれも戦いの火蓋が切られるまでの事なのは間違い無い。
一度、幕が上がればそこにはこの世の地獄が展開するのは、オレも過去幾度か目の当たりにして来たのである。
「ところでどこに行けばいいのですか?」
『あちらのゴーレムが並んでいるところに向かってくれ』
「随分と簡単に言ってくれますね」
当たり前だがエシュミール軍の主力であるゴーレムの周囲には常に整備や警備のための人員が張り付いている。
部外者が近づけば確実に見つかるだろう。
「いったい何のためにゴーレムに近づく必要があるのです?」
カルマノスにとってゴーレムは『自分が開発・実用化した』という事だったそうだが、そんなのはオレには無関係な話だ。
『心配するな。そなたがもしも命を落とせば、予も危ないのだ。必要も無いのに己の存在を危うくする筈がなかろうが』
「それは分かりますけど、そろそろ何をするつもりなのか教えてくれませんかね。こっちだって一蓮托生なのですから、あなたの真意を聞く権利はあると思いますよ」
『この軍に打撃を与えるのがそなたの目的であろう? そして汚らわしいウルバヌスを信奉する輩に報いをもたらすのが予の目的だ。つまり目的は一致している』
「答えになっていません。ここまで来ておいてまだごまかすなら、あなたへの協力もここまでですよ」
一見もっともらしい事を言って他人を煙に巻くのも、皇帝というか政治家の資質の一つかもしれないけど、人に命をかけさせておいて自分の真意を明かさないとなると、こちらの我慢も限界だぞ。
『……分かった』
実体のない霊体ながら、やれやれと言わんばかりにカルマノスは肩をすくめる。
ようやく語ってくれるのか――それでも鵜呑みには出来ないが――と胸をなで下ろそうとしたところで、オレの周囲がいきなり騒がしくなる。
まさか戦いが始まったのか?!
そう思ったとき、オレの耳にはあんまり聞きたくもなかった声が飛んでくる。
「まさかこんなところで会えるとはな。何とも驚いたぞ」
反射的に振り向くとニランザルが下卑た笑みを浮かべ、多くの兵士と供にオレを見つめていたのだったのだ。
そういえばコイツの事をすっかり忘れていたが、オレ達よりも先にエシュミール軍に合流していたのか。
いや。途中でカルマノスのいた廃墟に寄り道したため、ニランザルに追い越されてしまったとみるべきだろうか。
しかもオレは顔を隠していたけど、以前にニランザルとやり合ったときと服装は一緒だからな。
オレは隠れて行動しているつもりでも、向こうからすれば一目瞭然だったのだ。
「こう何度も顔を合わせるとは、お前との運命を感じずにはいられないな」
「それはあなたの気のせいだと思いますけどね」
軽口で返しはしたが、明らかにやばすぎる状況だ。
「何のために我が軍の陣に来たのかは知らんが、ここでお前を捕らえれば今までの失態は全て帳消し……いや。更なる栄達が待っている事だろう」
それも同じ事を前にも言っていただろう。懲りない奴だな。
幸いにもニランザルが集められたのは自分の手勢だけらしく、それほどの数はいない。
ここはさっさとズラかるしかないな。だがここでオレの脳裏にカルマノスの声が響く。
『待て! あと少しなのだ。あのゴーレムのところまで予を連れて行ってくれ』
「この状況がどれだけ危ないか分からないのですか?!」
『分かっているからこそだ。この状況を打開出来るのは予だけなのだぞ』
ううむ。カルマノスは嘘をついているようにも見えないが、いったい何をするつもりだ?
ゴーレムに近づけという事は、よくあるパターンだとゴーレムに乗り移って自在に操るとかそんな能力があるのだろうか。
生きていた時は開発を指揮した側の人間だから、それは可能かもしれないけど、せいぜいちょっと混乱を引き起こす程度だろう。
いや。オレがここから逃げ出すためだったら、そのぐらいで十分だしここはカルマノスを当てにするしかないか。
オレは決断すると、一気にゴーレムの列に向けて駆け出した。
普段なら姿が背景に溶け込んで発見されなくなる隠密系魔法である『隠身』をかけるところだが、相手は軍事強国の陣地な上に国王も来ているとなると下手に魔法を使うと、そちらを察知されてしまいかねない。
ここはなるだけ魔法を使わないでおくべきだろう。
そんなわけでフードをかぶりつつ、ひっそりと近づく事にする。
幸いにも周囲には戦さ場見物に来ている地元民もいれば、陣地に物売りの商人が出入りもしており、ただ接近するだけならばさほど危険はないようだ。
一般兵もまた若い女性――おそらくは『商売』に来ている――と談笑していたり、仲間内での賭け事に興じたり、遠目に見た時ほどの緊迫感が漂っているわけではないようだ。
元の世界のように銃弾や砲弾がひっきりなしに飛び交うことも無く、遠隔魔法の使い手は数も魔力も限られているから、そう簡単には使えない。
そんなわけで敵軍と対峙していても、兵士達は常に命がけで緊張していると言うわけでは無い様子だ。
もっともそれも戦いの火蓋が切られるまでの事なのは間違い無い。
一度、幕が上がればそこにはこの世の地獄が展開するのは、オレも過去幾度か目の当たりにして来たのである。
「ところでどこに行けばいいのですか?」
『あちらのゴーレムが並んでいるところに向かってくれ』
「随分と簡単に言ってくれますね」
当たり前だがエシュミール軍の主力であるゴーレムの周囲には常に整備や警備のための人員が張り付いている。
部外者が近づけば確実に見つかるだろう。
「いったい何のためにゴーレムに近づく必要があるのです?」
カルマノスにとってゴーレムは『自分が開発・実用化した』という事だったそうだが、そんなのはオレには無関係な話だ。
『心配するな。そなたがもしも命を落とせば、予も危ないのだ。必要も無いのに己の存在を危うくする筈がなかろうが』
「それは分かりますけど、そろそろ何をするつもりなのか教えてくれませんかね。こっちだって一蓮托生なのですから、あなたの真意を聞く権利はあると思いますよ」
『この軍に打撃を与えるのがそなたの目的であろう? そして汚らわしいウルバヌスを信奉する輩に報いをもたらすのが予の目的だ。つまり目的は一致している』
「答えになっていません。ここまで来ておいてまだごまかすなら、あなたへの協力もここまでですよ」
一見もっともらしい事を言って他人を煙に巻くのも、皇帝というか政治家の資質の一つかもしれないけど、人に命をかけさせておいて自分の真意を明かさないとなると、こちらの我慢も限界だぞ。
『……分かった』
実体のない霊体ながら、やれやれと言わんばかりにカルマノスは肩をすくめる。
ようやく語ってくれるのか――それでも鵜呑みには出来ないが――と胸をなで下ろそうとしたところで、オレの周囲がいきなり騒がしくなる。
まさか戦いが始まったのか?!
そう思ったとき、オレの耳にはあんまり聞きたくもなかった声が飛んでくる。
「まさかこんなところで会えるとはな。何とも驚いたぞ」
反射的に振り向くとニランザルが下卑た笑みを浮かべ、多くの兵士と供にオレを見つめていたのだったのだ。
そういえばコイツの事をすっかり忘れていたが、オレ達よりも先にエシュミール軍に合流していたのか。
いや。途中でカルマノスのいた廃墟に寄り道したため、ニランザルに追い越されてしまったとみるべきだろうか。
しかもオレは顔を隠していたけど、以前にニランザルとやり合ったときと服装は一緒だからな。
オレは隠れて行動しているつもりでも、向こうからすれば一目瞭然だったのだ。
「こう何度も顔を合わせるとは、お前との運命を感じずにはいられないな」
「それはあなたの気のせいだと思いますけどね」
軽口で返しはしたが、明らかにやばすぎる状況だ。
「何のために我が軍の陣に来たのかは知らんが、ここでお前を捕らえれば今までの失態は全て帳消し……いや。更なる栄達が待っている事だろう」
それも同じ事を前にも言っていただろう。懲りない奴だな。
幸いにもニランザルが集められたのは自分の手勢だけらしく、それほどの数はいない。
ここはさっさとズラかるしかないな。だがここでオレの脳裏にカルマノスの声が響く。
『待て! あと少しなのだ。あのゴーレムのところまで予を連れて行ってくれ』
「この状況がどれだけ危ないか分からないのですか?!」
『分かっているからこそだ。この状況を打開出来るのは予だけなのだぞ』
ううむ。カルマノスは嘘をついているようにも見えないが、いったい何をするつもりだ?
ゴーレムに近づけという事は、よくあるパターンだとゴーレムに乗り移って自在に操るとかそんな能力があるのだろうか。
生きていた時は開発を指揮した側の人間だから、それは可能かもしれないけど、せいぜいちょっと混乱を引き起こす程度だろう。
いや。オレがここから逃げ出すためだったら、そのぐらいで十分だしここはカルマノスを当てにするしかないか。
オレは決断すると、一気にゴーレムの列に向けて駆け出した。
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