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第23章 女神の聖地にて真相を
第1037話 波止場にて
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一晩の宿を取った後、翌朝にオレは港に出向いた。
ミツリーンも同行を願ってきたが、顔を知られている以上、またトラブルに巻き込まれたら困るので宿に残るように言い聞かせている。
港は当然ながら大勢の人間でごった返していて、見るからに活気に溢れている。
そしてよくよく見ると今まさに入港しようとしている、白く塗られた大きな船が目に入る。
あれが聖女教会の聖地であるギルボック島とこのコーフールーを結ぶ船なのだな。
それと港にはもう一隻、同じ色の船が泊まっている。どうやら交代でギルボック島に向かうらしく、入港した船と入れ違いで出航する予定なのだろう。
並んでいる乗船希望者を見ると特に異常はなく、あくまでも聖地巡礼が目的らしいのも結構いるな。
子連れの聖女らしい組み合わせは、恐らくギルボック島で修行していた聖女が何年かに一度の里帰りというところだろうか。
もちろん病人も大勢いるがそれも千差万別だ。
顔にアザがついているなど、日常生活は問題なくともどうしても優れた聖女の治療を望まざるを得ないらしい人も見かけられる。
当然ながら体調が悪そうなので付き添いがついている例もあるようだし、移動式のベッドにその身を横たえた、寝たきりの病人すらいる――もちろん金持ちらしく付き添は何人もいるし、よく見ると専属医とおぼしき聖女まで同行している。
恐らくその聖女はこの病人の側室なのだろう。
そうだ。この世界では病人に長旅は大変だろうと思ってはいたが、そんな事の出来る程の人間なら地元の聖女を側室にしているのは珍しくはないはず。
その聖女は普段は側室にして専属医でもあって、その彼女では治せない病気は聖地ギルボック島にいる優秀な聖女に治療を頼むけど、旅の途中で病状が悪化しないように魔法をかけ続けるぐらいの事は可能だろう。
そうでないといくら治療のためであっても、寝たきり状態で長旅が出来るはずがないな。
あとこれは想像だけど、当然ながら治療の甲斐なく命を落とす病人も少なくないはずだが、幾ら何でも遺体をそのまま郷里まで持ち帰る事は不可能だろう。
普通に考えると遺体はギルボック島に埋葬し、郷里に持ち帰るのは遺品とあとはせいぜい遺髪か遺骨程度のはず。
その場合、側室だった聖女は大半がギルボック島に残って夫の冥福を祈る事になるのではないだろうか。
そうすると聖女教会はしばらくしてほとぼりが収まると、その聖女に再婚先を紹介する可能性が高い。
しかも治療目的で有力者が集まるという事は、情報が集まるということでもある。
もしもある有力者が亡くなって、その後継者が聖女を側室にしていないことが分かっていた時、ギルボック島に一年前、夫を亡くして今は独り身の聖女がいればそれをすぐに紹介出来るという寸法だ。
聖女教会にとって美しく回復魔法に長けた聖女を、有力者の側室に輿入れするのが重要な権力基盤である事は自明の理である。
ギルボック島は夫を亡くした聖女を、改めて聖女教会にとって最善の相手に輿入れさせるための舞台でもあるのではないか?
この想像が正しいならこれまた世知辛い話ではあるけど、聖女にとっても決して悪い話では無いはずなので、責める事は出来ないな。
それはともかく今の俺の目的はギルボック島の状況を探る事だ。
聖女には近づけないので、たまたま見かけたかなり鍛え上げられている体の中年男性に声をかける。
「すみません。少しばかりお話をさせてもらっていいですか?」
「なんだい。お嬢さん」
「ギルボック島に行くにはこの船に乗り込めばよろしいのでしょうか?」
「ああ。もちろんだよ。ひょっとしてお前さんはこれからギルボック島への修行に向かう見習い聖女様かな?」
「まあ……そんなところです」
確かに周囲には見習い聖女らしい姿もちらほらと見かけられる。
名高い聖地なら当然、修行に訪れる聖女も多いはず。
「おおそうか。見習いでも聖女様に声をかけられるとは光栄だね」
オレの言葉を聞いて、男は愛想よく笑いを浮かべる。
「お手間でなければギルボック島がいまどうなっているのか、お教え願えませんか?」
この問いかけに男は少しばかり怪訝な表情を見せる。
「それだったらあの船に乗れば正式な聖女様方がおられるから、詳しい事はそちらで聞いた方がいいぞ」
言われてみればその通りだ。
今さら『見習い聖女ではありません(事実だけど)』とは言えないので、ここは別の人を当たるべきだな。
オレが立ち去ろうとすると、ここで男が呼び止めてくる。
「待った。もしかしてお前さん、相当遠くから来ているのか?」
「え……ええそうです」
何しろ大陸を横断してきたんだからね。
「なるほどな。それで田舎者扱いされるのが怖くて、誰でもいいからあちらの事情を知っていそうな人間から話を聞こうと思った。そんなところじゃないのか?」
男は『どうだ。図星だろう』と言わんばかりだ。
確かに船旅までして聖地への修行に向かうのは、見習いながら地元の聖女養成機関で優秀な成績を収め、将来を嘱望されたエリート予備群ばかりだろう。
いま見かける見習い聖女たちも華美な装飾はしていないにしろ、服装は清潔かつ整っていて、かなり裕福な様子がうかがえる。
聖女は親の身分は関係ないから、身なりの裕福さは出身寺院の差なのだ。
そんな彼女たちと比較すれば、長旅のために男装しフードをかぶって薄汚れたオレは確かに貧相に見えるな。
どうやらこの男はオレが田舎の貧しい寺院から修行のためにやってきたが、そこで他の見習いと自分の身なりを比較し恥じているので、別の聖女に話しかけるのを躊躇しているのだと推測したようだ。
合理的な結論ではあるな――大外れだけど。
まあこれでオレが『アルタシャ』だと見抜く人間がいたとしたら、むしろそちらの方がどうかしている。
自分でも合理的な結論だと思っていたら、大外れなのはしょっちゅうだから偉そうな事を言えた義理ではないのだけど。
ミツリーンも同行を願ってきたが、顔を知られている以上、またトラブルに巻き込まれたら困るので宿に残るように言い聞かせている。
港は当然ながら大勢の人間でごった返していて、見るからに活気に溢れている。
そしてよくよく見ると今まさに入港しようとしている、白く塗られた大きな船が目に入る。
あれが聖女教会の聖地であるギルボック島とこのコーフールーを結ぶ船なのだな。
それと港にはもう一隻、同じ色の船が泊まっている。どうやら交代でギルボック島に向かうらしく、入港した船と入れ違いで出航する予定なのだろう。
並んでいる乗船希望者を見ると特に異常はなく、あくまでも聖地巡礼が目的らしいのも結構いるな。
子連れの聖女らしい組み合わせは、恐らくギルボック島で修行していた聖女が何年かに一度の里帰りというところだろうか。
もちろん病人も大勢いるがそれも千差万別だ。
顔にアザがついているなど、日常生活は問題なくともどうしても優れた聖女の治療を望まざるを得ないらしい人も見かけられる。
当然ながら体調が悪そうなので付き添いがついている例もあるようだし、移動式のベッドにその身を横たえた、寝たきりの病人すらいる――もちろん金持ちらしく付き添は何人もいるし、よく見ると専属医とおぼしき聖女まで同行している。
恐らくその聖女はこの病人の側室なのだろう。
そうだ。この世界では病人に長旅は大変だろうと思ってはいたが、そんな事の出来る程の人間なら地元の聖女を側室にしているのは珍しくはないはず。
その聖女は普段は側室にして専属医でもあって、その彼女では治せない病気は聖地ギルボック島にいる優秀な聖女に治療を頼むけど、旅の途中で病状が悪化しないように魔法をかけ続けるぐらいの事は可能だろう。
そうでないといくら治療のためであっても、寝たきり状態で長旅が出来るはずがないな。
あとこれは想像だけど、当然ながら治療の甲斐なく命を落とす病人も少なくないはずだが、幾ら何でも遺体をそのまま郷里まで持ち帰る事は不可能だろう。
普通に考えると遺体はギルボック島に埋葬し、郷里に持ち帰るのは遺品とあとはせいぜい遺髪か遺骨程度のはず。
その場合、側室だった聖女は大半がギルボック島に残って夫の冥福を祈る事になるのではないだろうか。
そうすると聖女教会はしばらくしてほとぼりが収まると、その聖女に再婚先を紹介する可能性が高い。
しかも治療目的で有力者が集まるという事は、情報が集まるということでもある。
もしもある有力者が亡くなって、その後継者が聖女を側室にしていないことが分かっていた時、ギルボック島に一年前、夫を亡くして今は独り身の聖女がいればそれをすぐに紹介出来るという寸法だ。
聖女教会にとって美しく回復魔法に長けた聖女を、有力者の側室に輿入れするのが重要な権力基盤である事は自明の理である。
ギルボック島は夫を亡くした聖女を、改めて聖女教会にとって最善の相手に輿入れさせるための舞台でもあるのではないか?
この想像が正しいならこれまた世知辛い話ではあるけど、聖女にとっても決して悪い話では無いはずなので、責める事は出来ないな。
それはともかく今の俺の目的はギルボック島の状況を探る事だ。
聖女には近づけないので、たまたま見かけたかなり鍛え上げられている体の中年男性に声をかける。
「すみません。少しばかりお話をさせてもらっていいですか?」
「なんだい。お嬢さん」
「ギルボック島に行くにはこの船に乗り込めばよろしいのでしょうか?」
「ああ。もちろんだよ。ひょっとしてお前さんはこれからギルボック島への修行に向かう見習い聖女様かな?」
「まあ……そんなところです」
確かに周囲には見習い聖女らしい姿もちらほらと見かけられる。
名高い聖地なら当然、修行に訪れる聖女も多いはず。
「おおそうか。見習いでも聖女様に声をかけられるとは光栄だね」
オレの言葉を聞いて、男は愛想よく笑いを浮かべる。
「お手間でなければギルボック島がいまどうなっているのか、お教え願えませんか?」
この問いかけに男は少しばかり怪訝な表情を見せる。
「それだったらあの船に乗れば正式な聖女様方がおられるから、詳しい事はそちらで聞いた方がいいぞ」
言われてみればその通りだ。
今さら『見習い聖女ではありません(事実だけど)』とは言えないので、ここは別の人を当たるべきだな。
オレが立ち去ろうとすると、ここで男が呼び止めてくる。
「待った。もしかしてお前さん、相当遠くから来ているのか?」
「え……ええそうです」
何しろ大陸を横断してきたんだからね。
「なるほどな。それで田舎者扱いされるのが怖くて、誰でもいいからあちらの事情を知っていそうな人間から話を聞こうと思った。そんなところじゃないのか?」
男は『どうだ。図星だろう』と言わんばかりだ。
確かに船旅までして聖地への修行に向かうのは、見習いながら地元の聖女養成機関で優秀な成績を収め、将来を嘱望されたエリート予備群ばかりだろう。
いま見かける見習い聖女たちも華美な装飾はしていないにしろ、服装は清潔かつ整っていて、かなり裕福な様子がうかがえる。
聖女は親の身分は関係ないから、身なりの裕福さは出身寺院の差なのだ。
そんな彼女たちと比較すれば、長旅のために男装しフードをかぶって薄汚れたオレは確かに貧相に見えるな。
どうやらこの男はオレが田舎の貧しい寺院から修行のためにやってきたが、そこで他の見習いと自分の身なりを比較し恥じているので、別の聖女に話しかけるのを躊躇しているのだと推測したようだ。
合理的な結論ではあるな――大外れだけど。
まあこれでオレが『アルタシャ』だと見抜く人間がいたとしたら、むしろそちらの方がどうかしている。
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