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第23章 女神の聖地にて真相を
第1039話 見習い聖女達のあれこれ
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船が一度、出港してしまったからにはギルボック島に着くまでの間、船内で情報収集を行うしかないな。
少なくとも乗り込んでいる乗員、乗客の様子を見る限り、目に見えて困難な問題が発生しているということはないようだ。
しかし見た目は問題なくとも裏では存亡の危機が迫っている、という事態にもしょっちゅう出くわして来たので、安心は禁物だ。
「もし。そこのあなた」
とりあえず乗客の中で話の通じそうな人を探そうかと思ったら、オレの方が声をかけられたぞ。
そちらを見ると相手は見習い聖女らしい、白い服をまとった少女がオレに呼びかけている。
「あなたもギルボック島に修行に向かう見習いでしょう。こちらに来なさい」
ううむ。ドーマルもそう考えた様子だが、この船に一人で少女が乗り込むのはほとんどが聖地での修行を目的とした見習い聖女なのだろうな。
この世界では遠隔地、しかも離島をわざわざ観光旅行するような人間は、仮にいたとしても極めて稀だ。
聖女以外でギルボック島に向かうのは、大半が癒しを望む病人とその付き添いで、当然ながら裕福な一行である。
それ以外は商人らしき人間もちらほら見受けられるが、いずれにしてもオレは客の中ではかなり浮いている。
つまり今のオレのように十代半ばの少女が、貧乏な格好で乗り込んでいたら、修行目的の見習い聖女である可能性が高いのだ。
「キョロキョロしたらだめよ。同じ聖女の端くれとして、私たちも恥ずかしいでしょう」
やっぱりオレはさきほどドーマルが口にしたように、他の聖女からは『田舎者』という扱いのようだ。
「一つ尋ねるけど、その薄汚れた男装からするとここまで一人で旅をしてきたの?」
「そうです」
「よく無事に来られたものね。我らが女神の守護と思うしかないわ」
見習い聖女は呆れたと言わんばかりだ。
「しかし……護衛もつけてくれないとは、よほど貧乏な教区の出身なのね」
聖女だからと言って、女の身でのひとり旅が危険なのは自明の理だ。オレだって今まで幾度危険な目にあってきたか。
普通ならば聖女は敬意を払われることはあっても、危害を加えられることはないはずだが、それは相手が建前でも法に従う場合だ。
希少な回復魔法の使い手だからこそ、それを狙うアウトローは当然現れる。
まず人質にして身代金を奪おうとするのは誰でも考えるだろうし、町には入れない犯罪者が聖女をさらって、自分たちの怪我や病気を治療させようとすることも十分にありうる。
更には病の精霊やアンデッドを崇拝する『虚ろなるもの』のように聖女教会と敵対している連中もいるわけで、聖女が護衛もつけずに旅をするのは危険なのだ。
だから裕福な寺院だとこの船に乗り込むまでは護衛をつけてくれるらしいな。
言い換えるとオレのように明らかにひとり旅のため、男装しフードを目深くかぶっているのは貧乏な寺院から来たと見当がつくわけだ。
いや。彼女は『教区』という表現をした。おそらく見習い聖女がギルボック島へ修行に向かう場合、その地域の聖女教会全体で支援する事になっているのではないか。
そうするといまのオレは寺院というよりは、地区全体で最下層と見られていそうだな。
「仕方ないわね……私の名はヴィンガ。あなたは?」
「アルと呼んでください」
「分かったわ。とりあえず見習い聖女はこれから全員集合よ」
この船に乗っている聖女が見習いの面接でもするのだろうか?
これは場合によってはやばい事になりそうだ。
もしもの時はどうやってごまかそうかと考えつつ、ヴィンガに案内された場所はオレの予想を裏切った。
その船室にはオレとヴィンガを除いて六人、しかも全員が十代半ばの見習い聖女がいたのだが、大人の聖女はいなかったのだ。
そして見る限り部屋の空気はかなりギスギスしているようだ。
聖女は華美な装飾品を身につけたりはしないので、中の面々は一目ではどれほど裕福なのかは分からないが育ちの良さ――そしてどこかとげとげしさ――が感じられる。
その一人がオレに向けて問いかけてくる。
「そちらが出港時間ギリギリに乗ってきた最後の一人かしら」
「ええ……そうです」
オレの返答を聞いて、部屋のギスギスした空気がわずかに緩んだ気がする。
もっともそれはオレを歓迎したからではない。推測だが『一番下』が見つかったからのような気がした。
「これから我らが女神、大いなるイロール生誕の地に向かうと言うのに、そのような薄汚れた格好で恥ずかしくないのですか?」
いや。まったく恥ずかしくないよ――生誕の地云々どころか、オレはあの女神とは何度も対面して、化身にだってなっているのに。
しかしこの雰囲気はどこかで見たことがあると思ったら、マニリア帝国の後宮にいた宮女たちに近いかな。
彼女達はこれから聖地にて修行生活に入るわけだが、その前の段階で既に序列を争っているのだろう。
恐らくここでさや当てしている見習い聖女たちも、普段は回復魔法を学ぶ傍ら、治療を求めてやってきた貧しい人々に対して慈愛深く振る舞い、救貧活動に身を捧げて尊崇されているに違いない。
しかし同じ聖女教会に所属する聖女同士では、些細な事で序列意識を丸出しにしているのだ。
元の世界における『白衣の天使』も患者には誠心誠意尽くすが、同僚同士ではいろいろドロドロとしたものがあるというドラマを見たことがあるが、こっちでも似たようなものらしいな。
少なくとも乗り込んでいる乗員、乗客の様子を見る限り、目に見えて困難な問題が発生しているということはないようだ。
しかし見た目は問題なくとも裏では存亡の危機が迫っている、という事態にもしょっちゅう出くわして来たので、安心は禁物だ。
「もし。そこのあなた」
とりあえず乗客の中で話の通じそうな人を探そうかと思ったら、オレの方が声をかけられたぞ。
そちらを見ると相手は見習い聖女らしい、白い服をまとった少女がオレに呼びかけている。
「あなたもギルボック島に修行に向かう見習いでしょう。こちらに来なさい」
ううむ。ドーマルもそう考えた様子だが、この船に一人で少女が乗り込むのはほとんどが聖地での修行を目的とした見習い聖女なのだろうな。
この世界では遠隔地、しかも離島をわざわざ観光旅行するような人間は、仮にいたとしても極めて稀だ。
聖女以外でギルボック島に向かうのは、大半が癒しを望む病人とその付き添いで、当然ながら裕福な一行である。
それ以外は商人らしき人間もちらほら見受けられるが、いずれにしてもオレは客の中ではかなり浮いている。
つまり今のオレのように十代半ばの少女が、貧乏な格好で乗り込んでいたら、修行目的の見習い聖女である可能性が高いのだ。
「キョロキョロしたらだめよ。同じ聖女の端くれとして、私たちも恥ずかしいでしょう」
やっぱりオレはさきほどドーマルが口にしたように、他の聖女からは『田舎者』という扱いのようだ。
「一つ尋ねるけど、その薄汚れた男装からするとここまで一人で旅をしてきたの?」
「そうです」
「よく無事に来られたものね。我らが女神の守護と思うしかないわ」
見習い聖女は呆れたと言わんばかりだ。
「しかし……護衛もつけてくれないとは、よほど貧乏な教区の出身なのね」
聖女だからと言って、女の身でのひとり旅が危険なのは自明の理だ。オレだって今まで幾度危険な目にあってきたか。
普通ならば聖女は敬意を払われることはあっても、危害を加えられることはないはずだが、それは相手が建前でも法に従う場合だ。
希少な回復魔法の使い手だからこそ、それを狙うアウトローは当然現れる。
まず人質にして身代金を奪おうとするのは誰でも考えるだろうし、町には入れない犯罪者が聖女をさらって、自分たちの怪我や病気を治療させようとすることも十分にありうる。
更には病の精霊やアンデッドを崇拝する『虚ろなるもの』のように聖女教会と敵対している連中もいるわけで、聖女が護衛もつけずに旅をするのは危険なのだ。
だから裕福な寺院だとこの船に乗り込むまでは護衛をつけてくれるらしいな。
言い換えるとオレのように明らかにひとり旅のため、男装しフードを目深くかぶっているのは貧乏な寺院から来たと見当がつくわけだ。
いや。彼女は『教区』という表現をした。おそらく見習い聖女がギルボック島へ修行に向かう場合、その地域の聖女教会全体で支援する事になっているのではないか。
そうするといまのオレは寺院というよりは、地区全体で最下層と見られていそうだな。
「仕方ないわね……私の名はヴィンガ。あなたは?」
「アルと呼んでください」
「分かったわ。とりあえず見習い聖女はこれから全員集合よ」
この船に乗っている聖女が見習いの面接でもするのだろうか?
これは場合によってはやばい事になりそうだ。
もしもの時はどうやってごまかそうかと考えつつ、ヴィンガに案内された場所はオレの予想を裏切った。
その船室にはオレとヴィンガを除いて六人、しかも全員が十代半ばの見習い聖女がいたのだが、大人の聖女はいなかったのだ。
そして見る限り部屋の空気はかなりギスギスしているようだ。
聖女は華美な装飾品を身につけたりはしないので、中の面々は一目ではどれほど裕福なのかは分からないが育ちの良さ――そしてどこかとげとげしさ――が感じられる。
その一人がオレに向けて問いかけてくる。
「そちらが出港時間ギリギリに乗ってきた最後の一人かしら」
「ええ……そうです」
オレの返答を聞いて、部屋のギスギスした空気がわずかに緩んだ気がする。
もっともそれはオレを歓迎したからではない。推測だが『一番下』が見つかったからのような気がした。
「これから我らが女神、大いなるイロール生誕の地に向かうと言うのに、そのような薄汚れた格好で恥ずかしくないのですか?」
いや。まったく恥ずかしくないよ――生誕の地云々どころか、オレはあの女神とは何度も対面して、化身にだってなっているのに。
しかしこの雰囲気はどこかで見たことがあると思ったら、マニリア帝国の後宮にいた宮女たちに近いかな。
彼女達はこれから聖地にて修行生活に入るわけだが、その前の段階で既に序列を争っているのだろう。
恐らくここでさや当てしている見習い聖女たちも、普段は回復魔法を学ぶ傍ら、治療を求めてやってきた貧しい人々に対して慈愛深く振る舞い、救貧活動に身を捧げて尊崇されているに違いない。
しかし同じ聖女教会に所属する聖女同士では、些細な事で序列意識を丸出しにしているのだ。
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