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第24章 全てはアルタシャのために?
第1136話 皇帝が女神と共に舞い降りて
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兵士やルゴールが呆気にとられている中で、ドラゴンに戻ったイオに背にオレ達一同は揃って飛び乗っていた。
「凄いね。イオは本当にドラゴンだったんだ」
「はあ……長生きはしてみるもんじゃのう……」
これまでイオの正体について知らなかったウァリウスとマルキウスはようやく実感してくれたようだ。
「それでどうすればいいんだい? あいつらを踏みつぶせばいいのかな?」
イオは驚愕のあまり動く事も出来ない兵士達に目を向ける。
「ダメです! それよりも少しだけ空を飛んで下さい」
「分かったよ」
イオが翼を振るったところでオレは叫ぶ。
「みなさん! しっかりつかまっていて下さいよ!」
残念ながらお世辞にもイオの乗り心地はよくはない。
ウァリウスはもちろん老人のマルキウスは振り落とされたら確実に身体は地面に、魂は天に登っていく羽目になるだろう。
「じゃあいくよ!」
イオの合図と共にその巨体が宙を舞う。
悲鳴を挙げる暇もなく『蜘蛛登り』の魔法を使っているオレ以外の面々はイオの背中にしがみつく。
もちろん後宮の内部でいきなりドラゴンが姿を見せ、それが空に飛び上がったのだから、宮城も首都ノチェットでも間違い無く大騒ぎになっているだろう。
ただ脱出するだけでなく、そうやって注目を浴びるのもオレの目的の一つなのだ――あんまり嬉しくは無いけどな。
「それではあちらの広場に着地して下さい!」
「分かったよ!」
オレは本来ならば皇帝がいる筈で、宮城ではもっとも大きな建物である太極殿の前の広場を指し示す。
その隣にある紫宸殿では政務が執り行われていて、この事態を招いた宰相達もそこにいるはずだ。
文字通り宮城の中心地にイオは一気に舞い降りる。
攻撃される危険性は高いので前もって『調和』をかけておく。
このとき建物の中にいる相手には効果は無いが、皇帝であるウァリウスの姿さえ確認出来れば攻撃は出来ないという計算があったからだ。
着地したところでオレは合図を送る。
「ウァリウス! 今ですよ!」
細かい事は言わないが、ウァリウスならば全て察してくれるだろうという前提での行動だ。
「わ、分かったよ……」
青い顔をしながらも事情をのみ込んでくれたらしく、ウァリウスは着地したイオの背中から叫ぶ。
「者ども静まれ! 皇帝の命であるぞ!」
確かこの国の皇帝には本来は名前が無くて、死後に贈り名されるのだったな。
オレの場合は幼名のウァリウスを特別に呼んでいいという許可をもらっているのだが(第五章)、ファーストキスを奪われた代償だと思えば何とも割に合わない対価だよ。
それはともかく叫んだウァリウスの姿はついさきほどとは一変して、実に凜々しく若き皇帝らしい威厳が感じられる。
オレに対してセクハラしている時とは本当に大違いだな。
「陛下ですと?!」
「いったいどうしてドラゴンの背に?」
「これは一体、何事でございますか?」
周囲の兵士や貴族達は困惑と動揺を口にしている。
「静まれと命じた筈だ! 武器をおさめよ!」
「は、はは!」
兵士達は慌てて武器をしまいひざまずく。
取りあえず今のところ皇帝の権威はそこそこ有効なようだ。先ほどのルゴールは宰相の直属か何かで特別な存在だったのだろう。
「そしてここには我が女神アルタシャも顕現しておられるのだぞ!」
不本意だけどここはオレが前に出るしか無いな。
「おお! 紛れもなくアルタシャ様のお姿!」
「間違い無いのか?!」
「一年前に後宮で直接、ご尊顔を拝したのだから見紛う事など無いぞ」
ここでは一年前に後宮で大勢に姿をさらしたので、オレの顔を知っている相手も多い。
いちいち説明しなくても顔パス出来るのは、こういうときだけは助かるな。
「しかし陛下これはいったいどういうことでございましょうか?」
近衛兵の指揮官らしき人物が困惑と動揺を込めて、ウァリウスに問いかける。
普通に考えて、皇帝がドラゴンの背に乗り『女神』と称される相手と一緒にやって来たら何が何だか分かる方がどうかしている。
「宰相から朕は病気のため後宮で療養中だと聞かされていたのであろう」
「は……はい……お言葉の通りでございます」
「お前たちの見ての通り、偉大なるアルタシャのお陰で全ては快癒したのだ。故にこれからは朕が政を執り行う!」
宰相の言葉は嘘だと断言するのも後々面倒な事になるので、オレが治療したという事にするつもりらしい。
嘘をついて皇帝を軟禁したとなれば、死罪は免れないはずだが、そうなれば相手も死にものぐるいで反撃してくるだろう。
ウァリウスを閉じ込めた連中は数の上では少数でも宰相を含め有力貴族達だろうから、下手をすれば内戦になりかねない。
しかし『病気が治ったからこれからは皇帝が政治をする。宰相は引退してもらう』という方向にもっていけば混乱は最小限度で済むという計算があるのだな。
こうやって即座に落としどころを考えつくあたり、なんだかんだ言ってもやっぱりウァリウスは『立派な政治家』になったものだ――半分皮肉だけどな。
「凄いね。イオは本当にドラゴンだったんだ」
「はあ……長生きはしてみるもんじゃのう……」
これまでイオの正体について知らなかったウァリウスとマルキウスはようやく実感してくれたようだ。
「それでどうすればいいんだい? あいつらを踏みつぶせばいいのかな?」
イオは驚愕のあまり動く事も出来ない兵士達に目を向ける。
「ダメです! それよりも少しだけ空を飛んで下さい」
「分かったよ」
イオが翼を振るったところでオレは叫ぶ。
「みなさん! しっかりつかまっていて下さいよ!」
残念ながらお世辞にもイオの乗り心地はよくはない。
ウァリウスはもちろん老人のマルキウスは振り落とされたら確実に身体は地面に、魂は天に登っていく羽目になるだろう。
「じゃあいくよ!」
イオの合図と共にその巨体が宙を舞う。
悲鳴を挙げる暇もなく『蜘蛛登り』の魔法を使っているオレ以外の面々はイオの背中にしがみつく。
もちろん後宮の内部でいきなりドラゴンが姿を見せ、それが空に飛び上がったのだから、宮城も首都ノチェットでも間違い無く大騒ぎになっているだろう。
ただ脱出するだけでなく、そうやって注目を浴びるのもオレの目的の一つなのだ――あんまり嬉しくは無いけどな。
「それではあちらの広場に着地して下さい!」
「分かったよ!」
オレは本来ならば皇帝がいる筈で、宮城ではもっとも大きな建物である太極殿の前の広場を指し示す。
その隣にある紫宸殿では政務が執り行われていて、この事態を招いた宰相達もそこにいるはずだ。
文字通り宮城の中心地にイオは一気に舞い降りる。
攻撃される危険性は高いので前もって『調和』をかけておく。
このとき建物の中にいる相手には効果は無いが、皇帝であるウァリウスの姿さえ確認出来れば攻撃は出来ないという計算があったからだ。
着地したところでオレは合図を送る。
「ウァリウス! 今ですよ!」
細かい事は言わないが、ウァリウスならば全て察してくれるだろうという前提での行動だ。
「わ、分かったよ……」
青い顔をしながらも事情をのみ込んでくれたらしく、ウァリウスは着地したイオの背中から叫ぶ。
「者ども静まれ! 皇帝の命であるぞ!」
確かこの国の皇帝には本来は名前が無くて、死後に贈り名されるのだったな。
オレの場合は幼名のウァリウスを特別に呼んでいいという許可をもらっているのだが(第五章)、ファーストキスを奪われた代償だと思えば何とも割に合わない対価だよ。
それはともかく叫んだウァリウスの姿はついさきほどとは一変して、実に凜々しく若き皇帝らしい威厳が感じられる。
オレに対してセクハラしている時とは本当に大違いだな。
「陛下ですと?!」
「いったいどうしてドラゴンの背に?」
「これは一体、何事でございますか?」
周囲の兵士や貴族達は困惑と動揺を口にしている。
「静まれと命じた筈だ! 武器をおさめよ!」
「は、はは!」
兵士達は慌てて武器をしまいひざまずく。
取りあえず今のところ皇帝の権威はそこそこ有効なようだ。先ほどのルゴールは宰相の直属か何かで特別な存在だったのだろう。
「そしてここには我が女神アルタシャも顕現しておられるのだぞ!」
不本意だけどここはオレが前に出るしか無いな。
「おお! 紛れもなくアルタシャ様のお姿!」
「間違い無いのか?!」
「一年前に後宮で直接、ご尊顔を拝したのだから見紛う事など無いぞ」
ここでは一年前に後宮で大勢に姿をさらしたので、オレの顔を知っている相手も多い。
いちいち説明しなくても顔パス出来るのは、こういうときだけは助かるな。
「しかし陛下これはいったいどういうことでございましょうか?」
近衛兵の指揮官らしき人物が困惑と動揺を込めて、ウァリウスに問いかける。
普通に考えて、皇帝がドラゴンの背に乗り『女神』と称される相手と一緒にやって来たら何が何だか分かる方がどうかしている。
「宰相から朕は病気のため後宮で療養中だと聞かされていたのであろう」
「は……はい……お言葉の通りでございます」
「お前たちの見ての通り、偉大なるアルタシャのお陰で全ては快癒したのだ。故にこれからは朕が政を執り行う!」
宰相の言葉は嘘だと断言するのも後々面倒な事になるので、オレが治療したという事にするつもりらしい。
嘘をついて皇帝を軟禁したとなれば、死罪は免れないはずだが、そうなれば相手も死にものぐるいで反撃してくるだろう。
ウァリウスを閉じ込めた連中は数の上では少数でも宰相を含め有力貴族達だろうから、下手をすれば内戦になりかねない。
しかし『病気が治ったからこれからは皇帝が政治をする。宰相は引退してもらう』という方向にもっていけば混乱は最小限度で済むという計算があるのだな。
こうやって即座に落としどころを考えつくあたり、なんだかんだ言ってもやっぱりウァリウスは『立派な政治家』になったものだ――半分皮肉だけどな。
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