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第24章 全てはアルタシャのために?
第1149話 宿に少女を連れ込んで
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外に出る前に退屈そうなイオとサレナに声をかける。
「すみませんが少し外に出かけてきます」
「それでは僕も行くよ」
「あたしも買い物ぐらいはしたいわね」
当然ながらイオとサレナはいずれも同行を申し出てくる。
こんな宿の一室に押し込められてテセル達が帰ってくるのを待つだけという状況に不満があるのは分かるが、揃って出て行くのはあまりにも危険だ。
城壁の外とは言えど、一目でイオやサレナの正体を見破る神造者がどこにいるか分からないのだ。
「まだ状況が不明なので、二人はしばらくこの部屋にいて下さい。わたしが周囲の様子を確認してきますから」
念を押したところでひとまずオレは周囲の様子をうかがいつつ裏口から出る。
もしも官憲の連中がオレ達に目を付けていたのなら、裏口にも監視の目があるはずだが、見たところそのような相手はいないらしい。
オレは魔法で知覚を強化しているし『霊視』、『魔法眼』も使っているので、ほぼいかなる手段の監視であろうと気付く事が出来る。
やはり前にいる相手は神造者の手先というワケでもないようだ。
とにかく表に回って、先ほどのフードの相手に話かけるとしよう。
もちろん今はオレもフードで顔を隠しているから、フードを被った同士の対面という事になるな。
傍目には相当に変な光景だろうなあ。
なるだけ短時間で終わらせたいところだが、それは向こうの思惑次第だな。
表に回って遠目に確認すると、先ほどのフードの人影は相変わらずオレ達が入った宿の前を行ったり来たりしている。
まるで告白をためらっているかのような動きを見て、少しばかり微笑ましい気がしてきたところだ。
いや。それではダメだろ。
取りあえず暴力的活動を抑止する『調和』をかけて、それから相手に近づく事にする。
「すみません。少し話いいですか?」
「え? えええ?!」
声をかけたところで相手はまるで心臓が飛び出したかと言わんばかりの声をあげた。
往来のど真ん中なので当然、周囲の注目が一気に集まる。
これはオレにとってもよろしくない。
「いえ。すみません。落ち着いて下さい」
「あ、あなたねえいきなり声をかけてくるから、心臓が止まるかと思ったじゃ無いの――」
振り向いて文句を言い出したフードの下にあったのは、年齢はオレと大差のない赤い髪の少女だった。
だがそれとほぼ同時にオレの視線は少女の胸に釘付けとなる。
その胸には青銅で作られた八角形の装身具があったのだ。
青銅はテセルの持っている銀の――支部長級の地位を示す――ものよりは下であるにしろ、相応の地位にある神造者なのは間違いない。
年齢を考えれば、テセルには及ばぬまでも間違い無くエリート階級のはずだ。
それならばイオ達の正体に気付くのはむしろ当然か。
だがここで少女は声を上げる。
「あなたはさっきテセルと一緒にいた一人ね!」
まずい! やっぱりテセルの知り合いだった。
「いったいなにもの――」
少女が叫び出して往来の注目を浴びる前にオレは『平静』をかけてその精神をロックする。
そしてその上で友人のフリをして声をかけておこう。
人種も民族も文化も異なる大勢の雑多な人間が行き来する場所だから、先ほどのやり取りぐらいではさほど注目はされていない様子だが、それでも注意は怠るわけにはいかない。
「大丈夫ですか? 長旅で疲れたようですけど、わたしたちの宿はここですよ」
そこで精神が硬直した少女の手を引いて宿の中に招き入れる。
とりあえず神造者の少女を宿の中に連れ込んだが、これが男のオレだったら完全に女子を連れ込む不審者というか犯罪者の所業だな。
周囲がほとんど気にした様子が無いのは、彼女がオレに手を引かれるがままになっていて、抵抗するそぶりを見せていないからだろう。
オレがかけた『平静』で精神をロックしていても、手を引いて歩かせる程度の事は出来る。
そんなわけでオレ達が借りている部屋にまで案内させてもらうとしよう。
「あれ? それはいったい誰だい?」
「またあんたの知り合いなの?」
もちろんイオ達には事前に何も言っていないので、連れ込んだ少女に対して困惑の声を発する。
「すみませんがしばらく黙っていてくれますか?」
ここでオレはフードを外して顔をさらし、その上で『平静』を解除する。
「え……ここは……ええ?」
少女は意識を取り戻したところで、目の前にいるオレの素顔を見て息をのむ。
オレの容貌を見た相手はたいてい絶句するので、騒がれたら困ると思ってあえて素顔をさらしていたのが有効だったようだ。
「ここにお誘いしたのは、あなたと話をしたかったからです」
少しばかり事情を四捨五入して強引に話を進めることにした。
「わたしの事はアルと呼んでください。あなたはどなたですか?」
「や、やっぱりあなたが……」
神造者の少女はオレの問いには答える事無く、乾いた声を唇から絞り出すように発した。
この言葉からするとオレの正体にはとっくに気づいているのだろう。
「確かにわたしは――」
「あなたがテセルをたぶらかして、道を踏み外させたのね!」
「はい?」
想定外の糾弾を受けて、今度はオレの方が『平静』をかけられたかのように精神が硬直した。
「すみませんが少し外に出かけてきます」
「それでは僕も行くよ」
「あたしも買い物ぐらいはしたいわね」
当然ながらイオとサレナはいずれも同行を申し出てくる。
こんな宿の一室に押し込められてテセル達が帰ってくるのを待つだけという状況に不満があるのは分かるが、揃って出て行くのはあまりにも危険だ。
城壁の外とは言えど、一目でイオやサレナの正体を見破る神造者がどこにいるか分からないのだ。
「まだ状況が不明なので、二人はしばらくこの部屋にいて下さい。わたしが周囲の様子を確認してきますから」
念を押したところでひとまずオレは周囲の様子をうかがいつつ裏口から出る。
もしも官憲の連中がオレ達に目を付けていたのなら、裏口にも監視の目があるはずだが、見たところそのような相手はいないらしい。
オレは魔法で知覚を強化しているし『霊視』、『魔法眼』も使っているので、ほぼいかなる手段の監視であろうと気付く事が出来る。
やはり前にいる相手は神造者の手先というワケでもないようだ。
とにかく表に回って、先ほどのフードの相手に話かけるとしよう。
もちろん今はオレもフードで顔を隠しているから、フードを被った同士の対面という事になるな。
傍目には相当に変な光景だろうなあ。
なるだけ短時間で終わらせたいところだが、それは向こうの思惑次第だな。
表に回って遠目に確認すると、先ほどのフードの人影は相変わらずオレ達が入った宿の前を行ったり来たりしている。
まるで告白をためらっているかのような動きを見て、少しばかり微笑ましい気がしてきたところだ。
いや。それではダメだろ。
取りあえず暴力的活動を抑止する『調和』をかけて、それから相手に近づく事にする。
「すみません。少し話いいですか?」
「え? えええ?!」
声をかけたところで相手はまるで心臓が飛び出したかと言わんばかりの声をあげた。
往来のど真ん中なので当然、周囲の注目が一気に集まる。
これはオレにとってもよろしくない。
「いえ。すみません。落ち着いて下さい」
「あ、あなたねえいきなり声をかけてくるから、心臓が止まるかと思ったじゃ無いの――」
振り向いて文句を言い出したフードの下にあったのは、年齢はオレと大差のない赤い髪の少女だった。
だがそれとほぼ同時にオレの視線は少女の胸に釘付けとなる。
その胸には青銅で作られた八角形の装身具があったのだ。
青銅はテセルの持っている銀の――支部長級の地位を示す――ものよりは下であるにしろ、相応の地位にある神造者なのは間違いない。
年齢を考えれば、テセルには及ばぬまでも間違い無くエリート階級のはずだ。
それならばイオ達の正体に気付くのはむしろ当然か。
だがここで少女は声を上げる。
「あなたはさっきテセルと一緒にいた一人ね!」
まずい! やっぱりテセルの知り合いだった。
「いったいなにもの――」
少女が叫び出して往来の注目を浴びる前にオレは『平静』をかけてその精神をロックする。
そしてその上で友人のフリをして声をかけておこう。
人種も民族も文化も異なる大勢の雑多な人間が行き来する場所だから、先ほどのやり取りぐらいではさほど注目はされていない様子だが、それでも注意は怠るわけにはいかない。
「大丈夫ですか? 長旅で疲れたようですけど、わたしたちの宿はここですよ」
そこで精神が硬直した少女の手を引いて宿の中に招き入れる。
とりあえず神造者の少女を宿の中に連れ込んだが、これが男のオレだったら完全に女子を連れ込む不審者というか犯罪者の所業だな。
周囲がほとんど気にした様子が無いのは、彼女がオレに手を引かれるがままになっていて、抵抗するそぶりを見せていないからだろう。
オレがかけた『平静』で精神をロックしていても、手を引いて歩かせる程度の事は出来る。
そんなわけでオレ達が借りている部屋にまで案内させてもらうとしよう。
「あれ? それはいったい誰だい?」
「またあんたの知り合いなの?」
もちろんイオ達には事前に何も言っていないので、連れ込んだ少女に対して困惑の声を発する。
「すみませんがしばらく黙っていてくれますか?」
ここでオレはフードを外して顔をさらし、その上で『平静』を解除する。
「え……ここは……ええ?」
少女は意識を取り戻したところで、目の前にいるオレの素顔を見て息をのむ。
オレの容貌を見た相手はたいてい絶句するので、騒がれたら困ると思ってあえて素顔をさらしていたのが有効だったようだ。
「ここにお誘いしたのは、あなたと話をしたかったからです」
少しばかり事情を四捨五入して強引に話を進めることにした。
「わたしの事はアルと呼んでください。あなたはどなたですか?」
「や、やっぱりあなたが……」
神造者の少女はオレの問いには答える事無く、乾いた声を唇から絞り出すように発した。
この言葉からするとオレの正体にはとっくに気づいているのだろう。
「確かにわたしは――」
「あなたがテセルをたぶらかして、道を踏み外させたのね!」
「はい?」
想定外の糾弾を受けて、今度はオレの方が『平静』をかけられたかのように精神が硬直した。
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