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第24章 全てはアルタシャのために?

第1173話 創造神との対面にて

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 オレはひとまず仲間と別れて、警備兵に連れられて神殿の奥に向かう。
 見た限りでは以前に幾度か見た事のある、神界にふさわしい巨大で壮麗な神殿ではあるが、どこか機械的で無機質な印象を与えるのは神造者の定めた様式に従って作られた宗教施設に共通するところだ。
 ひとまず待合室と思しきところに案内される。
 牢屋でなかった事にホッとすべきなのだろうか?

『この部屋でしばらく待っておれい』
「分かりました」

 オレは椅子に腰掛けて周囲を確認するが、一見したところではこれまでの神の領域と大きく違う様子は無いらしい。
 とりあえず待っていると、部屋の空間がいきなり歪み始める。
 これはもしかしたら『神の介入』か?
 やはりオレの存在について創造神エルウリンは気付いていたようだな。
 気がつくとオレの周囲は先ほどの待合室から、巨大な機械が休む間もなく動き回っている工場のごとき空間に変化する。
 これが創造神エルウリンの心臓部なのか?
 辺りを見回しているとオレの脳裏に声が響いてくる。

『よくぞいらしてくれた。アルタシャ殿』

 振り向くとそこには落ち着いた表情でヒゲを蓄えた貫禄ある中年の男性が立っていた。
 恐らくはエルウリン神の化身だな。
 普通に考えればこの巨大な工場こそが本体であり、この化身は信徒に親しみを持たせるための擬人化した姿だろう。

「わたしの事を知っているのですか?」
『もちろんだとも。何しろ貴女を生産するのは吾に与えられた使命の一つだからな。あえて言うなら貴女の父と呼んでもらいたいところだ』

 やれやれ。イロールは自分を『母』と呼んで欲しがったが、今度は自称『父』が現れたよ。
 どこかで『名声は親族を増やす一番の方策だ』という皮肉に満ちた言葉を聞いた覚えがあるが、神様でもそういうところは変わらないのかもしれないな。
 しかし化身を作るのを『生産』と表現するとは、本当に非人間的な存在だと実感させられるよ。

「別にあなたを父と呼んでもいいのですけど、わたしの化身を作るのは辞めてもらえませんかね?」

 それぐらいのことでこの頼みを聞いてくれるなら楽でいいのだが、世の中がそんなに甘い筈がない。

『それは出来ぬ。吾はあくまでも信徒の願いを聞き届け、捧げられた霊力に応じて創造するだけだ』
「あなた自身の意志はないのですか?」
『作ってはならぬ禁じられたものはいくらかあるが……吾の神としての権能に逆らう事は不可能である事は貴女も分かっているはずだ』

 そこは予想通りではある。
 こうなるとやはり神造者の方を止めるしかないのか。

「あなたにそれをさせている人に対面させてくれませんか?」
『構わぬが条件があるぞ』
「何でしょうか?」

 もしかしたら今度は『お父さん』と呼べとかそんな条件だろうか。
 とっくにイロール相手に『一線を越えている』ので今さら躊躇する理由もない気がするが、恥ずかしい事に変わりは無いのだ。

『貴女をもっと知りたいのだ。その身体を隅々まで完璧に調べさせて欲しい』
「いくら何でもダメですよ!」

 それがチョメチョメの隠語だろうと、機械で隅々まで調べるのだろうと、そんな事に自分の身体を捧げるなど真っ平だ。
 それが女性的な羞恥心によるものなのか、それともこんな機械ごときにいいように扱われる事に対する嫌悪感なのか、それはオレにもちょっと分からない。

『そこをなんとかしてくれぬか? 今までの創造物には吾も少しばかり不満があるのだ。なぜならどこまで本物を忠実に再現できているのか、分からぬからな』

 なるほど。創造神だけあって、自分の創造物には強い関心があるのだな。
 しかしこれはこれでやっぱり信徒と食い違っている気がするぞ。

「ちょっと待って下さい!」
『どういう事だね?』
「別にわたしを忠実に再現しても、それを望んだ人たちが喜ぶとは限りませんよ」
『なぜだ? より完璧に本物と同じ方が彼らの望みに合致しているはずだ』

 思った通りだ。エルウリンは創造神だからあくまでも願い通りのものを作る事しか考えていない。
 だけどオレには確信がある。
 実際には『アルタシャの忠実なコピー』よりも、自立して己の意志で行動するのではなく、与えられた相手にただ忠実につくすような存在の方がよほど喜ばれるのだ。
 それはかつてオレが男だった頃に夢見ていたハーレムにおいて、常に男に忠実につくすような女性が人気があったのと同じようなものだろう。
 もちろん現実にそんな都合のいい相手などいるはずがないけど、それだからこそ支持されている事が『元男』としてオレには分かるのだ。
 要するに実在する女性そのものよりも、ある程度は中途半端な方が『身勝手な男』にとっては都合のいい存在と言う事になる。
 だからエルウリンに願った相手は、そこまで何もかも完璧な再現した存在を望んでいるのではなく、自分の脳裏にある『理想の存在』を期待しているはず。
 だがエルウリン神自身はその願いを叶えるために、より本物を忠実に再現しようとしているわけだ。

『しかし貴女の化身を受け取った者達はどれも吾への祈りを忘れてしまう……やはり。不完全だからではないのか?』
「え? それってもしかして……」

 このときオレの脳裏には以前にマニリア帝国の宰相が、オレのコピーにはまってしまった時の光景が蘇った。
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