能力者の都市で僕が最強の"覇王"になるまで。

ミースケ

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#29

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目の前に広がっていた光景は、一言で言い表すなら"虚無"だった。
 先程までの机や椅子、パソコンなどが置かれていた男の狭い部屋とは打って変わって、無限に続いているような気さえする空間が広がっていた。
 そしてその空間の中に唯一、僕の目の前で男が剣を構えて立っている。
「これがお前の能力か・・・?」
 僕は驚きの表情を敢えて隠さず、そいつにそんな事を問う。
「まあ、そんなところだ」
 男は構えを解かずにそう答える。
 男は、男性にしては長い黒い髪に、紅い両目が特徴的で、カッターシャツを着ている。
 こいつは恐らく能力を複数持っており、この虚無の世界もその内の一つだろう。
「お前にはさっさと死んで貰うぞ」
「・・・!」
 男はそう言ってその場で剣を振る。本来なら7m程離れた僕に当たる距離ではないのだが、その剣から禍々しい色をした飛ぶ斬撃が放たれたことにより、攻撃が僕の元まで届く。
 僕はそれを寸前の所で避けることに成功するが、咄嗟に動いたことによってその場に残っていた数本の髪が切断されて空中に舞い散る。
「ぶっねぇ・・・っ!」
 雰囲気でわかる、この攻撃はやばい・・・!まともに喰らえば恐らく即死は免れないだろう。
 ただ、斬撃の速さ自体は気をつけていれば避けれる程度なため、距離を取って遠距離からチクチク攻撃するのが一番いいだろう。
「・・・・・」
 そう考えた僕は、ポーチからナイフを取り出して、男に向けて投擲する。
 当然の事ながら京夜ほどの速度や威力は無いものの、それでもかなりの速さだという自負はある。
「くだらねぇ」
「お・・・?」
 だがそのナイフは男に命中する直前で突然完全に消滅する。
 それも移動させられたとかじゃなく、男に近づいた部分からまるで塵になるように消滅していったのだ。
「これで3つ目かよ・・・」
 まさかこいつが能力を3つも持っているとは思わなかった。
 今こいつが見せた《世界》《斬撃》《結界》と3つの系統の能力の他にも恐らくまだ何か隠しているのだろうが、それが分からない以上対策のしようがない。
 対する僕は直接戦闘に使える能力が"1つしか"ない。
 これで少なくとも剣を使った近距離戦闘をするしか無くなった訳だが・・・
「お前、名前は?」
「・・・?晴翔だ」
 僕のそんな質問に、男は「何いってんだこいつ」といった表情をしながらもそれに答えてくれる。
「そうか、陽翔か・・・」
 僕はそう呟くと、手を顔に持っていき、左眼に付けている眼帯を外す。
___そう、久しく人前に晒して来なかった"晴翔と同じ色の紅い目を"。

「俺の能力はな・・・」
 数日前の事務所、僕は約束通り瑠衣に自身の能力を開示していた。
「《契約》っていう能力が1つ目、で、もう1つが《創造》だ。この能力は特殊でな、能力はメリットとデメリットがある程度釣り合っているのは知ってるよな?」
「はい、もちろんです!そんなの教科書で習いますよ~」
「でもこの《創造》はデメリットが限りなく軽減されていて釣り合っていないんだ」
「どういう事ですか?」
 よくわからないといった様子で首を傾げている瑠衣に、僕は手を開いて上に向ける。
「これ、ただのコップな」
「・・・!?え、凄い!」
 そしてその手のひらからコップを出現させる。いや、正しくは"作った"だが、それはどちらでもいい。
「これが《創造》、イメージしたものを瞬時に作り出すことが出来る能力だ。ここまでなら普通の能力なんだが、問題はこれからだ。」
 僕はそこから更にコップを大量に量産する。しかもクールタイムがほとんどないため、一瞬にして周囲がコップで埋め尽くされる。
「この能力、クールタイムもほとんどない上に体力も消費しないし、再現度もめっちゃ高い。普通は何かしら重大な欠点があるもんじゃないのか?」
「そうですねぇ、私の能力も反動が大き過ぎてここで働きだして今まで1回も使ってないですし」
「そうなんだよ!だからこの能力は特殊なんだよ!」
 僕がそう言いながらパンッと手を叩くと、自分の周囲を埋め尽くしていた大量のコップが一瞬にして全て消え去る。
「わぁお、凄いですね。・・・ところでその能力、なんで得たんですか?」
「それはな・・・託されたんだよ。2つ上だった女の子に」
「・・・あ、すいません!」
 僕の思い雰囲気を感じ取ってか、瑠衣は申し訳無さそうに謝る。
「ハハハッ。で、その女の子の遺言と個人的な恨みで10年前の事件の黒幕を探してる感じだな。ちなみに僕たちが事務所をやってるのも情報収集のためだな」
「なるほど・・・」
「まあ、これが全部かな。で、大会の時暴走したのは《創造》だな。理由は知らないけど、10年前の事件関連でキレたら暴走するんだよな」
「なんででしょうかね?」
「知らね!」

「ど~したんだ?まだまだそんなもんじゃないだろ!?」
「チッ・・・!」
 戦いの最中、陽翔は思わず舌打ちをしてしまう。
 その理由は単純明快で、目の前の"こいつ"が想像以上に厄介だったからだ。
 こいつの戦闘スタイルを一言で言い表すなら"トリッキーな剣士"だ。
 煙玉、ワイヤー、ナイフ、爆弾などの道具を手から生み出し、使って距離を詰めてきて剣で攻撃してくるのが基本なのだが、それだけなら大した問題じゃない。ワイヤー、ナイフ、爆弾は俺の能力の前には無意味だし、煙玉も直ぐに祓える。
 問題はこいつの身体能力と反射神経だ。こちらの剣を避けて的確にカウンターを入れてくる上に、例え避けられない一撃を放ったとしても盾を生み出して防いでくる。
 俺の能力では、零の剣による攻撃は直接触れなければ消滅させることが出来ないため、こちらも剣を使って防がなくてはならないのだが、タイミングをズラしてきたり、攻撃の軌道を変化させることによってそれを難しくさせている。
 なによりこいつの"眼"・・・間違いなく"俺と同じ"だ。何故かこいつはその能力を使いこなせていないが、その片鱗だけでもこいつの素のスペックと合わされば十分脅威的だ。
 "紅い眼"は、なぜだかは知らないが、メリットとデメリットが釣り合っていない特殊な能力、いわゆる【特殊能力】を持つ者に宿っている。
 この眼を持つ者は、俺の知っている限りでは、俺とウチのボスに、"あいつ"・・・それと目の前の零とかいうやつの4人だけだ。
 いよいよ最終手段を使わなければ勝てないと思い、俺は"その力"を使おうとする。

「分かってきたぜ、お前の能力!」
「・・・っ!」
 10分ほど陽翔と戦闘していて分かったことがいくつかある。
 分かったことは、こいつの能力は今の所1つだけだということだ。こいつの能力は《破壊神》・・・これは僕が勝手に決めた能力名では無く、"10年前にこいつ自身が言っていた名"だ。
 《破壊神》の能力はシンプルに"破壊のエネルギーを操作する"というもので、ナイフが消滅したのは破壊のエネルギーを身体に纏っているから、斬撃を飛ばしてきたのは破壊のエネルギーを剣に付与してそれを飛ばしたから、この空間を作ったのは破壊のエネルギーをなんとかして現実世界と隔離した事によるものだろう。
「破壊の神さんよ、僕は10年前からお前の事を知ってるぞ?」
「なに・・・?」
「10年前、あの事件から生還したお前は同志を募ってすぐさま近くに設置されていた臨時政府の拠点を襲撃した。それが何故かは僕には分からないけど、その時僕は少しだけ見たんだ、お前がその能力で暴れ回って"破壊神"と呼ばれているのをな!」
「・・・あれには理由があったんだ」
「そりゃそうだろな、じゃなきゃあんなことをする必要が無いし」
 総計1000人近くの生き残りが陽翔に付いて政府を襲撃したということは、それだけ納得させる事の出来る理由があるはずだ。
「・・・その理由ってのは?」
 僕は単なる興味本位から陽翔にそんな事を聞いたが、次に陽翔の口から告げられた事実によって、とんでもない衝撃を受けることになる。
「あの事件の黒幕が龍桜だからだ」
「・・・は?」
 それを聞いた僕は戦闘の最中であるにも関わらず、ただただ呆然とするしか無いのだった。
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