4 / 26
4,転機
しおりを挟む
「こんな売上で恥ずかしくないのか?」
部長の役職についている川島が、椅子にふんぞり返って足を組み、上目遣いで順平を睨めつけるように見上げている。
社長を含めて十人、いや、先日営業が一人辞めたから九人しかいない印刷会社で部長もくそもないだろ、と心の中で悪態をつきながらも「すみません」と謝罪する。
「お前さあ、なんで仕事とれないか分かる?」
分かるよ、このデジタル社会で今どきチラシやらポスターやら作る企業がどれだけあるってんだよ、あったとしてもこんな吹けば飛ぶような零細企業にわざわざ頼まねえだろ、と思っても、もちろん口にはしない。
「自分の努力が足りないからです」
言い訳すれば説教の時間は倍になる、川島との付き合いも長いので攻略法はいくらでもあった。
「そうだよ、営業は足と根性使ってなんぼだろうが」
何年前の営業スタイルだよ、コイツは最近のコンプライアンス問題やパワハラのニュースを見ていないのだろうか。
「はい、その通りです」
「分かってんなら突っ立ってないで外回り行ってこい」
「はい」
できるだけ快活に返事をして自席にもどる、隣に座る経理の菅野が憐みの視線を投げかけてきたので無言で頷いた。
鞄に飛び込み用の資料を詰め込む、無くした鞄の代わりに新しい鞄を買う余裕は当然ない、仕方ないので以前使っていたボロボロの鞄が再登場した。久しぶりの登場に鞄も喜んでいる、ような気もする。
「行ってきます!」
自分でもどこに行くのかも分からないが、とにかく会社を出て外に出る、錆びた自転車にまたがりとりあえず駅前の商店街を目指した。
北千住の駅前は午前中から賑わっていた、東京都で最も人気がないと言っても過言ではない足立区にある北千住だが、最近は住みたい街のベスト10に入るなど人気のエリアになっている。別に街に魅力がある訳じゃない、都心に出るにはそこそこ便利、その割に家賃が安い。それだけだ。
自転車をとめてカゴから鞄を引っ張り出すと手前にある美容室から飛び込んだ、営業方法は至って単純。店舗を構える店にチラシやポスターを作りませんか、と、ひたすら声をかけて行くだけだ。運が良ければ百件に一件くらいは仕事を頼まれる。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませー」
「いえ、私こういった者で」
店長らしき男にすかさず名刺を渡すと、先ほどまでの笑顔が歪んで眉間に皺がよる。
「ああ、うちはけっこうだから」
「そうですか、ではコチラのパンフレットだけでも」
一瞥するとパンフレットを受け取り、つまらなそうに奥に引っ込んで行った、おそらくそのままゴミ箱いきだろう。
「では、失礼しました」
外にでると深いため息をついた、なんて効率の悪い仕事なんだ。最近では二十歳そこそこの若造が面白くもない動画をアップするだけで月に百万以上稼ぐという。なんなんだあれは、こっちは一日中歩き倒しても売上ゼロなんてザラ、良くて十万円程度の売上だ、しかもそれは売上であって自分の金になる訳じゃない。
まったくやる気にならない、順平は自転車にまたがると駅前から離れて遠くの公園を目指した。
公園には同じように会社に不満がありそうなサラリーマンが数人ベンチに座っている。比較的大きな公園なので空いているベンチはまだあった。
自転車をとめてベンチに座る、スマートフォンを取り出すとゲームを始めた。
こんな不真面目だから営業成績も向上しない自覚はもちろんある、しかし会社でいびられ、家では無視され、なんの楽しみも未来への希望もない。つまり、頑張るためのエネルギー、ガソリンがないのだ。それじゃあ車は走らない。
人間が頑張るのは目的があるからだ、家族のため、好きな女のため、夢のため。人によってそれはさまざまだが自分には何もない。動けないのも道理だった。
そんな風に自分にたっぷりと言い訳をするとベンチに寝転がって目を閉じた、すると持っていたスマートフォンがブルブル震えている。一瞬、上司の川島かと思ってヒヤリとしたが、液晶には白井直也の名前が表示されていた。
部長の役職についている川島が、椅子にふんぞり返って足を組み、上目遣いで順平を睨めつけるように見上げている。
社長を含めて十人、いや、先日営業が一人辞めたから九人しかいない印刷会社で部長もくそもないだろ、と心の中で悪態をつきながらも「すみません」と謝罪する。
「お前さあ、なんで仕事とれないか分かる?」
分かるよ、このデジタル社会で今どきチラシやらポスターやら作る企業がどれだけあるってんだよ、あったとしてもこんな吹けば飛ぶような零細企業にわざわざ頼まねえだろ、と思っても、もちろん口にはしない。
「自分の努力が足りないからです」
言い訳すれば説教の時間は倍になる、川島との付き合いも長いので攻略法はいくらでもあった。
「そうだよ、営業は足と根性使ってなんぼだろうが」
何年前の営業スタイルだよ、コイツは最近のコンプライアンス問題やパワハラのニュースを見ていないのだろうか。
「はい、その通りです」
「分かってんなら突っ立ってないで外回り行ってこい」
「はい」
できるだけ快活に返事をして自席にもどる、隣に座る経理の菅野が憐みの視線を投げかけてきたので無言で頷いた。
鞄に飛び込み用の資料を詰め込む、無くした鞄の代わりに新しい鞄を買う余裕は当然ない、仕方ないので以前使っていたボロボロの鞄が再登場した。久しぶりの登場に鞄も喜んでいる、ような気もする。
「行ってきます!」
自分でもどこに行くのかも分からないが、とにかく会社を出て外に出る、錆びた自転車にまたがりとりあえず駅前の商店街を目指した。
北千住の駅前は午前中から賑わっていた、東京都で最も人気がないと言っても過言ではない足立区にある北千住だが、最近は住みたい街のベスト10に入るなど人気のエリアになっている。別に街に魅力がある訳じゃない、都心に出るにはそこそこ便利、その割に家賃が安い。それだけだ。
自転車をとめてカゴから鞄を引っ張り出すと手前にある美容室から飛び込んだ、営業方法は至って単純。店舗を構える店にチラシやポスターを作りませんか、と、ひたすら声をかけて行くだけだ。運が良ければ百件に一件くらいは仕事を頼まれる。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませー」
「いえ、私こういった者で」
店長らしき男にすかさず名刺を渡すと、先ほどまでの笑顔が歪んで眉間に皺がよる。
「ああ、うちはけっこうだから」
「そうですか、ではコチラのパンフレットだけでも」
一瞥するとパンフレットを受け取り、つまらなそうに奥に引っ込んで行った、おそらくそのままゴミ箱いきだろう。
「では、失礼しました」
外にでると深いため息をついた、なんて効率の悪い仕事なんだ。最近では二十歳そこそこの若造が面白くもない動画をアップするだけで月に百万以上稼ぐという。なんなんだあれは、こっちは一日中歩き倒しても売上ゼロなんてザラ、良くて十万円程度の売上だ、しかもそれは売上であって自分の金になる訳じゃない。
まったくやる気にならない、順平は自転車にまたがると駅前から離れて遠くの公園を目指した。
公園には同じように会社に不満がありそうなサラリーマンが数人ベンチに座っている。比較的大きな公園なので空いているベンチはまだあった。
自転車をとめてベンチに座る、スマートフォンを取り出すとゲームを始めた。
こんな不真面目だから営業成績も向上しない自覚はもちろんある、しかし会社でいびられ、家では無視され、なんの楽しみも未来への希望もない。つまり、頑張るためのエネルギー、ガソリンがないのだ。それじゃあ車は走らない。
人間が頑張るのは目的があるからだ、家族のため、好きな女のため、夢のため。人によってそれはさまざまだが自分には何もない。動けないのも道理だった。
そんな風に自分にたっぷりと言い訳をするとベンチに寝転がって目を閉じた、すると持っていたスマートフォンがブルブル震えている。一瞬、上司の川島かと思ってヒヤリとしたが、液晶には白井直也の名前が表示されていた。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる