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新しい婚約者 カイム・ベリアル伯爵令息
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「この方が、新しい婚約者だとおっしゃるのですか?」
「そうだよ、フェリシア。こちらはカイム・ベリアル伯爵令息。カイム、これが私の娘でバラム伯爵家の跡取りであるフェリシアだ」
「初めまして。フェリシア・バラム伯爵令嬢。私はカイム・ベリアルです」
カイムは人好きのする柔らかな笑顔を浮かべた。
「……フェリシアです。初めまして」
金髪碧眼のカイムは、驚くほどセリーヌと似ていた。
微睡みたくなるような午後。
バラム伯爵家の居間には一家が会し、そこには娘たちの婚約者たちが招かれていた。
「これでフェリシアの婚約もセリーヌの婚約も整った。我がバラム伯爵家は、これで安泰だ」
「良かったですわね、旦那さま」
「ふふ、幸せになりますわ。お義父さま」
「ああ、セリーヌ。苦労をかけたね。ラファスと共に幸せな家庭を築いておくれ」
「ありがとうございます、お義父さま」
「ありがとうございます」
アンドラゴラスに向かって、セリーヌとラファスが礼をとる。
キャロルはその光景をニコニコと幸せそうに眺めていた。
(何なの? この地獄)
フェリシアは隣に立つ青年に目を向けた。キラキラと光る金髪、青い瞳。気味が悪くなるくらいセリーヌに似た男がニコニコしながらフェリシアを見ている。
「よろしくね、フェリシア」
「私はよろしくないわ。どういうことですか? お父さま」
「そのままの意味だよ。そこにいるカイムとお前は結婚するんだ。彼を婿にとる」
「ええ。私は嫡男ではありませんからバラム伯爵家に入ることに何の問題もありませんよ」
「ほほほっ。それに私の遠縁にあたる方なのよ。余所に資産が流失するわけでもないし。とても良いご縁でしょ? フェリシア?」
「お義姉さま。私も従兄弟に手を出すほどバカじゃないから心配要らなくてよ? ふふ。これで皆、幸せになれるわね」
セリーヌがラファスの横でにっこりと笑う。
「セリーヌ? ラファスは嫡男ではないのよ? アナタたちはどうするつもり?」
「どうもしないわ。バラム伯爵家で二人とも住むのよ」
「えっ? どういうこと?」
「はははっ。いいじゃないか、フェリシア。王都にあるバラム伯爵家の敷地は貴族の中で一番広い。セリーヌたちがココに住んでも、何も困らない」
「ありがとう、お義父さま」
「お父さま? 何をおっしゃっているの?」
「ふふふ。旦那さまは、何もおかしなことをおっしゃってはいないわ。家族みんなで仲良く住めるのよ? 素敵じゃない?」
「そういうわけにはいかないわ。バラム伯爵家には、バラム伯爵家のやり方がありますっ!」
「何を言っているのだ? フェリシア。これが、バラム伯爵家のやり方だよ?」
「そうですよ、フェリシア。これが新しいバラム伯爵家のやり方ですのよ」
「っ……」
(なんなの? 話がまるで通じないわ)
「お父さま、バラム伯爵家を継ぐのは私です。お父さまも婿養子で、正式な跡取りではないわ。バラム伯爵家のことは、正式な跡取りである私が決めます」
「それを、誰が受け入れてくれる?」
「……えっ?」
「もう既に、バラム伯爵家の親戚筋は途絶えた。バラム伯爵家の直系はフェリシア。お前しかいない。家督を継げるのは男子のみだ。お前は従うしかない」
「お父さま⁈」
「そうよ、フェリシア。アナタは旦那さまやカイムの言う事に従っていればいいの」
「お義姉さま。面倒な家の事なんて、お父さまやカイムに任せてしまえばいいのよ。お義姉さまが頑張る必要なんてないわ。楽しみましょう」
「アナタたち、どうかしているわよっ!」
「どうかしているのは、お義姉さま。アナタの方よ」
「そうよ、フェリシア。女は黙って殿方に従えばいいのよ」
「お前を悪いようにはしない。ココは大人しく従いなさい、フェリシア」
「みんな……どうかしているわっ!」
「フェリシア⁈」
「どこへ行くの? フェリシア⁈」
「お義姉さま⁈」
「……っ」
(ここには、おかしな人しかいないっ)
フェリシアはドタドタと音を立てて居間から逃げ出した。
「そうだよ、フェリシア。こちらはカイム・ベリアル伯爵令息。カイム、これが私の娘でバラム伯爵家の跡取りであるフェリシアだ」
「初めまして。フェリシア・バラム伯爵令嬢。私はカイム・ベリアルです」
カイムは人好きのする柔らかな笑顔を浮かべた。
「……フェリシアです。初めまして」
金髪碧眼のカイムは、驚くほどセリーヌと似ていた。
微睡みたくなるような午後。
バラム伯爵家の居間には一家が会し、そこには娘たちの婚約者たちが招かれていた。
「これでフェリシアの婚約もセリーヌの婚約も整った。我がバラム伯爵家は、これで安泰だ」
「良かったですわね、旦那さま」
「ふふ、幸せになりますわ。お義父さま」
「ああ、セリーヌ。苦労をかけたね。ラファスと共に幸せな家庭を築いておくれ」
「ありがとうございます、お義父さま」
「ありがとうございます」
アンドラゴラスに向かって、セリーヌとラファスが礼をとる。
キャロルはその光景をニコニコと幸せそうに眺めていた。
(何なの? この地獄)
フェリシアは隣に立つ青年に目を向けた。キラキラと光る金髪、青い瞳。気味が悪くなるくらいセリーヌに似た男がニコニコしながらフェリシアを見ている。
「よろしくね、フェリシア」
「私はよろしくないわ。どういうことですか? お父さま」
「そのままの意味だよ。そこにいるカイムとお前は結婚するんだ。彼を婿にとる」
「ええ。私は嫡男ではありませんからバラム伯爵家に入ることに何の問題もありませんよ」
「ほほほっ。それに私の遠縁にあたる方なのよ。余所に資産が流失するわけでもないし。とても良いご縁でしょ? フェリシア?」
「お義姉さま。私も従兄弟に手を出すほどバカじゃないから心配要らなくてよ? ふふ。これで皆、幸せになれるわね」
セリーヌがラファスの横でにっこりと笑う。
「セリーヌ? ラファスは嫡男ではないのよ? アナタたちはどうするつもり?」
「どうもしないわ。バラム伯爵家で二人とも住むのよ」
「えっ? どういうこと?」
「はははっ。いいじゃないか、フェリシア。王都にあるバラム伯爵家の敷地は貴族の中で一番広い。セリーヌたちがココに住んでも、何も困らない」
「ありがとう、お義父さま」
「お父さま? 何をおっしゃっているの?」
「ふふふ。旦那さまは、何もおかしなことをおっしゃってはいないわ。家族みんなで仲良く住めるのよ? 素敵じゃない?」
「そういうわけにはいかないわ。バラム伯爵家には、バラム伯爵家のやり方がありますっ!」
「何を言っているのだ? フェリシア。これが、バラム伯爵家のやり方だよ?」
「そうですよ、フェリシア。これが新しいバラム伯爵家のやり方ですのよ」
「っ……」
(なんなの? 話がまるで通じないわ)
「お父さま、バラム伯爵家を継ぐのは私です。お父さまも婿養子で、正式な跡取りではないわ。バラム伯爵家のことは、正式な跡取りである私が決めます」
「それを、誰が受け入れてくれる?」
「……えっ?」
「もう既に、バラム伯爵家の親戚筋は途絶えた。バラム伯爵家の直系はフェリシア。お前しかいない。家督を継げるのは男子のみだ。お前は従うしかない」
「お父さま⁈」
「そうよ、フェリシア。アナタは旦那さまやカイムの言う事に従っていればいいの」
「お義姉さま。面倒な家の事なんて、お父さまやカイムに任せてしまえばいいのよ。お義姉さまが頑張る必要なんてないわ。楽しみましょう」
「アナタたち、どうかしているわよっ!」
「どうかしているのは、お義姉さま。アナタの方よ」
「そうよ、フェリシア。女は黙って殿方に従えばいいのよ」
「お前を悪いようにはしない。ココは大人しく従いなさい、フェリシア」
「みんな……どうかしているわっ!」
「フェリシア⁈」
「どこへ行くの? フェリシア⁈」
「お義姉さま⁈」
「……っ」
(ここには、おかしな人しかいないっ)
フェリシアはドタドタと音を立てて居間から逃げ出した。
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