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姫君のヒミツ
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「富踊の国との縁談が順調に進んでよかったわね、姫」
女王が言いました。
「富踊の国の王子ならば、相手として申し分ない。良かったな、姫」
王が言いました。
「はい」
彩姫は静かに答えました。
富踊の国は豊かな国で、貧租の国の後見として申し分がありません。十二番目の王子との縁談は無事進み、彩姫との婚礼の儀も間近でございます。ですが、最近の彩姫は無口で。何を考えているのかは両陛下の知るところにはございません。
いえ、本当は。
女王も、王も、分かっておいででした。
恋人を殺した国の王子との結婚など、姫の本意ではないだろうということは。それでも。それをはっきりと聞く勇気は、お二人にはありませんでした。
最近の彩姫は急に大人びて。静かに微笑むその顔から、本心を知るのは難しいものがありました。両陛下は、娘が何を考えているのか分からないまま時が過ぎていくのを。黙って見ているしかありませんでした。
ある朝のことです。従者が慌てて叫びながら、彩姫の所に駆け込んでまいりました。
「大変でございます。大変でございます」
「何事ですか」
彩姫は空々しくも大げさに問いかけました。内心、舌を出しておいでだったかもしれません。
「女王様と、王様が。お二人が、お亡くなりに。亡くなっておいででございます」
「まぁ!」
彩姫はわざとらしいくらい大げさに。
衝撃を受けたかの如く。
高らかに声を上げるとヨロヨロと、その場に頽れて見せたのでございます。
亡くなったお二人の葬儀は速やかに、そして簡素に行われました。
貧しい貧租の国に、もはや余裕はないのだと、内外に伝えるが如く。
大げさなほど簡素に行われました。
そして、婚礼を先延ばしする気など無いのだと言いたげに。
早々に済まされたのでございます。
富踊の国、十二番目の王子との婚礼は、それはそれは華々しく行われました。
王子は王となり、彩姫は女王へ。
二人とも望むものを手に入れられたのでございます。
少なくとも、外からはそのように見えました。
それもそのはず。
富踊の国は、その豊かさを誇示するが如く、十二番目の王子の婚礼とは思えないほどの富を貧租の国に授けてくれたのです。
十二番目の王子は富では手に入れることができない王座を手に入れ、彩姫は貧租の国にはない富を手に入れたのでございます。
欲しい物を互いに手に入れて。
これ以上ない見事な結婚だと、誰もが思ったのでございます。
そう。
彩姫以外は。
そう思ったのでございます。
華々しい婚礼の儀を終えて。新しい国王と女王が向かう先。そこは、お二人の部屋でございます。扉開かれ部屋を彩るは、一面の曼珠沙華。貧租の国とは思えない、豪華な演出でございます。
「これは、美しい」
富踊の国十二番目の王子、現在の貧租の国が国王は無邪気に喜ばれました。
「喜んで頂けてなにより」
彩姫は豪華な婚礼衣装を身に付けたまま、妖艶に微笑みました。その彩姫を見て頬を染めるほど初心な十二番目の王子に、姫君の企みなど分かろうはずがありません。
魔法よ魔法。
魔法の力を操れど。
枯れ花を艶やかに咲かせ、古びた道具を新に見せる程度なり。
魔法よ魔法。
心躍らせし君は無残に散りて。
踊る価値すら見出せぬ。
魔法よ魔法。
君に捧げん。
我の全てを君に捧げん。
彩姫は目で合図して、従者たちに扉を閉じさせました。ゆっくりと重々しく、いかにも価値あり気に、意味ありげに。商家にあれば豪華にして城にあるにしては貧相な扉を、閉じさせたのでした。
復讐に魔法など要らない。
曼珠沙華さえ、あればいい。
翌朝。一日だけの国王は、赤い花で華やかに彩られた寝台にて命果て。その幸せな人生の幕を閉じたのでございます。
こうして、貧租の国からは王が消え。女王だけが残ったのです。
女王が言いました。
「富踊の国の王子ならば、相手として申し分ない。良かったな、姫」
王が言いました。
「はい」
彩姫は静かに答えました。
富踊の国は豊かな国で、貧租の国の後見として申し分がありません。十二番目の王子との縁談は無事進み、彩姫との婚礼の儀も間近でございます。ですが、最近の彩姫は無口で。何を考えているのかは両陛下の知るところにはございません。
いえ、本当は。
女王も、王も、分かっておいででした。
恋人を殺した国の王子との結婚など、姫の本意ではないだろうということは。それでも。それをはっきりと聞く勇気は、お二人にはありませんでした。
最近の彩姫は急に大人びて。静かに微笑むその顔から、本心を知るのは難しいものがありました。両陛下は、娘が何を考えているのか分からないまま時が過ぎていくのを。黙って見ているしかありませんでした。
ある朝のことです。従者が慌てて叫びながら、彩姫の所に駆け込んでまいりました。
「大変でございます。大変でございます」
「何事ですか」
彩姫は空々しくも大げさに問いかけました。内心、舌を出しておいでだったかもしれません。
「女王様と、王様が。お二人が、お亡くなりに。亡くなっておいででございます」
「まぁ!」
彩姫はわざとらしいくらい大げさに。
衝撃を受けたかの如く。
高らかに声を上げるとヨロヨロと、その場に頽れて見せたのでございます。
亡くなったお二人の葬儀は速やかに、そして簡素に行われました。
貧しい貧租の国に、もはや余裕はないのだと、内外に伝えるが如く。
大げさなほど簡素に行われました。
そして、婚礼を先延ばしする気など無いのだと言いたげに。
早々に済まされたのでございます。
富踊の国、十二番目の王子との婚礼は、それはそれは華々しく行われました。
王子は王となり、彩姫は女王へ。
二人とも望むものを手に入れられたのでございます。
少なくとも、外からはそのように見えました。
それもそのはず。
富踊の国は、その豊かさを誇示するが如く、十二番目の王子の婚礼とは思えないほどの富を貧租の国に授けてくれたのです。
十二番目の王子は富では手に入れることができない王座を手に入れ、彩姫は貧租の国にはない富を手に入れたのでございます。
欲しい物を互いに手に入れて。
これ以上ない見事な結婚だと、誰もが思ったのでございます。
そう。
彩姫以外は。
そう思ったのでございます。
華々しい婚礼の儀を終えて。新しい国王と女王が向かう先。そこは、お二人の部屋でございます。扉開かれ部屋を彩るは、一面の曼珠沙華。貧租の国とは思えない、豪華な演出でございます。
「これは、美しい」
富踊の国十二番目の王子、現在の貧租の国が国王は無邪気に喜ばれました。
「喜んで頂けてなにより」
彩姫は豪華な婚礼衣装を身に付けたまま、妖艶に微笑みました。その彩姫を見て頬を染めるほど初心な十二番目の王子に、姫君の企みなど分かろうはずがありません。
魔法よ魔法。
魔法の力を操れど。
枯れ花を艶やかに咲かせ、古びた道具を新に見せる程度なり。
魔法よ魔法。
心躍らせし君は無残に散りて。
踊る価値すら見出せぬ。
魔法よ魔法。
君に捧げん。
我の全てを君に捧げん。
彩姫は目で合図して、従者たちに扉を閉じさせました。ゆっくりと重々しく、いかにも価値あり気に、意味ありげに。商家にあれば豪華にして城にあるにしては貧相な扉を、閉じさせたのでした。
復讐に魔法など要らない。
曼珠沙華さえ、あればいい。
翌朝。一日だけの国王は、赤い花で華やかに彩られた寝台にて命果て。その幸せな人生の幕を閉じたのでございます。
こうして、貧租の国からは王が消え。女王だけが残ったのです。
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