わたくしは悪役令嬢なので、お気遣いなく王子さま ~ 思い込みの激しい公爵令嬢は婚約者に溺愛されている

天田れおぽん

文字の大きさ
2 / 6

第2話 悪役令嬢は孤独ですの

しおりを挟む
 夜会は華やかに大盛況のまま終わった。
 会場を後にしようと出口を目指すミレーユの前に、ニコラスがスッと現れた。
 ニコラスはミレーユの手を取って自分の左腕に絡みつけながら、にこやかに言う。

「私が屋敷まで送ろう」
「いえ、結構です」

 ニコラスはミレーユから即答に断られて、ズルッと右肩を落とした。

「えっ? どうして? ミレーユっ」
「みなまで言わせないでくださいませ、ニコラスさま。余計なお手間を取らせるつもりは毛頭ございませんわ。わたくしは、形ばかりの婚約者ですもの」

 ニコラスは困ったように眉尻を下げながら、離れていく赤い手袋に包まれた細い指へ自分の指を絡めて言う。

「いや、そんなことは……」
「あぁぁぁぁぁ、お気遣い痛み入ります」

 ミレーユは勢いよくニコラスの手を跳ねのけて顔を背けた。
 ニコラスは思わぬ拒否に慌てた。

「えっ⁉ ちょ、ちょっとミレーユ落ち着いて?」
「わっ、わたくしは、本当にっ、本当にっ。貴方を苦しませるつもりも、我が儘を言うつもりもございませんわ」
「いや。私は、むしろ我が儘を言って欲しいのだが?」
 
 ニコラスは離れていくミレーユの体にグイッと自分の体を近付け、彼女をしっかり見ながら言ったが、ミレーユは頑なに視線を合わせようとしない。

「レイラ、サン。お願い」

 ミレーユは両目をつぶると、護衛の赤毛に赤目の双子の名を呼んだ。

「「はっ」」

 後ろについてきていたマッズ姉弟は低く短く返事をすると、素早く左右に別れ、ミレーユの右腕と左腕を持って、ニコラスの腕からミレーユを引っぺがした。

「ミレーユ⁉」
「わたくしは、我が家の馬車で帰りますっ。ではごきげんよう。おやすみなさーい」

 ミレーユは、手を差しだして唖然としているニコラスを置いて、双子の護衛の手により運ばれるようにして大きな黒い馬車へと積み込まれた。

 セスティーニ公爵家の馬車は広くて快適だ。
 ミレーユはフカフカの座席に座って、馬車の小窓から外を見る。
 そこには、こちらを困惑の表情を浮かべて見ている愛しいニコラスの姿があった。
 
「あぁ、ニコラスさま。素敵っ」

 キラキラの金髪に青い瞳、スラリと背が高くて甘いマスク……。
 ミレーユはニコラスのことが大好きだった。
 彼の為なら何でもできる。

 正面に座った双子の護衛、弟のサンが呆れたように言う。

「そんなにうっとりとされるのでしたら、送っていただけばよろしいのに」
「そうですよ、ミレーユさま。愚弟の言う通りです」

 その隣に座っている姉レイラが肯定した。
 
「誰が愚弟ですか、姉上」
「愚か者を愚か者といって何が悪い愚弟」

 有能な護衛たちは顔を見合わせ、いつものように姉弟喧嘩を始めた。
 ミレーユはウフフと笑いながら言う。
 
「本当にあなた達は仲がいいわね」
「「どこがですか⁉」」

 いつもと同じような流れの会話をしているうちに王城は遠くなり、あっという間にセスティーニ公爵家の屋敷へと到着した。

 護衛騎士たちにエスコートされて馬車を降りながら、ミレーユは思う。

(わたくしは悪役令嬢なのですもの。いくらニコラスさまのことが好きでも、わたくしがあの方から愛されることはないわ。ニコラスさまが優しくしてくださっても勘違いしてはダメよ、ミレーユ)

 ミレーユ・セスティーニ公爵令嬢は悪役令嬢であることをわきまえた、悪役令嬢なのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

星屑を紡ぐ令嬢と、色を失った魔法使い

希羽
恋愛
子爵令嬢のルチアは、継母と義姉に虐げられ、屋根裏部屋でひっそりと暮らしていた。彼女には、夜空に輝く星屑を集めて、触れた者の心を癒す不思議な力を持つ「銀色の糸」を紡ぎ出すという、秘密の能力があった。しかし、その力で生み出された美しい刺繍の手柄は、いつも華やかな義姉のものとされていた。 一方、王国には「灰色の魔法使い」と畏れられる英雄、アークライト公爵がいた。彼はかつて国を救った代償として、世界の色彩と感情のすべてを失い、孤独な日々を送っている。 ある夜会で、二人の運命が交差する。義姉が手にしたルチアの刺繍にアークライトが触れた瞬間、彼の灰色だった世界に、一瞬だけ鮮やかな色彩が流れ込むという奇跡が起きた。 その光の本当の作り手を探し出したアークライトは、ルチアを自身の屋敷へと迎え入れる。「私のために刺繍をしろ」──その強引な言葉の裏にある深い孤独を知ったルチアは、戸惑いながらも、初めて自分の力を認められたことに喜びを感じ、彼のために星屑を紡ぎ始める。 彼女の刺繍は、凍てついていた公爵の心を少しずつ溶かし、二人の間には静かな絆が芽生えていく。 しかし、そんな穏やかな日々は長くは続かない。ルチアの持つ力の価値に気づいた過去の人々が、彼女を再び絶望へ引き戻そうと、卑劣な陰謀を企てていた。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。 ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

悪役令嬢に転生したので推しの悪役王子を救おうと思います!

かな
恋愛
大好きな乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生!? しかもこのままだと最推しが死んじゃうんですけど!? そんなの絶対ダメ!! そう思って推しの死亡ルートを回避しようと奮闘していると、何故か溺愛が始まって……。 「私に構っている暇があったら、(自分の命の為に)ヒロインを攻略して下さい!」 距離を取ろうとしたのに、推しから甘やかされて……? 推しを救うために頑張ってたら、溺愛ルートに突入しました!? 他サイト様にも掲載中です

悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました

ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。 王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている―― そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。 婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。 けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。 距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。 両思いなのに、想いはすれ違っていく。 けれど彼は知っている。 五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、 そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。 ――我儘でいい。 そう決めたのは、ずっと昔のことだった。 悪役令嬢だと勘違いしている少女と、 溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。 ※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり

ゲームのシナリオライターは悪役令嬢になりましたので、シナリオを書き換えようと思います

暖夢 由
恋愛
『婚約式、本編では語られないけどここから第1王子と公爵令嬢の話しが始まるのよね』 頭の中にそんな声が響いた。 そして、色とりどりの絵が頭の中を駆け巡っていった。 次に気が付いたのはベットの上だった。 私は日本でゲームのシナリオライターをしていた。 気付いたここは自分で書いたゲームの中で私は悪役令嬢!?? それならシナリオを書き換えさせていただきます

処理中です...