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お助けします 宰相殿

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 ココは天国かな?

 シェリアは、馬車の窓越しに宰相アルフォードを見ながら思った。

 サラサラの青みを帯びた銀の髪。長いアイスシルバーの髪を緩く三つ編みにして左に流し落とした美人が、見開いた目をこちらに向けて固まっている。

(瞳は濃紺ですのね。銀が散っていてとても綺麗。まつ毛も長くてお綺麗です。まつ毛もアイスシルバーなのですねぇ。素敵です、素敵ですぅ~)

 素敵、ステキ、カッコイイ。噂には聞いてたけれど、宰相さまがこんなに素敵な人なんて。馬で散策していて偶然出会った私ってばラッキー。シェリアはウットリしながら弓を射った。邪魔な盗賊は弓で射って片付けるに限る。確かな手ごたえと共に悲鳴が上がり、ドサリと大きなモノが転がった音がしたけれど。正直、今はそんなことに構っている暇はない。

(うふぅ~ん。アルフォードさま、宰相さま、カッコよすぎですぅ~)

 シェリアは愛馬マリリン一号の上で弓を構えたまま、宰相アルフォードに見惚れていた。

 ここはラアシス国辺境領イエリオ。剥き出しの荒れた大地が広がる国境地帯。荒れた土地が広がる辺鄙な場所ではあるけれど、地下資源豊富な砂漠地帯からの輸送ルートにあたるため、盗賊は珍しくはない。魔物の森にも隣接している辺境地帯において戦力は重要である。そのため、辺境領を守る警備隊は強い。盗賊対策にもバッチリ対応している。

 だからといって必ずしも安全とは言えない。必要だから警備隊がいるのだ。無防備はいけない。春から夏にかけての今は、過ごしやすい。過ごしやすいことと安全なことはイコールではないのだ。実際、国家所属であることを示す紋章が刻まれているこの馬車は、今まさに襲われている。護衛の騎士が頑張っているが、いかんせん王都とは勝手の違う辺境では分が悪い。

 高く昇った太陽の下、乾いた土と岩で出来ている渓谷を行く馬車は、とても目立つ。紋章入りの黒い馬車は、その見栄えの良さも手伝って、とても目立つ。盗賊が出ると悪名高いルートに飛び込むには、宰相たちを乗せた馬車は目立ちすぎていた。護衛の騎士たちもそれなりに付いていたようだが、いまは二人くらいしか姿が見えない。

(あ、一人消えた。んー……。ま、大丈夫でしょ)

 チランと横目で確認しつつ、シェリアは護衛騎士を倒した盗賊の馬を狙って矢を放った。いななきを上げながら土埃と共に馬が転がっていく。馬上にいた盗賊の悲鳴など、ただのオマケだ。馬が逃げてしまえば追ってくることはない。命のやり取りまでは必要のないことだ。

 小柄で細身ではあるが、日に焼けた肌に筋肉で締まった体を持つシェリアは弱々しくは見えない。俊敏さを感じさせる体は馬上で安定しており、繰り出される弓は狙った場所に落ちてゆく。だからといって、シェリアは自分が特別に強いとは思っていなかった。辺境において過剰な自信は命取りだ。

(もうそろそろ、サリオス兄さまが来る頃よ)

 周りに視界を遮るものがない見通しの良い道だ。襲撃に辺境警備隊が気付かないはずがない。適当に時間稼ぎをしておけば、じきに援軍はやってくる。シェリアがすべきことは、必要以上に盗賊を刺激することではない。

 それに――――。

(私がいま最優先すべきことは、宰相さまをたっぷり鑑賞することでぇ~す。こんな機会は、めったにないもの。千載一遇のチャンスよぉ。二度とないかも。辺境領というだけあって、この辺は凄まじく田舎ですものぉ~)

 辺境伯の娘、シェリア・イエリオの意識はアルフォードのみに向けられていた。愛馬マリリン一号の上は安定していて危なげがない。おかげで爆走する馬車の横にぴったりつけていても、安心して美人鑑賞ができていた。

 とはいえ、盗賊たちも負けてはいない。手ぶらで帰る気のない彼らは焦っていた。

「くっそー、あの女っ!」
「弓での攻撃が邪魔だー!」
「あの女をやっちまえ!」
 
 思うように事が進まず苛立った盗賊たちは、攻撃の矛先を変えた。

「盗賊のみなさん、無粋ですぅ~」

(アルフォードさま鑑賞を邪魔するなんて。イジワルするなら容赦はしません!)

 自分に向かって手を伸ばしてくる盗賊たちに、シェリアは次から次へと矢を放っていった。
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