クズ可愛いやり捨て令嬢は執着の探偵に愛される

天田れおぽん

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第1話 令嬢はやり逃げする

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 わたし、浜田雛子ひなこは焦っていた。
 
「25歳までに子どもを産まないと遺産相続できないとか、あり得ないでしょ? 時代錯誤もいいとこよ、おじいさまっ!」

 ついつい言葉に出てしまって、わたしは思わず両手で唇を押さえて立ち止まった。
 まだ夕方の早い時間だというのに年末も押し迫った時期の日暮れは早く、あたりは既に暗かった。
 キョロキョロと周囲を見るが、人影は見当たらない。
 わたしはホッと溜息をついて再び歩き出す。

 今日は高校の同窓会があるのだ。
 遅れるわけにはいかない。
 服はダサくて安物だけど、靴は機能的なスニーカー。
 少し早歩きすれば、開始時間に間に合う。

 伸ばしっぱなしの黒い髪を後ろで1つにくくり、大きな黒ぶちのメガネをかけているわたしは、お金持ちの令嬢などには見えない。

 だがわたし、実はご令嬢なのだ。
 驚いちゃうねぇ。
 わたしも驚いてるよ。

 ちょっと不出来なわたしは、通常のご令嬢ルートに乗れなかったご令嬢なのだ。
 とはいえご令嬢なので、今も見えない場所から護衛がついてきているだろう。
 見えないから分からないけど。

 お金持ちのご令嬢が通う学校というのは、お金もかかれば試験もある。
 わたしはお嬢さま学校から見事に滑り落ちた。
 ご令嬢の通う学校というのは、学力だけではなくて色んな所を見られちゃうし、周りは品もあれば家柄もよい令嬢ばかり。
 競争があれば負けてしまう程度の令嬢には、ご令嬢ルートは難しい。
 金の力でわたしをねじ込むというわけにもいかなかった。

 で仕方なく、かろうじて入れた公立の高校へ通ったってわけ。
 しかもわたしがご令嬢であることを隠してね。
 それはそれでわたしを自由にしてくれて、高校生活はとても楽しかった。
 今日は久しぶりに、その旧友たちと会うのだ。
 それはそれで楽しみだが、わたしには別の企みがあった。

 わたしは既に24歳。
 ちなみに恋人はいない。

 だが亡くなった祖父はわたしへ、25歳までに子どもを産まないと遺産は譲らん、というデタラメでメチャクチャな遺言書を残していったのだ。

 イマドキ25歳にこだわるとか、子どもが確実にできる前提とか、ツッコミどころは満載なのだが、祖父は実際にそんな遺言書を作ってしまった。
 
 百歩譲って遺言書を作るまでは許そう。
 だったら死ぬなよ、って話なのよ。
 でも大体、そういう無茶な遺言書を作ったら死ぬって相場は決まってんだよ、フザケンナ。

「25歳でもオッケーだから、じゃないってば、おじいさま。もう、本当にあり得ないっ」

 ぶつぶつ言いながら、わたしは先を急ぐ。
 わたしには企みがあるのだ。

 指定された会場には、既に友人たちの姿があった。

「あ、来た来た。雛子~」

 仲の良かった女子たちが、わたしに向かって手を振っている。

「こんばんは、ひさしぶりだね~。みんな元気そう」

 わたしが挨拶すると、仲の良かった子たちがワッと集まってきた。

「卒業式ぶりだよね? ふっふっふっ。雛子は、相変わらず無駄にスタイルいいね」
「ホントホント。小柄で細身なのに、お胸とお尻だけプリッとしてて可愛い~。えーい、撫でちゃえ」
「キャー止めてぇ~」
「よいではないか、よいではないか。雛子も満更でなさそうだし」

 女子同士できゃあきゃあ言いながらじゃれ合っていると、会いたかった人が来た。

「お、雛子。久しぶり。元気だったか?」
「黒岩くん……」

 声をかけられて振り返った先には懐かしい姿。
 わたしの心臓はトゥクンと跳ねる。
 
 ぼさぼさの黒髪にダサい黒ぶち眼鏡。
 スラリと背が高いが、少しだけ猫背。
 知的で面白いのにちょっと残念な男子。
 雛子にとっては、ただ1人の気になる男子がそこにいた。
 
「あー、私たちは邪魔だね」
「じゃ、雛子。あとでね」

 気を利かせた女子たちは、サッと離れていった。

 この夜。
 わたしは彼とラブホで一夜を共にすることに成功した。

 黒岩くん。
 好き。
 大好き。
 大好きだからこそ、わたしは逃げる。

 わたしはラブホの大きなベッドからモゾモゾと這い出して服を着た。
 そしてバッグから出した金色の長財布からピンピンの1万円札を3枚取り出し、サイドテーブルに置く。
 わたしは書き置き1つ残さずに、黒岩くんをホテルの部屋へと置き去りにしてやり逃げしたのだった――――
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