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第4話 浜田さん家の楽しい生活
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浜田家は大豪邸だ。
広い庭に大きな屋敷。
お兄さまの独立に合わせて大きな別館も建てたが、無駄に大きな本館と無駄に大きな廊下で繋がっている。
「おじちゃまは、お部屋にいるかなぁ~」
「そうねぇ、いるといいね」
わたしは睦月を伴い、お土産を届けるためにお兄さまの部屋を目指して歩いている。
我が家は無駄に広い。
わたしと睦月が使っているは、今は亡きおじいさまが引退後に使っていた別館だ。
その別館もそこそこ無駄に大きく、更に無駄に長い廊下で本館と繋がっている。
わたしたちの暮らす別館からいったん本館へと渡り、そこから更にお兄さまの住む別館を目指すのだ。
こんな生活をしているから、自宅から出なくても浜田家の面々は、運動不足知らず。
雨の日も、風の日も、台風が来ようと大雪が降ろうと家族はいつでも会えるのだ。
なんて便利。
わたしの息子である睦月はまだ5歳と幼いため、廊下を駆け回るだけでトレーニングになる。
そのせいか睦月は健やかだ。
「おかあさま~。はやく、はやくぅ~」
笑顔の睦月が大きな声を上げて、わたしに向かって大きく手を振って急かした。
幼児が大声を上げてはしゃぐ姿は、親からみれば可愛くて微笑ましい。
他人が聞けば迷惑になりそうな音量だが、浜田家は大豪邸だから問題なし。
それに睦月は、我が家のアイドルだ。
両親だけでなく、お兄さまとも関係は良好だから問題はない。
まだ独身のお兄さまは睦月をとても可愛がってくれているし、睦月のほうもとても懐いている。
「ふふ。そんなに急がなくても、お兄さまは逃げないよ」
わたしは廊下沿いに配された大きな窓から外を眺めた。
春の日差しに照らされた、桜の花は満開だ。
薄く曇ってはいるが晴れた空は青く、はらはらと散るピンク色が美しい。
睦月がわたしの横でピョンピョン跳ねながら、小さな口を開いて甘えたように言う。
「おかあさま~。ボク、ここでお茶したいな」
「ふふふ。睦月ったら」
わたしは幼い我が子の頭を撫でた。
「ふぉふぉふぉ。まるで小さな頃の雛子さまを見ているようですな」
背後から渋い声が響いた。
「諸星ってば、やめてよ」
わたしは振り返って、小さな頃から知っている執事に文句を言った。
浜田家の執事である諸星は、わたしの些細な苦情など慣れたものと笑顔で流し、口を開いた。
「ふふ。だって幼少時のお嬢さまは、本当にココで睦月さまと同じようなことを言ったのですよ」
短い白髪を後ろに流してぴっちり固めている銀縁眼鏡の老紳士は、懐かしそうに笑った。
背が高く、姿勢がよくて細マッチョな執事は、わたしが気付いたときには屋敷にいた。
黒の執事服に白の布手袋がよく似合う、生まれながらの執事のような男性だ。
諸星といえばアニメキャラか、アイドルか、あたるか和己で揉める両親とは違って、わたしにとっては執事一択だ。
そんな優秀な執事である諸星は、わたしに的確で鋭い指摘をぶつけてくる。
「浜田家に御子さまは睦月さまおひとりです。このままでは浜田家の膨大な財産を相続するのは、睦月さまだけになってしまいます」
「そうだね」
軽く受け流すわたしに、諸星の表情は一層険しくなった。
「『そうだね』ではございません。睦月さまお1人に背負わせるには、あまりにも重たいものがあるのではありませんか、お嬢さま?」
諸星は痛いところを突いてくる。
かなり痛い。
だがその痛みは、わたし1人に向けてよいものではないはずだ。
「その心配は跡取り息子であるお兄さまにぶつけてちょうだい、諸星」
わたしの返事に、諸星は顔をしかめた。
「研斗さまは、お仕事と結婚されているようなものですからね。研究熱心で商品を色々と作られていますので、そちらで満足されています。ですから結婚はもちろん御子さまとなると、かなり難しいのではないでしょうか」
お兄さまは頭がいい。
頭が良すぎてアレでナニなのだ。
わたしが平凡で欲望に忠実でよかった。
そうでなければ、浜田家は跡取りを得られなかった。
危ない、危ない。
「睦月がいるだけマシでしょ?」
「そうですが。睦月さまに万が一のことがあれば、浜田家の膨大な財産を巡って戦争が起きますよ」
「諸星ってば、大げさ」
わたしは眉をひそめた。
諸星が、心配げな表情を浮かべて睦月を見ながら言う。
「睦月さまお1人をどうにかすれば、浜田家の財産を手に入れられると手ぐすね引いている輩が数多くいますからね。心配です」
「だから神楽がいるでしょう?」
メイド服を着た細身で小柄な女性が、諸星の隣にズイッと進み出た。
長い黒い髪をキュッとまとめてお団子にして、白いヘッドドレスを付けている神楽は、いかにもといった風情のメイドの姿をしている。
だがその実は、睦月を護衛する戦闘メイドなのだ。
「はい、お嬢さま。睦月さまの護衛はお任せください」
「ええ。信頼しているわ、神楽」
わたしにとって神楽といえば、アニメキャラでも、神事芸能でもなく、戦闘メイドなのだ。
戦闘メイドという職業は、現代社会では求人を出しても見つからない。
神楽は、とっても貴重な人材なのである。
「ねぇねぇ、はやくいこうよぉ~。ボク、おじちゃまに早く会いたい」
「はいはい。お待たせ。早く行こうねぇ」
わたしは、『推しは推せるときに推せ』と書かれて黒の長袖Tシャツに推しの顔が背中にバーンとプリントされたフルジップアップパーカーを羽織り、推しカラーのロングスカートをはいている。
靴下とスリッパも推しカラーだ。
わたしは左腕にお兄さまへのお土産を抱え、右手は睦月とつないだ状態で、執事とメイドを従えてお兄さまの部屋を目指した。
広い庭に大きな屋敷。
お兄さまの独立に合わせて大きな別館も建てたが、無駄に大きな本館と無駄に大きな廊下で繋がっている。
「おじちゃまは、お部屋にいるかなぁ~」
「そうねぇ、いるといいね」
わたしは睦月を伴い、お土産を届けるためにお兄さまの部屋を目指して歩いている。
我が家は無駄に広い。
わたしと睦月が使っているは、今は亡きおじいさまが引退後に使っていた別館だ。
その別館もそこそこ無駄に大きく、更に無駄に長い廊下で本館と繋がっている。
わたしたちの暮らす別館からいったん本館へと渡り、そこから更にお兄さまの住む別館を目指すのだ。
こんな生活をしているから、自宅から出なくても浜田家の面々は、運動不足知らず。
雨の日も、風の日も、台風が来ようと大雪が降ろうと家族はいつでも会えるのだ。
なんて便利。
わたしの息子である睦月はまだ5歳と幼いため、廊下を駆け回るだけでトレーニングになる。
そのせいか睦月は健やかだ。
「おかあさま~。はやく、はやくぅ~」
笑顔の睦月が大きな声を上げて、わたしに向かって大きく手を振って急かした。
幼児が大声を上げてはしゃぐ姿は、親からみれば可愛くて微笑ましい。
他人が聞けば迷惑になりそうな音量だが、浜田家は大豪邸だから問題なし。
それに睦月は、我が家のアイドルだ。
両親だけでなく、お兄さまとも関係は良好だから問題はない。
まだ独身のお兄さまは睦月をとても可愛がってくれているし、睦月のほうもとても懐いている。
「ふふ。そんなに急がなくても、お兄さまは逃げないよ」
わたしは廊下沿いに配された大きな窓から外を眺めた。
春の日差しに照らされた、桜の花は満開だ。
薄く曇ってはいるが晴れた空は青く、はらはらと散るピンク色が美しい。
睦月がわたしの横でピョンピョン跳ねながら、小さな口を開いて甘えたように言う。
「おかあさま~。ボク、ここでお茶したいな」
「ふふふ。睦月ったら」
わたしは幼い我が子の頭を撫でた。
「ふぉふぉふぉ。まるで小さな頃の雛子さまを見ているようですな」
背後から渋い声が響いた。
「諸星ってば、やめてよ」
わたしは振り返って、小さな頃から知っている執事に文句を言った。
浜田家の執事である諸星は、わたしの些細な苦情など慣れたものと笑顔で流し、口を開いた。
「ふふ。だって幼少時のお嬢さまは、本当にココで睦月さまと同じようなことを言ったのですよ」
短い白髪を後ろに流してぴっちり固めている銀縁眼鏡の老紳士は、懐かしそうに笑った。
背が高く、姿勢がよくて細マッチョな執事は、わたしが気付いたときには屋敷にいた。
黒の執事服に白の布手袋がよく似合う、生まれながらの執事のような男性だ。
諸星といえばアニメキャラか、アイドルか、あたるか和己で揉める両親とは違って、わたしにとっては執事一択だ。
そんな優秀な執事である諸星は、わたしに的確で鋭い指摘をぶつけてくる。
「浜田家に御子さまは睦月さまおひとりです。このままでは浜田家の膨大な財産を相続するのは、睦月さまだけになってしまいます」
「そうだね」
軽く受け流すわたしに、諸星の表情は一層険しくなった。
「『そうだね』ではございません。睦月さまお1人に背負わせるには、あまりにも重たいものがあるのではありませんか、お嬢さま?」
諸星は痛いところを突いてくる。
かなり痛い。
だがその痛みは、わたし1人に向けてよいものではないはずだ。
「その心配は跡取り息子であるお兄さまにぶつけてちょうだい、諸星」
わたしの返事に、諸星は顔をしかめた。
「研斗さまは、お仕事と結婚されているようなものですからね。研究熱心で商品を色々と作られていますので、そちらで満足されています。ですから結婚はもちろん御子さまとなると、かなり難しいのではないでしょうか」
お兄さまは頭がいい。
頭が良すぎてアレでナニなのだ。
わたしが平凡で欲望に忠実でよかった。
そうでなければ、浜田家は跡取りを得られなかった。
危ない、危ない。
「睦月がいるだけマシでしょ?」
「そうですが。睦月さまに万が一のことがあれば、浜田家の膨大な財産を巡って戦争が起きますよ」
「諸星ってば、大げさ」
わたしは眉をひそめた。
諸星が、心配げな表情を浮かべて睦月を見ながら言う。
「睦月さまお1人をどうにかすれば、浜田家の財産を手に入れられると手ぐすね引いている輩が数多くいますからね。心配です」
「だから神楽がいるでしょう?」
メイド服を着た細身で小柄な女性が、諸星の隣にズイッと進み出た。
長い黒い髪をキュッとまとめてお団子にして、白いヘッドドレスを付けている神楽は、いかにもといった風情のメイドの姿をしている。
だがその実は、睦月を護衛する戦闘メイドなのだ。
「はい、お嬢さま。睦月さまの護衛はお任せください」
「ええ。信頼しているわ、神楽」
わたしにとって神楽といえば、アニメキャラでも、神事芸能でもなく、戦闘メイドなのだ。
戦闘メイドという職業は、現代社会では求人を出しても見つからない。
神楽は、とっても貴重な人材なのである。
「ねぇねぇ、はやくいこうよぉ~。ボク、おじちゃまに早く会いたい」
「はいはい。お待たせ。早く行こうねぇ」
わたしは、『推しは推せるときに推せ』と書かれて黒の長袖Tシャツに推しの顔が背中にバーンとプリントされたフルジップアップパーカーを羽織り、推しカラーのロングスカートをはいている。
靴下とスリッパも推しカラーだ。
わたしは左腕にお兄さまへのお土産を抱え、右手は睦月とつないだ状態で、執事とメイドを従えてお兄さまの部屋を目指した。
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