クズ可愛いやり捨て令嬢は執着の探偵に愛される

天田れおぽん

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第5話 お兄さまはシスコンで甥っ子ラブ

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 睦月はわたしの前をトテトテと走るように歩く。

 正直、かなり可愛い。

「おじちゃまー! 来たよー!」
 
 わたしが見守る前で、扉の前で立ち止まった睦月がカメラを見上げて叫んだ。

 我が家の家族は別々の棟で暮らしているが、廊下で繋がっているので気軽に訪問できるし、雨の日でも濡れることなく行き来ができる。
 お兄さまの家は、本館を挟んでわたしの住む別館の反対側にあるので、睦月は家の中にいても運動不足とは無縁だ。

 警備がそれなりに厳重な家なのだが、渡り廊下からだとお兄さまの家へ簡単に入ることができる。

 分厚い入口の扉は、カメラが睦月の姿を確認すると音もなくスーッと開いた。
 警備システムの開発はお兄さまの趣味だ。
 自動で睦月を認識できるようにシステムを作っているのか、お兄さまが直接確認しているのか分からないが、とにかく睦月の姿を確認すると扉はすぐに開く。

 危なくないか?

 わたしは、ちょっとだけそう思った。
 でもお兄さまの側にも戦闘メイドはついている。
 それを考えると単純なわたしは『ま、いいか』となるのだ。
 
「おじちゃまー!」

 睦月が叫びながらお兄さまの家へと駆けこんでいく。
 
「こらこら睦月。家の中で走ると危ないよ」

 わたしがちょっとだけ母親らしいことを言うと、諸星と神楽がフフフと笑った。

 解せぬ。

 わたしは眉をしかめながら睦月の後を追う。
 別館に入って更に奥の部屋の扉を開けると、お兄さまが大きな机の前に座っているのが見えた。
 乱雑に書類が散らばる机の前に座っているお兄さまは、整った顔にサラサラの黒髪の美形だ。

 解せぬ。

 わたしとは違って、お兄さまは見るからにシュッとした美形である。
 兄妹なのに、作画が違いすぎないか?
 何回見ても、神さまの気まぐれを感じる瞬間だ。

 お兄さまは、優しい笑みを浮かべてわたしたちを迎え入れた。

「やぁ、よく来たね。今日もご機嫌だね、睦月」
「うん。だっておじちゃまと会えたもん」

 無邪気に言う睦月に、お兄さまの鼻の下が分かりやすく伸びた。
 椅子から立ち上がったお兄さまは、スラリとしていて身長も高い。
 長袖の黒いカットソーを羽織り、長い脚にはカジュアルなグレーのパンツを履いている。
 
 それはいいが、上に羽織っているカットソーの胸元に、睦月の大きな顔がプリントしてあるのはいかがなものか。

 本人よりもデカい顔だ。
 印刷の状態はいいが、デカすぎないかお兄さま。
 睦月の顔の下には【愛し子】とか書いてあるぞ。
 お兄さまは神か?
 
「ふふふ。ボクだー」

 睦月はニコニコしながら自分の顔が印刷されているカットソーを小さな手を広げてペタペタ触っている。
 睦月には好評なようだ。
 
 お兄さまの睦月への愛はデカすぎる。

「そう睦月だよ。ちなみに背中は睦月のお母さま、雛子の顔でーす」

 お兄さまは体をひょいとひねって背中を見せた。

「わー、お母さまだー。大きいー」

 睦月の言う通り、わたしの顔が大きく印刷されていた。
 
 お兄さまの愛が重い。
 そして恥ずかしい。

 諸星と神楽がクスクス笑っている気配がする。

「もう、お兄さまってば。ヤメテ」
「えー、無理~」

 お兄さまはシスコンだ。
 甥っ子ラブのシスコン。

 私が睨んでもヘラヘラと笑っているお兄さまの背後には、メイド服に身を包んだ大和がデーンと立っていた。

 大和はお兄さま付きの戦闘メイドで、ゴリマッチョな男性だ。
 その立派な体を黒のワンピースと白いエプロンで包み、短い黒髪の上に白のヘッドドレスを付けている。

 お兄さまいわく、ゴリマッチョ男性の迫力を軽減するためにメイド服を着せている、ということだが。
 別の怖さが添付されてしまっているような気がする。
 もう慣れたけど。

「大和~。おじちゃまの頭なでなでしたいから抱っこして」
「はい、睦月さま」

 睦月はすっかり慣れていて、メイド服姿のマッチョ男性に抱っこを要求している。
 いいのか、それで。
 情操教育に支障が生じているような気がするが、我が家では突っ込みを入れる役がわたししかいない。
 力不足で済まない、睦月。
 将来に支障が生じても責任はとれない。
 そこは金で勘弁してくれ。

 わたしはおじいさまから25億相続したが、両親からはもっと大きな額を相続する予定になっている。
 だからお金のことでお兄さまと揉めるようなことはない。
 そもそもお兄さまは、自らの発明で莫大な金額を稼ぎ出す天才なのだ。
 わたしがお兄さまの遺産を期待することはあっても、その逆はない。
 
 そのお金は最終的に唯一の相続人である睦月へと流れる予定だ。

 わたしは、メイド服姿のゴリマッチョ男性に抱っこされて、お兄さまのサラサラヘアを撫でている睦月を、複雑な心境で眺めていた。
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