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8 未遂
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遠くで人の話し声が聞こえ、私はゆっくりと瞼を開いた。窓からまばゆい朝日が差し込む室内には、優美な猫脚の三面鏡ドレッサーや大理石造りの暖炉が並んでいる。寝起きで、ぼんやりとした視界の輪郭がはっきりとしてくると、自分が寝ているのが透かし彫りの意匠が施された天蓋付きのベッドであるということを理解する。
しかし、ぬくぬくとしたベッドから出たくないのと現実逃避したい気持ちが相まって、私は再び瞼を閉じ二度寝することに決めた。昨晩、グラウクスさんという銀縁眼鏡をかけた長髪の男性が「詳しい話は明日」と言っていたし、時間になれば隣室で控えているという侍女ロゼッタが起こしに来てくれるに違いない。
まどろみながら、そんなことを考えていると隣室に通じるドアが開かれる音が室内に響く。そして、私が眠っているベッドに誰かが近づいてくる靴音が聞こえた。きっとロゼッタが起こしに来たに違いない。そう思ったがロゼッタは何故か私に声をかけない。
靴音の感じと気配から私が眠ってる真横に来たのは間違いないのに……。不審に思い、うっすらと瞼を開けると眼前に目を閉じてタコにように唇をとがらせながら、今まさに私にキスしようとしてる赤髪の騎士ヴィットリオさんの顔があった。
「キャアアアア!」
「マリナ様?」
「どうした!? ヴィットリオ……? まさか!?」
私の悲鳴を聞いたロゼッタとアルベルトさんが何事かとに客室のドアを開け、こちらを見るなり即座に状況を把握してくれた。銀髪の騎士アルベルトさんは大股でこちらに近づくなり、無言でヴィットリオさんの首根っこを掴んでベッドから引きはがした。
「ぐえっ」
「ヴィットリオ! 貴様と言う奴は! いつもは口だけだと思って見逃してきたが、まさか女性の寝込みを襲うとは!」
「ぐえええええっ! 誤解だぁ!」
「何が誤解だ!? 騎士として恥を知れっ! むしろ、今すぐ死んで詫びろ!」
激怒しているアルベルトさんに赤髪の騎士が首を絞められてる間に、プラチナブロンドの侍女ロゼッタが私の所に駆け寄って来た。
「マリナ様、大丈夫ですか!? ヴィットリオ様に無体を強いられたのですか!?」
「い、いえ……。起きたらキスされる直前だったから驚いただけで……。具体的には何もされてない、はず」
ロゼッタに上半身を起こされ、上掛けをかけられながら私は自分の着衣に乱れがないことを確認した。何もされてないと確信し、ホッと安堵して二人の騎士がいる方に視線を向けるとアルベルトさんに首を絞められた赤髪の騎士は白目をむいていた。
「お兄様!? それ以上はヴィットリオ様が危ないです!」
「アルベルトさん! 私、何もされてませんでしたから! もういいです! そのままだと死んじゃいますから、ヴィットリオさんの首絞めるのやめて下さい!」
「未遂だったか……」
銀髪の騎士が両手で圧迫していたヴィットリオさんの首筋から手を外せば、赤髪の騎士はグシャリと床に崩れ落ちた。
「だ、大丈夫ですか?」
「死なない程度に加減した。心配ない」
「そうですか……」
目の前で殺人事件が起こらなくて良かったと胸をなで下ろした時、よだれを垂らしてピクピクと痙攣していた赤髪の騎士ヴィットリオさんが目を見開き覚醒した。
「あ、危ねぇ! 死んだバアちゃんが、天国の花畑で手を振ってるのが見えたぜ!」
「そうか……。逝けばよかったのに」
「逝ってたまるか! 俺はまだ何もしてないんだよ!」
「何かしようとしてたんだろう? 下劣な性犯罪者め……!」
「違うっ! 俺はただ、ベッドで美女が眠っていたから爽やかな目覚めの口づけをしようとしただけだ!」
「……ギルティだな」
赤髪の騎士による申し開きを聞いたアルベルトさんは腰に帯びていた自身の長剣に手をかけ、スラリと引き抜いてヴィットリオさんの喉元に鋭い剣先を突きつけた。
「なんでだよ!? 具体的にはやってないって!」
「うるさいっ!」
「もう! うるさいのはどっちですか!? 二人とも出て行って下さい! ここは客室ですよ!?」
それまで大人しかったロゼッタが激怒したことに、呆気にとられた二人の騎士はそのまま客室の外に追い出された。
しかし、ぬくぬくとしたベッドから出たくないのと現実逃避したい気持ちが相まって、私は再び瞼を閉じ二度寝することに決めた。昨晩、グラウクスさんという銀縁眼鏡をかけた長髪の男性が「詳しい話は明日」と言っていたし、時間になれば隣室で控えているという侍女ロゼッタが起こしに来てくれるに違いない。
まどろみながら、そんなことを考えていると隣室に通じるドアが開かれる音が室内に響く。そして、私が眠っているベッドに誰かが近づいてくる靴音が聞こえた。きっとロゼッタが起こしに来たに違いない。そう思ったがロゼッタは何故か私に声をかけない。
靴音の感じと気配から私が眠ってる真横に来たのは間違いないのに……。不審に思い、うっすらと瞼を開けると眼前に目を閉じてタコにように唇をとがらせながら、今まさに私にキスしようとしてる赤髪の騎士ヴィットリオさんの顔があった。
「キャアアアア!」
「マリナ様?」
「どうした!? ヴィットリオ……? まさか!?」
私の悲鳴を聞いたロゼッタとアルベルトさんが何事かとに客室のドアを開け、こちらを見るなり即座に状況を把握してくれた。銀髪の騎士アルベルトさんは大股でこちらに近づくなり、無言でヴィットリオさんの首根っこを掴んでベッドから引きはがした。
「ぐえっ」
「ヴィットリオ! 貴様と言う奴は! いつもは口だけだと思って見逃してきたが、まさか女性の寝込みを襲うとは!」
「ぐえええええっ! 誤解だぁ!」
「何が誤解だ!? 騎士として恥を知れっ! むしろ、今すぐ死んで詫びろ!」
激怒しているアルベルトさんに赤髪の騎士が首を絞められてる間に、プラチナブロンドの侍女ロゼッタが私の所に駆け寄って来た。
「マリナ様、大丈夫ですか!? ヴィットリオ様に無体を強いられたのですか!?」
「い、いえ……。起きたらキスされる直前だったから驚いただけで……。具体的には何もされてない、はず」
ロゼッタに上半身を起こされ、上掛けをかけられながら私は自分の着衣に乱れがないことを確認した。何もされてないと確信し、ホッと安堵して二人の騎士がいる方に視線を向けるとアルベルトさんに首を絞められた赤髪の騎士は白目をむいていた。
「お兄様!? それ以上はヴィットリオ様が危ないです!」
「アルベルトさん! 私、何もされてませんでしたから! もういいです! そのままだと死んじゃいますから、ヴィットリオさんの首絞めるのやめて下さい!」
「未遂だったか……」
銀髪の騎士が両手で圧迫していたヴィットリオさんの首筋から手を外せば、赤髪の騎士はグシャリと床に崩れ落ちた。
「だ、大丈夫ですか?」
「死なない程度に加減した。心配ない」
「そうですか……」
目の前で殺人事件が起こらなくて良かったと胸をなで下ろした時、よだれを垂らしてピクピクと痙攣していた赤髪の騎士ヴィットリオさんが目を見開き覚醒した。
「あ、危ねぇ! 死んだバアちゃんが、天国の花畑で手を振ってるのが見えたぜ!」
「そうか……。逝けばよかったのに」
「逝ってたまるか! 俺はまだ何もしてないんだよ!」
「何かしようとしてたんだろう? 下劣な性犯罪者め……!」
「違うっ! 俺はただ、ベッドで美女が眠っていたから爽やかな目覚めの口づけをしようとしただけだ!」
「……ギルティだな」
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「なんでだよ!? 具体的にはやってないって!」
「うるさいっ!」
「もう! うるさいのはどっちですか!? 二人とも出て行って下さい! ここは客室ですよ!?」
それまで大人しかったロゼッタが激怒したことに、呆気にとられた二人の騎士はそのまま客室の外に追い出された。
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