7 / 61
7 客室
しおりを挟む
そんな話をしていると先頭を歩いていたプラチナブロンドの侍女、ロゼッタが茶褐色のドア前で立ち止まった。
「こちらが客室です。どうぞお入り下さい」
ロゼッタが扉を開けて中に入るよう促してくれたので、軽い会釈をして客室内に入ると磨き抜かれた寄木細工の床上には天蓋付きベッド。
そして壁際には優美な猫脚の三面鏡ドレッサーなど調度品や大理石造りの暖炉。その前には象嵌細工の意匠が施されたローテーブルに布張りのソファが置かれ、上を見あげると小振りながら美しいクリスタルガラスのシャンデリアが天井から吊されていた。
「うわぁ」
「今すぐ、ご用意できるのはこちらの客室なのですが……。手狭でご不便でしたら女官長に相談して、もっと広い客室をご用意いたしますが如何でしょうか?」
「いえ、じゅうぶんです……」
「この箱はここに置いておけば良いか?」
「はい、運んで頂けて助かりました。ありがとうございます。アルベルトさん」
私の返答を受けて銀髪の騎士はローテーブルの上に茶色いダンボール箱を置いてくれた。一方、キョロキョロと客室内を見ていた赤髪の騎士は、私と視線が合うと爽やかな笑顔を浮かべた。
「マリナちゃん。見知らぬ地で独り寝が寂しいなら、俺が朝まで一緒に寝てやるから遠慮なく……」
「ヴィットリオ! 用は済んだんだから、さっさと帰るぞ!」
「ぐえっ! は、離せ! アルベルト! 俺は異国の地で一人、心許ないマリナちゃんの心をベッドでなぐさめるんだッ!」
「寝言は、寝てから言え!」
駄々をこねる赤髪の騎士ヴィットリオは、銀髪の騎士アルベルトが首根っこを掴んでズルズルと引きずって強制的に客室から出された。その様子を見ていたプラチナブロンドの侍女ロゼッタは水宝玉色の瞳を細める。
「アルベルト兄さん、おやすみなさい。ヴィットリオ様も」
「ああ」
「ロゼッタちゃん! マリナちゃん! 寂しくなったら、いつでも俺の寝室に来てくれ!」
「貴様、マジでぶっ殺すぞ!」
「ぐぇぇ!」
地を這うような低音のつぶやきを発したアルベルトさんが怒りにまかせて、ヴィットリオさんの首根っこを強くひっぱったことで、赤髪の騎士が断末魔のようなうめき声を出してる途中で客室のドアは閉められた。
「聖女様、申し訳ございません。騒がしくて……」
「いえ、ロゼッタのせいじゃないし……。あと『聖女』って呼ぶのはちょっと……。私、本当にそんなのじゃないから」
「では『マリナ様』とお呼びしますね」
「う、うーん。様付けされるような身分でもないんだけど」
「マリナ様は第一王子、デュルク殿下のお客様ですから」
「あー。まぁ、ロゼッタの立場的にはそう呼ばざるをえないか……。でも、本当に私そういうのじゃないし多分、手違いでここにいると思うから、あんまり気を使わないでね」
「お気遣いありがとうございます」
「それより、さっき『兄さん』って言ってたけど……。もしかしてアルベルトさんはロゼッタのお兄さん?」
「はい。そうです」
プラチナブロンドの侍女は屈託のない微笑みで頷いてくれたが、私は顔が引きつった。
「ヴィットリオさんは妹の前であんな話を……」
「あの方は、いつもあんな感じですから。私は慣れておりますので」
「そうなんだ……」
やはり日常的に童貞ネタを連発しているせいで、妹さんが平然とするまで耐性がついてしまったのか……。遠い目をしているとプラチナブロンドの侍女は苦笑した。
「私に対してはアルベルト兄さんがきつくクギを刺してくれたので、あからさまに口説くようなことは減ったんですが……。あの方は女性に対して、いつもああですから。マリナ様も適当に流しておいて下さいね」
「うん、そうね。そうするわ」
「あと客室の隣に控えの部屋があります。私は今日からそこに控えてマリナ様のお世話をさせて頂きますので、ご用の時はいつでも遠慮なく、お声をかけて下さいませ」
こうしてロゼッタが身の回りの世話をしてくれて、夕食には白磁器の皿に盛られた真っ赤なトマトと新鮮な葉野菜にオリーブオイルがかけられたサラダ。肉や野菜を長時間、煮込んで作られた香り高い黄金色のブイヨンスープ。
薄切りされた数種類のチーズとハムの盛り合わせ、そして芳ばしいキツネ色に焼かれたパン。メインに香草と共にこんがり焼かれた鶏肉という美味しい食事を頂き、浴室で汗を流した後は用意して貰った薄布の白い夜着に着替え、天蓋付きのベッドに入った。
「ごはんは美味しかったし、ロゼッタは何かと気を配ってくれて不自由はないけど……。それにしても周囲の人は皆、獣耳だし。やっぱり異世界なのか……。目が覚めたら、元の世界に戻ってたら良いんだけど……」
そんなことを考えながら瞼を閉じると昼間、祖父の遺品を整理して肉体的に疲れていた上に突然、見たこともない場所に来て精神的にも疲れていたのだろう。私は夢も見ないような深い眠りについた。
「こちらが客室です。どうぞお入り下さい」
ロゼッタが扉を開けて中に入るよう促してくれたので、軽い会釈をして客室内に入ると磨き抜かれた寄木細工の床上には天蓋付きベッド。
そして壁際には優美な猫脚の三面鏡ドレッサーなど調度品や大理石造りの暖炉。その前には象嵌細工の意匠が施されたローテーブルに布張りのソファが置かれ、上を見あげると小振りながら美しいクリスタルガラスのシャンデリアが天井から吊されていた。
「うわぁ」
「今すぐ、ご用意できるのはこちらの客室なのですが……。手狭でご不便でしたら女官長に相談して、もっと広い客室をご用意いたしますが如何でしょうか?」
「いえ、じゅうぶんです……」
「この箱はここに置いておけば良いか?」
「はい、運んで頂けて助かりました。ありがとうございます。アルベルトさん」
私の返答を受けて銀髪の騎士はローテーブルの上に茶色いダンボール箱を置いてくれた。一方、キョロキョロと客室内を見ていた赤髪の騎士は、私と視線が合うと爽やかな笑顔を浮かべた。
「マリナちゃん。見知らぬ地で独り寝が寂しいなら、俺が朝まで一緒に寝てやるから遠慮なく……」
「ヴィットリオ! 用は済んだんだから、さっさと帰るぞ!」
「ぐえっ! は、離せ! アルベルト! 俺は異国の地で一人、心許ないマリナちゃんの心をベッドでなぐさめるんだッ!」
「寝言は、寝てから言え!」
駄々をこねる赤髪の騎士ヴィットリオは、銀髪の騎士アルベルトが首根っこを掴んでズルズルと引きずって強制的に客室から出された。その様子を見ていたプラチナブロンドの侍女ロゼッタは水宝玉色の瞳を細める。
「アルベルト兄さん、おやすみなさい。ヴィットリオ様も」
「ああ」
「ロゼッタちゃん! マリナちゃん! 寂しくなったら、いつでも俺の寝室に来てくれ!」
「貴様、マジでぶっ殺すぞ!」
「ぐぇぇ!」
地を這うような低音のつぶやきを発したアルベルトさんが怒りにまかせて、ヴィットリオさんの首根っこを強くひっぱったことで、赤髪の騎士が断末魔のようなうめき声を出してる途中で客室のドアは閉められた。
「聖女様、申し訳ございません。騒がしくて……」
「いえ、ロゼッタのせいじゃないし……。あと『聖女』って呼ぶのはちょっと……。私、本当にそんなのじゃないから」
「では『マリナ様』とお呼びしますね」
「う、うーん。様付けされるような身分でもないんだけど」
「マリナ様は第一王子、デュルク殿下のお客様ですから」
「あー。まぁ、ロゼッタの立場的にはそう呼ばざるをえないか……。でも、本当に私そういうのじゃないし多分、手違いでここにいると思うから、あんまり気を使わないでね」
「お気遣いありがとうございます」
「それより、さっき『兄さん』って言ってたけど……。もしかしてアルベルトさんはロゼッタのお兄さん?」
「はい。そうです」
プラチナブロンドの侍女は屈託のない微笑みで頷いてくれたが、私は顔が引きつった。
「ヴィットリオさんは妹の前であんな話を……」
「あの方は、いつもあんな感じですから。私は慣れておりますので」
「そうなんだ……」
やはり日常的に童貞ネタを連発しているせいで、妹さんが平然とするまで耐性がついてしまったのか……。遠い目をしているとプラチナブロンドの侍女は苦笑した。
「私に対してはアルベルト兄さんがきつくクギを刺してくれたので、あからさまに口説くようなことは減ったんですが……。あの方は女性に対して、いつもああですから。マリナ様も適当に流しておいて下さいね」
「うん、そうね。そうするわ」
「あと客室の隣に控えの部屋があります。私は今日からそこに控えてマリナ様のお世話をさせて頂きますので、ご用の時はいつでも遠慮なく、お声をかけて下さいませ」
こうしてロゼッタが身の回りの世話をしてくれて、夕食には白磁器の皿に盛られた真っ赤なトマトと新鮮な葉野菜にオリーブオイルがかけられたサラダ。肉や野菜を長時間、煮込んで作られた香り高い黄金色のブイヨンスープ。
薄切りされた数種類のチーズとハムの盛り合わせ、そして芳ばしいキツネ色に焼かれたパン。メインに香草と共にこんがり焼かれた鶏肉という美味しい食事を頂き、浴室で汗を流した後は用意して貰った薄布の白い夜着に着替え、天蓋付きのベッドに入った。
「ごはんは美味しかったし、ロゼッタは何かと気を配ってくれて不自由はないけど……。それにしても周囲の人は皆、獣耳だし。やっぱり異世界なのか……。目が覚めたら、元の世界に戻ってたら良いんだけど……」
そんなことを考えながら瞼を閉じると昼間、祖父の遺品を整理して肉体的に疲れていた上に突然、見たこともない場所に来て精神的にも疲れていたのだろう。私は夢も見ないような深い眠りについた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
乙女ゲームの世界に転移したら、推しではない王子に溺愛されています
砂月美乃
恋愛
繭(まゆ)、26歳。気がついたら、乙女ゲームのヒロイン、フェリシア(17歳)になっていた。そして横には、超絶イケメン王子のリュシアンが……。推しでもないリュシアンに、ひょんなことからベタベタにに溺愛されまくることになるお話です。
「ヒミツの恋愛遊戯」シリーズその①、リュシアン編です。
ムーンライトノベルズさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる