45 / 61
45 懸念
しおりを挟む
魔法の練習を始めて早、数日。すぐに出来るだろうと思われていたロウソクに火をつけるという初歩魔法すらできない私は今日も魔術の練習部屋でロウソクに向き合いながら、ひたすら自分の手に魔力を集中させていた。
「くっ、ううう……!」
「マリナさん。もう少しですよ! 頑張って下さい!」
「うう……! だ、駄目です」
私が力尽きて息を吐きだすと同時に魔力の光を帯びていた手は普通の状態に戻り、今度こそは成功するんじゃないかと思いながら見守っていた長髪の魔術師グラウクスさんも落胆の色を隠せない。
「おかしいですね。手に魔力を集中させるところまでは出来るのに、肝心の魔法が発動しないなんて。普通はありえないのですが……」
長髪の魔術師は自身の黒縁眼鏡を手でクイと上げながらそう告げた。自ら魔法の指導をしているというのに私が一向に初歩魔法を発動する気配すらないことから困惑気味だが、私だって魔法を使いたいと思って教えてもらった通りにやっているのに出来ないのだから、こればかりは仕方ない。私が肩を落としながらしょぼくれていると黒縁眼鏡の魔術師は溜息を吐いた。
「マリナさんは、魔法を発動するにあたって『迷い』があるのかも知れませんね」
「迷い?」
「ええ。迷いがある内は簡単な初歩魔法とは言え、発動することはできません。なにか懸念があるのではないですか?」
「懸念は……。あります」
「それは何ですか?」
黒縁眼鏡ごしに真っすぐ見つめられた私は、今までのことを思い出しながら自分の手を握りしめた。
「この城に召喚された時、第一王子は私が『聖女として役に立てば、妃にしてやる』と言っていました。私が魔法を使えるようになるということは、聖女として役に立つことの第一歩なのではないですか?」
「マリナさん……」
「かといって魔法が使えなければ第一王子の機嫌を損ねて、元の世界に帰れなくなる可能性があるんですよね?」
「ええ。異世界召喚を行うための禁書が第一王子の手中にありますから。あれがなければマリナさんが元の世界に帰ることはできないでしょう」
「私に迷いがあるとすれば、それです。魔法を使えるようになれば元の世界に帰れなくなるかもしれない。かといって魔法が使えないままでも、元の世界に帰れないかも知れないという不安や迷いを抱えています」
「そういうことでしたか……。分かりました。私の方から改めて第一王子、ディルク殿下にマリナさんの事情を説明いたします」
「大丈夫でしょうか? 第一王子の機嫌を損ねたりは?」
「肝心の魔法発動に関することですし、異世界召喚された者が元の世界に戻りたいと思うのは当然のことです。マリナさんが元の世界に戻りたいのだと分かれば、第一王子とは言え無理強いは出来ないでしょう」
「そうだといいんですが……」
「くっ、ううう……!」
「マリナさん。もう少しですよ! 頑張って下さい!」
「うう……! だ、駄目です」
私が力尽きて息を吐きだすと同時に魔力の光を帯びていた手は普通の状態に戻り、今度こそは成功するんじゃないかと思いながら見守っていた長髪の魔術師グラウクスさんも落胆の色を隠せない。
「おかしいですね。手に魔力を集中させるところまでは出来るのに、肝心の魔法が発動しないなんて。普通はありえないのですが……」
長髪の魔術師は自身の黒縁眼鏡を手でクイと上げながらそう告げた。自ら魔法の指導をしているというのに私が一向に初歩魔法を発動する気配すらないことから困惑気味だが、私だって魔法を使いたいと思って教えてもらった通りにやっているのに出来ないのだから、こればかりは仕方ない。私が肩を落としながらしょぼくれていると黒縁眼鏡の魔術師は溜息を吐いた。
「マリナさんは、魔法を発動するにあたって『迷い』があるのかも知れませんね」
「迷い?」
「ええ。迷いがある内は簡単な初歩魔法とは言え、発動することはできません。なにか懸念があるのではないですか?」
「懸念は……。あります」
「それは何ですか?」
黒縁眼鏡ごしに真っすぐ見つめられた私は、今までのことを思い出しながら自分の手を握りしめた。
「この城に召喚された時、第一王子は私が『聖女として役に立てば、妃にしてやる』と言っていました。私が魔法を使えるようになるということは、聖女として役に立つことの第一歩なのではないですか?」
「マリナさん……」
「かといって魔法が使えなければ第一王子の機嫌を損ねて、元の世界に帰れなくなる可能性があるんですよね?」
「ええ。異世界召喚を行うための禁書が第一王子の手中にありますから。あれがなければマリナさんが元の世界に帰ることはできないでしょう」
「私に迷いがあるとすれば、それです。魔法を使えるようになれば元の世界に帰れなくなるかもしれない。かといって魔法が使えないままでも、元の世界に帰れないかも知れないという不安や迷いを抱えています」
「そういうことでしたか……。分かりました。私の方から改めて第一王子、ディルク殿下にマリナさんの事情を説明いたします」
「大丈夫でしょうか? 第一王子の機嫌を損ねたりは?」
「肝心の魔法発動に関することですし、異世界召喚された者が元の世界に戻りたいと思うのは当然のことです。マリナさんが元の世界に戻りたいのだと分かれば、第一王子とは言え無理強いは出来ないでしょう」
「そうだといいんですが……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
乙女ゲームの世界に転移したら、推しではない王子に溺愛されています
砂月美乃
恋愛
繭(まゆ)、26歳。気がついたら、乙女ゲームのヒロイン、フェリシア(17歳)になっていた。そして横には、超絶イケメン王子のリュシアンが……。推しでもないリュシアンに、ひょんなことからベタベタにに溺愛されまくることになるお話です。
「ヒミツの恋愛遊戯」シリーズその①、リュシアン編です。
ムーンライトノベルズさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる