47 / 61
47 セカンドオピニオン
しおりを挟む
「こ、国王陛下ですか?」
「説明は陛下の寝所に向かいながらします。マリナ先生、お急ぎください」
「あっ、はい」
白髪の医女に促され、私は黒髪の女官長や医女ルチアさんに先導され客室を出た。プラチナブロンドの侍女ロゼッタも慌てて後からついてくる。その姿を横目に通路を歩きながら、白髪の医女は口を開いた。
「まず、国王陛下の病状について説明します。陛下は右の脇腹に腫れがあり、違和感を訴えていました」
「右わき腹に腫れ……」
「そこで宮廷医師たちは腹部の腫れを治癒させるために、回復魔法をかけたのです」
白髪の医女が告げた後、黒髪の女官長が眉をひそめた。
「しかし、その回復魔法をかけた直後に容体が悪化し、陛下は昏睡状態に陥りました」
「そして先ほど目が覚めたと……」
「そうです」
医女と女官長の説明を聞いて私は思考する。右わき腹と言えば、人間なら肝臓の影響が出るケースがある部位だ。そして、肝臓に腹水がたまったり腫れたりしているということは短期的に腫れるよりも、長期的にじわじわと症状が続き慢性的な状態になっている場合が多い。
人間なら長期間、アルコールを摂取し続けることによって肝機能が徐々に弱る。そして最終的に飲酒が原因の肝硬変になった結果、腹水が腹部にたまるという可能性が真っ先に考えられるが、これが獣人に当てはまるのか現段階では分からない。
「状況は分かりました。ですが、私が同席して良いのでしょうか?」
「マリナ先生は例によって、医女である私の『助手見習い』ということにしておけば立ち会うことに関しては問題ないでしょう。本来なら国王陛下の治療に関しては、陛下の侍医が行っているので、医女である私も範疇外なのです」
「そうなんですか!?」
驚いて聞き返せば、思慮深そうな白髪の医女はゆっくりと頷いた。
「ええ。宮廷における医女の主な役割は産婆として出産の手助けをすること。そして女性特有の病気や性病に関する検査などが主で、国王陛下に呼ばれることはまずありません」
「でも、今回は国王陛下に呼ばれているんですよね?」
「ええ。どうやら前回、侍医たちの判断で回復魔法をかけた直後に容体が急変し、悪化したことから侍医だけでなく医療に携わる者や識者からも、広く意見を聞きたいようです」
「なるほど……」
確かに前回の治療で容態が急変して長い間、昏睡状態だったのなら侍医の説明や判断に従うのは怖いだろう。セカンドオピニオンによって患者が納得できるように最初とは違う医師に診察してもらったり、自分が納得できる説明をしてくれる医師を求めるというのは自然な心理だ。
「マリナ先生は侍女ロゼッタがユリ毒を摂取した際、強制的に毒を排出させる『胃洗浄』でロゼッタの命を救いました。私は医女として、それなりに医療知識を深めてきたつもりでしたが『胃洗浄』なる医療行為は存じませんでした。国王陛下が医療の心得がある者から、広く意見を求めているならマリナ先生にも同席して頂いた方が良いと考えたのです」
「そういうことだったんですね……。分かりました。ただ、私の知識がこの国でどこまで役に立てるか分かりませんが……」
一抹の不安を感じながらも、私は黒髪の女官長や白髪の医女らと共に国王の寝所へと向かった。
「説明は陛下の寝所に向かいながらします。マリナ先生、お急ぎください」
「あっ、はい」
白髪の医女に促され、私は黒髪の女官長や医女ルチアさんに先導され客室を出た。プラチナブロンドの侍女ロゼッタも慌てて後からついてくる。その姿を横目に通路を歩きながら、白髪の医女は口を開いた。
「まず、国王陛下の病状について説明します。陛下は右の脇腹に腫れがあり、違和感を訴えていました」
「右わき腹に腫れ……」
「そこで宮廷医師たちは腹部の腫れを治癒させるために、回復魔法をかけたのです」
白髪の医女が告げた後、黒髪の女官長が眉をひそめた。
「しかし、その回復魔法をかけた直後に容体が悪化し、陛下は昏睡状態に陥りました」
「そして先ほど目が覚めたと……」
「そうです」
医女と女官長の説明を聞いて私は思考する。右わき腹と言えば、人間なら肝臓の影響が出るケースがある部位だ。そして、肝臓に腹水がたまったり腫れたりしているということは短期的に腫れるよりも、長期的にじわじわと症状が続き慢性的な状態になっている場合が多い。
人間なら長期間、アルコールを摂取し続けることによって肝機能が徐々に弱る。そして最終的に飲酒が原因の肝硬変になった結果、腹水が腹部にたまるという可能性が真っ先に考えられるが、これが獣人に当てはまるのか現段階では分からない。
「状況は分かりました。ですが、私が同席して良いのでしょうか?」
「マリナ先生は例によって、医女である私の『助手見習い』ということにしておけば立ち会うことに関しては問題ないでしょう。本来なら国王陛下の治療に関しては、陛下の侍医が行っているので、医女である私も範疇外なのです」
「そうなんですか!?」
驚いて聞き返せば、思慮深そうな白髪の医女はゆっくりと頷いた。
「ええ。宮廷における医女の主な役割は産婆として出産の手助けをすること。そして女性特有の病気や性病に関する検査などが主で、国王陛下に呼ばれることはまずありません」
「でも、今回は国王陛下に呼ばれているんですよね?」
「ええ。どうやら前回、侍医たちの判断で回復魔法をかけた直後に容体が急変し、悪化したことから侍医だけでなく医療に携わる者や識者からも、広く意見を聞きたいようです」
「なるほど……」
確かに前回の治療で容態が急変して長い間、昏睡状態だったのなら侍医の説明や判断に従うのは怖いだろう。セカンドオピニオンによって患者が納得できるように最初とは違う医師に診察してもらったり、自分が納得できる説明をしてくれる医師を求めるというのは自然な心理だ。
「マリナ先生は侍女ロゼッタがユリ毒を摂取した際、強制的に毒を排出させる『胃洗浄』でロゼッタの命を救いました。私は医女として、それなりに医療知識を深めてきたつもりでしたが『胃洗浄』なる医療行為は存じませんでした。国王陛下が医療の心得がある者から、広く意見を求めているならマリナ先生にも同席して頂いた方が良いと考えたのです」
「そういうことだったんですね……。分かりました。ただ、私の知識がこの国でどこまで役に立てるか分かりませんが……」
一抹の不安を感じながらも、私は黒髪の女官長や白髪の医女らと共に国王の寝所へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
乙女ゲームの世界に転移したら、推しではない王子に溺愛されています
砂月美乃
恋愛
繭(まゆ)、26歳。気がついたら、乙女ゲームのヒロイン、フェリシア(17歳)になっていた。そして横には、超絶イケメン王子のリュシアンが……。推しでもないリュシアンに、ひょんなことからベタベタにに溺愛されまくることになるお話です。
「ヒミツの恋愛遊戯」シリーズその①、リュシアン編です。
ムーンライトノベルズさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる