獣人の世界に召喚された聖女(獣医)は城から追放される

中野莉央

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49 国王、ジャヴェロット

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 国王の寝室に入ると壁に飾られた大きな絵画の横に、青色のカーテンが付けられた豪華な天蓋付きベッドが置かれている。そしてベッドの中には少々、頬がこけた壮年の男性が上半身を起こしていた。

 白髪交じりの灰色髪はいわゆるロマンスグレーと言えるだろう。やや伸びた前髪が男性の顔にかかる。よく見ると目元に刻まれたシワが相応の年齢であろうことを感じさせた。

「ジャヴェロット国王陛下」

「本日はご機嫌麗しく……」

 小太りの宮廷医師たちが、うさんくさいほど満面の笑みを顔に貼り付けて優雅に一礼し、口上を述べようとしたがロマンスグレーの国王陛下は彼らを冷ややかに一瞥した後、白髪の医女を見た。

「御託はよい。今日、そなたを呼んだのは他でもない。余の状態と今後の治療について話をしてもらうためだ」

「陛下。その件でしたら、先ほど我らが申し上げた通り回復魔法で……」

「その方らが申した通り回復魔法をかけたら、状態が悪化したのではないか?」

「いえ、あれは術者が急激にかけてしまったので陛下のお身体が驚いてしまったのでしょう」

「今度はお身体に負担をかけないように、ゆっくりと回復魔法をかければ大丈夫なはずです!」

「そなたらの意見は、もうよい……。医女ルチアよ。そなたはこの国で最も医療知識がある医女だ。そなたの意見を聞きたい」

「はい……。その前に、まず患部を見せて頂けますか? 右わき腹に腫れがあると聞いておりますが、実際に見てみないことには判断のしようがございませんので」

「うむ。それもそうだな……。今はこのようになっている」

 国王陛下は着用していたガウンのような夜着の前を開いて上半身の素肌をさらした。すると、均整よく筋肉がついた上半身の右わき腹が異様にふくれている。シロウト目にも異常があると分かる状態になっていた。

「これは……」

「確かに腫れていますね」

「腫れているというか……。浮腫?」

「マリナ先生は、この状態が何か分かりますか?」

 思わず呟いた言葉に反応した医女ルチアが私に尋ねた時、様子を見守っていた宮廷医師たちが鼻息荒く一歩前に出た。

「お待ちください! その者は平民の医女見習いでございます!」

「陛下の診療に口出しするなど、言語道断ですぞ!」

 豚のような侍医とカツラの侍医が私を指さしながら糾弾したことで、国王陛下や召使いたちは目を丸くした。

「その方は平民の医女見習いなのか?」

「ジャヴェロット国王陛下。マリナ先生はそこにいる、猫獣人の侍女ロゼッタがユリ毒を口にした際、強制的に胃に入った毒を排出させる方法で命を救った医師なのです」

「なんと……!」

 医女の言葉にロマンスグレーの国王が驚き、唖然とした表情を浮かべると小太りの宮廷医師たちも、うろたえながら顔色を変えた。

「バカな!」

「摂取した、ユリ毒を無効化するなど聞いたことがないぞ!」

「事実です。確かにマリナ様は、ユリ毒を口にした私を助けて下さいました」

 プラチナブロンドの侍女が断言したことで侍医たちは愕然とした表情で絶句して、その場に立ちつくした。

「マリナ先生には医女である私の『助手見習い』という立場で同席して頂いておりますが、医療の知見は確かでございます」

「そうか……。医女ルチアがそこまで言うなら間違いなかろう。マリナと申したな。そなたの意見も聞かせてくれ」

「はい」

「そんなっ! 陛下! その者は平民ですぞっ!」

「何の後ろ盾もない身で、この場にいること自体がおかしいというのに!」

 ツバを飛ばしながら怒り心頭といった様子で非難の言葉を口にする侍医たちに私や医女ルチア、女官長ミレイユに侍女ロゼッタという女性陣が眉をひそめていると、国王の眉間に刻まれているシワが深くなっていくのが見えた。

「うるさいっ! 馬鹿の一つ覚えのように『回復魔法、回復魔法』と言う、そなたらの意見は聞き飽きた! 黙っていられないのなら、この部屋から出て行けっ!」

 ロマンスグレーの国王陛下に一喝された宮廷医師たちは顔を歪めて押し黙った。
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