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52 僥倖
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宮廷医師や女官長、医女らと共に国王の寝室を出て通路で互いに向き合う。とにかく手術をするのならば準備が必要だ。
「あの……。必要な物はそろえて頂けるんですよね?」」
「ええ。ジャヴェロット国王陛下のご指示でもありますし、協力は惜しみません」
黒髪の女官長ミレイユさんがキッパリと断言してくれて、白髪の医女ルチアさんもその言葉に頷いてくれた。全面的に協力してもらえるというのは、かなり助かる。
「ありがとうございます。ミレイユさん……。とりあえず私は一度、客室に戻って手持ちの医療道具で使えそうな物を見つくろいたいと思っているのですが」
「そうですね。マリナ様がお持ちの道具が使えるなら、それを使うのが最善でしょう」
「はい。ですが正直、手術をすることになるとは思っていませんでしたから不足している物も多いんです……。必要な物を書き記しますから明日、改めて道具の用意をお願いしても良いでしょうか?」
「もちろんです。マリナ先生が必要だと思う医療道具がない場合は職人に注文して、新たに作らせることも可能ですから遠慮なくお申し付けください」
「ありがとうございます、ルチアさん。ただ、手術となると……。道具はもちろんですが、輸血が必要になると思うのですが」
「輸血?」
白髪の医女や他の人たちも少し、目を丸くしている。
「この国では医療行為で『輸血』を行うことはないですか?」
「マリナ先生。輸血とは?」
「他人から血液を提供してもらって、患者の身体に注入する医療行為です。今回の場合は国王陛下の身体に、肉親から血液を提供して頂くのが理想ですが……」
私が腕を組みながら呟くと小太りの宮廷医師たちは、あんぐりと口を開けて呆然とした直後に一瞬で顔色を青くした。
「けっ、血液を……!?」
「なんという恐ろしいことを! この者は怪しげな黒魔術の儀式でもやりたいのか!?」
「しかも、ジャヴェロット国王陛下の肉親ということは王族から血液を採るということか!」
「貴様っ! 医女見習いなどではなく、暗黒の儀式を行う魔女だな!? 我が国の王族を暗黒神の生け贄にでもする腹積もりであろう!」
「いえ。手術中に大量出血した場合を想定して、念の為に輸血を確保したいだけなんですが……」
突然、暗黒の儀式を行う魔女疑惑をかけられ当惑しながらも、しっかりと弁明したが二人の宮廷医師は私の説明を聞いて、これ以上ないほど驚愕し目をむいた。
「大量出血っ! 今、大量出血と言ったぞ!」
「ジャヴェロット陛下の腹を切って大量に出血させた挙句、王族にも『生き血を差し出せ』と命令するのか!? 何と恐ろしいっ!」
「私は国王陛下の侍医として、こんな女が主張する黒魔術の儀式に関わるのはごめんだ!」
「私も宮廷医師として、王族の生き血を暗黒神の贄にすることに協力などできないっ!」
そう言い捨てると小太りの宮廷医師たちは、茹でダコのように顔を真っ赤にして憤慨しながら立ち去っていった。黒髪の女官長や白髪の医女は、宮廷医師らの後姿を冷たい目で見送る。
「行ってしまいましたね……」
「ジャヴェロット陛下は宮廷医師にも『協力するように』と言っていたのに……」
「まぁ。一番厄介なのは、ムダにやる気がある無能が身内にいるケースですから。彼らが自分から協力しないと言ってくれたのは、むしろ僥倖でしょう」
医女ルチアは『厄介払いができた』と言わんばかりの冷淡な言葉と態度だったが、私を含めて誰も反論する者はなかった。
「あの……。必要な物はそろえて頂けるんですよね?」」
「ええ。ジャヴェロット国王陛下のご指示でもありますし、協力は惜しみません」
黒髪の女官長ミレイユさんがキッパリと断言してくれて、白髪の医女ルチアさんもその言葉に頷いてくれた。全面的に協力してもらえるというのは、かなり助かる。
「ありがとうございます。ミレイユさん……。とりあえず私は一度、客室に戻って手持ちの医療道具で使えそうな物を見つくろいたいと思っているのですが」
「そうですね。マリナ様がお持ちの道具が使えるなら、それを使うのが最善でしょう」
「はい。ですが正直、手術をすることになるとは思っていませんでしたから不足している物も多いんです……。必要な物を書き記しますから明日、改めて道具の用意をお願いしても良いでしょうか?」
「もちろんです。マリナ先生が必要だと思う医療道具がない場合は職人に注文して、新たに作らせることも可能ですから遠慮なくお申し付けください」
「ありがとうございます、ルチアさん。ただ、手術となると……。道具はもちろんですが、輸血が必要になると思うのですが」
「輸血?」
白髪の医女や他の人たちも少し、目を丸くしている。
「この国では医療行為で『輸血』を行うことはないですか?」
「マリナ先生。輸血とは?」
「他人から血液を提供してもらって、患者の身体に注入する医療行為です。今回の場合は国王陛下の身体に、肉親から血液を提供して頂くのが理想ですが……」
私が腕を組みながら呟くと小太りの宮廷医師たちは、あんぐりと口を開けて呆然とした直後に一瞬で顔色を青くした。
「けっ、血液を……!?」
「なんという恐ろしいことを! この者は怪しげな黒魔術の儀式でもやりたいのか!?」
「しかも、ジャヴェロット国王陛下の肉親ということは王族から血液を採るということか!」
「貴様っ! 医女見習いなどではなく、暗黒の儀式を行う魔女だな!? 我が国の王族を暗黒神の生け贄にでもする腹積もりであろう!」
「いえ。手術中に大量出血した場合を想定して、念の為に輸血を確保したいだけなんですが……」
突然、暗黒の儀式を行う魔女疑惑をかけられ当惑しながらも、しっかりと弁明したが二人の宮廷医師は私の説明を聞いて、これ以上ないほど驚愕し目をむいた。
「大量出血っ! 今、大量出血と言ったぞ!」
「ジャヴェロット陛下の腹を切って大量に出血させた挙句、王族にも『生き血を差し出せ』と命令するのか!? 何と恐ろしいっ!」
「私は国王陛下の侍医として、こんな女が主張する黒魔術の儀式に関わるのはごめんだ!」
「私も宮廷医師として、王族の生き血を暗黒神の贄にすることに協力などできないっ!」
そう言い捨てると小太りの宮廷医師たちは、茹でダコのように顔を真っ赤にして憤慨しながら立ち去っていった。黒髪の女官長や白髪の医女は、宮廷医師らの後姿を冷たい目で見送る。
「行ってしまいましたね……」
「ジャヴェロット陛下は宮廷医師にも『協力するように』と言っていたのに……」
「まぁ。一番厄介なのは、ムダにやる気がある無能が身内にいるケースですから。彼らが自分から協力しないと言ってくれたのは、むしろ僥倖でしょう」
医女ルチアは『厄介払いができた』と言わんばかりの冷淡な言葉と態度だったが、私を含めて誰も反論する者はなかった。
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