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57 棘
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会話を終えたディルク王子はその場を後にし、長髪の魔術師も大きな溜息を吐いて第一王子の背中を見送った後、中庭から立ち去った。バラの壁影に隠れていた私が、その場で動かずに立ちつくしていると背後から物音が聞こえた。
振り向けばプラチナブロンドの侍女が地面に落とした金属製のカギを慌てて拾おうとしていた。きっと客室にカギをかけてから、私を追いかけて来たんだろう。
「いつから、そこにいたの? ロゼッタ」
「あの。立ち聞きするつもりは無かったのですが」
「第一王子とグラウクスさんの会話。ぜんぶ聞いた?」
「す、すいません。私……」
「ロゼッタが謝ることないわ」
「でも!」
顔色を蒼白にしながら動揺しているロゼッタを見ながら、私は妙な気持だった。ついさっき、第一王子は私を元の世界に戻す気は無いと宣言し、自分の手駒とするために孕ませてしまえばよいとまで言及していた。
王妃にするのではなく、寵妃。愛人にして子供を産ませれば元の世界に戻る気も失せるだろうと。本来なら今、目の前にいるロゼッタのように手を震わせ、涙目になって顔色を青くするのが普通なのだろう。
しかし取り乱して号泣し、悲嘆に暮れながら運命を呪い、この世界に私を召喚した第一王子を恨むことに時間を費やすのは無駄だ。脳内の情報を整理して自分がやらなければいけないことに優先順位をつけて、こなしていかなくてはならない。
冷静になると頭の中から余計な雑念が取り払われ、視界がクリアになっていくような感覚を覚えると同時に、物事を順序立てて考えることができた。
「今、私が全力でやらなければいけないことは。何と言っても病床の国王を根治させることだわ……。その為にどうするか……。痛っ!」
「マリナ様!?」
視線を地面に落として思案しながら横にあるバラの花が咲いてる花壁に何気なく触れた時、右手の指先がトゲに触れてしまったのだ。心配げにしているロゼッタに私は苦笑した。
「だ、大丈夫。たいしたことないわ。バラのトゲに触って、ちょっと指先から血が出てるだけだから」
「出血したのですか!? 見せて下さい!」
「心配しないでいいわよ。こんなの舐めておけば……。え?」
顔色を変えて、私の右手をとったプラチナブロンドの侍女が目を閉じると白い両手から温かな光があふれた。そしてバラのトゲに傷つけられ、赤い血が出ていた指先の痛みがどんどん治まっていくのが感じられた。
ロゼッタの手から出ていた光が収まると彼女はポケットから水色のハンカチを取り出して、そっと拭った。するとハンカチで鮮血がぬぐわれた指先からは跡形もなく傷が消え、完治していた。
「これは……」
「治癒魔法です。小さな傷でしたら、私でも治癒させることができるんですよ」
「すごい」
「そういえば、マリナ様は治癒魔法を見るのは初めてでしたか?」
「ええ」
「この程度は、ごく簡単な初歩の治癒魔法ですから……。私はかすり傷ていどしか治癒できません。でもルチア先生やグラウクス様でしたら、これとは比べ物にならないような魔法の治癒能力がありますよ」
「魔法……。そうか!」
少し、はにかむような表情で語るロゼッタの言葉を聞き、私は雷に打たれたような思いだった。そして即座に歩き出した。
「マリナ様? どこへ?」
「魔術師の部屋に行くわ! あそこなら専門書が揃ってるだろうから!」
振り向けばプラチナブロンドの侍女が地面に落とした金属製のカギを慌てて拾おうとしていた。きっと客室にカギをかけてから、私を追いかけて来たんだろう。
「いつから、そこにいたの? ロゼッタ」
「あの。立ち聞きするつもりは無かったのですが」
「第一王子とグラウクスさんの会話。ぜんぶ聞いた?」
「す、すいません。私……」
「ロゼッタが謝ることないわ」
「でも!」
顔色を蒼白にしながら動揺しているロゼッタを見ながら、私は妙な気持だった。ついさっき、第一王子は私を元の世界に戻す気は無いと宣言し、自分の手駒とするために孕ませてしまえばよいとまで言及していた。
王妃にするのではなく、寵妃。愛人にして子供を産ませれば元の世界に戻る気も失せるだろうと。本来なら今、目の前にいるロゼッタのように手を震わせ、涙目になって顔色を青くするのが普通なのだろう。
しかし取り乱して号泣し、悲嘆に暮れながら運命を呪い、この世界に私を召喚した第一王子を恨むことに時間を費やすのは無駄だ。脳内の情報を整理して自分がやらなければいけないことに優先順位をつけて、こなしていかなくてはならない。
冷静になると頭の中から余計な雑念が取り払われ、視界がクリアになっていくような感覚を覚えると同時に、物事を順序立てて考えることができた。
「今、私が全力でやらなければいけないことは。何と言っても病床の国王を根治させることだわ……。その為にどうするか……。痛っ!」
「マリナ様!?」
視線を地面に落として思案しながら横にあるバラの花が咲いてる花壁に何気なく触れた時、右手の指先がトゲに触れてしまったのだ。心配げにしているロゼッタに私は苦笑した。
「だ、大丈夫。たいしたことないわ。バラのトゲに触って、ちょっと指先から血が出てるだけだから」
「出血したのですか!? 見せて下さい!」
「心配しないでいいわよ。こんなの舐めておけば……。え?」
顔色を変えて、私の右手をとったプラチナブロンドの侍女が目を閉じると白い両手から温かな光があふれた。そしてバラのトゲに傷つけられ、赤い血が出ていた指先の痛みがどんどん治まっていくのが感じられた。
ロゼッタの手から出ていた光が収まると彼女はポケットから水色のハンカチを取り出して、そっと拭った。するとハンカチで鮮血がぬぐわれた指先からは跡形もなく傷が消え、完治していた。
「これは……」
「治癒魔法です。小さな傷でしたら、私でも治癒させることができるんですよ」
「すごい」
「そういえば、マリナ様は治癒魔法を見るのは初めてでしたか?」
「ええ」
「この程度は、ごく簡単な初歩の治癒魔法ですから……。私はかすり傷ていどしか治癒できません。でもルチア先生やグラウクス様でしたら、これとは比べ物にならないような魔法の治癒能力がありますよ」
「魔法……。そうか!」
少し、はにかむような表情で語るロゼッタの言葉を聞き、私は雷に打たれたような思いだった。そして即座に歩き出した。
「マリナ様? どこへ?」
「魔術師の部屋に行くわ! あそこなら専門書が揃ってるだろうから!」
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