秘密の聖女(?)異世界でパティスリーを始めます!

中野莉央

文字の大きさ
288 / 450
忍び寄る影

288

しおりを挟む
 私が首を傾げ、茶髪の侍女ジョアンナが眉をひそめながら扉を開けると、慌てた様子で足早に廊下を移動する側女が数人いた。

「どうかしたの?」

「それが後宮の一角から、火の手が上がっているんです!」

「なんですって!?」

「窓から煙が上がっているのが見える筈です」

 側女の言葉を聞き、ジョアンナと共に窓の外を見れば確かに後宮の一角から黒煙が上がっているのが見えた。

「ここから離れた場所なのね。あまり火の手も強くないようだけど……。どうして?」

「ローザ。私、ちょっと見て来るわ」

「ジョアンナ……」

「あの煙なら、きっとボヤで終わるでしょうし。こことは建物が違うから燃え移ることは無いでしょうけど、少しでも危ないと思ったらすぐ逃げてね?」

「私は大丈夫よ。ジョアンナこそ、危ないと思ったらすぐ引き返して」

「分かったわ。じゃあ、ちょっと行ってくるから」

 茶髪の侍女ジョアンナは私を安心させるように、笑顔で部屋から出て行った。どうにも落ち着かず部屋の窓から空に上がっていく黒煙を見つめていたが、しばらくすると黒煙はじょじょに細くなっていった。

「良かった。ちゃんと消火されてる……。あの分なら燃え広がることは無いわね」

 今の季節なら暖炉に火を入れている訳では無いだろうし、厨房と違って後宮で火を使うことはまず無い。仮に火事など起こそうものなら死罪にされてもおかしくはない。

「事故だったのかしら?」

 燭台の火が何かに燃え移って失火でも起こしたのかも知れない。そんなことを考えていたら部屋の扉が開く音が聞こえた。ジョアンナが戻ってきたのだろう。ちょうど外では空に上がっていた黒煙が消えていく所だった。

「ジョアンナ、どうやらボヤで済んだみたいね。良かっ――」

 窓の外を見ながら口にした言葉は最後まで発することが出来なかった。鈍い音と共に、後頭部に衝撃を受けた私は一度、壁に手をついたが痛みに耐えきれず、そのまま床に崩れ落ちた。

 頭部に受けた衝撃と、酷い激痛にほぼ無意識のまま後頭部を手で押さえると、ぬるつく感触があった。まさかと思いながら頭部を触った自分の手を見れば、指先から手の平にべったりと真っ赤な血液が付着していた。

「なんで、こんな……? うっ!」

 振り向こうとした瞬間、首に布が巻かれ絞めつけられる。何とか振りほどこうとするが、首を絞めつける力は一向に緩められない。

 後頭部に受けた痛みと首を絞めつけられ呼吸が苦しくなっていく中、目の前が白く濁って朦朧としていくのが分かった。このままでは拙い。そう思いながらも助けを呼ぶ声すら出すことが出来ず、ギリギリと頸部を圧迫されながら、やがて私は意識を手放した。
しおりを挟む
感想 445

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/387029553/episode/10775138 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

襲ってきた王太子と、私を売った婚約者を殴ったら、不敬罪で国外追放されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...