343 / 450
セリナの憂鬱と決断
343
しおりを挟む
「唇が紫色……。チアノーゼを起こしてるわ……!」
「チアノーゼ?」
「酸素が……。状況的に呼吸困難が原因で唇が紫色になっているんだと思う。この状態で意識を失ってるのに、無理やり飲み物を飲ませたら死んでしまいかねないわ」
「その通りですよ」
壁際に控えて黙って私とローザの様子を見ていた黒髪の女官長が発した声に、思わず視線を向けると女官長ミランダさんはゆっくりと天蓋付き寝台の側に来た。
「意識が無い状態で無理に飲料を飲ませることは非常に危険です……。気道が塞がれて即、死に繋がりかねません」
「でも! このまま放っておいたら、レオン陛下は確実に死んでしまうんですよ!?」
冷静な女官長にローザが美しいプラチナブロンドを乱して涙目で抗議する。それにしても寝室の中を見渡して私は異様さを感じずにはいられなかった。
「なんで……。国王陛下がこんなにも苦しんでいるのに部屋の中に寵妃と女官長だけなんですか? 普通は宮廷医師がつきっきりでついている物なのではないの?」
「国王代理でもある第二王子ライガ殿下は、延命治療の必要は無いと侍医を下がらせました」
「そんな! ウソでしょ!?」
「事実です。道中、馬車の中で言ったでしょう? 医師もサジを投げたと」
「そして、侍医もレオン陛下から麻痺症状に回復の見込みが無いなら延命治療は止めてほしいと言っていたと……。ううっ……!」
ローザは両手で顔を覆い、こらえ切れない様子で水宝玉色の瞳から涙をこぼし嗚咽を漏らして肩を震わせた。憔悴して打ちひしがれ涙を流す親友の姿を見た私は一瞬の逡巡の後、ベッドサイドチェストの上にケーキを入れた箱とカバンを置き、カバンの中から琥珀色の経口補水液が入ったガラス製のビンを取り出して枕元に置いた。そして寝台の横にある猫脚の椅子に座る。
「どこまで出来るか分からないけど……。経口補水液を試すにしても、まずは呼吸をちゃんと確保しないといけないわ」
「セリナ?」
ローザと黒髪の女官長が怪訝そうな瞳で見ているがやるしかない。治癒魔法でまずは国王陛下の呼吸状態を回復させる。そこから呼吸が安定して、さらに上手く国王の意識が戻ればローザが試したがっていた経口補水液を陛下に飲ませるという行為も出来るはず。
そう思いながら、私は天蓋付き寝台の中で臥せっている陛下の咽喉と呼吸器の部分に手をかざして魔力を送り始めた。だが、いつもならゆるやかに魔力が手のひらに集中して温かく治癒されていくというのに、私が手をかざして魔力を送った途端、まるで魔力を吸い取られるかのような今まで味わったことのない感覚に襲われた。
「うっ! これは一体!?」
「ぐぁっ!」
私が得体の知れない感覚に襲われると同時に、寝台の中にいる金髪の国王陛下も眉間にシワを寄せて苦しみ始めた。
「チアノーゼ?」
「酸素が……。状況的に呼吸困難が原因で唇が紫色になっているんだと思う。この状態で意識を失ってるのに、無理やり飲み物を飲ませたら死んでしまいかねないわ」
「その通りですよ」
壁際に控えて黙って私とローザの様子を見ていた黒髪の女官長が発した声に、思わず視線を向けると女官長ミランダさんはゆっくりと天蓋付き寝台の側に来た。
「意識が無い状態で無理に飲料を飲ませることは非常に危険です……。気道が塞がれて即、死に繋がりかねません」
「でも! このまま放っておいたら、レオン陛下は確実に死んでしまうんですよ!?」
冷静な女官長にローザが美しいプラチナブロンドを乱して涙目で抗議する。それにしても寝室の中を見渡して私は異様さを感じずにはいられなかった。
「なんで……。国王陛下がこんなにも苦しんでいるのに部屋の中に寵妃と女官長だけなんですか? 普通は宮廷医師がつきっきりでついている物なのではないの?」
「国王代理でもある第二王子ライガ殿下は、延命治療の必要は無いと侍医を下がらせました」
「そんな! ウソでしょ!?」
「事実です。道中、馬車の中で言ったでしょう? 医師もサジを投げたと」
「そして、侍医もレオン陛下から麻痺症状に回復の見込みが無いなら延命治療は止めてほしいと言っていたと……。ううっ……!」
ローザは両手で顔を覆い、こらえ切れない様子で水宝玉色の瞳から涙をこぼし嗚咽を漏らして肩を震わせた。憔悴して打ちひしがれ涙を流す親友の姿を見た私は一瞬の逡巡の後、ベッドサイドチェストの上にケーキを入れた箱とカバンを置き、カバンの中から琥珀色の経口補水液が入ったガラス製のビンを取り出して枕元に置いた。そして寝台の横にある猫脚の椅子に座る。
「どこまで出来るか分からないけど……。経口補水液を試すにしても、まずは呼吸をちゃんと確保しないといけないわ」
「セリナ?」
ローザと黒髪の女官長が怪訝そうな瞳で見ているがやるしかない。治癒魔法でまずは国王陛下の呼吸状態を回復させる。そこから呼吸が安定して、さらに上手く国王の意識が戻ればローザが試したがっていた経口補水液を陛下に飲ませるという行為も出来るはず。
そう思いながら、私は天蓋付き寝台の中で臥せっている陛下の咽喉と呼吸器の部分に手をかざして魔力を送り始めた。だが、いつもならゆるやかに魔力が手のひらに集中して温かく治癒されていくというのに、私が手をかざして魔力を送った途端、まるで魔力を吸い取られるかのような今まで味わったことのない感覚に襲われた。
「うっ! これは一体!?」
「ぐぁっ!」
私が得体の知れない感覚に襲われると同時に、寝台の中にいる金髪の国王陛下も眉間にシワを寄せて苦しみ始めた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる