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セリナの憂鬱と決断
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馬車を降りた私は女官長ミランダさんの後を追い、衛兵が警護する内門を通過して白い石柱が等間隔に並ぶ長い回廊を歩いた。広大な中庭を横目に、なめらかな雪花石膏の彫像が複数並ぶ通路を歩きながら、あまりにも長い廊下にどこまで歩くのだろうと思った頃、黒髪の女官長は大きな扉の前で立ち止まった。
「寵妃ローザが所望する物をお持ちしました」
扉の左右に立っている、いかにも屈強そうな警備兵にミランダさんがそう告げると、警備兵は無言で頷きゆっくりと扉を開けた。
後ろを振り向いたミランダさんに視線を送られた私は、ケーキの入った箱と経口補水液の入ったビンを入れたカバンを持って黒髪の女官長と共に部屋に入った。
広い部屋の中には中心に高級感あふれる猫脚のテーブルやイス、木目細工の調度品が置かれている。そして大理石の暖炉の上には黄金の燭台。壁を見れば黄金の額縁に入れられた緻密な風景画や人物画が壁に飾られていた。
「ミランダさん……。ここは?」
「国王陛下の居室です」
「えっ!」
「あなたはここで、ちょっと待っていなさい」
そう言いながら黒髪の女官長は奥にある扉を開けて中に入っていった。突然、国王陛下の居室に一人とりのこされて呆然としながら、ぼんやりと部屋の円形アーチ窓と青色のカーテンを見ていると、何故か見覚えがあるような不思議な感覚がして自分でも理由が分からず小首をかしげた時、ミランダさんが入っていった扉が勢いよく開かれた。
「セリナ! 来てくれたのね!」
「ローザ!?」
水色のドレスを着たローザは、プラチナブロンドを揺らしながら私に抱きついてきた。
「私、あれからセリナに聞いた通り経口補水液を用意して陛下に飲んでもらったの! でも、ダメで……。お願いセリナ、助けて!」
「とりあえず役に立つか分からないけど、言われた通り経口補水液とケーキは持って来たわ」
「ありがとう! 来て! こっちよ」
私はローザに手を引かれて奥の部屋に入った。椅子やソファが置かれた小部屋のさらに奥にある扉を開ければ、そこには天井からクリスタルのシャンデリアが吊るされ、繊細な意匠が施された天蓋付きの寝台があり、窓には青いカーテンがかけられている。
「これって……」
今朝、夢で見た光景と全く同じ室内の様子に絶句している間にも、ローザに手を引っ張られて寝台の横に連れて来られた。
「私が用意した経口補水液を飲んで頂いても効果が無かったの。セリナ手製の経口補水液を飲んで頂いたら……。もしかしたら効果があるのかも知れないわ! お願い!」
「そうは言っても、これは……」
馬車の中でミランダさんから話は聞いていたが、寝台の中で苦しそうに顔を歪めながら呼吸をしている金髪の男性は、すでに唇が紫色でこれは経口補水液を飲ませるどころではないとシロウト目にも分かってしまった。
「寵妃ローザが所望する物をお持ちしました」
扉の左右に立っている、いかにも屈強そうな警備兵にミランダさんがそう告げると、警備兵は無言で頷きゆっくりと扉を開けた。
後ろを振り向いたミランダさんに視線を送られた私は、ケーキの入った箱と経口補水液の入ったビンを入れたカバンを持って黒髪の女官長と共に部屋に入った。
広い部屋の中には中心に高級感あふれる猫脚のテーブルやイス、木目細工の調度品が置かれている。そして大理石の暖炉の上には黄金の燭台。壁を見れば黄金の額縁に入れられた緻密な風景画や人物画が壁に飾られていた。
「ミランダさん……。ここは?」
「国王陛下の居室です」
「えっ!」
「あなたはここで、ちょっと待っていなさい」
そう言いながら黒髪の女官長は奥にある扉を開けて中に入っていった。突然、国王陛下の居室に一人とりのこされて呆然としながら、ぼんやりと部屋の円形アーチ窓と青色のカーテンを見ていると、何故か見覚えがあるような不思議な感覚がして自分でも理由が分からず小首をかしげた時、ミランダさんが入っていった扉が勢いよく開かれた。
「セリナ! 来てくれたのね!」
「ローザ!?」
水色のドレスを着たローザは、プラチナブロンドを揺らしながら私に抱きついてきた。
「私、あれからセリナに聞いた通り経口補水液を用意して陛下に飲んでもらったの! でも、ダメで……。お願いセリナ、助けて!」
「とりあえず役に立つか分からないけど、言われた通り経口補水液とケーキは持って来たわ」
「ありがとう! 来て! こっちよ」
私はローザに手を引かれて奥の部屋に入った。椅子やソファが置かれた小部屋のさらに奥にある扉を開ければ、そこには天井からクリスタルのシャンデリアが吊るされ、繊細な意匠が施された天蓋付きの寝台があり、窓には青いカーテンがかけられている。
「これって……」
今朝、夢で見た光景と全く同じ室内の様子に絶句している間にも、ローザに手を引っ張られて寝台の横に連れて来られた。
「私が用意した経口補水液を飲んで頂いても効果が無かったの。セリナ手製の経口補水液を飲んで頂いたら……。もしかしたら効果があるのかも知れないわ! お願い!」
「そうは言っても、これは……」
馬車の中でミランダさんから話は聞いていたが、寝台の中で苦しそうに顔を歪めながら呼吸をしている金髪の男性は、すでに唇が紫色でこれは経口補水液を飲ませるどころではないとシロウト目にも分かってしまった。
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