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第一の庭にて

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 伯爵令嬢フローラは私が見ていることに全く気付くことなく馬車に乗り込むと、黒髪の女官長は白い馬車のドアを閉め、それを確認した馭者が手綱をあやつり馬蹄の音を立てながら馬車は王宮を後にした。

「ミランダさん」

「あら、あなたは……。ああ、ローザに会っていたのね」

 私の姿を見た黒髪の女官長は目を見開いたが、すぐに察して微笑した。

「はい。あの、さっき伯爵令嬢フローラが馬車に乗っていましたけど、もしかしてフローラはレオン陛下との婚約を解消して王宮から出て行ったんですか?」

「伯爵令嬢フローラの母君が倒れたということで、一時的にお見舞いのためフルオライト伯爵家に帰るだけよ。婚約を解消した訳では無いし本格的に王宮から出て行くという訳ではないわ」

 昨日、市場でフルオライト伯爵家のメイドがフローラの母は倒れてしまったと話していたけれど、あれは事実だったのかと少し驚いた。

「そうなんですか……。先日、謁見の間でレオン陛下が亡くなったら伯爵令嬢フローラが第二王子と結婚するみたいな話が出た上、国王陛下はローザと結婚するって公言したから、てっきり国王陛下との婚約を解消して実家に帰ったのかと思ったんですけど」

「私も、謁見の間で国王陛下があの発言をされた直後はそうなるかもと思ったのだけど……。フルオライト伯爵家や親戚筋に当たる宰相ハイン閣下、それに重臣たちまでもが伯爵令嬢フローラとレオン陛下が婚約を解消するのは難色を示しているのよ」

「なんでですか? 重臣の方達が伯爵令嬢フローラを王妃に推す理由、私には分からないんですが」

 よりにもよって難がありそうなあの赤髪の伯爵令嬢を重臣たちがこぞって王妃にしようとするなんて、全く理解できないので尋ねると黒髪の女官長ミランダさんは大きな溜息を吐いた。

「あなたはローザの親友だし、先日、謁見の間で国王陛下がローザと結婚したいという意向を聞いてるから、なおさらそう思うでしょうね……」

「はい」

「ここだけの話、一夫一妻制に反発を持っている重臣が多いのよ」

「え?」

「特に獣人だと種族的な本能もあって同時に複数の異性と関係を持つのが当たり前なのよ。これまでは国王陛下が後宮にハーレムを作って何人もの女性をはべらせてきたのもあって、金獅子国では貴族たちが本妻以外に妾や愛人を持つ事も黙認されてきた。でも頂点にいる国王陛下が王妃としか子供を作らないし寵妃や側女を持たないで一夫一妻制を推進し、不倫を禁止するという風潮になれば都合が悪くなるということね」

「そんな理由で?」
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