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エピソード②
終焉を、足で蹴る(序)
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息苦しさで、目が覚めた。
どうも、最近、自分には分不相応の仕事をまかされているからか、起きていても寝ていても、常に何かを考えていなければ不安だ。
自信なんて無い。
大切に築き上げてきたものが一瞬で崩れていく。
そんなイメージが脳裏から離れない。
蟻の一穴が、自分の心にずっとあることに気づいていた。
自分の周りにいる人が、堤を強固に築いてくれているから目を背けていられたけど、もう甘えてはいられない。
覚悟を決めて始めた新生活。
思ったより、孤独感はない。
薄い壁の隣からは音楽が流れてくるし、上の階からは足音がトントンと聞こえる。
この界隈で、一番安い部屋を選んだから仕方ないだろう。
でも気になるほどではないし、むしろ近くに人間がいる事に安心する。
ただ、時折、未来を考えて息苦しい。
うまく息が吸えなくてうつ伏せになって、自己暗示をかける。
一人暮らしを始めたばかりだから。
気を張ってるだけだから。
「大丈夫。絶対に、大丈夫。出来る。間違わない」
肯定の言葉を繰り返し、自分を安心させる。
朝焼けさえも出てこない空は、まだ黒い。
小学校高学年頃からだろか。
学校で将来について考える教育が始まった。
夢。希望。生き方。目標。自分とは何か。
それらを、毎年毎年、中学生になっても同じことの繰り返しで、考えさせられた。
その度に、自分には何も無いと思い知らされた。
新学期には自分の似顔絵と共に、将来の夢とその夢の叶え方をA4版の紙に書き、廊下に張り出される。
それを見て、友達が笑う。
しかも授業参観の日まで貼られて、友達の親にまで笑われた。
「だって、無いものは無い」
風灯は、毎年、のっぺらぼうの自分の似顔絵を描き、人間になりたいと書いた。
夢がない自分は、人間じゃないような気がしたから。
知恵のない人間のふりをした生き物。
「今なら、どんな道でも選べるんだぞ」
道があるかさえ、分からないのに。
どうやって選ぶのか。
全てが空虚に感じて、教室から見える空と海ばかりを見ていた。
自分には何も無い。
衝動的に、教室からじゃない大きな空と海が見たくなって、夜まで待ち、家族が寝静まってから家を出た。
中学1年生の夏の時だ。
その時に見た景色は、青くなくて黒かったのを覚えている。
「空と海なんて見えるわけ、ないよ。夜に」
何だか、無意味な事をしている自分がおかしくなって、砂浜を足で蹴りながら歩いた。
ふと気がつくと灯台の近くまで歩いていて、さすがに不安になり、腕をあげて時計を見ようとした。
だけど寝る前に家を出たから、腕時計をつけていなくて時間がわからない。
「朝までに帰れば良いや」
どうでも良くなって、波打ち際にしゃがみ込む。
海水がゆっくりとサンダルの足を濡らしていくが、別にかまわない。
だけど、灯台のくるくると回るライトが足元を照らす度に、少しだけ光を追いたくなった。
「そう言えば、あの灯台って登れるんだっけ?」
小さな頃、家族と行ったっきりだ。
地元の観光地なんて、意外と行かない。
「行ってみよう、かな」
手に光を追わせて、動きを目で追った。
どうも、最近、自分には分不相応の仕事をまかされているからか、起きていても寝ていても、常に何かを考えていなければ不安だ。
自信なんて無い。
大切に築き上げてきたものが一瞬で崩れていく。
そんなイメージが脳裏から離れない。
蟻の一穴が、自分の心にずっとあることに気づいていた。
自分の周りにいる人が、堤を強固に築いてくれているから目を背けていられたけど、もう甘えてはいられない。
覚悟を決めて始めた新生活。
思ったより、孤独感はない。
薄い壁の隣からは音楽が流れてくるし、上の階からは足音がトントンと聞こえる。
この界隈で、一番安い部屋を選んだから仕方ないだろう。
でも気になるほどではないし、むしろ近くに人間がいる事に安心する。
ただ、時折、未来を考えて息苦しい。
うまく息が吸えなくてうつ伏せになって、自己暗示をかける。
一人暮らしを始めたばかりだから。
気を張ってるだけだから。
「大丈夫。絶対に、大丈夫。出来る。間違わない」
肯定の言葉を繰り返し、自分を安心させる。
朝焼けさえも出てこない空は、まだ黒い。
小学校高学年頃からだろか。
学校で将来について考える教育が始まった。
夢。希望。生き方。目標。自分とは何か。
それらを、毎年毎年、中学生になっても同じことの繰り返しで、考えさせられた。
その度に、自分には何も無いと思い知らされた。
新学期には自分の似顔絵と共に、将来の夢とその夢の叶え方をA4版の紙に書き、廊下に張り出される。
それを見て、友達が笑う。
しかも授業参観の日まで貼られて、友達の親にまで笑われた。
「だって、無いものは無い」
風灯は、毎年、のっぺらぼうの自分の似顔絵を描き、人間になりたいと書いた。
夢がない自分は、人間じゃないような気がしたから。
知恵のない人間のふりをした生き物。
「今なら、どんな道でも選べるんだぞ」
道があるかさえ、分からないのに。
どうやって選ぶのか。
全てが空虚に感じて、教室から見える空と海ばかりを見ていた。
自分には何も無い。
衝動的に、教室からじゃない大きな空と海が見たくなって、夜まで待ち、家族が寝静まってから家を出た。
中学1年生の夏の時だ。
その時に見た景色は、青くなくて黒かったのを覚えている。
「空と海なんて見えるわけ、ないよ。夜に」
何だか、無意味な事をしている自分がおかしくなって、砂浜を足で蹴りながら歩いた。
ふと気がつくと灯台の近くまで歩いていて、さすがに不安になり、腕をあげて時計を見ようとした。
だけど寝る前に家を出たから、腕時計をつけていなくて時間がわからない。
「朝までに帰れば良いや」
どうでも良くなって、波打ち際にしゃがみ込む。
海水がゆっくりとサンダルの足を濡らしていくが、別にかまわない。
だけど、灯台のくるくると回るライトが足元を照らす度に、少しだけ光を追いたくなった。
「そう言えば、あの灯台って登れるんだっけ?」
小さな頃、家族と行ったっきりだ。
地元の観光地なんて、意外と行かない。
「行ってみよう、かな」
手に光を追わせて、動きを目で追った。
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