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二章
八話
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「サーシュ侯爵夫人を救う事、それが本来の任務ではないですか?」
と、フリードは憶測を口に出す。
するとボスはフリードを値踏みするように見つめ、背もたれに背中を預けて足を組んだ。そして先程までの嘲笑じみた顔ではない真剣なものに変わる。
「いいや。我らサマエルは貴族間の争い事には興味はない。冤罪事件だろうと、俺達には関係のない事だ。
だが、それが陛下に害をなすものであれば看過できない。
今回の件でザハード王国との関係が悪化したのは知っているか?」
「ザハード王国? といえば、軍事国家で有名な?
国自体は帝国ほど大きくないですが、先の戦争で戦車なるものを発明したという話は聞いた事があります」
馬車とは違い金属で出来た塊が走る兵器だ。その兵器からは銃が発射され、どんな剣の使い手であっても銃器であっても太刀打ち出来ないと聞いた事があった。
だがまだ実用化には程遠いらしいが。各国は、その戦車に対抗出来る兵器の開発に勤しんでいる。
「そうだ。ルブロスティン公爵夫人はザハード王国の王女だった。国王が一番溺愛していた末娘が、嫁いだ先で殺されて国王はカンカンにお怒りだ。今すぐにでも軍を向けてこようとしているそうだ」
フリードが知らなかった事は、表情と態度で丸分かりだ。
ヘイリア帝国とザハード王国の国境付近の住民は、いつ攻め込まれるかと不安な日々を過ごしているのだ。
フリードにそこまでの影響を考える余裕はなかった。
(聞き込み調査が甘かったのか)
「事件を追っていたからといって、間接的に影響が出た国家間の問題に気付けなかった事は減点だ。
お前は離宮の愛人だなんだと呼ばれているが、陛下に忠誠を誓った配下でもあるだろう?
我々の任務は陛下第一だ。今回の任務も、陛下に害が及ぶ可能性がある事を忘れるな。
公爵は皇帝陛下を暗殺しようと計画している可能性が高い。
サーシュ侯爵を失った痛手は大きいぞ」
「……それなのに俺に任せたんですか!? 信頼していない俺に?」
『サマエル』は皇帝直属の裏組織だ。
いくら皇帝の紹介状を持ってきたとはいえ、信用ならない男に、ここまで重要な任務を任せてくるとは思わない。
「お前がダメだった時の事を考えてリュートを監視に置いた。ヘマしても仕事はリュートが引き継げるからな」
「なるほど」
「お前はスパイ以上の仕事を見せてくれた。まさか弁護士になれたとはな。公爵のスパイを見抜けた事も評価したい。
だが、ザハードとの関係性を見抜けなかった。お前に下す評価はAマイナスだ。」
「それなら評価はもっと低かったでしょう。正しい評価でお願いします」
「勝手に俺の評価を否定すんな。一度した評価は俺の判断ミスがない限り取り消さない。
とにかく。サーシュ侯爵夫人の件は任務完了とする。
だが今までのは準備運動に過ぎない。我々の目下の標的はルブロスティン公爵だ。彼は色々とやり過ぎた。
フリードに命ずる。これを最終試練とし、公爵を暗殺に成功すればサマエルに入る事を認めよう」
「はい」
「あとフリード、お前笑顔の練習しろ。作り笑顔が下手過ぎる」
「は……はぁ」
フリードは不思議に思い返事が曖昧なものとなった。なぜなら、フリードの笑顔は訓練されたものであるが、クレイル公国の大公からは綺麗だと褒められていたものだからだ。
敬礼をしてボスに背を向ける。と、引き止める声で立ち止まって振り返る。
「待ってフリード」
女性の声だ。今この空間に女性は一人しかいない。
「はい」
おどおどした雰囲気の女性だ。本当にサマエルのメンバーなのか? と疑いたくなる程。
「私はアンナっていうの。暗殺において私の右に出る人はいないって自負してる。よろしくね」
アンナはふんわりとした笑顔を見せた。
(暗器使いには見えない。銃使い? それとも色仕掛けか毒殺に長けているのか?)
「アン姉は弱々しく見せて上手く敵の懐に入るのが得意なんッスよ。でもってドMッス」
「そういうのは言っちゃだめ!」
アンナは口を膨らませて怒っている。だが、全く怖さは感じられない。
「アンナ。よろしく」
「ええ。ボスが言いたいのはね、あなたの笑顔が綺麗過ぎるっていう事。まるで人形職人が作る人形のようよ」
「そうか……?」
「ええ。美しくて綺麗だけど、そこに感情は一切ない。そんな冷たい笑顔。それでは仕事に支障をきたすわ。
だから任務と並行して少しずつ笑顔を改善出来ればいいわね」
「善処する」
どうしたらいいのだろうかと思案していると、もう一人の男が手を挙げた。
彼はフリードにはない気楽そうな笑顔を浮かべながら自己紹介をしてきた。
「んでもって、この俺様がボスに次ぐ二番手、ナターニエルだ。俺はサマエルに雇われてる傭兵隊の隊長だ。
武力が必要な時は俺に声を掛けてくれ」
「ナタ兄は近衛兵以上に強いッス。下手に喧嘩売ると殺されるッスよ」
「あん!? 俺がいつ誰を殺したって!?」
リュートは人を怒らせる天才なのだろう。ナターニエルは今にも剣を掴みそうな勢いだ。
「ほら、そういうとこッス」
「ナターニエルも、よろしく」
それぞれと挨拶を交わし、二階から降りていった。リュートはついてこないが、しばらくしたら降りてくるだろう。フリードを監視する為に。
しばらく歩くと、予想通りリュートが後ろについてきた。いつもは気配を消しているが、フリードに用事でもあるのか姿を見せて近寄ってきた。
「フリード!」
「どうした?」
リュートは必死な顔だ。そして、両肩を掴んで必死に訴えてきた。
周囲に聞かれてはマズい内容なので、小声だが。
「公爵を暗殺したら認めるなんて嘘ッスよ。公爵なんて殺したら絶対に処刑ッス。
つまりフリードさんが処刑されるッスよ。
うちのリーダー、裏切りだけは許さないっすから。フリードさんを仲間にする事は有り得ないッス。
……でも、俺っちはフリードの友達ッスから、助けてあげたいんッスよ。
聞いてください、良い方法を教えてあげるッス」
最後は優しく微笑んでみせた。フリードを安心させようとしている。
(詐欺師の手口と同じだな)
「そんな事を言いに来たのか?」
「え?」
「お前の目的は知らない。スパイらしからぬテンションの高さも、お前の任務を遂行する為の演技だろうと予測がつく。
だが、俺と友達になりたいとか、助けたいとかはさすがに嘘だと分かるぞ」
「ちぇ~、さすがはボスが認めただけあるッスね。俺っちはボスの手を煩わせないよう、素早くフリードを排除して、任務は俺っちが引き継ごうと思ってたんッスけどね」
サマエルとしては、ウェルディスに敵対しているが立場上なかなか手を出せなかった公爵を排除しながら、いつ裏切るか分からない爆弾であるフリードをも排除出来る。一石二鳥だ。
ボスにそんな魂胆があるのは分かりきっている。
「まだ認められてはいない。黙って俺を監視してろよ、その方が早く俺を排除出来るぞ。
ターゲットを排除すれば俺は死刑なんだろう?」
「フリードも嘘が下手ッスね~」
フリードはクスリと笑った。リュートの言う通り嘘だ。
クレイル公国のスパイだった頃はいつでも死ねる準備をして任務に臨んでいたが、そうはいかない。
今はもうウェルディスの愛人なのだから。
と、フリードは憶測を口に出す。
するとボスはフリードを値踏みするように見つめ、背もたれに背中を預けて足を組んだ。そして先程までの嘲笑じみた顔ではない真剣なものに変わる。
「いいや。我らサマエルは貴族間の争い事には興味はない。冤罪事件だろうと、俺達には関係のない事だ。
だが、それが陛下に害をなすものであれば看過できない。
今回の件でザハード王国との関係が悪化したのは知っているか?」
「ザハード王国? といえば、軍事国家で有名な?
国自体は帝国ほど大きくないですが、先の戦争で戦車なるものを発明したという話は聞いた事があります」
馬車とは違い金属で出来た塊が走る兵器だ。その兵器からは銃が発射され、どんな剣の使い手であっても銃器であっても太刀打ち出来ないと聞いた事があった。
だがまだ実用化には程遠いらしいが。各国は、その戦車に対抗出来る兵器の開発に勤しんでいる。
「そうだ。ルブロスティン公爵夫人はザハード王国の王女だった。国王が一番溺愛していた末娘が、嫁いだ先で殺されて国王はカンカンにお怒りだ。今すぐにでも軍を向けてこようとしているそうだ」
フリードが知らなかった事は、表情と態度で丸分かりだ。
ヘイリア帝国とザハード王国の国境付近の住民は、いつ攻め込まれるかと不安な日々を過ごしているのだ。
フリードにそこまでの影響を考える余裕はなかった。
(聞き込み調査が甘かったのか)
「事件を追っていたからといって、間接的に影響が出た国家間の問題に気付けなかった事は減点だ。
お前は離宮の愛人だなんだと呼ばれているが、陛下に忠誠を誓った配下でもあるだろう?
我々の任務は陛下第一だ。今回の任務も、陛下に害が及ぶ可能性がある事を忘れるな。
公爵は皇帝陛下を暗殺しようと計画している可能性が高い。
サーシュ侯爵を失った痛手は大きいぞ」
「……それなのに俺に任せたんですか!? 信頼していない俺に?」
『サマエル』は皇帝直属の裏組織だ。
いくら皇帝の紹介状を持ってきたとはいえ、信用ならない男に、ここまで重要な任務を任せてくるとは思わない。
「お前がダメだった時の事を考えてリュートを監視に置いた。ヘマしても仕事はリュートが引き継げるからな」
「なるほど」
「お前はスパイ以上の仕事を見せてくれた。まさか弁護士になれたとはな。公爵のスパイを見抜けた事も評価したい。
だが、ザハードとの関係性を見抜けなかった。お前に下す評価はAマイナスだ。」
「それなら評価はもっと低かったでしょう。正しい評価でお願いします」
「勝手に俺の評価を否定すんな。一度した評価は俺の判断ミスがない限り取り消さない。
とにかく。サーシュ侯爵夫人の件は任務完了とする。
だが今までのは準備運動に過ぎない。我々の目下の標的はルブロスティン公爵だ。彼は色々とやり過ぎた。
フリードに命ずる。これを最終試練とし、公爵を暗殺に成功すればサマエルに入る事を認めよう」
「はい」
「あとフリード、お前笑顔の練習しろ。作り笑顔が下手過ぎる」
「は……はぁ」
フリードは不思議に思い返事が曖昧なものとなった。なぜなら、フリードの笑顔は訓練されたものであるが、クレイル公国の大公からは綺麗だと褒められていたものだからだ。
敬礼をしてボスに背を向ける。と、引き止める声で立ち止まって振り返る。
「待ってフリード」
女性の声だ。今この空間に女性は一人しかいない。
「はい」
おどおどした雰囲気の女性だ。本当にサマエルのメンバーなのか? と疑いたくなる程。
「私はアンナっていうの。暗殺において私の右に出る人はいないって自負してる。よろしくね」
アンナはふんわりとした笑顔を見せた。
(暗器使いには見えない。銃使い? それとも色仕掛けか毒殺に長けているのか?)
「アン姉は弱々しく見せて上手く敵の懐に入るのが得意なんッスよ。でもってドMッス」
「そういうのは言っちゃだめ!」
アンナは口を膨らませて怒っている。だが、全く怖さは感じられない。
「アンナ。よろしく」
「ええ。ボスが言いたいのはね、あなたの笑顔が綺麗過ぎるっていう事。まるで人形職人が作る人形のようよ」
「そうか……?」
「ええ。美しくて綺麗だけど、そこに感情は一切ない。そんな冷たい笑顔。それでは仕事に支障をきたすわ。
だから任務と並行して少しずつ笑顔を改善出来ればいいわね」
「善処する」
どうしたらいいのだろうかと思案していると、もう一人の男が手を挙げた。
彼はフリードにはない気楽そうな笑顔を浮かべながら自己紹介をしてきた。
「んでもって、この俺様がボスに次ぐ二番手、ナターニエルだ。俺はサマエルに雇われてる傭兵隊の隊長だ。
武力が必要な時は俺に声を掛けてくれ」
「ナタ兄は近衛兵以上に強いッス。下手に喧嘩売ると殺されるッスよ」
「あん!? 俺がいつ誰を殺したって!?」
リュートは人を怒らせる天才なのだろう。ナターニエルは今にも剣を掴みそうな勢いだ。
「ほら、そういうとこッス」
「ナターニエルも、よろしく」
それぞれと挨拶を交わし、二階から降りていった。リュートはついてこないが、しばらくしたら降りてくるだろう。フリードを監視する為に。
しばらく歩くと、予想通りリュートが後ろについてきた。いつもは気配を消しているが、フリードに用事でもあるのか姿を見せて近寄ってきた。
「フリード!」
「どうした?」
リュートは必死な顔だ。そして、両肩を掴んで必死に訴えてきた。
周囲に聞かれてはマズい内容なので、小声だが。
「公爵を暗殺したら認めるなんて嘘ッスよ。公爵なんて殺したら絶対に処刑ッス。
つまりフリードさんが処刑されるッスよ。
うちのリーダー、裏切りだけは許さないっすから。フリードさんを仲間にする事は有り得ないッス。
……でも、俺っちはフリードの友達ッスから、助けてあげたいんッスよ。
聞いてください、良い方法を教えてあげるッス」
最後は優しく微笑んでみせた。フリードを安心させようとしている。
(詐欺師の手口と同じだな)
「そんな事を言いに来たのか?」
「え?」
「お前の目的は知らない。スパイらしからぬテンションの高さも、お前の任務を遂行する為の演技だろうと予測がつく。
だが、俺と友達になりたいとか、助けたいとかはさすがに嘘だと分かるぞ」
「ちぇ~、さすがはボスが認めただけあるッスね。俺っちはボスの手を煩わせないよう、素早くフリードを排除して、任務は俺っちが引き継ごうと思ってたんッスけどね」
サマエルとしては、ウェルディスに敵対しているが立場上なかなか手を出せなかった公爵を排除しながら、いつ裏切るか分からない爆弾であるフリードをも排除出来る。一石二鳥だ。
ボスにそんな魂胆があるのは分かりきっている。
「まだ認められてはいない。黙って俺を監視してろよ、その方が早く俺を排除出来るぞ。
ターゲットを排除すれば俺は死刑なんだろう?」
「フリードも嘘が下手ッスね~」
フリードはクスリと笑った。リュートの言う通り嘘だ。
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今はもうウェルディスの愛人なのだから。
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