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十八話 お母さん
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峰岸さんが、奥の部屋からボロボロの姿のお母さんを連れてきた。
リンチでもされたのかな? 服も髪も身体もボロボロじゃん。
「……文和」
「お母さん!! お母さん!!」
なんだか恥ずかしいな。大泣きしてお母さんに抱き着いて、甘えるように顔をお母さんの肩に擦り付けて、離さないように両腕でお母さんの身体を締め付けた。
もうお母さんよりオレの方が身体も大きいし、身長も高い。これからはオレがお母さんを守らなきゃって思うけど、これじゃまだ子供みたいだ。
全然大人になんかなれない。お母さんを守れないよ。
それでも会えて嬉しい。お母さんは近寄り難いくらい臭いけど、気にならないくらい嬉しかった。
「文和……ごめんね。今まで本当にごめんね」
「いいの。お母さんに幸せになって欲しくて頑張ったんだ。なのに、なんでこんな事になってんの!?
もっと計画的にお金を使ってよ! お母さんのバカ!」
「ごめんね」
「もう犯罪なんてしないでよ! 殺したり騙したり、本当何やってんの!?
親は子供の見本にならなきゃいけないんだよ? 悪いお手本見せてどうすんのさ」
「うん。うん。ごめんね」
「オレのお母さんがこんな人で恥ずかしいよ。でも見捨てないのはお母さんが、オレのお母さんだからなんだよ!
大好きなお母さんだから!」
「文和、ごめんね。ごめんね。お母さん、ちゃんとするから」
お母さんもオレを抱き締めて泣いてる。お母さんもきっと辛かったんだね。
罪を償ったら、きっとまた一緒に暮らそう。また一緒にゴロゴロしたいな。
お母さんと一緒に寝るのが一番好きだったんだから。
その後、須賀さんが車でオレとお母さんと拓音を、拓音のマンション前で降ろしてくれた。
拓音は、勝手に寝るから二人でゆっくりしてって言って一人で寝室で寝始めてしまった。
オレはお風呂にお湯を張って、お母さんに身体を洗うよう勧めた。
お風呂から上がったお母さんに着替えがないからオレの服を貸す。お母さんの身体だとオレの服はブカブカだ。
栄養が行き渡ってないみたいに貧弱だもんなぁ。
身体の傷は殆ど内出血。傷口があるわけじゃないから自然治癒に任せるしかないね。
峰岸さんはお母さんに何するんだ。あの人は嫌いだな。
オレはお粥を作って、他に作ってあった味噌汁とサラダを出した。
あと、拓音用に作ってあった焼き魚もね。
(拓音が夜ご飯抜きになっちゃった。後で夜食作らなきゃだ)
お母さんは「美味しい」って泣きながら食べてくれた。嬉しいな。オレもお茶をマグカップに入れてお母さんの向かいに座って飲んだ。
「お母さんは、あれからどうやって生きてきたの? 闇金からお金を借りて逃げてるって話は聞いてるけど」
「最初にお父さんと離れ離れになったの。あの人、逃げた先でも隠れるって考えがなくて、パチンコやってる最中に追っ手に捕まったよ。
今はどうしているのか知らないけど、私は運よくそこから逃げて沖縄で暮らしてた。
恋人も出来てね、でも結婚は出来ないから捨てられて、また恋人を作っての繰り返し。
結局、峰岸に見つかって、今度こそ終わりだって覚悟した。
そしたら、結婚詐欺でもしてお金を返せばチャラにするって言われて。何度か成功したんだけど利子分しか返せなくて、それでまた逃げたのよ」
「借金しなきゃ良かったのに」
「一度転落すると戻るのは難しいのよ。
文和も気を付けなさい。今は周りの大人が守ってくれるけど、いつかは自分の事は自分でやらなくてはならない時が来る。
その為にきちんと勉強して、生きる術を学びなさい。お母さんやお父さんみたいになってはいけないよ」
今までお母さんがどんな人生を送ってきたのかは分からない。けど、一緒に暮らしてきた時間は、少なくともオレにとっては幸せだった。
貧乏でも誰かと一緒にゴロゴロ出来るのがいいよ。お金があっても一人でゴロゴロしたって辛いだけだった。
これからはオレが生きる術ってやつを学んで、しっかりとお母さんの面倒見ないとね。
「でもお父さんは、オレの本当のお父さんじゃないんでしょ?」
「……結城から聞いたの?」
「うん。オレの本当のお父さんは、お母さんが保険金目当てに殺したって聞いたよ。結城っちも共犯だって」
「結城っち……? あなたの本当のお父さんは結城だけど?」
一瞬、思考が停止した。え? お母さんにしては珍しく笑えないジョークだな。
「それじゃ、オレ、実のお父さんに人身売買組織に売り飛ばされた事になるじゃん」
「そういう事になるわね。
少しだけお母さんの昔話をするわ。私が最初に結婚した男はね、酷いDV夫で全く仕事もしない人で、私風俗で働かされてたの。
そこを助けてくれたのが結城さん。私、結城さんと不倫してたのよ」
「へぇ~若い時も辛い思いしてたんだね」
「その時は本当に苦しかった。そんな時、文和を身篭ったの。旦那とは何年もレスだったから相手は結城さんしかいないわ。
風俗といっても本番禁止でね、私はそのルールを守ってたんだけど、どうしても結城さんは断れなくて、毎回最後までしてたの」
本番……? とりあえず、結城さんんとしかエッチしてないって事でいいのかな。
なんかお母さんのそういう話聞くの気まずいな。
「私は旦那と別れて結城と再婚したかった。でも、当時の私は八方塞がりでどうしたらいいのか分からなくて、結城に唆されて保険金殺人をしてしまったの」
「結城っち悪い人だね。好きだったけど、お母さんを苦しめた人は好きになれないかも。でも、オレに優しくしてくれたのも事実だしな。
好きなままでいていいのか、嫌いになった方がいいのか分からないや」
「ほんと文和のそういうところ、お母さんにそっくりだわ。そんな考えは自分の首を絞めるだけよ」
「そうかな。でも、好きな人が増えてくのは嬉しい事だよ」
「文和は素直で騙されやすいから心配よ。
この先多くの人と出会えば好き嫌いで測れなくなる事の方が多くなる。極端な考えは自分を苦しめるだけよ」
ちょっと分かるかも。今、まさに結城っちの事を好きか嫌いかで判断出来なくなってるし。
多分次、結城っちに会って優しくされたらやっぱり好きだなーって思っちゃいそう。
「そうかも。でも性格だからどうにも変えられないと思う。だからお母さんと同じ事するなって忠告されても、期待には応えられないかな。ごめんね」
「あんたって人は……」
「まぁまぁ。それで、結城っちとは結婚しなかったの?」
「一度はしたわよ。でも、価値観の違いってやつ? 半年で別れたわ。離婚後にあなたを妊娠してるって分かってね」
「だから結城っちオレの名前知らなかったんだね。今のお父さんは? あれ、今のって言っていいのかな?」
「一緒に住んでたお父さんは籍は入れてないの。内縁関係ってやつでね」
「へぇ。お父さん、オレがいたのにお母さんを選んでくれたんだね」
そう考えると、お父さんは悪い人じゃなかったのかな。オレに冷たくて、無視する事が多かったり、父親らしい事は一切しなかったっけ。
「そんな優しい人じゃないわ。
最初の旦那の保険金も彼に貢いだのに、お金がなくなると身体を売れって言われたり。
最初の旦那と変わらないわ。類は友を呼ぶって事なんでしょうね」
「うわ」
最悪じゃん。お母さん、男の見る目ないなぁ。
オレはそんな人達に似なくて良かったー。
「目が覚めてから、計画的にお金を使えば良かったってすごく後悔した。
今までの人生後悔しかないの」
お母さんは、俯いて静かに泣き始めちゃった。だから、オレはお母さんの後ろに立って、抱きしめたんだ。
小さくて細い身体で肉が殆どないみたいに骨ばってる。辛かったよね、一人で耐えてきたんだね。
「お母さん。雪夜がオレを買った事もそうだけど、お母さんの不倫とか、殺人とか、借金して子供放って逃げっちゃったりとか、結婚詐欺とか? 世間から見れば悪い事で、犯罪行為で、非難される事しても、オレからしたら全部許せちゃう事なんだよ。
被害者の人には悪いけど、オレはお母さんがどんなに悪人でも最後まで味方だからね。
でも今後お母さんがどうしたいのか、それはお母さんの判断に任せるよ。
オレはお母さんがどんな選択をしても、守れるように準備しておくね」
「ふ……ふぇぇぇぇぇん」
お母さんは子供みたいに泣きじゃくった。
拓音が起きちゃうよって思ったけど、言えなかった。
腕の中のお母さんは小さくて、俺より子供になったみたいに震えながら泣いてて、今は黙って泣かせてあげようって思ったから。
リンチでもされたのかな? 服も髪も身体もボロボロじゃん。
「……文和」
「お母さん!! お母さん!!」
なんだか恥ずかしいな。大泣きしてお母さんに抱き着いて、甘えるように顔をお母さんの肩に擦り付けて、離さないように両腕でお母さんの身体を締め付けた。
もうお母さんよりオレの方が身体も大きいし、身長も高い。これからはオレがお母さんを守らなきゃって思うけど、これじゃまだ子供みたいだ。
全然大人になんかなれない。お母さんを守れないよ。
それでも会えて嬉しい。お母さんは近寄り難いくらい臭いけど、気にならないくらい嬉しかった。
「文和……ごめんね。今まで本当にごめんね」
「いいの。お母さんに幸せになって欲しくて頑張ったんだ。なのに、なんでこんな事になってんの!?
もっと計画的にお金を使ってよ! お母さんのバカ!」
「ごめんね」
「もう犯罪なんてしないでよ! 殺したり騙したり、本当何やってんの!?
親は子供の見本にならなきゃいけないんだよ? 悪いお手本見せてどうすんのさ」
「うん。うん。ごめんね」
「オレのお母さんがこんな人で恥ずかしいよ。でも見捨てないのはお母さんが、オレのお母さんだからなんだよ!
大好きなお母さんだから!」
「文和、ごめんね。ごめんね。お母さん、ちゃんとするから」
お母さんもオレを抱き締めて泣いてる。お母さんもきっと辛かったんだね。
罪を償ったら、きっとまた一緒に暮らそう。また一緒にゴロゴロしたいな。
お母さんと一緒に寝るのが一番好きだったんだから。
その後、須賀さんが車でオレとお母さんと拓音を、拓音のマンション前で降ろしてくれた。
拓音は、勝手に寝るから二人でゆっくりしてって言って一人で寝室で寝始めてしまった。
オレはお風呂にお湯を張って、お母さんに身体を洗うよう勧めた。
お風呂から上がったお母さんに着替えがないからオレの服を貸す。お母さんの身体だとオレの服はブカブカだ。
栄養が行き渡ってないみたいに貧弱だもんなぁ。
身体の傷は殆ど内出血。傷口があるわけじゃないから自然治癒に任せるしかないね。
峰岸さんはお母さんに何するんだ。あの人は嫌いだな。
オレはお粥を作って、他に作ってあった味噌汁とサラダを出した。
あと、拓音用に作ってあった焼き魚もね。
(拓音が夜ご飯抜きになっちゃった。後で夜食作らなきゃだ)
お母さんは「美味しい」って泣きながら食べてくれた。嬉しいな。オレもお茶をマグカップに入れてお母さんの向かいに座って飲んだ。
「お母さんは、あれからどうやって生きてきたの? 闇金からお金を借りて逃げてるって話は聞いてるけど」
「最初にお父さんと離れ離れになったの。あの人、逃げた先でも隠れるって考えがなくて、パチンコやってる最中に追っ手に捕まったよ。
今はどうしているのか知らないけど、私は運よくそこから逃げて沖縄で暮らしてた。
恋人も出来てね、でも結婚は出来ないから捨てられて、また恋人を作っての繰り返し。
結局、峰岸に見つかって、今度こそ終わりだって覚悟した。
そしたら、結婚詐欺でもしてお金を返せばチャラにするって言われて。何度か成功したんだけど利子分しか返せなくて、それでまた逃げたのよ」
「借金しなきゃ良かったのに」
「一度転落すると戻るのは難しいのよ。
文和も気を付けなさい。今は周りの大人が守ってくれるけど、いつかは自分の事は自分でやらなくてはならない時が来る。
その為にきちんと勉強して、生きる術を学びなさい。お母さんやお父さんみたいになってはいけないよ」
今までお母さんがどんな人生を送ってきたのかは分からない。けど、一緒に暮らしてきた時間は、少なくともオレにとっては幸せだった。
貧乏でも誰かと一緒にゴロゴロ出来るのがいいよ。お金があっても一人でゴロゴロしたって辛いだけだった。
これからはオレが生きる術ってやつを学んで、しっかりとお母さんの面倒見ないとね。
「でもお父さんは、オレの本当のお父さんじゃないんでしょ?」
「……結城から聞いたの?」
「うん。オレの本当のお父さんは、お母さんが保険金目当てに殺したって聞いたよ。結城っちも共犯だって」
「結城っち……? あなたの本当のお父さんは結城だけど?」
一瞬、思考が停止した。え? お母さんにしては珍しく笑えないジョークだな。
「それじゃ、オレ、実のお父さんに人身売買組織に売り飛ばされた事になるじゃん」
「そういう事になるわね。
少しだけお母さんの昔話をするわ。私が最初に結婚した男はね、酷いDV夫で全く仕事もしない人で、私風俗で働かされてたの。
そこを助けてくれたのが結城さん。私、結城さんと不倫してたのよ」
「へぇ~若い時も辛い思いしてたんだね」
「その時は本当に苦しかった。そんな時、文和を身篭ったの。旦那とは何年もレスだったから相手は結城さんしかいないわ。
風俗といっても本番禁止でね、私はそのルールを守ってたんだけど、どうしても結城さんは断れなくて、毎回最後までしてたの」
本番……? とりあえず、結城さんんとしかエッチしてないって事でいいのかな。
なんかお母さんのそういう話聞くの気まずいな。
「私は旦那と別れて結城と再婚したかった。でも、当時の私は八方塞がりでどうしたらいいのか分からなくて、結城に唆されて保険金殺人をしてしまったの」
「結城っち悪い人だね。好きだったけど、お母さんを苦しめた人は好きになれないかも。でも、オレに優しくしてくれたのも事実だしな。
好きなままでいていいのか、嫌いになった方がいいのか分からないや」
「ほんと文和のそういうところ、お母さんにそっくりだわ。そんな考えは自分の首を絞めるだけよ」
「そうかな。でも、好きな人が増えてくのは嬉しい事だよ」
「文和は素直で騙されやすいから心配よ。
この先多くの人と出会えば好き嫌いで測れなくなる事の方が多くなる。極端な考えは自分を苦しめるだけよ」
ちょっと分かるかも。今、まさに結城っちの事を好きか嫌いかで判断出来なくなってるし。
多分次、結城っちに会って優しくされたらやっぱり好きだなーって思っちゃいそう。
「そうかも。でも性格だからどうにも変えられないと思う。だからお母さんと同じ事するなって忠告されても、期待には応えられないかな。ごめんね」
「あんたって人は……」
「まぁまぁ。それで、結城っちとは結婚しなかったの?」
「一度はしたわよ。でも、価値観の違いってやつ? 半年で別れたわ。離婚後にあなたを妊娠してるって分かってね」
「だから結城っちオレの名前知らなかったんだね。今のお父さんは? あれ、今のって言っていいのかな?」
「一緒に住んでたお父さんは籍は入れてないの。内縁関係ってやつでね」
「へぇ。お父さん、オレがいたのにお母さんを選んでくれたんだね」
そう考えると、お父さんは悪い人じゃなかったのかな。オレに冷たくて、無視する事が多かったり、父親らしい事は一切しなかったっけ。
「そんな優しい人じゃないわ。
最初の旦那の保険金も彼に貢いだのに、お金がなくなると身体を売れって言われたり。
最初の旦那と変わらないわ。類は友を呼ぶって事なんでしょうね」
「うわ」
最悪じゃん。お母さん、男の見る目ないなぁ。
オレはそんな人達に似なくて良かったー。
「目が覚めてから、計画的にお金を使えば良かったってすごく後悔した。
今までの人生後悔しかないの」
お母さんは、俯いて静かに泣き始めちゃった。だから、オレはお母さんの後ろに立って、抱きしめたんだ。
小さくて細い身体で肉が殆どないみたいに骨ばってる。辛かったよね、一人で耐えてきたんだね。
「お母さん。雪夜がオレを買った事もそうだけど、お母さんの不倫とか、殺人とか、借金して子供放って逃げっちゃったりとか、結婚詐欺とか? 世間から見れば悪い事で、犯罪行為で、非難される事しても、オレからしたら全部許せちゃう事なんだよ。
被害者の人には悪いけど、オレはお母さんがどんなに悪人でも最後まで味方だからね。
でも今後お母さんがどうしたいのか、それはお母さんの判断に任せるよ。
オレはお母さんがどんな選択をしても、守れるように準備しておくね」
「ふ……ふぇぇぇぇぇん」
お母さんは子供みたいに泣きじゃくった。
拓音が起きちゃうよって思ったけど、言えなかった。
腕の中のお母さんは小さくて、俺より子供になったみたいに震えながら泣いてて、今は黙って泣かせてあげようって思ったから。
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