嘘つきな俺たち

眠りん

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六話 やっぱりバカ

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 駅前のファストフード店は、夕方ともあって混雑している。地元の学ラン姿の学生達が多く、俺ら二人は制服がブレザーな上に臙脂(えんじ)色なのでちょっぴり浮いている。

 二階席で俺と怜治は窓側のカウンター席に並んで座った。壁の真ん中から上が全面的に窓になっているので、外を眺めながらのんびり出来るというわけだ。

 ま、これから怜治の暗い話でも聞くわけだから、外を眺めるという気分でもない。
 俺は小さいサイズのコーラ、怜治は真ん中サイズのスプライトを並べて置いた。

「で、さっきのは?」

 俯いたまま、なかなか話そうとしない怜治にイラついて俺から話し掛けた。

「俺さぁ、昔からおかしいんだよね。好きな人とか、大事な人を前にすると緊張して、気付くと酷い事言ってるんだ。
 もちろんあんな事一ミリだって思ってない」

「お姉さん美人だもんな。ブスって……」

「気付くと、思ってる事と反対の事を言ってるんだよ」

「家ではどうしてるんだよ」

「姉貴が俺を避けてる。顔合わせるといつも喧嘩になるし」

「へぇ」

「俺、姉貴の事大好きなのに……うう……。本当はもっと普通の姉弟みたいに仲良くしたい」

 怜治は半分涙目。聞き役の俺は何も出来ずにコーラを啜っていたが、もう飲み終わりそう。
 真ん中サイズにしておけばよかったな。

「謝って、本当の事言えばいいじゃん」

「そんな事出来ていたらこんなに悩んでない」

「それもそうか」

「中学ん時もさ、俺、好きな子がいたんだ」

「ふぅん」

 まさか……なんだろうなぁ。

「その子はお前と同じ苗字で、名前は風花ちゃんっていうんだ」

 もう聞かなくても分かる。あの告白は……そういう事なんだろう。
 こいつをどうしてやろうか。何かやり返してやりたい、そんな気持ちが込み上げてくる。

「俺、中学の時バスケ部でさ。その仲間達とカードゲームをしたんだけど。俺が負けたら、急に負けた奴は好きな人に告白する、って罰ゲームのルールを追加しやがったんだ」

 お前が告白出来ずに悶々としてたんだろうなぁ? 煮えきらなくなったバスケ部達が、お膳立てしたってところかな。

「あいつら、なんか真剣でさ。絶対風花ちゃん、俺の事好きだろうから、お前から告ってやれよ好きなんだろ? って。
 俺は風花ちゃんを桜の木前に呼び出したんだ。その桜の木っていうのはさ、そこで告れば振られないってジンクスがあって」

 ん? 俺が知ってるジンクスと違う。その桜の木の下で恋人同士になると幸せになれるって話だ。
 自分の都合のいいように微妙に脚色してやがる。

「そんなジンクスあったら、皆そこで告るんじゃねぇの?」

「……うん、だから皆そこで告ってた」

「中には振られる奴もいたと思うけど」

「そういえば。なんでそんなジンクスあったんだろう?」

 怜治はポカンと俺を見てきた。いや、知らんよ!! 実は天然なのかな?

「聞き間違えじゃないか?」

「かもな。まぁそれはいいんだ。
 問題は俺がその風花に告白した時。最初は付き合って下さいって言えたんだけど、返事を待っているのが苦しくて、気付いたらなんか酷い事言ってた。ブスとか言ったかな」

「最低」

「うう……。昔からなんだ、好きな人を前にすると、思ってる事と逆の事を言っちまう。
 どうすりゃいいんだよ……」

「それは橋村が頑張って、自分の本当の気持ちを言えばいいんじゃないのか?」

 うっ、自分にダメージきたな。本当の自分すら出せずに、嘘を並べる俺が言うと白々しい。

 初めて真っ向から本心をさらけ出してしまった母さんは、そのせいで心臓に負荷がかかって死んでしまったし。
 本心なんて言うもんじゃないと思ってる。

「出来るなら最初からそうしてるよ。なぁ、関原に頼みがあるんだけど……」

「なに?」

「俺、風花ちゃんに謝りたいんだ。一緒に付いてきてくれないか? 俺が変な事言ったら殴ってでも止めて欲しい」

 それは出来ない相談だな。風花はいないし、俺は一人しかいない。何故か知らんけど、怜治は風花の居場所を知ってるような口ぶりだ。

「居場所を知ってるのか?」

「知らない……けど、探して会いに行きたい。その時、関原に近くにいて欲しいんだ」

 分かった、そこまで反省してるんならもう謝罪は要らない。って思っても怜治には伝わらない。
 ただ、俺の中であの日の怒りは鎮火した。
 でも、罰は受けないといけないよね?

「残念だけど、謝りに行けないよ」

「な、ど……どうして!?

 ようやく仕返しが出来る、と嬉しくなる気持ちを隠して悲しげな顔をしてみせた。
 ああ、こんなに嬉しい事はない。

「妹は死んだから」
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