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七話 助けてあげる
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この世には綺麗な言葉が溢れる程ある。お義父さんが俺に言う様な、優しい褒め言葉もそう。
そういう耳触りの良い言葉を君に向けてあげられたら良かったんだろうね。
例えば、風花に一緒に謝りに行って欲しいって言われたら「いいよ、橋村の力になるよ」なんて言ってやれば、君は喜んでくれた事だろう。
その後で、風花を見付けられなくても「残念だね」って言ってずっと味方でいてやればいい。
もし、風花の死亡がバレたら慰めてやればいい。
それで怜治は俺に恩を感じてくれるだろう。俺さえ望めばずっと友人でいてくれるかもしれない。
けど俺は、そんな綺麗な言葉を拾わない。寧ろ綺麗な言葉があればドブの中に捨てる。
そんな吹けば飛んでいくような薄っぺらい関係を築くつもりなんてない。
俺にあんな言葉を吐いた君の事情を知った。そして、俺の中では許した。
許していなければ、こんな風に君を縛る事はしなかったのに、不憫な子だな。
「妹は死んだよ」
呪いの言葉を吐く。
青くなった君の顔を、元に戻せるのは俺だけだ。おいで。君に十字架を背負わせてあげるから……。
怜治を連れて家に帰った。
俺とお義父さんの暮らす家。誰にも足を踏み入れさせないと思っていた、俺とお義父さんだけの家だ。
その中に怜治がいて、さっきから何も言わずに無言で俺の後ろをチョコチョコと付いてきている。
いつも明るい君を、ここまで暗くさせる事が出来るのは俺だけだ。もっと絶望して、俺に縋ればいい。
ニヤけそうになるのをこらえて二階に上がり、亡くなったときのまま保存されている妹の部屋に入った。
お義父さんが置いた風花の写真が机の上にある。中学入学の時の写真だ。
照れくさそうに微笑んでいる姿が写っている。
怜治は苦しそうに風花の写真を見つめていて、今にも泣きそうだ。
「俺と妹は父親が違う兄妹でね、俺、本当は二歳上なんだ」
「そ、そうだったん……ですか」
急に敬語になった。年上と知ったから? それとも風花の兄だと知ったから?
「うん。怪我して一年以上寝てたから橋村と同学年なんだ。俺と橋村、二人だけの秘密だから、学校では敬語使うなよ」
「ふ、二人だけの」
「そう」
「あのっ……すみませんでした!!」
怜治は大声で謝罪をした。壁に反響するように怜治の声は響く。心地良い音だと思えた。
「妹は君が好きだった。好きな人に告白されて嬉しかったのに、その直後に地獄に叩き落とされた。妹の苦悩が君に分かるかい?」
「すみません」
「どうせ分からないだろうな?
君は人気者で、皆に愛されてた。人との対話が苦手だった風花の君に暴言を吐かれたときの気持ちなんて……分かる筈がないよな」
「本当に、俺は取り返しの付かない事を……。もう謝れもしないなんて」
怜治は棒立ちのまま涙を流した。
さて、もっと罪悪感で苦しんでもらおうじゃないか。
「本当に取り返しが付かないよな。妹は橋村に言われた事を気にして自殺してしまったんだから」
「そ、そんな……!? 今までどうして黙っていたんですか!? もっと早く言っていれば、俺あなたに馴れ馴れしくなんて出来なかったし……もっと早く謝罪出来たのに」
「妹から聞いていた橋村という男はね、とても優しくて、いつも明るくて見ているだけで自分まで明るくなれる人なんだって。
そんな君が、妹に暴言を吐いたのは何か理由があると思っていたんだよ」
俺だけが君の理解者だとでも言うように、優しい笑顔を浮かべてみせた。
「──だから君の様子を見させてもらっていた」
「そう……だったんですね」
後悔しているのだろう、涙を流しているる怜治。自分のせいで俺の妹が自殺したなんて思い込まされて、可哀想だね。
大丈夫、今俺が助けてあげるから。
「俺が見て、妹の言う通りの人だと思ったよ。
君は悪くない。妹はちょっと被害妄想も強かったし、思い詰めると何するか分からなかったんだから」
「でも、それでも俺のせいで」
「違うって。妹の代わりに俺が許そう。
俺の妹なら、自殺したのは橋村のせいじゃないって言う筈だから」
「お、お兄さん」
「いつもみたいに関原でいいよ」
「でも……」
君は姉や好きな人に対しておかしくなる以外はまともな人間だ。
普段あれだけ人から好かれるのは、偏に怜治の人間性がいいからだよ。
だから、俺はそんな怜治の長所に付け込んだ。
「自分が許せないか?」
「許せません」
「まぁ、俺も橋村に対して何も思わないわけじゃない。俺のお願いを一つ叶えてくれたら、この事は誰にも言わないでいてあげるよ」
「えっ、本当ですか?」
「うん。もし無理だったら断っていいよ。
叶えてくれなくても恨んだりしないし、誰かに吹聴もしない。少しだけ俺の不満が解消されるだけだから」
「なんでもします! 何をすればいいですか?」
真面目な顔をした怜治が、罰を受けますと頭を下げている。
その姿を見るだけで、下着が盛り上がる。
「俺、ゲイなんだよね。一度だけ掘らせてよ」
そういう耳触りの良い言葉を君に向けてあげられたら良かったんだろうね。
例えば、風花に一緒に謝りに行って欲しいって言われたら「いいよ、橋村の力になるよ」なんて言ってやれば、君は喜んでくれた事だろう。
その後で、風花を見付けられなくても「残念だね」って言ってずっと味方でいてやればいい。
もし、風花の死亡がバレたら慰めてやればいい。
それで怜治は俺に恩を感じてくれるだろう。俺さえ望めばずっと友人でいてくれるかもしれない。
けど俺は、そんな綺麗な言葉を拾わない。寧ろ綺麗な言葉があればドブの中に捨てる。
そんな吹けば飛んでいくような薄っぺらい関係を築くつもりなんてない。
俺にあんな言葉を吐いた君の事情を知った。そして、俺の中では許した。
許していなければ、こんな風に君を縛る事はしなかったのに、不憫な子だな。
「妹は死んだよ」
呪いの言葉を吐く。
青くなった君の顔を、元に戻せるのは俺だけだ。おいで。君に十字架を背負わせてあげるから……。
怜治を連れて家に帰った。
俺とお義父さんの暮らす家。誰にも足を踏み入れさせないと思っていた、俺とお義父さんだけの家だ。
その中に怜治がいて、さっきから何も言わずに無言で俺の後ろをチョコチョコと付いてきている。
いつも明るい君を、ここまで暗くさせる事が出来るのは俺だけだ。もっと絶望して、俺に縋ればいい。
ニヤけそうになるのをこらえて二階に上がり、亡くなったときのまま保存されている妹の部屋に入った。
お義父さんが置いた風花の写真が机の上にある。中学入学の時の写真だ。
照れくさそうに微笑んでいる姿が写っている。
怜治は苦しそうに風花の写真を見つめていて、今にも泣きそうだ。
「俺と妹は父親が違う兄妹でね、俺、本当は二歳上なんだ」
「そ、そうだったん……ですか」
急に敬語になった。年上と知ったから? それとも風花の兄だと知ったから?
「うん。怪我して一年以上寝てたから橋村と同学年なんだ。俺と橋村、二人だけの秘密だから、学校では敬語使うなよ」
「ふ、二人だけの」
「そう」
「あのっ……すみませんでした!!」
怜治は大声で謝罪をした。壁に反響するように怜治の声は響く。心地良い音だと思えた。
「妹は君が好きだった。好きな人に告白されて嬉しかったのに、その直後に地獄に叩き落とされた。妹の苦悩が君に分かるかい?」
「すみません」
「どうせ分からないだろうな?
君は人気者で、皆に愛されてた。人との対話が苦手だった風花の君に暴言を吐かれたときの気持ちなんて……分かる筈がないよな」
「本当に、俺は取り返しの付かない事を……。もう謝れもしないなんて」
怜治は棒立ちのまま涙を流した。
さて、もっと罪悪感で苦しんでもらおうじゃないか。
「本当に取り返しが付かないよな。妹は橋村に言われた事を気にして自殺してしまったんだから」
「そ、そんな……!? 今までどうして黙っていたんですか!? もっと早く言っていれば、俺あなたに馴れ馴れしくなんて出来なかったし……もっと早く謝罪出来たのに」
「妹から聞いていた橋村という男はね、とても優しくて、いつも明るくて見ているだけで自分まで明るくなれる人なんだって。
そんな君が、妹に暴言を吐いたのは何か理由があると思っていたんだよ」
俺だけが君の理解者だとでも言うように、優しい笑顔を浮かべてみせた。
「──だから君の様子を見させてもらっていた」
「そう……だったんですね」
後悔しているのだろう、涙を流しているる怜治。自分のせいで俺の妹が自殺したなんて思い込まされて、可哀想だね。
大丈夫、今俺が助けてあげるから。
「俺が見て、妹の言う通りの人だと思ったよ。
君は悪くない。妹はちょっと被害妄想も強かったし、思い詰めると何するか分からなかったんだから」
「でも、それでも俺のせいで」
「違うって。妹の代わりに俺が許そう。
俺の妹なら、自殺したのは橋村のせいじゃないって言う筈だから」
「お、お兄さん」
「いつもみたいに関原でいいよ」
「でも……」
君は姉や好きな人に対しておかしくなる以外はまともな人間だ。
普段あれだけ人から好かれるのは、偏に怜治の人間性がいいからだよ。
だから、俺はそんな怜治の長所に付け込んだ。
「自分が許せないか?」
「許せません」
「まぁ、俺も橋村に対して何も思わないわけじゃない。俺のお願いを一つ叶えてくれたら、この事は誰にも言わないでいてあげるよ」
「えっ、本当ですか?」
「うん。もし無理だったら断っていいよ。
叶えてくれなくても恨んだりしないし、誰かに吹聴もしない。少しだけ俺の不満が解消されるだけだから」
「なんでもします! 何をすればいいですか?」
真面目な顔をした怜治が、罰を受けますと頭を下げている。
その姿を見るだけで、下着が盛り上がる。
「俺、ゲイなんだよね。一度だけ掘らせてよ」
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