21 / 67
第三章 探索
刑務所探索その1
しおりを挟む
独房から出た先は、『異空間』といって差し支えない雰囲気だった。少なくとも、私が思う刑務所の見た目とはだいぶ違っている。
ここまで白くしなくていいんじゃないかと思うほどなにもかもが白く、壁にも廊下にも、1ミリの黒いシミひとつ見当たらない。看守の仕事は、この『白』をキープすることなのだろうか。
ヤミのことを5日も放置していたくらいだから、囚人管理以上に刑務所を白くすることの方が、彼らにとっては重要な任務なのかもしれない。
そして、窓一つない廊下はとても静かだった。さっきヤミは『この刑務所には自分しかいないと思っていた』と言ってたけど、まさしくその通りだと感じた。少なくとも、自由時間開始のブザー音とともに廊下に出てきた人影は私達だけのようだ。
「……白いわね。昨日のシャワーの時も思ったけど」
「そうだよね、僕も思ってた。カミサマ面談に行った時に、目眩を起こしそうになったよ。……あまりにも白すぎて」
確かにこの廊下は、立っているだけで気分が悪くなる感じがする。果たして『白さ』だけが目眩の原因なのだろうか?
「私はちょっと、フロアを探検してくる。他の独房も覗いてみたいし。ヤミはどうする?」
「え?一緒に行くよ」
「運動室と図書室は?探しに行かなくていいの?」
「一緒に探検してたらそのうち見つかるよ。心配だからついて行っていい?」
心配?……私きっと、ヤミより強いよ。魔法が使えなくたって、ナイフがあるし。
「……女だからって心配しなくていいよ。一人旅の経験も長いし……」
「でも今は一人じゃないだろ?何かあったときに二人の方が安心じゃないか。どっちかが助けを呼びに行けるしさ」
『助けを呼びに行く』か……。ヤミの言う通り、トラブルがあれば看守に報告に行くのが正解だろう。
何の根拠もなく第一声で『俺が助ける』とか言わないヤミに、ちょっとした好感を持つ。私は、簡単に『俺が守る』と言えてしまう男の人が……ちょっぴり苦手だ。
「他の囚人の気配はしないけど……でも万が一ってこともあるよ。いくら君が強くても、犯罪者が収容されている場所を女性が一人で歩くのは危ないと思う。何人かによってたかって襲われて、部屋に連れ込まれたらどうするの」
「……そうね、ありがとう」
魔法があれば大男の集団にだって負けない自信はある。一対一ならナイフで勝てる。
ただし今は魔法が使えないから、その状態で大人数で来られたら……正直勝てるかはわからない。今回は、ヤミの好意に甘えよう。
一人で生きてきた年月が長い私には個人行動の癖が骨の髄まで染み付いていて、なんでも一人で動きたくなってしまう。強がっているわけではなくて、その方が『楽』だから。
もちろん一人で動いて危険にさらされることもある。でも、それも『自己責任』。自己責任だと思えば、苦しいことだってなんだって受け入れられる。
誰かと一緒にいるほうが、重いしつらいし窮屈だ。『俺が守る』と言う男の人が苦手なのは、もしかしたら同族嫌悪かもしれない。私は無意識的に、一緒にいる誰かを『守らなきゃ』と思っているのかも。
立ち話を終えた私達は独房を出てから左回りにフロアの外周を探索していった。慎重に周囲を確認しながらフロアを歩く。
長い廊下に沿っていくつもの独房が並んでいたが、そのどれからも何一つ物音がしてこない。小窓から中を覗いてみたりもしたけど、独房内には誰もいないように見えた。
長い廊下の途中の扉に『ラウンジ』の文字を見つけ、入ってみる。室内は談話スペースになっていて、一人掛けソファと小さな正方形のローデスクがいくつか並んでいた。
ヤミの独房から左回りに歩いた私達は、ぐるっとフロアを一周して自分たちの部屋の前に戻ってきたのだった。
他の囚人とのトラブルとか、迷子とか……色々な可能性を想定していたのだけど、肩透かしを食らった気分だ。
「あの看守も……思わせぶりなこと言うよね。てっきり他の囚人がいるのかと思ったのに」
「そうだね。まさか誰とも会わないとは思わなかった」
「あと確認していないのは……フロアの真ん中をつっきってた短い廊下ね」
「行ってみよう」
そして私達は嬉しい発見をする。短い廊下の左右にはなんと「トレーニングルーム」と「図書室」への扉があったのだ。
「わ、本当にあった!ヤミ、トレーニングルームもあるよ!」
「助かった、今日からランニングを再開できる。……それより火置さん、この廊下の探検が終わったら、図書室でちょっと休憩しない?」
「いいよ」
途中『エレベーター』らしきものを見つけた私達は、恐る恐るボタンを押してみた。しかし電気が通っていないようで反応はなかった。
フロア全体を確認し終えた私達は、図書室へと向かう。それにしても、これだけ独房が並んでいて囚人の音沙汰が一切ないっていうのはどういうことなのだろう。
歩きながらヤミを見る。彼は腕を組んで何かを考えているようだ。この刑務所についての彼の意見も聞いておきたい。
「ヤミは、この場所について何か思ったことはある?」
「これだけ広いのに僕の貸し切りなんて、税金の無駄遣いにもほどがあるなと思ったよ」
「そのうち国民がカミサマに反旗を翻すんじゃないの?」
「1ヶ月以内に暴動が起きて、僕の死刑がキャンセルされないよう祈るばかりだよ。……さて、図書室に着いた。ちょっと君に話しておきたいことがあるんだ」
「……わかった」
私達は図書室の扉を開け、中に入っていった。
ここまで白くしなくていいんじゃないかと思うほどなにもかもが白く、壁にも廊下にも、1ミリの黒いシミひとつ見当たらない。看守の仕事は、この『白』をキープすることなのだろうか。
ヤミのことを5日も放置していたくらいだから、囚人管理以上に刑務所を白くすることの方が、彼らにとっては重要な任務なのかもしれない。
そして、窓一つない廊下はとても静かだった。さっきヤミは『この刑務所には自分しかいないと思っていた』と言ってたけど、まさしくその通りだと感じた。少なくとも、自由時間開始のブザー音とともに廊下に出てきた人影は私達だけのようだ。
「……白いわね。昨日のシャワーの時も思ったけど」
「そうだよね、僕も思ってた。カミサマ面談に行った時に、目眩を起こしそうになったよ。……あまりにも白すぎて」
確かにこの廊下は、立っているだけで気分が悪くなる感じがする。果たして『白さ』だけが目眩の原因なのだろうか?
「私はちょっと、フロアを探検してくる。他の独房も覗いてみたいし。ヤミはどうする?」
「え?一緒に行くよ」
「運動室と図書室は?探しに行かなくていいの?」
「一緒に探検してたらそのうち見つかるよ。心配だからついて行っていい?」
心配?……私きっと、ヤミより強いよ。魔法が使えなくたって、ナイフがあるし。
「……女だからって心配しなくていいよ。一人旅の経験も長いし……」
「でも今は一人じゃないだろ?何かあったときに二人の方が安心じゃないか。どっちかが助けを呼びに行けるしさ」
『助けを呼びに行く』か……。ヤミの言う通り、トラブルがあれば看守に報告に行くのが正解だろう。
何の根拠もなく第一声で『俺が助ける』とか言わないヤミに、ちょっとした好感を持つ。私は、簡単に『俺が守る』と言えてしまう男の人が……ちょっぴり苦手だ。
「他の囚人の気配はしないけど……でも万が一ってこともあるよ。いくら君が強くても、犯罪者が収容されている場所を女性が一人で歩くのは危ないと思う。何人かによってたかって襲われて、部屋に連れ込まれたらどうするの」
「……そうね、ありがとう」
魔法があれば大男の集団にだって負けない自信はある。一対一ならナイフで勝てる。
ただし今は魔法が使えないから、その状態で大人数で来られたら……正直勝てるかはわからない。今回は、ヤミの好意に甘えよう。
一人で生きてきた年月が長い私には個人行動の癖が骨の髄まで染み付いていて、なんでも一人で動きたくなってしまう。強がっているわけではなくて、その方が『楽』だから。
もちろん一人で動いて危険にさらされることもある。でも、それも『自己責任』。自己責任だと思えば、苦しいことだってなんだって受け入れられる。
誰かと一緒にいるほうが、重いしつらいし窮屈だ。『俺が守る』と言う男の人が苦手なのは、もしかしたら同族嫌悪かもしれない。私は無意識的に、一緒にいる誰かを『守らなきゃ』と思っているのかも。
立ち話を終えた私達は独房を出てから左回りにフロアの外周を探索していった。慎重に周囲を確認しながらフロアを歩く。
長い廊下に沿っていくつもの独房が並んでいたが、そのどれからも何一つ物音がしてこない。小窓から中を覗いてみたりもしたけど、独房内には誰もいないように見えた。
長い廊下の途中の扉に『ラウンジ』の文字を見つけ、入ってみる。室内は談話スペースになっていて、一人掛けソファと小さな正方形のローデスクがいくつか並んでいた。
ヤミの独房から左回りに歩いた私達は、ぐるっとフロアを一周して自分たちの部屋の前に戻ってきたのだった。
他の囚人とのトラブルとか、迷子とか……色々な可能性を想定していたのだけど、肩透かしを食らった気分だ。
「あの看守も……思わせぶりなこと言うよね。てっきり他の囚人がいるのかと思ったのに」
「そうだね。まさか誰とも会わないとは思わなかった」
「あと確認していないのは……フロアの真ん中をつっきってた短い廊下ね」
「行ってみよう」
そして私達は嬉しい発見をする。短い廊下の左右にはなんと「トレーニングルーム」と「図書室」への扉があったのだ。
「わ、本当にあった!ヤミ、トレーニングルームもあるよ!」
「助かった、今日からランニングを再開できる。……それより火置さん、この廊下の探検が終わったら、図書室でちょっと休憩しない?」
「いいよ」
途中『エレベーター』らしきものを見つけた私達は、恐る恐るボタンを押してみた。しかし電気が通っていないようで反応はなかった。
フロア全体を確認し終えた私達は、図書室へと向かう。それにしても、これだけ独房が並んでいて囚人の音沙汰が一切ないっていうのはどういうことなのだろう。
歩きながらヤミを見る。彼は腕を組んで何かを考えているようだ。この刑務所についての彼の意見も聞いておきたい。
「ヤミは、この場所について何か思ったことはある?」
「これだけ広いのに僕の貸し切りなんて、税金の無駄遣いにもほどがあるなと思ったよ」
「そのうち国民がカミサマに反旗を翻すんじゃないの?」
「1ヶ月以内に暴動が起きて、僕の死刑がキャンセルされないよう祈るばかりだよ。……さて、図書室に着いた。ちょっと君に話しておきたいことがあるんだ」
「……わかった」
私達は図書室の扉を開け、中に入っていった。
0
あなたにおすすめの小説
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
青春リフレクション
羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。
命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。
そんなある日、一人の少女に出会う。
彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。
でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!?
胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる