夏休みの夕闇~刑務所編~

苫都千珠(とまとちず)

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第三章 探索

刑務所探索その1

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独房から出た先は、『異空間』といって差し支えない雰囲気だった。少なくとも、私が思う刑務所の見た目とはだいぶ違っている。

ここまで白くしなくていいんじゃないかと思うほどなにもかもが白く、壁にも廊下にも、1ミリの黒いシミひとつ見当たらない。看守の仕事は、この『白』をキープすることなのだろうか。

ヤミのことを5日も放置していたくらいだから、囚人管理以上に刑務所を白くすることの方が、彼らにとっては重要な任務なのかもしれない。

そして、窓一つない廊下はとても静かだった。さっきヤミは『この刑務所には自分しかいないと思っていた』と言ってたけど、まさしくその通りだと感じた。少なくとも、自由時間開始のブザー音とともに廊下に出てきた人影は私達だけのようだ。


「……白いわね。昨日のシャワーの時も思ったけど」

「そうだよね、僕も思ってた。カミサマ面談に行った時に、目眩を起こしそうになったよ。……あまりにも白すぎて」

確かにこの廊下は、立っているだけで気分が悪くなる感じがする。果たして『白さ』だけが目眩の原因なのだろうか?

「私はちょっと、フロアを探検してくる。他の独房も覗いてみたいし。ヤミはどうする?」

「え?一緒に行くよ」

「運動室と図書室は?探しに行かなくていいの?」

「一緒に探検してたらそのうち見つかるよ。心配だからついて行っていい?」

心配?……私きっと、ヤミより強いよ。魔法が使えなくたって、ナイフがあるし。

「……女だからって心配しなくていいよ。一人旅の経験も長いし……」

「でも今は一人じゃないだろ?何かあったときに二人の方が安心じゃないか。どっちかが助けを呼びに行けるしさ」

『助けを呼びに行く』か……。ヤミの言う通り、トラブルがあれば看守に報告に行くのが正解だろう。

何の根拠もなく第一声で『俺が助ける』とか言わないヤミに、ちょっとした好感を持つ。私は、簡単に『俺が守る』と言えてしまう男の人が……ちょっぴり苦手だ。


「他の囚人の気配はしないけど……でも万が一ってこともあるよ。いくら君が強くても、犯罪者が収容されている場所を女性が一人で歩くのは危ないと思う。何人かによってたかって襲われて、部屋に連れ込まれたらどうするの」

「……そうね、ありがとう」


魔法があれば大男の集団にだって負けない自信はある。一対一ならナイフで勝てる。

ただし今は魔法が使えないから、その状態で大人数で来られたら……正直勝てるかはわからない。今回は、ヤミの好意に甘えよう。

一人で生きてきた年月が長い私には個人行動の癖が骨の髄まで染み付いていて、なんでも一人で動きたくなってしまう。強がっているわけではなくて、その方が『楽』だから。

もちろん一人で動いて危険にさらされることもある。でも、それも『自己責任』。自己責任だと思えば、苦しいことだってなんだって受け入れられる。

誰かと一緒にいるほうが、重いしつらいし窮屈だ。『俺が守る』と言う男の人が苦手なのは、もしかしたら同族嫌悪かもしれない。私は無意識的に、一緒にいる誰かを『守らなきゃ』と思っているのかも。



立ち話を終えた私達は独房を出てから左回りにフロアの外周を探索していった。慎重に周囲を確認しながらフロアを歩く。

長い廊下に沿っていくつもの独房が並んでいたが、そのどれからも何一つ物音がしてこない。小窓から中を覗いてみたりもしたけど、独房内には誰もいないように見えた。

長い廊下の途中の扉に『ラウンジ』の文字を見つけ、入ってみる。室内は談話スペースになっていて、一人掛けソファと小さな正方形のローデスクがいくつか並んでいた。

ヤミの独房から左回りに歩いた私達は、ぐるっとフロアを一周して自分たちの部屋の前に戻ってきたのだった。

他の囚人とのトラブルとか、迷子とか……色々な可能性を想定していたのだけど、肩透かしを食らった気分だ。


「あの看守も……思わせぶりなこと言うよね。てっきり他の囚人がいるのかと思ったのに」

「そうだね。まさか誰とも会わないとは思わなかった」

「あと確認していないのは……フロアの真ん中をつっきってた短い廊下ね」

「行ってみよう」


そして私達は嬉しい発見をする。短い廊下の左右にはなんと「トレーニングルーム」と「図書室」への扉があったのだ。

「わ、本当にあった!ヤミ、トレーニングルームもあるよ!」

「助かった、今日からランニングを再開できる。……それより火置ひおきさん、この廊下の探検が終わったら、図書室でちょっと休憩しない?」

「いいよ」

途中『エレベーター』らしきものを見つけた私達は、恐る恐るボタンを押してみた。しかし電気が通っていないようで反応はなかった。


フロア全体を確認し終えた私達は、図書室へと向かう。それにしても、これだけ独房が並んでいて囚人の音沙汰が一切ないっていうのはどういうことなのだろう。

歩きながらヤミを見る。彼は腕を組んで何かを考えているようだ。この刑務所についての彼の意見も聞いておきたい。

「ヤミは、この場所について何か思ったことはある?」

「これだけ広いのに僕の貸し切りなんて、税金の無駄遣いにもほどがあるなと思ったよ」

「そのうち国民がカミサマに反旗を翻すんじゃないの?」

「1ヶ月以内に暴動が起きて、僕の死刑がキャンセルされないよう祈るばかりだよ。……さて、図書室に着いた。ちょっと君に話しておきたいことがあるんだ」

「……わかった」


私達は図書室の扉を開け、中に入っていった。
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