夏休みの夕闇~刑務所編~

苫都千珠(とまとちず)

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第四章 夢

彼女はいかにして魔法使いになったのか その2-1

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「…………で、なんだっけ?魔法使いになった時の話だっけ?」

朝の自由時間を終えて独房に戻った火置ひおきさんが僕に向かって言う。

彼女の過去を教えてくれるという話……あのまま忘れられてしまう可能性も考えたけど、ちゃんと教えてくれるようだ。

火置さんはなんだかんだ言って義理堅いと思う。

「うん。家族が死んだあとの話。その後君はどうなったんだ?」

「……気づいたら時空の穴に吸い込まれてたのよ。それで、魔法が使える世界に飛ばされた。それからはずっと、魔法使い」

「…………時空の穴に吸い込まれるだけで、魔法使いになれるの?」

「そういうわけではない。時空の魔道士……時空の魔女は、全時空にたった一人しかいないって話はしたわよね?」

僕は頷く。

「時空の魔道士ってね、交代制なの。どこかの世界で時空の魔道士が死んだら、世界のどこかから新しい時空の魔道士が選ばれる。
つまり、あの時たまたまどこかで先代の時空の魔道士が死んだのね。そして次に選ばれたのが、私だった」

いくつあるかわからない世界の中から、火置さんが選ばれた。……天文学的な確率で。運がいいのか悪いのか……。

はたまた偶然ではなく必然だったのか、時空規模で魔法の才能に恵まれていたのか。

「……君には、魔法の才能があったということ?」

「うーん、どうなんだろう。私は『歴代最弱』らしいから、魔法の才能にめちゃめちゃ恵まれていたから時空の魔女に選ばれた……ってことではないと思う」

「…………あの、さ。君は以前自分で『最強の魔法使いだ』って言ってなかった?あれは、何だったの?」

「ああ、その話ね。その話は『魔法とは』の話になっちゃうから、私の過去の話とはズレるけど、どうする?どっちが聞きたい?」

……両方ともは話してくれないんだ。本当に自分のことをなんだな……。

でもそれなら……そうだな、とりあえず僕は火置さんの過去が知りたい。

「その二択なら、君の過去の話の方をしてほしい」

「…………わかった」

心の準備が必要なのか、彼女は一度目を瞑って控え目に深呼吸をした。そして、自分の過去を語り始めた。


<彼女の過去>

家族が殺され、そのまま時空の穴に吸い込まれた私は、魔法の使える世界にやってきた。
そこで『師匠』と出会ったの。

第一声『お前が新しい時空の魔道士か』って言われた。

ちんぷんかんぷんだったけど、説明を受けて理解した。『時空のひずみを直しながら、旅する魔法使いとして生きていく』。自分でも驚くほど、新しい人生を柔軟に受け入れられた。


師匠には色々言われたわ。

「死ぬかも知れないけど逃げないか」とか
「世界のために自分を捧げる覚悟はあるか」とか
「普通の幸せは手に入れられないが、諦められるか」とか。


私はその全部に『なんの問題もない』とはっきり答えた。師匠は『根性はありそうだ』って言ってくれた。結構嬉しかった。

それからは、ひたすら修行と訓練の日々よ。師匠は魔法の先生ではなく『サバイバルの先生』という感じで、一人で生きるための術すべを叩き込んでくれた。ナイフも彼から教わったの。

毎日泣きたくなるくらい厳しい訓練だったけど、実践で殺されそうになっても逆に『生きている』感じがして幸せだった。私は心の底から実感してた。これがって。


それで力を付けてからは独り立ちして、色々な世界を巡って魔法を学んで、今に至るって感じかな。





「どうしてつらいことを耐えられたの?途中で嫌にならなかった?」

「そうね……不思議とならなかった。そもそも私は、自分の生きている世界に退屈していたの。
みんな同じようなものを好きになって、人に合わせると褒められて、反対についていけなかったり疑問に思ったりすると怒られて……。この世界で成長してつまらない大人になるくらいなら、子供のまま死んだほうがマシだと思っていた」

「変わった女の子だったんだね」
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