湿った夏の日の記憶~初体験の相手に再会した~

越智むう

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1章 中学生

3.彼女の噂

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 中学2年になって、クラス替えがあったが、ごうはまたまりんと同じクラスになった。その頃、クラスメイトの間で彼女に関してのある噂が広まっていた。

「まりん、駅の方の薬局で、……ゴム買ってたって」

 学年には他に田中という苗字の女子がいたので、彼女は男子からも女子からも「まりん」と呼ばれていた。ただ、彼女には呼び捨てやあだ名で呼び合うほど仲の良い友達がいなかったので、直接話すときは、皆「田中さん」と呼んでいた。

「ゴム?」

 剛は一瞬、何のことかわからずに、聞き返した。クラスメイトは、声を小さくして言った。

「コンドーム。しかも、何箱も買ってたって」

 思わず、まりんを見た。相変わらず、窓の外を眺めている。視線に気づいたのか、彼女は剛の方を向いた。彼女の大きい瞳に見つめられ、慌てて顔を反対に向けた。

「何箱も?」

 思わず聞き返す。うん、とその友達は頷いた。どこから話を聞いたのか、近くの席の女子も会話に入ってきた。

「――が見たって。栗田くりた先生の車に、まりんが乗ってるの」

「うっそ。じゃあ――、栗田とまりんって」

 さっきまで小声だった友達は、少し声量を上げて身を乗り出した。

 栗田先生――栗田 智治くりた ともはるは、サッカー部の顧問で、30代後半の教員だった。年の割に爽やかで、母親たちに人気があった。

 コンドームが何箱も、栗田、まりん、

 言葉がぐるぐる頭で回って、その日は授業にも、部活にも集中できなかった。

「剛! 何やってんだよ! 部長の弟なのに、全然ダメだな」

 部活中、パスを受け止めきれず、現部長の3年生に怒鳴られる。
 彼の言う『部長』は兄の柊人しゅうとのことだ。2つ上の柊人は地域の少年サッカークラブのレギュラーで、剛が1年生の時は3年でサッカー部の部長をしていた。人数の少ない剛の中学校を去年の夏、県大会3位まで引っ張り、スポーツ推薦で私立の高校に進学した。

「すんません」

 大声で謝って、舌打ちをした。剛の父親はサッカー好きで、二人の息子を小学校から地域のサッカークラブに入れていた。しかし、兄と弟の実力差は明らかで、得点ゴールを決めてチームメイトに囲まれる柊人を、いつも剛は控えのベンチから眺めていた。剛は中学に入る時にはサッカークラブは辞めていたが、部活に入るとなると、他の運動はできないし、兄が部長をしていたので、何となくそのままサッカー部に入った。
 
「剛! 気にすんな」

 顧問の栗田がフォローの声をかけてきた。剛は、その声がする方を睨んだ。
 ジャージ姿の背の高い、母親が「爽やかだ」と言っていた、顧問の姿が目に入る。
 同時に、まりんの姿が頭に浮かんだ。 

「別に気にしてないですけど」

 吐き捨てると、栗田は困ったような顔をした。剛はあまり目立たない大人しい生徒だったので、こんな反応をされるのは初めてだった。

 剛は自分でも何故こんなにイライラするのかわからなかった。

 家に帰ると、兄の部屋の扉を開けた。電車とバスで1時間半かかる私立高校に通う兄はまだ帰ってきていない。無人の部屋で本棚を漁った。

 漫画の裏に、探していたものはあった。数冊の青年漫画雑誌。それを自分の部屋に持ち帰り、パラパラとめくる。最近は、妙にイライラする時は、これを見て自慰する習慣になっていた。

 ふと、短編の一つに目を留めた。ヒロインは、黒髪ロングの清楚そうな女子高生だった。その漫画をめくりながら、ズボンを下して、自分のものを触った。何回も触っているうちに、それはむくむくと大きくなって、気持ち良くなっていく。ぞわぞわとそこから全身に広がる気持ち良さに、思わず目を閉じた。

 まりん、コンドーム、栗田

 言葉が立て続けに頭の中を回って、ぴゅっと音がした。

 すーっと冷静になって目を開ける。

「うわ」

 思わず声が出た。ティッシュで先を押さえていたのに、それを飛び越して白い液体が飛んでいる。それは、紙面の上で裸で頬を赤らめている漫画の女子高生を湿らせていた。こんなに出たのは初めてだったので、思わず目をしばたいた。

「どうしよ」

 思わず周りを見回した。慌ててティッシュで拭くが、染みがとれない。
 時計を見た。もうすぐ兄が帰ってくる。

 ――とりあえず乾かそう。

 そのページを開いたまま、その雑誌を自分のベッドの下に隠し、残りの雑誌を元通り本棚に返した。
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