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2章 舞踏会
2-7.『ありがとう』
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ヤラを伴って館に帰る。彼女はずっと私についてきた。
玄関を入ったところで、ふと、埃一つない室内と私の灰色狼を見比べた。
コーデリアや使用人がぴかぴかにしてくれている所に入れたら怒られるだろうか。
「ちょっと、待っててね」
手で「待て」をすると、ヤラは伏せた。本当に賢い。
「ああ、お嬢様、お帰りなさい」
ばたばたと足音がしてコーデリアが姿を見せた。私とヤラを見比べる。
「室内に入れてもいい?」
「いいですけど、しばしお待ちくださいね。タオル持ってきますので。足拭きましょう」
「あ、自分で持ってくるわ。場所どこかしら」
「お嬢様」
あ、これまた涙ぐまれるパターン?と思った瞬間、コーデリアが私を抱きしめていた。
人間の暖かな体温を感じる。ええ。何。
「ありがとうございます。でも、いいんですよ。仕事ですから。やらせてくださいね」
「……ありがとう?」
彼女は手を離すと、にっこりと笑った。
「『ありがとう』って言ってもらえると、何でもやっちゃいますね」
「ありがとう」
「あー、また。いいんですってば」
私は何だか目頭が熱くなった。
「ありがとう」
顔を背けると、彼女はあたふたとする。
「ええ? 今持ってきますね」
――『沙代里』としての感覚で客観的になっているからだろうか。
カミラは感謝していた。周りに。謝りたいこともたくさんあった。
時間が永遠に続くと思って、伝えたいことを伝えてこなかったのだ、たぶん。
この生活が終わる可能性が高いことを実感すると、周りに話しておきたいことがたくさんある。私の中の『カミラ』はそう思っていた。
「お嬢様、あと、これ、アーティさんから」
ヤラを伴って室内に入ると、コーデリアがまたあのホットワインを持ってきた。
その良い香りを嗅ぎながら、考え込む。
アーティは何を考えているんだろう。
そんな感じで、パーティーの日。部屋にしばらく籠っていたアーノルドが、やつれた顔色で上機嫌で部屋にやってきた。
「頑張りました!」
ばっさーとドレスを広げる。赤地にまた金糸で細かな刺繍が入っている。
これ……数日でできるものなの?
「ちょっと……派手じゃないかしら」
「いいえ。お似合いのはずです」
てきぱきと着替えさせられる。着てみると、しっくりきた。
カミラは黒髪なので、赤のドレスが目立ちすぎず良い感じにまとまっていた。
「素敵ね」
私はつぶやいてから、付け加えた。
「ありがとう、アーノルド。いつも」
「今度は汚さないでくださいね」
心配そうな顔のアーノルドに、コーデリアが突っ込む。
「もう、アーノルド、パーティーでどうやって汚すのよ」
ねえ、お嬢様と聞かれるので、うなづいた。さすがにパーティーで汚すことはないだろう。
玄関を入ったところで、ふと、埃一つない室内と私の灰色狼を見比べた。
コーデリアや使用人がぴかぴかにしてくれている所に入れたら怒られるだろうか。
「ちょっと、待っててね」
手で「待て」をすると、ヤラは伏せた。本当に賢い。
「ああ、お嬢様、お帰りなさい」
ばたばたと足音がしてコーデリアが姿を見せた。私とヤラを見比べる。
「室内に入れてもいい?」
「いいですけど、しばしお待ちくださいね。タオル持ってきますので。足拭きましょう」
「あ、自分で持ってくるわ。場所どこかしら」
「お嬢様」
あ、これまた涙ぐまれるパターン?と思った瞬間、コーデリアが私を抱きしめていた。
人間の暖かな体温を感じる。ええ。何。
「ありがとうございます。でも、いいんですよ。仕事ですから。やらせてくださいね」
「……ありがとう?」
彼女は手を離すと、にっこりと笑った。
「『ありがとう』って言ってもらえると、何でもやっちゃいますね」
「ありがとう」
「あー、また。いいんですってば」
私は何だか目頭が熱くなった。
「ありがとう」
顔を背けると、彼女はあたふたとする。
「ええ? 今持ってきますね」
――『沙代里』としての感覚で客観的になっているからだろうか。
カミラは感謝していた。周りに。謝りたいこともたくさんあった。
時間が永遠に続くと思って、伝えたいことを伝えてこなかったのだ、たぶん。
この生活が終わる可能性が高いことを実感すると、周りに話しておきたいことがたくさんある。私の中の『カミラ』はそう思っていた。
「お嬢様、あと、これ、アーティさんから」
ヤラを伴って室内に入ると、コーデリアがまたあのホットワインを持ってきた。
その良い香りを嗅ぎながら、考え込む。
アーティは何を考えているんだろう。
そんな感じで、パーティーの日。部屋にしばらく籠っていたアーノルドが、やつれた顔色で上機嫌で部屋にやってきた。
「頑張りました!」
ばっさーとドレスを広げる。赤地にまた金糸で細かな刺繍が入っている。
これ……数日でできるものなの?
「ちょっと……派手じゃないかしら」
「いいえ。お似合いのはずです」
てきぱきと着替えさせられる。着てみると、しっくりきた。
カミラは黒髪なので、赤のドレスが目立ちすぎず良い感じにまとまっていた。
「素敵ね」
私はつぶやいてから、付け加えた。
「ありがとう、アーノルド。いつも」
「今度は汚さないでくださいね」
心配そうな顔のアーノルドに、コーデリアが突っ込む。
「もう、アーノルド、パーティーでどうやって汚すのよ」
ねえ、お嬢様と聞かれるので、うなづいた。さすがにパーティーで汚すことはないだろう。
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