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相談
しおりを挟む「どうしよう、ロラ先輩」
翌日。私はアヴェラルドから受けた依頼の報告を上長へおこなった後、特務部隊の同郷の先輩に教えを請うていた。
「なによ、メニエラ。いきなり……」
「私、実は今週末、任務でデートをすることになりまして……」
「へぇー、良かったじゃない。処女卒業出来るといいわね」
「いや任務なんで、そういうのじゃ全然ないんですけど」
──ああ、やっぱり人選間違えたかな。
アヴェラルドから依頼を受けたその日に、私はデートに誘われた。
依頼内容は『アヴェラルドの恋人のフリ』をするというものだ。
そりゃ恋人同士なら、当然デートもすると思うが、いかんせん私は恋愛経験ゼロ。デートだってしたことはない。
まず、デートに何を着ていけばいいのか分からない。
昨日帰ってから寮の部屋のクローゼットをひっくり返したが、エプロンドレスの一着すら持っていない自分に愕然とした。
私は本当に年頃の女子だろうか。
騎士服以外は、襟付きシャツと脚衣しか持ってないとかありえないだろう。
お洒落に興味がない堅物な男子でも、もっと服を持ってると思う。
「ロラ先輩、お願いです! デートに何着て行けばいいか教えてください!」
「……私、もう四十近いから、若い子の服なんかぜんぜん分からないんだけど」
「え~~。でも私、特務で仲良いのって先輩ぐらいなんですけど。協力してくださいよ!」
ロラ・アーガット先輩は、長い長いお勤めから出てきたばかりのアラフォー美魔女騎士だ。騎士なのに魔女とは、自分でも何を言っているのか分からないが、とにかく年齢を感じさせない女性なのだ。
四十近くにはとても見えない。すらっと背が高くて乳がデカい。ちょっと気怠い雰囲気が魅力的な黒髪セミロングの南方美人だ。
なんでも若い頃、付き合っていた子爵の男にとつぜん別れを切り出され、逆上した先輩はそのまま相手を殺してしまったらしい。
クズの巣くつ、特務部隊では前科者はまったく珍しくない。ロラ先輩は自身の不貞が原因の離縁歴がないだけ、クリーンな存在なのである。
特務はとにかくアウトローが集まる。スネに傷がなきゃ、やれないようなエグい任務が多いからだ。
今回私が受けたような、色恋に絡むような任務もよくあることなのだ。
「やれやれ、仕方ないわね……。で? デートの相手は誰なの?」
「相手?」
「まず、敵を知らなきゃ装備も揃えらんないでしょうが」
そして、意外にも面倒見がよくて優しい人が多い。ロラ先輩もそうだ。
「近衛部隊の副官さんです」
「近衛の副官……。師団長付きじゃないでしょうね?」
「第二連隊の副官さんだから、師団長付きではないと思いますけど」
近衛、の単語にロラ先輩は肩をぶるりと震わせた。どうも新任の近衛師団長はロラ先輩の知り合いらしい。よく「私が特務に復帰したと知られたら、あの男に殺される!」と言っている。
ロラ先輩は超美人なので、過去に近衛師団長と痴情のもつれがあったのかもしれない。
今年の師団長の任命式をちらりと覗いたが、新しい近衛師団長はめっちゃイケメンだった。王都にいるアラフォーはおかしいと思う。ロラ先輩といい、新しい近衛師団長といい、年齢不詳の美形がそこかしこにいる。
近衛の師団長とロラ先輩が並んでいる姿を想像する。黒髪の涼やかな美形同士、お似合いかもしれない。
「相手は近衛の副官か……。露出の少ない色味の濃くない格好をしたほうがいいかもしれないわね」
「あ! でも! 私、悪い女のフリをしなきゃいけないんですよ。アヴェラルドさんと結婚したがってるお嬢様が、ドン引くような素行の悪い女をフリを……」
「露出が少なくても、服装の色味が薄くても、悪い女には化けられるわ」
「はあ……そんなもんなんです?」
まあ、ロラ先輩がそう言うならそうなのだろう。なにせ歴戦を潜り抜けてきた美女なのだから。
それから私はロラ先輩と路面店街を練り歩いた。私は上に姉がいないから、服を選んでもらうのは嬉しいと言うと、ロラ先輩は苦笑いした。
「私には姉がいるけど、服なんか選んでもらったことはないわ」
「えっ、そうなんですか?」
「そっ、私が幼い頃に集落を出てしまったから。……姉は南方の集落を出て、宗国の大貴族家で侍女をしていたわ。私を王都の士官学校へ入れるためにね」
「へぇー」
「姉が働く大貴族家には一人娘がいてね。侯爵家の生まれだということ以外、取り柄が何もない普通の女だったわ」
「……そうなんですか」
「メニエラ。あなたは宗国の貴族の女なんかに負けちゃ駄目よ」
どうもロラ先輩は、何も取り柄がない貴族の女性に負けた経験があるらしい。
アヴェラルドが、貴族家から来る見合い話に困っているのだと言うと、俄然私の衣装選びに力が入った。
──いや、私はアヴェラルドさんとどうこうなるつもりは無いんですけど……。
そう思ったが言えなかった。
ロラ先輩の目はマジだったからだ。
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