王女様と幼馴染の騎士の仲を取り持とうとしたのですが、私はどうやら愛されていたようです。

野地マルテ@2月27日『帝国後宮録』発売

文字の大きさ
9 / 12

※ 抵抗しても無駄だといいわけしてみる

しおりを挟む





 こうなっては抵抗しても無駄だ。
 アシュトスは実戦経験も十分な現役の騎士だ。魔導師でも何でもないただの女子である私が『いやっ、やめて!』などと可愛い声を出して、抵抗したところで無駄に加虐心を煽るだけである。

 彼に加虐性癖があるのかどうかは知らないが……。
 ……無いかも。むしろ私を傷つけたことで死ぬほど悩みそうだ。

「アシュトス。ここは床が固いから、ベッドへいこう?」

 和姦を装い、ベッドへ誘ったほうが平和的に解決するかもしれない。うちの使用人たちは皆祖父の代から働いてくれている古参ばかり。不貞をしようが、空気を読んで黙って見逃してくれるだろう。

 目から古代文字の青白い光を放ちながら、アシュトスは黙って頷いてくれた。
 おそらくこの術は、術者が意図する行動を取ればすんなり解除されるものだと思う。アシュトスは私を押し倒した、ということはつまり。
 兄が余計な気を回したに違いない。最後に思い出を作れということだろうか。

 ──バカみたい。
 そう思えたら、どれだけ楽だろう──兄のお節介だと。私はそんなに安い人間ではないのだと、『心から』怒ることが出来る高潔な女だったら良かったのに。

 あいにく私の心はそこまで割り切れない。アシュトスの手を引きながら、心臓はうるさい程にばくばく高鳴っていた。本音を言えば、これから起こることに期待していた。夜着の下、下着は着けていない。脚の付け根の奥が疼いた。

 いつから自分はこんなにチョロい女になったのか。もともと、兄の言うとおり、アシュトスには甘い女だったかもしれない。自分でも知らず知らずのうちに何でも許すような都合の良い女になっていたのかも。

 寝室へ行き、ベッドの上に向かいあうように座り、彼の上着を脱がしていく。王宮の詰所で着替えたのか、汚れてはいない。王女にも会ったのだろう、厚手の上着からは薔薇の香りがした。リリアンヌは王国の白百合と呼ばれているのに、なぜか濃厚な薔薇の匂いがするのだ。
 今日すでにリリアンヌと何かあったのかもしれない。

「アシュトス、今日、リリアンヌ様と逢った……?」
「嫉妬か」
「リリアンヌ様の匂いがするから」
「不快な思いをさせてすまない」

 アシュトスの手が、私の頬に触れる。肩を掴んだ時の力が嘘のようだ。指の背でやさしく撫でられると、胸がきゅんと疼く。

「どうか信じてほしい」

 今夜のアシュトスは本当におかしい。普段の彼は私に期待を持たせるようなことは言わない。叶えられない約束は絶対にしない。彼はいつだって現実主義者だった。彼の不器用な誠実さを好ましく思っていたはずなのに。

「うん……」

 これは甘い嘘だ。頷いたら破滅が待っているというのに、承諾してしまった。そろそろと顔を近づけられ、瞼を閉じる。押しつけられた、柔らかで湿った感触に心が震える。すぐにもっと深い口づけが欲しくなって、縋るように口を開いた。

「……っ、……ぁっ」

 彼が出征してから数日間、とても寂しかった。何度も唇の感触を思い出しては指で触れた。首や胸に付けられた赤い跡を鏡の前で何度も何度も確認した。
 目立つところに付けられた痣なのに、消えてほしくないと思った。

 口内を蹂躙されながら、ふくらみが足らない胸に手が伸ばされる。敏感になった先端を手のひらで転がされた。肋骨が目立つ胴体にはあまり触れてほしくはないが、彼は私の夜着を脱がすと、夢中になって私の痩身を喰んだ。彼の黒髪と吐息があたり、くすぐったい。

「わ、わたしばっかり……」

 ──攻めたてられている。触られるのは嬉しいが、恥ずかしい。私は肌を晒しているのに、彼はぜんぜん着乱れていないのだ。抗議すると手を止めてくれた。しかし私がやろうとしていることを見ていたいのか、穴が開きそうなほど見つめられている。

 震える手で、彼の胴衣に触れる。留め具を外し、シャツの前ボタンをあけ、少しずつ露わになる肌に息がとまりそうになる。

 魔術で無理やり傷を塞いだような、そんな生々しい痕が心臓に近い位置にあった。思えば彼の裸をまじまじと見るのは十年ぶりぐらいかもしれない。私の目の前で彼が着替えをすることも別に珍しくはなかったが、何というか、肌は見ないようにしていたのだ。

「触っても大丈夫なの……?」

 こんなに大きな傷。季節の変わり目や雨の日には痛みそうだ。いつ頃についた傷なのか、回復専門職ヒーラーではない私には検討もつかない。
 盛り上がった傷跡に触れようとしたら、彼の眉間に少しだけ皺が寄った。やっぱり痛いのかもしれない。

「なるべく傷には触らないようにするね!」

 魔法に向いてなくても、ヒーラーになれば良かったと少し後悔した。私にも兄ほどではないにせよ、魔導の適正があった。しかし将来のためにと翻訳家を志した。歳を重ねても出来る上、何よりも王宮翻訳家はお給金が高い。

 アシュトスが退役しても生活に困らないようにと翻訳家になったが、戦場に赴く彼のことを考えれば、傷を癒せるヒーラーのほうが良かったのかもしれない。

「好きにしてくれ」
「あっ……」

 また首筋に唇をあてられた。きゅっと弱いところに吸い付かれると、甘い痺れがはしる。足の先からぞわぞわと何かが這い上がってくるような感覚を覚えた。

 ──これは何なのだろう、落ち着かない。

 お腹の下に力が勝手に入り、股の下が濡れる。直接触られてもいないのに、興奮してしまっている自分が恥ずかしかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました

唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」 不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。 どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。 私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。 「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。 身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。

薫る袖の追憶を捨て、月光の君に溺愛される

あとりえむ
恋愛
名門の姫君・茜は、夫の高彬に蔑まれ、寂れた離れで孤独な死を迎えた…… けれど意識が途切れた瞬間、視界を埋め尽くしたのは命を削って輝く緋色の夕映え。 目が覚めると、そこは高彬との婚約が決まったばかりの十五歳の春に戻っていた。 「二度目の人生では、誰のことも愛さず、ただあの方の幸せだけを願おう」 茜は、かつて自身の孤独を救ってくれた「最推し」の東宮・暁を、未来の知識で密かに支えることを決意する。 執着を捨て、元夫に無関心を貫く茜。 一方、高彬は自分に興味を失った茜の価値に気づき、今更遅い後悔に狂い始めるが……。 「見つけた。お前は俺の、運命の番だ」 正体を隠して東宮を支えていたはずが、冷徹な暁に見出され、逃げ場のないほどの執着と溺愛を注がれることに。 平安の雅な風情の中で描かれる、逆転と救済の物語。 最後は、二人が永遠の契りを交わす和歌で幕を閉じます。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。 彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。 ――死んだはずの彼女が、生きている? 同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。 「今さら、逃げ道があると思うなよ」 瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。 秘された皇子と、選び直した愛。 三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?    * * * 後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。

政略結婚のはずでしたが、黒の公爵に「君を愛するつもりしかない」と言われました。

ちよこ
恋愛
没落寸前のエーデル伯爵家の令嬢ルイーズは、この国最大の権勢を誇る黒の公爵エルハルトと政略婚を結ぶことになった。 釣り合わない縁談に社交界はざわめいたが、ルイーズは「家同士の利害が一致した取引に過ぎない」と割り切っていた。 ところが初夜、公爵は開口一番こう言った。 「私は君を愛するつもりしかない」 政略婚のつもりでいた令嬢と、最初から決めていた公爵の、少し不器用な初夜の話。​​​​​​​​​​​​​​​​

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

処理中です...