【R18・完結】王女メリアローズの決断

野地マルテ

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急展開

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「エリヴェルト……!?」

 メリアローズは、霊峰クーリアの頂を削っていた光の矢を慌てて消した。

(しまった……! ついやりすぎてしまいましたわ)

 アウナスはエリヴェルトの長年の敵。エリヴェルトをずっと苦しめてきた相手だと思うと、つい怒りの感情が強くなってしまい、やりすぎてしまった。
 宙に浮かべていたアルベルタは、地に下ろした。だが、こっそり魔法で拘束している。アウナスもだ。

(こういう時、油断をしてピンチに陥る展開は小説で山程読みましたわ……! でも、私は油断しない!)

 本当に、アルベルタと付き合いが短くて良かったと思う。もしも付き合いが長かったら、魔法で拘束すらしなかっただろう。私的なことを話せる彼女は、きっと人の懐に入るのが上手いタイプだ。

「メリアローズ、何故こんなところに……!?」
「ごめんなさい、せっかく私を逃してくれたのに。でも、あなたを放って王都には行けない……!」
「……一体何があったんだ?」

 エリヴェルトは、地に這いつくばる二人を交互に見る。
 アルベルタもアウナスも、視線を地に落としたままガタガタと震えている。
 無理もない。ここは肺が凍りそうなほど空気が冷たいのだから。本当に夏の終わりだとは思えない。

「あなたを追って魔力探知をしていたら、アウナス将軍と鉢合わせてしまったのです」
「他のラントの兵達は?」
「さ、さあ……?」

 まさかまとめて祖国ラントに送り返したとは言えない。そんな力技をやる女だと知られたら、引かれてしまうこと間違いなしだ。
 視線を斜め下にやったら、震えるアウナスと目が会った。彼には『余計なことは言わないように』との、強い念を送った。
 アウナスは「ひぃぃっ!!」と情けない悲鳴をあげた。彼は本当に「大嵐」と二つ名で呼ばれた将軍なのだろうか?

「それで君は無事なのか!?」
「ええ、アウナス将軍は紳士的な方で、私の話を聞いてくれました」
「話……?」
「はいっ! この戦争を停戦し、ティンシアと和平を結びたいと」

 アウナスはそんなことは言っていない。だが、彼は否定しないだろう。

「ねぇ、アウナス将軍?」
「は、はいっ! メリアローズ様の仰るとおりでございますっ!」

(アウナス将軍が物分かりのいい方で良かったわ……)

 ここで否定するようなら、『あなたの頭もクーリア山のように削りましょうか?』と提案しなければならないところだった。エリヴェルトの目の前で脅し行為はしたくない。できれば、か弱くて守ってあげたくなる健気でおっとりとした妻でいたいのだ。

「おーい」

 遠くから兄の声がする。魔法の力で宙に浮き、飛んできたようだ。

「お兄様」
「ラントの軍勢は根こそぎラントへ送ったぞ。いやー、良いところは全部メリアローズに取られてしまったな」
「そんなことありませんわ」

 自分一人の力では、きっとこの場に来れなかった。軽く脅したとはいえ、戦場に連れてきてくれたアルベルタには感謝している。

「アルベルタさんのおかげです」
「アルベルタの……?」
「はい、彼女は私を守りながらここまで連れてきてくれたのです」

 ね? とアルベルタに視線を向ける。彼女は首の骨が折れそうなほどの速さでぶんぶん首を縦に振った。
 本当に二人とも、物分かりが良くて助かる。

「よしっ、アウナスを捕虜にするか」
「ええ」

 兄と協力してアウナスの周囲に強力な丸い障壁を張る。彼は魔力が高い。長時間の運搬の際、障壁を破られてしまう可能性がある。

 アウナスが入った丸い障壁を宙に浮かせながら、ティンシアの砦に向かった。

 ◆

「ラントが停戦を受け入れるそうだ」

 次の日、兄直々にラントへ向かい、現領主であるアウナスの父と会い、停戦の条約を取りつけてきた。
 息子のアウナスが捕虜となっているのだ。当然だろう。

「でも、このままアウナス将軍を帰したら……」

 ラントの暮らしは厳しいままだ。また近いうちに条約を破り、ティンシアへ攻めてくるようになるのではとメリアローズが心配していると、サディアスは言った。

「そこは心配ない。アルベルタがアウナスの元へ嫁ぐことになったからな」
「えっ……!?」

 確かにアルベルタはアウナスに未練があるようなことを言っていたし、アウナスもアルベルタだけは助けてほしいと言っていた。元婚約者同士は今でも相思相愛なのだろう。
 だから言って、昨日の今日で二人の婚姻が決まるとは。

「いくらなんでも早すぎませんか……?」
「そうか? 停戦からの和平のための婚姻は、歴史的にみてもよくあることだぞ?」
「それはそうですけど……」

 急展開に頭がついていかないと思った。
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