18 / 26
この時が来てしまった
しおりを挟む
「それでその……アウナスが攻めてくる前に話そうとしていたことなのだが……」
(ああああっっ……!!)
とうとう来てしまった、この時が。
全身にぶわりと嫌な汗が吹きだす。後悔の波に胸が押し潰されそうだ。
(なんで私、あんなことをしてしまったの……!?)
この砦に来たその日の晩、メリアローズはエリヴェルトを性的に襲った。寝ている彼の身体を無理やり興奮させ、繋がったのだ。
今思えば、急ぐことはなかったのだ。ゆっくり関係を築いてから身体を重ねていれば、こんなに後悔することはなかったのに。
(ばかっ……ばかっ! 私のいんらんっ! 考えなしっ! すぐに頭に血がのぼるっ!)
あの晩は自分自身にたくさんの言い訳をして、寝ているエリヴェルトに性的なことをした。なにが性的な行為で彼を癒したいだ。彼には跡継ぎが必要だ、だ。
ただ、自分がエリヴェルトとそういうことがしたかっただけなのに。
なんと罪深くて、愚かなことか。
「……メリアローズ?」
「ひっっ、ご、ごめんなさい、話を続けて?」
「やはり、君から話したほうがいい。君も私に話があったのだろう?」
どくりと、胸が大きく波打つ。血が沸騰しそうだ。
全身にびっしょり汗をかきながら、メリアローズは震える口を開く。
「エリヴェルト……別れましょう」
口から出たのは、別れを告げる言葉。
ラントとは停戦した。和平のための婚姻も結ばれる。もう自分達が夫婦でいる意味はないのだ。
(すべてを白状して……別れましょう、エリヴェルトと)
教会で永遠の愛を誓う前に、寝ている相手を犯す女がどこにいる? なんと浅ましい。王女として相応しくないどころか、人間として駄目だ。失格だ。
こんな女がエリヴェルトの妻の座に居続けるなんて許されない。
「どうして……」
「いっ……!」
俯いていると、いきなりがしりと肩を掴まれた。
すごい力だった。肩に指が食い込むのではないかと、錯覚するほどの。
「私がっ……私が寝ているふりをして、君を襲ったからか?」
一瞬、エリヴェルトが何を言っているのか分からなかった。寝ているふり? 君を襲った?
「ど、どういうことなの……?」
「最初は、都合の良い夢を見ていると思っていた。俺は君のことがずっと……ずっと好きだったから、昔から何度も見たさ……君から誘われる夢を」
エリヴェルトの顔は、首筋まで真っ赤に染まっていた。
彼の言葉に、メリアローズは瞬きを繰り返す。
「う、嘘でしょう?」
「本当だ。というか、何で君は俺の気持ちを疑うんだ。俺が愛を告げても、君、信じてないだろ?」
エリヴェルトの一人称が変わった。彼の中で何かが吹っ切れたのだろうか。
「だって私、お姉様達みたいに美しくないですし、何回もお見合いを断られているし……」
「見合いを断られているのは……正直なところ、外見は関係ないと思う」
「えっ……」
(た、確かに……私は性格も良くないし、短気ですし、頭に血がのぼると色々やらかしてしまう性質ですし……)
思えば外見以外にも駄目なところはたくさんある。今まで見た目がよくないと言い訳をしていたが、あきらかに人格にも問題がある。
「そうですよね……私、性格も終わってますし……」
「違う! 何で君はいつもそうなんだ? 君が結婚相手として敬遠されていたのは、君の魔力のせいだ!」
「魔力のせい……? で、でも、私の魔力は高いですわ」
魔力の高い女性は結婚相手として人気があっても、それで敬遠されることなんてない。
メリアローズはそう考えていたのだが……。
「確かに、魔力の高い女性は人気だろう。だが、君は高すぎるんだ……!」
「高すぎる……?」
魔力が高い自覚はある。上の兄姉よりも、自分は魔力が豊富だった。どれだけ魔力消費が高い魔法でも、子どもの頃から気兼ねなく連発できた。
だがそれは、男性から見て駄目なことだったのだろうか?
「はじめて君に出会った時、我が目を疑ったよ。こんなにも魔力に溢れた人間がいるのかと」
「そんなに?」
「君が驚くのも当然だ。殿下達も皆が皆魔力が高かったからな。でも君は桁違いだ。この大陸に住まう上位の人間のだいたいが魔力持ちだ。そこそこの魔力の持ち主なら結婚相手として魅力的に映っても、桁が違えば畏怖を覚える」
「そう、だったの……」
自分の魔力の高さは唯一の自慢だった。魔力が豊富なら、それだけ多くの人々を癒せる。
だが、その魔力が自分を結婚から遠ざけていただなんて。
「すまない……君にとって辛い話をしてしまった。私は、君の魔力は誇っていいものだと思う」
「エリヴェルトは、私の魔力が高くても怖いと思わないのですか?」
「その魔力で、どれだけ救われてきたと思う? 君の魔力ごと愛している」
(これは夢……? ううん、違いますわ……)
ぐっと掴まれている肩が痛い。間違いなく、これは現実だ。
(ああああっっ……!!)
とうとう来てしまった、この時が。
全身にぶわりと嫌な汗が吹きだす。後悔の波に胸が押し潰されそうだ。
(なんで私、あんなことをしてしまったの……!?)
この砦に来たその日の晩、メリアローズはエリヴェルトを性的に襲った。寝ている彼の身体を無理やり興奮させ、繋がったのだ。
今思えば、急ぐことはなかったのだ。ゆっくり関係を築いてから身体を重ねていれば、こんなに後悔することはなかったのに。
(ばかっ……ばかっ! 私のいんらんっ! 考えなしっ! すぐに頭に血がのぼるっ!)
あの晩は自分自身にたくさんの言い訳をして、寝ているエリヴェルトに性的なことをした。なにが性的な行為で彼を癒したいだ。彼には跡継ぎが必要だ、だ。
ただ、自分がエリヴェルトとそういうことがしたかっただけなのに。
なんと罪深くて、愚かなことか。
「……メリアローズ?」
「ひっっ、ご、ごめんなさい、話を続けて?」
「やはり、君から話したほうがいい。君も私に話があったのだろう?」
どくりと、胸が大きく波打つ。血が沸騰しそうだ。
全身にびっしょり汗をかきながら、メリアローズは震える口を開く。
「エリヴェルト……別れましょう」
口から出たのは、別れを告げる言葉。
ラントとは停戦した。和平のための婚姻も結ばれる。もう自分達が夫婦でいる意味はないのだ。
(すべてを白状して……別れましょう、エリヴェルトと)
教会で永遠の愛を誓う前に、寝ている相手を犯す女がどこにいる? なんと浅ましい。王女として相応しくないどころか、人間として駄目だ。失格だ。
こんな女がエリヴェルトの妻の座に居続けるなんて許されない。
「どうして……」
「いっ……!」
俯いていると、いきなりがしりと肩を掴まれた。
すごい力だった。肩に指が食い込むのではないかと、錯覚するほどの。
「私がっ……私が寝ているふりをして、君を襲ったからか?」
一瞬、エリヴェルトが何を言っているのか分からなかった。寝ているふり? 君を襲った?
「ど、どういうことなの……?」
「最初は、都合の良い夢を見ていると思っていた。俺は君のことがずっと……ずっと好きだったから、昔から何度も見たさ……君から誘われる夢を」
エリヴェルトの顔は、首筋まで真っ赤に染まっていた。
彼の言葉に、メリアローズは瞬きを繰り返す。
「う、嘘でしょう?」
「本当だ。というか、何で君は俺の気持ちを疑うんだ。俺が愛を告げても、君、信じてないだろ?」
エリヴェルトの一人称が変わった。彼の中で何かが吹っ切れたのだろうか。
「だって私、お姉様達みたいに美しくないですし、何回もお見合いを断られているし……」
「見合いを断られているのは……正直なところ、外見は関係ないと思う」
「えっ……」
(た、確かに……私は性格も良くないし、短気ですし、頭に血がのぼると色々やらかしてしまう性質ですし……)
思えば外見以外にも駄目なところはたくさんある。今まで見た目がよくないと言い訳をしていたが、あきらかに人格にも問題がある。
「そうですよね……私、性格も終わってますし……」
「違う! 何で君はいつもそうなんだ? 君が結婚相手として敬遠されていたのは、君の魔力のせいだ!」
「魔力のせい……? で、でも、私の魔力は高いですわ」
魔力の高い女性は結婚相手として人気があっても、それで敬遠されることなんてない。
メリアローズはそう考えていたのだが……。
「確かに、魔力の高い女性は人気だろう。だが、君は高すぎるんだ……!」
「高すぎる……?」
魔力が高い自覚はある。上の兄姉よりも、自分は魔力が豊富だった。どれだけ魔力消費が高い魔法でも、子どもの頃から気兼ねなく連発できた。
だがそれは、男性から見て駄目なことだったのだろうか?
「はじめて君に出会った時、我が目を疑ったよ。こんなにも魔力に溢れた人間がいるのかと」
「そんなに?」
「君が驚くのも当然だ。殿下達も皆が皆魔力が高かったからな。でも君は桁違いだ。この大陸に住まう上位の人間のだいたいが魔力持ちだ。そこそこの魔力の持ち主なら結婚相手として魅力的に映っても、桁が違えば畏怖を覚える」
「そう、だったの……」
自分の魔力の高さは唯一の自慢だった。魔力が豊富なら、それだけ多くの人々を癒せる。
だが、その魔力が自分を結婚から遠ざけていただなんて。
「すまない……君にとって辛い話をしてしまった。私は、君の魔力は誇っていいものだと思う」
「エリヴェルトは、私の魔力が高くても怖いと思わないのですか?」
「その魔力で、どれだけ救われてきたと思う? 君の魔力ごと愛している」
(これは夢……? ううん、違いますわ……)
ぐっと掴まれている肩が痛い。間違いなく、これは現実だ。
176
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
勘違い妻は騎士隊長に愛される。
更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。
ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ――
あれ?何か怒ってる?
私が一体何をした…っ!?なお話。
有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。
※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる