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※ロレシオ視点回
彼女を意識するようになったのは一体いくつの時だろうか。気がついたら、どうしようもなく好きになっていた。
マリヴェルは父の友人であるモルガン家当主の娘で、柔らかな黒髪と鮮やかな緑の虹彩をもつ、それはそれは可愛らしい女性だった。顔立ちは整っているが、やや垂れ目がちな目元は幼くみえる。耳触りの良い声は朝を告げる小鳥のようで、いつまで聴いていても飽きなかった。
私たちは物心つく前からいつも二人一緒にいた。父と母は早いうちからマリヴェルに目をつけていたようで、将来の私の妻にと事あるごとに彼女の父にお願いしていた。
このまま大きくなれば、マリヴェルは自分の妻になる。一緒に暮らせるのだと私は漠然と信じていたが、マリヴェルの方はというと違っていたようだ。
マリヴェルは結婚そのものを望んでいなかった。彼女は子どもの頃から自立心旺盛で、自分の力で食い扶持を得るのだといい、十六歳で成人したと同時にドレス商をはじめた。
最初のころは実家から借金をしていたようだが、みるみるうちに顧客が増え、今ではモルガン領を代表する事業の一つになっている。
だからか、マリヴェルの両親は娘の結婚に積極的ではなかった。私が彼女と縁をむすぶことを考えていると言っても、モルガン領主夫妻は『娘の気持ち次第だ』と言って譲らない。
モルガン家の爵位は伯爵だが、天候に左右されない事業が多いこの家は、国内有数の金持ちだった。無理に娘を嫁に出す必要がなかったのである。
マリヴェルは結婚に消極的。彼女の両親からの後押しも期待できない。そんな状況がかれこれ七年も続いていた。
彼女が私との結婚に対し、前向きでない一番の理由。それは私の実家モンシプールにあった。両親も弟たちも彼女を家族として扱っていた。いわゆる距離なし人間だったのだ。
いくらモルガン家と何十年と家族ぐるみの付き合いをしているとはいえ、うちの両親がマリヴェルのことを勝手に娘扱いし、弟たちが彼女を姉扱いするのもおかしな話だった。私はそんな分別のつかない家族に常々怒りを覚えていた。
私がマリヴェルでもモンシプール家の男とは結婚したくないと思うだろう。亭主の実家など、疎遠でいたいと思うのが世の女性の総意だと、私の上官も言っていた。
マリヴェルはとても優しい。創作に出てくる女神のように器が大きい。うっとおしい私の実家の家族とも上手くやってくれていた。頭が下がる思いだ。私が実家の家族を御することが出来ていないがために、彼女に迷惑をかけている。
そりゃこんな男とは結婚したくないだろう。結婚後の生活が思いやられるからだ。
一体どうすれば彼女と結婚出来るのか。日々悶々としていたところ、転機がおとずれた。
マリヴェルの兄、ステファンがモルガンの家督を放棄するという。
ステファンは貿易の仕事を本格化させるために外国に住むらしい。老後に南国へ移住する貴族は多いが、これから家を継ぐ予定の貴族の嫡子が異国に住むことは許されていない。だからステファンは貴族の身分を放棄したいと言い出したのだ。
モルガン家の嫡子であるステファンが家督を放棄すれば、おのずとマリヴェルにその役割が回ってくる。
今の世の中、女性領主は少なくないが、それはだいたい夫を亡くした寡婦だ。息子がいてもまだ成人に達してなく、一時的に務めている場合がほとんどだった。
マリヴェルは当然のように、両親から婿取りを勧められた。
彼女は泣いていた。マリヴェルのような自立心旺盛なしっかりした女性にとって、夫は邪魔でしかないのだろう。
そこで私はモルガン家の婿に立候補した。私は彼女の仕事に理解があるし、無理に同居をするつもりもない。もとよりモンシプール家の家督は弟たちに譲る気でいた。来年には次男のクリスが十六歳の成人を迎える。良い頃合いだと思った。
婿入りを申し出たら、案の定マリヴェルは反対した。名門侯爵家の家督を捨てるなどありえないと言ったが、マリヴェルとの結婚の足枷になるようなものを持っていたところで何の意味もない。
あの日の夜は今までにないほど気分が高揚した。お酒もすすみ、マリヴェルに好きだと言われて天にものぼる気分になった。今までも、彼女が私に少なくない好意のまなざしを向けてくれていたのは知っていたが、はっきり『好き』だと言われて、気持ちが昂らないわけがなかった。
足元が覚束ない彼女を馬車に乗せ、彼女の工房へと向かった。頰を赤く染め、熱っぽい蕩けた視線を向けてくるマリヴェルは暴力的なまでに妖艶だった。
ベッドに寝かせ、断りの言葉をつぶやきながら、彼女が着ていたワンピースタイプの水色の訪問着を脱がせた。彼女が考えた庶民でも頑張れば手が届く量産型の女性服で、王都でも流行していた。
マリヴェルには商才があり、並々ならぬファッションセンスがあった。彼女にはぜひ仕事を続けてほしい。……なんていう、紳士的なことを頑張って考えながら脱がせていた。
本当は、どこが、とは言わないが、疼いて仕方がなかった。血が溜まるような感覚を覚えて頭を振った。彼女が私の前で潰れたことは一度や二度ではない。その度に鋼の精神力が求められた。
マリヴェルを襲えば最後、今後一切近寄ることを許されないかもしれない。結婚で責任を取るなんていう時代錯誤な展開がおとずれないことは、近衛騎士である自分がいちばんよく分かっていた。
最近のお姫様や令嬢たちの辞書には『貞操』という言葉や概念はない。王族を護衛していて、一番遭遇する輩は、一発ヤッただけで王女殿下と結婚できると勘違いする男どもだからだ。
それはわかっていたはずのに。十も百も承知だったのに。
私はマリヴェルにねだられて関係を持とうとしてしまった。
しかしどこの世界に、何年も恋焦がれた女性から『ねえ、本当に私と結婚してお婿に来てくれるの? ……不安なの。いますぐ私をあなたのものにして? ロレシオ』と言われて我慢が出来る男がいるのか。彼女の大きな緑の瞳とそれを縁取る睫毛は涙で濡れていて、頰はばら色に上気しているのである。
個人的な一番のクリティカルヒットは、普段は他人行儀な敬語なのに、対等な言葉使いで甘えられたという事実だった。 ──もう理性という理性は粉々に砕け散った。木っ端微塵であった。かわいい、かわいい、今すぐものにしたい── 私は負けた、自分の欲望に。
ちなみに彼女の細い腕は私の首に回されていた。外套を掴まれて体勢を崩したところにそれをやられたのだ。
しかも彼女は半裸の状態。あらわになった白い肌は薄紅色に染まっており、熱く火照った身体からはアルコールのにおいと混じって花のような良い香りがした。
とうとう辛抱たまらなくなり、彼女の頭の裏に手を回し、唇を奪ってしまった。紅が唇に付着することも厭わずに、その柔らかさと温かさに酔いしれた。
きっとマリヴェルはキスのひとつもしたことが無いのだろう。息継ぎが出来ず、苦しげに吐息を漏らしていた。
自分の背に回された彼女の小さな手にぎゅっと力が入り、名残惜しさを感じながら唇を離すと、マリヴェルはまた私への好意を口にした。『嬉しい……大好きよ、ロレシオ』なんて、うっとりした笑みを浮かべられ、頰を撫でられてしまった。 ──この状況で火がつかないやつがいたら見てみたい。
それからは……無我夢中でマリヴェルの身体をむさぼってしまった。
陶器を思わせる──しっとりとした肌に吸い付き、いくつもの痕を残した。これはもう自分のものだという証だ。
マリヴェルを束縛するつもりは毛頭ない。しかし他の者に取られたくない。彼女が他の男のものになるなど、想像することすらしたくない。吐き気がした。
モンシプールの家督はごり押しで捨てるにしても、モルガン家の婿にすぐになれるかどうかは彼女の両親次第だ。元モンシプール家の嫡男を婿にはできないと渋られるかもしれない。
マリヴェルには婿が必要になった。それすなわちいつ他の男に奪われるか分からないということだ。
なるべくたくさんの情事の痕を残そうと必死だった。私が彼女のやわらかな胸元にきゅっと吸い付くたびに、彼女は甘い吐息を漏らす。私の髪をうっとりと梳き、虚な瞳で微笑む。心地よかった。もっと頭を撫でて欲しい。
太ももにも同様の痕を残そうと、足をひらかせると、つけ根の下生えはじっとりと濡れていた。黒く生えたそれは薄いが、あまり手入れがされてないようだった。
マリヴェルの身だしなみはいつも完璧だった。一人暮らしなのに見事に結い上げられた髪には後毛一つなく、化粧は洗練されていた。『私は子どもっぽい顔立ちですから、隠さないと』と困ったように言っていたのを思い出す。
そんないつも身だしなみには人一倍気を遣っていた彼女の、油断されたところを目の当たりにしてしまい、どうしようもなく興奮した。
ぴたりと閉じられた割れ目の上の方を弄る。固く隆起した蕾はすぐに見つかった。指で優しく突くと、マリヴェルはくすぐったそうな声を漏らした。嫌そうではない反応に気をよくして、私は彼女の身体を折り曲げるように上向かせる。
舌先で陰核をつつくと、びくりと腰が跳ねた。経験がないわりに感じやすいらしい。もしかしたら一人でしているのかもしれない。彼女はもう十分に大人だった。
時折陰核を指で刺激しながら、秘裂に舌を這わせた。何人たりとも受け入れたことがなさそうなここは、舌で撫でるたびにふるふると震え、やがて花弁は開かれた。
いつも一人でしているのかと尋ねると、奥までの挿入はしたことが無いらしい。その割には感じやすく、つるりと飲みこんだ人差し指をなかを撫でるように出し入れしてやると、彼女は小刻みに絶頂を迎えていた。はじめて触れた彼女の中は、どろどろに熱く蕩けていた。
ふるふると身体を震わせて、達する彼女は言葉に言い表せないほど可愛らしかった。はやく、繋がりたい。
さらに足をひらかせて、太ももの内側にも吸い痕をつけた。我ながら重たくて気持ちの悪い行為をしているなと思ったが、自分も彼女と同等以上呑んでいた。思考は完全におかしくなっていたのである。
膣に挿れる指を二本に増やすと、さすがにキツいと思った。ぎゅうぎゅうと締め付けられ、はやく挿れたくて仕方がない。しかし彼女に傷を負わせるわけにはいかない。自分との情交が痛くて辛いものと思われてはたまらない。優しく、優しくしなければ。──焦るな。
『マリヴェル……』
名前を呼んでもうつらうつらとするばかりで、だんだん彼女からの反応がなくなってきた。仕方がない、あれだけ呑んだのだ。彼女は白ワインの大瓶を一人で空にしていた。もう酔いが回りすぎて眠くて仕方がないのだろう。
このまま剛直をぶち込みたいという欲求と、意識が薄くなっている彼女をむりやり物にしても良いものかという倫理感が脳内でせめぎあう。朝、目覚めた時、彼女が自分が知らぬ間に純潔を失っていたと気づいたら。きっと悲しく思うだろう。
名残惜しさを感じながら、彼女の中から指を引き抜いた。部屋の小さな灯りに照らされて、剣だこだらけの無骨な手指はぬらぬらと艶めいている。
──赤い一筋。人差し指から手首にかけて、それは確かに付着していた。息をのんだ。
急ぐあまり、少々乱暴にしてしまったのだろう。自分もあまり経験が無かった──というか、成人した時に、閨教育の担当者から教本と口頭でやりかたを教わっただけだ。
月の障りがたまたま来たところだとも考えにくい。マリヴェルならそういう日が近いなら、事前に手当てをしている事だろう。
ということは、これは紛れもない純潔の証だ。
『すまない……マリヴェル』
瞼を閉じてしまった彼女に謝る。マリヴェルはすうすうと寝息を立てはじめていた。このままにしていたら風邪をひくと分かっていても、自分の劣情の痕だらけになった、このみだらな肢体を見ていたいという要求に抗えなかった。
挿入はしなかったものの、この後彼女の身体を使って昂りを放出してしまった。しかも三回も。自分が出した白い体液だらけになったマリヴェルも、それはそれは妖艶で美しかった。
こんな変態じみた行為をしたとばれたら、確実に殺されるだろう。せっかく向けて貰えた愛も失いかねない。
彼女はこんな変態じみた劣情をもっている私のことを高潔な人物だと信じている。実際は寝乱れたマリヴェルを想像してはたびたびやらかしているのだが、彼女はそんなことは知るよしもない。
いくら幼馴染とはいえ、知られたくない、知って欲しくないことは山ほどあるのだ。
工房の流し場で湯につけた布を絞り、彼女の身体を清めた。すみずみまで汚れを拭ったが、やはり私の手についたもの以外、血痕はない。
柔らかで温かな、小さな身体を抱きしめる。
深夜になり、多少酒が抜けたのだろう、彼女の身体は冷えていた。
目尻の下には涙の痕がある。私のことが好きだといい、泣いたマリヴェル。結晶になったそれを指でぬぐった。
『ぜったいに君を幸せにしてみせる……』
マリヴェルは自立心旺盛で束縛を嫌うしっかりとした女性だ。彼女の邪魔にならないスマートな男でいてみせる。絶対──
私はそっと握りこぶしを作り、それを敷布の上に落とした。
本音は今よりももう少し長く一緒にいたいと思うし、イチャイチャしたいと思うが、うっとおしい男だと思われたくない。それに適度に離れているほうが、愛は燃え上がるだろう。
『ロレシオ……すき……』
むにゃむにゃとマリヴェルは、また私への好意を口にする。口元には笑みが浮かび上がる。もしかしたら、もしかしなくても私との夢をみているのかもしれない。
器が小さい私は、彼女の夢の中の自分にまで嫉妬した。変なことをしてないだろうな。というか、普通にうらやましい。
『マリヴェル、私もだ、君が好きだ』
そう答えると、彼女は瞼を閉じたままくすぐったそうに笑った。はたして、こんなに可愛い生き物がいて良いのだろうか? 胸が高鳴りすぎてぜんぜん眠れなかった。
彼女を意識するようになったのは一体いくつの時だろうか。気がついたら、どうしようもなく好きになっていた。
マリヴェルは父の友人であるモルガン家当主の娘で、柔らかな黒髪と鮮やかな緑の虹彩をもつ、それはそれは可愛らしい女性だった。顔立ちは整っているが、やや垂れ目がちな目元は幼くみえる。耳触りの良い声は朝を告げる小鳥のようで、いつまで聴いていても飽きなかった。
私たちは物心つく前からいつも二人一緒にいた。父と母は早いうちからマリヴェルに目をつけていたようで、将来の私の妻にと事あるごとに彼女の父にお願いしていた。
このまま大きくなれば、マリヴェルは自分の妻になる。一緒に暮らせるのだと私は漠然と信じていたが、マリヴェルの方はというと違っていたようだ。
マリヴェルは結婚そのものを望んでいなかった。彼女は子どもの頃から自立心旺盛で、自分の力で食い扶持を得るのだといい、十六歳で成人したと同時にドレス商をはじめた。
最初のころは実家から借金をしていたようだが、みるみるうちに顧客が増え、今ではモルガン領を代表する事業の一つになっている。
だからか、マリヴェルの両親は娘の結婚に積極的ではなかった。私が彼女と縁をむすぶことを考えていると言っても、モルガン領主夫妻は『娘の気持ち次第だ』と言って譲らない。
モルガン家の爵位は伯爵だが、天候に左右されない事業が多いこの家は、国内有数の金持ちだった。無理に娘を嫁に出す必要がなかったのである。
マリヴェルは結婚に消極的。彼女の両親からの後押しも期待できない。そんな状況がかれこれ七年も続いていた。
彼女が私との結婚に対し、前向きでない一番の理由。それは私の実家モンシプールにあった。両親も弟たちも彼女を家族として扱っていた。いわゆる距離なし人間だったのだ。
いくらモルガン家と何十年と家族ぐるみの付き合いをしているとはいえ、うちの両親がマリヴェルのことを勝手に娘扱いし、弟たちが彼女を姉扱いするのもおかしな話だった。私はそんな分別のつかない家族に常々怒りを覚えていた。
私がマリヴェルでもモンシプール家の男とは結婚したくないと思うだろう。亭主の実家など、疎遠でいたいと思うのが世の女性の総意だと、私の上官も言っていた。
マリヴェルはとても優しい。創作に出てくる女神のように器が大きい。うっとおしい私の実家の家族とも上手くやってくれていた。頭が下がる思いだ。私が実家の家族を御することが出来ていないがために、彼女に迷惑をかけている。
そりゃこんな男とは結婚したくないだろう。結婚後の生活が思いやられるからだ。
一体どうすれば彼女と結婚出来るのか。日々悶々としていたところ、転機がおとずれた。
マリヴェルの兄、ステファンがモルガンの家督を放棄するという。
ステファンは貿易の仕事を本格化させるために外国に住むらしい。老後に南国へ移住する貴族は多いが、これから家を継ぐ予定の貴族の嫡子が異国に住むことは許されていない。だからステファンは貴族の身分を放棄したいと言い出したのだ。
モルガン家の嫡子であるステファンが家督を放棄すれば、おのずとマリヴェルにその役割が回ってくる。
今の世の中、女性領主は少なくないが、それはだいたい夫を亡くした寡婦だ。息子がいてもまだ成人に達してなく、一時的に務めている場合がほとんどだった。
マリヴェルは当然のように、両親から婿取りを勧められた。
彼女は泣いていた。マリヴェルのような自立心旺盛なしっかりした女性にとって、夫は邪魔でしかないのだろう。
そこで私はモルガン家の婿に立候補した。私は彼女の仕事に理解があるし、無理に同居をするつもりもない。もとよりモンシプール家の家督は弟たちに譲る気でいた。来年には次男のクリスが十六歳の成人を迎える。良い頃合いだと思った。
婿入りを申し出たら、案の定マリヴェルは反対した。名門侯爵家の家督を捨てるなどありえないと言ったが、マリヴェルとの結婚の足枷になるようなものを持っていたところで何の意味もない。
あの日の夜は今までにないほど気分が高揚した。お酒もすすみ、マリヴェルに好きだと言われて天にものぼる気分になった。今までも、彼女が私に少なくない好意のまなざしを向けてくれていたのは知っていたが、はっきり『好き』だと言われて、気持ちが昂らないわけがなかった。
足元が覚束ない彼女を馬車に乗せ、彼女の工房へと向かった。頰を赤く染め、熱っぽい蕩けた視線を向けてくるマリヴェルは暴力的なまでに妖艶だった。
ベッドに寝かせ、断りの言葉をつぶやきながら、彼女が着ていたワンピースタイプの水色の訪問着を脱がせた。彼女が考えた庶民でも頑張れば手が届く量産型の女性服で、王都でも流行していた。
マリヴェルには商才があり、並々ならぬファッションセンスがあった。彼女にはぜひ仕事を続けてほしい。……なんていう、紳士的なことを頑張って考えながら脱がせていた。
本当は、どこが、とは言わないが、疼いて仕方がなかった。血が溜まるような感覚を覚えて頭を振った。彼女が私の前で潰れたことは一度や二度ではない。その度に鋼の精神力が求められた。
マリヴェルを襲えば最後、今後一切近寄ることを許されないかもしれない。結婚で責任を取るなんていう時代錯誤な展開がおとずれないことは、近衛騎士である自分がいちばんよく分かっていた。
最近のお姫様や令嬢たちの辞書には『貞操』という言葉や概念はない。王族を護衛していて、一番遭遇する輩は、一発ヤッただけで王女殿下と結婚できると勘違いする男どもだからだ。
それはわかっていたはずのに。十も百も承知だったのに。
私はマリヴェルにねだられて関係を持とうとしてしまった。
しかしどこの世界に、何年も恋焦がれた女性から『ねえ、本当に私と結婚してお婿に来てくれるの? ……不安なの。いますぐ私をあなたのものにして? ロレシオ』と言われて我慢が出来る男がいるのか。彼女の大きな緑の瞳とそれを縁取る睫毛は涙で濡れていて、頰はばら色に上気しているのである。
個人的な一番のクリティカルヒットは、普段は他人行儀な敬語なのに、対等な言葉使いで甘えられたという事実だった。 ──もう理性という理性は粉々に砕け散った。木っ端微塵であった。かわいい、かわいい、今すぐものにしたい── 私は負けた、自分の欲望に。
ちなみに彼女の細い腕は私の首に回されていた。外套を掴まれて体勢を崩したところにそれをやられたのだ。
しかも彼女は半裸の状態。あらわになった白い肌は薄紅色に染まっており、熱く火照った身体からはアルコールのにおいと混じって花のような良い香りがした。
とうとう辛抱たまらなくなり、彼女の頭の裏に手を回し、唇を奪ってしまった。紅が唇に付着することも厭わずに、その柔らかさと温かさに酔いしれた。
きっとマリヴェルはキスのひとつもしたことが無いのだろう。息継ぎが出来ず、苦しげに吐息を漏らしていた。
自分の背に回された彼女の小さな手にぎゅっと力が入り、名残惜しさを感じながら唇を離すと、マリヴェルはまた私への好意を口にした。『嬉しい……大好きよ、ロレシオ』なんて、うっとりした笑みを浮かべられ、頰を撫でられてしまった。 ──この状況で火がつかないやつがいたら見てみたい。
それからは……無我夢中でマリヴェルの身体をむさぼってしまった。
陶器を思わせる──しっとりとした肌に吸い付き、いくつもの痕を残した。これはもう自分のものだという証だ。
マリヴェルを束縛するつもりは毛頭ない。しかし他の者に取られたくない。彼女が他の男のものになるなど、想像することすらしたくない。吐き気がした。
モンシプールの家督はごり押しで捨てるにしても、モルガン家の婿にすぐになれるかどうかは彼女の両親次第だ。元モンシプール家の嫡男を婿にはできないと渋られるかもしれない。
マリヴェルには婿が必要になった。それすなわちいつ他の男に奪われるか分からないということだ。
なるべくたくさんの情事の痕を残そうと必死だった。私が彼女のやわらかな胸元にきゅっと吸い付くたびに、彼女は甘い吐息を漏らす。私の髪をうっとりと梳き、虚な瞳で微笑む。心地よかった。もっと頭を撫でて欲しい。
太ももにも同様の痕を残そうと、足をひらかせると、つけ根の下生えはじっとりと濡れていた。黒く生えたそれは薄いが、あまり手入れがされてないようだった。
マリヴェルの身だしなみはいつも完璧だった。一人暮らしなのに見事に結い上げられた髪には後毛一つなく、化粧は洗練されていた。『私は子どもっぽい顔立ちですから、隠さないと』と困ったように言っていたのを思い出す。
そんないつも身だしなみには人一倍気を遣っていた彼女の、油断されたところを目の当たりにしてしまい、どうしようもなく興奮した。
ぴたりと閉じられた割れ目の上の方を弄る。固く隆起した蕾はすぐに見つかった。指で優しく突くと、マリヴェルはくすぐったそうな声を漏らした。嫌そうではない反応に気をよくして、私は彼女の身体を折り曲げるように上向かせる。
舌先で陰核をつつくと、びくりと腰が跳ねた。経験がないわりに感じやすいらしい。もしかしたら一人でしているのかもしれない。彼女はもう十分に大人だった。
時折陰核を指で刺激しながら、秘裂に舌を這わせた。何人たりとも受け入れたことがなさそうなここは、舌で撫でるたびにふるふると震え、やがて花弁は開かれた。
いつも一人でしているのかと尋ねると、奥までの挿入はしたことが無いらしい。その割には感じやすく、つるりと飲みこんだ人差し指をなかを撫でるように出し入れしてやると、彼女は小刻みに絶頂を迎えていた。はじめて触れた彼女の中は、どろどろに熱く蕩けていた。
ふるふると身体を震わせて、達する彼女は言葉に言い表せないほど可愛らしかった。はやく、繋がりたい。
さらに足をひらかせて、太ももの内側にも吸い痕をつけた。我ながら重たくて気持ちの悪い行為をしているなと思ったが、自分も彼女と同等以上呑んでいた。思考は完全におかしくなっていたのである。
膣に挿れる指を二本に増やすと、さすがにキツいと思った。ぎゅうぎゅうと締め付けられ、はやく挿れたくて仕方がない。しかし彼女に傷を負わせるわけにはいかない。自分との情交が痛くて辛いものと思われてはたまらない。優しく、優しくしなければ。──焦るな。
『マリヴェル……』
名前を呼んでもうつらうつらとするばかりで、だんだん彼女からの反応がなくなってきた。仕方がない、あれだけ呑んだのだ。彼女は白ワインの大瓶を一人で空にしていた。もう酔いが回りすぎて眠くて仕方がないのだろう。
このまま剛直をぶち込みたいという欲求と、意識が薄くなっている彼女をむりやり物にしても良いものかという倫理感が脳内でせめぎあう。朝、目覚めた時、彼女が自分が知らぬ間に純潔を失っていたと気づいたら。きっと悲しく思うだろう。
名残惜しさを感じながら、彼女の中から指を引き抜いた。部屋の小さな灯りに照らされて、剣だこだらけの無骨な手指はぬらぬらと艶めいている。
──赤い一筋。人差し指から手首にかけて、それは確かに付着していた。息をのんだ。
急ぐあまり、少々乱暴にしてしまったのだろう。自分もあまり経験が無かった──というか、成人した時に、閨教育の担当者から教本と口頭でやりかたを教わっただけだ。
月の障りがたまたま来たところだとも考えにくい。マリヴェルならそういう日が近いなら、事前に手当てをしている事だろう。
ということは、これは紛れもない純潔の証だ。
『すまない……マリヴェル』
瞼を閉じてしまった彼女に謝る。マリヴェルはすうすうと寝息を立てはじめていた。このままにしていたら風邪をひくと分かっていても、自分の劣情の痕だらけになった、このみだらな肢体を見ていたいという要求に抗えなかった。
挿入はしなかったものの、この後彼女の身体を使って昂りを放出してしまった。しかも三回も。自分が出した白い体液だらけになったマリヴェルも、それはそれは妖艶で美しかった。
こんな変態じみた行為をしたとばれたら、確実に殺されるだろう。せっかく向けて貰えた愛も失いかねない。
彼女はこんな変態じみた劣情をもっている私のことを高潔な人物だと信じている。実際は寝乱れたマリヴェルを想像してはたびたびやらかしているのだが、彼女はそんなことは知るよしもない。
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工房の流し場で湯につけた布を絞り、彼女の身体を清めた。すみずみまで汚れを拭ったが、やはり私の手についたもの以外、血痕はない。
柔らかで温かな、小さな身体を抱きしめる。
深夜になり、多少酒が抜けたのだろう、彼女の身体は冷えていた。
目尻の下には涙の痕がある。私のことが好きだといい、泣いたマリヴェル。結晶になったそれを指でぬぐった。
『ぜったいに君を幸せにしてみせる……』
マリヴェルは自立心旺盛で束縛を嫌うしっかりとした女性だ。彼女の邪魔にならないスマートな男でいてみせる。絶対──
私はそっと握りこぶしを作り、それを敷布の上に落とした。
本音は今よりももう少し長く一緒にいたいと思うし、イチャイチャしたいと思うが、うっとおしい男だと思われたくない。それに適度に離れているほうが、愛は燃え上がるだろう。
『ロレシオ……すき……』
むにゃむにゃとマリヴェルは、また私への好意を口にする。口元には笑みが浮かび上がる。もしかしたら、もしかしなくても私との夢をみているのかもしれない。
器が小さい私は、彼女の夢の中の自分にまで嫉妬した。変なことをしてないだろうな。というか、普通にうらやましい。
『マリヴェル、私もだ、君が好きだ』
そう答えると、彼女は瞼を閉じたままくすぐったそうに笑った。はたして、こんなに可愛い生き物がいて良いのだろうか? 胸が高鳴りすぎてぜんぜん眠れなかった。
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