最弱職【掃除士】が実は環境最強でした ~ダンジョンの浄化で世界を救う~

宵町あかり

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第6話 王女との出会い

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 聖剣の掃除士。

 その名前が、王都中に広まるまで、そう時間はかからなかった。

 召喚から十日。俺は王都最大の冒険者ギルドで、今日も清掃依頼を確認している。朝の光が、ギルドの大窓から差し込み、聖剣エクスカリバーの柄を黄金に輝かせていた。

「翔太さん、ちょうど良かった」

 受付嬢のリサが、安堵の表情を浮かべる。彼女の態度は、最初の頃とは百八十度変わっていた。あの時の軽蔑の眼差しが、今では尊敬と親愛に変わっている。

「実は、今朝方、特別な依頼が入りまして……」

 リサが声を潜め、周囲を確認してから続ける。その瞳には、興奮と不安が混じっていた。

「王城から極秘の依頼なんです」

 王城? まさか王族から? 俺の心臓が、期待と緊張で高鳴った。

「詳細は直接お会いしてから、ということですが……第三王女エリーゼ様に関することらしくて」

 第三王女エリーゼ。名前は聞いたことがある。王国の宝石と呼ばれる美しい王女だが、ここ数年は公の場に姿を見せていないという。何か深刻な事情があるのだろうか。

「分かりました。引き受けます」

 俺が即答すると、リサが安堵の表情を浮かべた。

「実は、もう何人もの高名な聖職者が挑戦したんですが、全員失敗したそうで……でも、翔太さんの浄化なら、もしかしたら」

 彼女の目には、切実な願いが込められていた。王女への敬愛と、救いたいという純粋な想いが。



 王城への道のりは、思ったより長かった。

 石畳の大通りを進むにつれ、街並みが徐々に豪華になっていく。商人の店から貴族の屋敷へ、そして最後には白亜の城壁が見えてきた。

 城門で身分証を見せると、衛兵たちがざわめいた。

「聖剣の掃除士……」
「本当にあの聖剣エクスカリバーを?」
「アンデッドキングを浄化したって話は本当なのか」

 俺は静かに頷き、聖剣を見せる。黄金の刀身が陽光を反射し、衛兵たちが息を呑んだ。その畏敬の眼差しに、俺は複雑な気持ちになった。二週間前までは、最弱と蔑まれていたのに。

 城内に案内されると、豪華な廊下を延々と歩かされた。天井には美しいシャンデリアが輝き、壁には歴代の王の肖像画が並んでいる。足音が大理石の床に響く。

 やがて、重厚な扉の前に着いた。

「エリーゼ様のお部屋です」

 案内役の侍女が、悲しそうな顔で言う。彼女の目には、深い憂いが宿っていた。長年仕えてきた主人を救えない無力感が、その表情に滲んでいた。

「もう三年……誰も、お救いすることができなくて」

 三年。その長さに、俺は息を呑んだ。どれほどの苦しみだろうか。

 扉が開かれると、薬草と香の匂いが鼻を突いた。そして、その奥から――瘴気を感じる。



 部屋の中央に、天蓋付きのベッドがあった。

 そこに横たわっていたのは、息を呑むほど美しい少女だった。

 長い銀髪が枕に広がり、整った顔立ちは人形のように完璧。しかし、その肌は病的に青白く、苦しそうに眉をひそめている。

 そして、彼女の周りに――紫色の霧が漂っていた。

 俺は一歩、また一歩と近づいた。近くで見ると、彼女の苦しみがより鮮明に感じられた。微かに震える睫毛、浅い呼吸、時折眉間に寄るしわ。意識があるのに、身体が動かない。その苦痛は、想像を絶するものだろう。

「これは……呪い?」

 俺が近づくと、老年の男性が立ち上がった。豪華なローブに身を包んだ、明らかに高位の聖職者だ。

「君が噂の掃除士か」

 彼の声には、疲労と諦めが滲んでいた。深い皺が刻まれた顔には、三年間の苦闘の跡が見えた。

「私は大司教ガブリエル。この国最高位の聖職者だ。だが……」

 彼は悔しそうに拳を握る。その手が、微かに震えていた。

「三年だ。三年間、あらゆる手を尽くしたが、この呪いを解くことができない。私の無力が、王女様を苦しめ続けている」

 自責の念に苛まれる老聖職者の姿に、俺は胸が痛んだ。

「どんな呪いなんですか?」

「分からない。ただ、三年前の夜、突然エリーゼ様が倒れて、それ以来ずっとこの状態だ」

 大司教が続ける。

「意識はあるようだが、言葉を発することができない。身体も動かせない。まるで、魂だけが身体に閉じ込められているような……」

 俺は鑑定スキルを使ってみた。

【呪い:永遠の眠り】
等級:古代級
効果:対象の身体機能を最低限に保ちつつ、意識を封印する
解呪条件:???

 古代級の呪い。これは確かに、普通の解呪魔法では無理だろう。

 でも、俺の浄化なら――

「浄化させてもらってもいいですか?」

 大司教が驚いた顔をする。

「浄化? 解呪ではなく?」

「呪いも、ある意味では穢れです。本来あるべき状態を歪めているという点で」

 俺はエリーゼに近づいた。

 近くで見ると、さらに美しい。まるで、おとぎ話の眠り姫のようだ。長いまつ毛が、頬に影を作っている。

 そして、彼女の身体から立ち昇る紫の霧――これが呪いの実体か。

「浄化」

 手を翳すと、光がエリーゼを包み込む。

 しかし――

 バチッ!

 呪いが反発し、俺の手が弾かれた。

「くっ……」

 予想以上に強い。アンデッドキングの呪いとは、また違う種類の強さ。これは、悪意ではなく――執着?

「やはり無理か……」

 大司教が諦めたように呟く。

 でも、俺は諦めない。聖剣を抜いた。

「聖剣エクスカリバー……」

 大司教が息を呑む。

 聖剣を通して、もう一度浄化を試みる。邪悪特効の効果が、呪いの本質を見抜いてくれるはずだ。

「浄化」

 今度は、光が呪いに浸透していく。

 ゆっくりと、だが確実に、紫の霧が薄れ始めた。まるで朝霧が陽光に晒されるように。

 すると――呪いの中から、映像が浮かび上がった。



 それは、三年前の記憶だった。

 若い男性貴族が、エリーゼに求婚している場面。しかし、エリーゼは首を横に振る。

『私には、もう心に決めた人がいます』

『なんだと? 誰だ、そいつは!』

『それは言えません。でも、あなたとは結婚できません』

 男性貴族の顔が、怒りに歪む。しかし、その奥には深い悲しみもあった。

『ならば、永遠に誰のものにもなるな!』

 彼が呪いの札を投げつける。紫の霧が、エリーゼを包み込む。

『お前は永遠に眠り続ける。目覚めることがあるとすれば――』

 男性の顔が、狂気と悲しみに歪む。

『真実の愛を持つ者の、清らかな力によってのみだ。だが、そんな者はこの世にいない!』

 映像が消えた。



「なるほど……執着と嫉妬の呪いか」

 俺は理解した。これは単純な悪意ではない。歪んだ愛情が生み出した呪い。だから、聖職者の聖なる力では解けなかった。

 必要なのは、清らかな力。それも、打算のない、純粋な――

 俺の中で、何かが動いた。この美しい王女を、苦しみから解放したいという純粋な想い。それは恋愛感情でも、報酬目当てでもない。ただ、困っている人を助けたいという、掃除士としての本能だった。

「もう一度」

 俺は聖剣を握り直し、今度は別のアプローチを取った。

 呪いを打ち破るのではなく、受け入れて、浄化する。歪んだ愛情を、本来の形に戻す。執着を解放し、嫉妬を洗い流す。

「浄化――いや、解放してあげる」

 光が、優しくエリーゼを包む。

 今度は反発しない。むしろ、呪い自体が光を受け入れているようだった。まるで、ずっと解放されるのを待っていたかのように。

 紫の霧が、少しずつ消えていく。

 そして――

「ん……」

 エリーゼの瞼が、ゆっくりと開いた。

 深い青の瞳が、俺を見つめる。宝石のように澄んだ、美しい瞳だった。その瞳に映る困惑と、安堵と、そして希望が、俺の胸を打った。

「あなたは……?」

 か細い声。三年ぶりに発せられた言葉。その声の震えに、長い苦しみの跡が感じられた。

「掃除士の佐藤翔太です」

 俺が名乗ると、エリーゼは不思議そうに首を傾げた。

「掃除士……? でも、その剣は……」

「聖剣エクスカリバーです。たまたま手に入れました」

 エリーゼが微笑む。それは、春の陽光のような温かい笑顔だった。三年間の苦しみを経てなお、その笑顔は純粋で美しかった。

「掃除士が聖剣を……面白い方ですね」

 そして、彼女は身体を起こそうとして――よろめいた。

「っ……」

 俺は反射的に彼女を支える。華奢な身体が、俺の腕の中に収まった。ほのかに花の香りがする。

「す、すみません」

 エリーゼが頬を赤らめる。

「三年も眠っていたから、身体が……」

「エリーゼ様!」

 大司教が駆け寄ってくる。彼の目には、涙が浮かんでいた。老いた顔に、若々しい喜びが溢れていた。

「本当に……本当にお目覚めになられた!」

 部屋の外からも、歓声が聞こえてくる。侍女たちが泣きながら駆け込んでくる。

「エリーゼ様!」
「ああ、奇跡だ!」
「三年ぶりに……」

 騒ぎを聞きつけて、王と王妃も駆けつけてきた。

「エリーゼ! 我が娘よ!」

 王が娘を抱きしめる。その大きな体が震えていた。王妃も涙を流している。三年間の不安と悲しみが、一気に解放されたのだろう。

 家族の再会を見守りながら、俺は静かに部屋を出ようとした。

 でも――

「待って」

 エリーゼが俺を呼び止める。家族の腕から離れ、まだふらつく足取りで俺に近づいてきた。

「翔太さん……でしたね」

 彼女は家族から離れ、俺の前に立った。そして、深々と頭を下げる。

「ありがとうございました。あなたは、私の命の恩人です」

「いえ、俺はただ掃除をしただけです」

 俺の言葉に、エリーゼがくすりと笑う。

「呪いを掃除、ですか。やはり面白い方」

 そして、彼女は真剣な顔になる。その瞳に、強い決意が宿った。

「翔太さん。もしよろしければ、また会ってもらえませんか?」

「え?」

「三年間、ずっと意識はあったんです。でも、身体が動かなくて、言葉も出なくて……」

 エリーゼの目に、寂しさが浮かぶ。その孤独の深さに、俺は胸が締め付けられた。

「その間、いろいろ考えました。もし目覚めることができたら、何をしたいか。誰と話したいか」

 彼女は俺を見つめる。

「あなたともっと話がしたい。清らかな力で私を救ってくれた、掃除士のあなたのことを、もっと知りたいんです」

 その瞳には、真剣な光が宿っていた。それは、三年間の孤独を経て生まれた、純粋な願いだった。

━━━━━━━━━━━━━━━
【ステータス】
 佐藤翔太 Lv.42
 職業:掃除士
 称号:聖剣の主、宮廷浄化士
━━━━━━━━━━━━━━━
 HP  :730/730
 MP  :1100/1100
 攻撃力:94(+300)
 防御力:334
 敏捷 :94(+50)
━━━━━━━━━━━━━━━
【スキル】
 浄化 Lv.10
 └効果:呪い浄化まで可能
 鑑定 Lv.4
 収納 Lv.4
 剣術 Lv.1
 浄化効率:52
 汚染耐性:21
━━━━━━━━━━━━━━━

 レベル42。確実に強くなっている。

 そして、新たな出会いもあった。第三王女エリーゼ。彼女とは、また会うことになりそうだ。

 窓の外を見る。

 夕日が、王都を金色に染めている。どこか遠くで、教会の鐘が鳴っている。

 この世界に来て、まだ十日。

 でも、俺の居場所は、確実にできつつある。

 掃除士として、聖剣の主として、そして――誰かを救える者として。

 明日も、きっと新しい出会いが待っている。

 俺は、その日を楽しみに、宿へと歩き始めた。
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