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第10話 兄との対立
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「第三王子レオン・アルケイオス殿下にお伝えいたします」
厳格な石造りの廊下に、使者の声が響いた。レオンは実験室で魔素濃度の調整をしていたところだったが、手を止めて振り返る。
「はい」
「第一王子ユリオス殿下がお呼びです。至急、殿下の私室までお越しください」
使者は深々と頭を下げたが、その表情には緊張が漂っていた。皇宮の使者が緊張するということは、ただ事ではない。
「分かりました。すぐに向かいます」
レオンは実験器具を片付けながら、フィルミナに振り返った。
「フィルミナ、少し兄上のところに行ってくる。リヴィエルと一緒に待っていてくれ」
「はい、レオン様。でも...」
フィルミナの表情に不安が宿る。第八話の宮廷会議以来、城内の空気は微妙に変わっていた。廊下を歩く貴族たちの視線、使用人たちの会話の微妙な間。何かが変わろうとしている。
「大丈夫だ」レオンがフィルミナの頭を撫でた。「ただの兄弟の話し合いだよ」
リヴィエルが心配そうに口を開く。
「坊ちゃま、第一王子殿下は最近政務でお忙しくされています。もしかすると...」
「政治的な話だろうね」レオンが肩をすくめた。「でも、僕は研究者だから。兄上の心配は杞憂だと分かってもらえるはず」
---
ユリオスの私室は、レオンの実験室とは対照的だった。重厚な調度品に囲まれ、壁には帝国の歴史を描いた絵画が並んでいる。机上には山積みの公文書と、各地から届いた報告書が整然と分類されていた。
「失礼いたします、兄上」
レオンが扉をノックして入室すると、ユリオスは窓際に立って外を眺めていた。金髪が夕日に照らされ、その横顔は帝国の未来を背負う者の重みを感じさせる。
「レオン...来たか」
ユリオスが振り返る。深紅の瞳には、普段の冷静さとは違う感情が宿っていた。怒りか、それとも失望か。
「お忙しい中すみません。お呼びでしたね」
レオンが軽く頭を下げる。彼にとって、これは単なる兄弟の会話だった。しかし、ユリオスの表情を見て、少し違和感を覚える。
「座れ」
ユリオスが応接用の椅子を指差した。レオンが腰を下ろすと、ユリオスも向かいの椅子に座る。しばしの沈黙が流れた。
「レオン、お前の研究について話したい」
ユリオスの声は低く、威厳に満ちていた。第一王子として、帝国の将来を考える立場からの発言だった。
「研究ですか?」レオンが首をかしげる。「何かご質問があれば、喜んでお答えしますが」
「質問ではない」ユリオスが立ち上がった。「忠告だ」
レオンの眉がわずかに動く。忠告とは穏やかではない。
「その研究を止めろ」
ユリオスの言葉は断言調だった。部屋の空気が一瞬で張り詰める。
「止める?」レオンが困惑した。「なぜです?父上からは継続の許可をいただいていますが」
「父上は甘すぎる」ユリオスが拳を握った。「お前が何をしているのか、本当に分かっているのか?」
レオンは純粋な疑問を顔に浮かべた。
「スライムの培養と育成です。基礎的な生物学研究ですよ」
「基礎的?」ユリオスの声に苛立ちが混じる。「人工生命体を作り出すことが基礎的だと?」
「ええ」レオンが当然のように答えた。「培養環境を整えて、適切な栄養を与えて、魔素濃度を調整しただけです。前世...じゃなくて、以前勉強した知識の応用です」
ユリオスは弟の無邪気な返答に言葉を失った。
---
「レオン、お前は分かっていない」
ユリオスが窓際に歩いて行く。夕日が西の空を染め、城下町に影を落としていた。
「お前の研究は帝国に混乱をもたらしている」
「混乱?」レオンが眉をひそめた。「具体的にはどのような...」
「保守派と革新派の対立が激化している」ユリオスが振り返った。「お前の『人工生命体』を巡って、宮廷が二分されているのだ」
レオンは本気で理解できないという表情を見せた。
「でも、それは学術的な議論でしょう?新しい発見があれば、議論が起きるのは当然です」
「学術的?」ユリオスが苦笑いを浮かべた。「カドリア王国と東方連合から調査団が来ていることを忘れたか?」
「ああ、あの研究者の方々ですね」レオンが明るく答えた。「同じ分野の専門家とお話しできて、とても有意義でした」
ユリオスの表情が厳しくなった。
「あれは調査団ではない。スパイだ」
「え?」
レオンが驚いた顔をする。彼の世界観では、研究者は純粋に学術的な興味で動くものだった。
「お前の技術を盗み取るために来たのだ。そして、その技術を軍事利用する可能性を探っている」
「軍事利用?」レオンが首を振った。「そんなことをする理由がありません。フィルミナは戦うために生まれたわけではありませんよ」
「お前がそう思っていても、他国はそうは考えない」
ユリオスがレオンの前に立った。深紅の瞳が弟を見据える。
「人工的に兵士を作り出す技術。不死身の肉体を持つ戦闘員の量産。敵国にとって、これほど魅力的な技術はない」
レオンの表情が曇った。
「そんな...フィルミナは優しい子です。誰かを傷つけるなんて」
「問題はフィルミナ個人ではない」ユリオスが声を荒らげた。「技術そのものが問題なのだ」
---
「それに」ユリオスが続けた。「お前は帝国内の政治情勢も理解していない」
レオンが困った顔で聞き返す。
「政治情勢?」
「ヴァレンタス宰相が動いている」
その名前を聞いて、レオンの表情が少し引き締まった。宮廷会議での宰相の威圧的な雰囲気は印象に残っている。
「宰相閣下がどうかしましたか?」
「お前の研究を危険視している。神への冒涜だ、帝国秩序の破壊だ、と主張している」
ユリオスが歩きながら説明する。
「そして、保守派の貴族たちがそれに同調している。お前を帝国から追放すべきだという声さえ上がっている」
レオンが驚愕した。
「追放?でも、僕は何も悪いことをしていません」
「悪いことをしていないかどうかではない」ユリオスが立ち止まった。「問題は、お前の存在が帝国の安定を脅かすということだ」
「安定を脅かす?」
レオンには理解できなかった。研究をしているだけなのに、なぜそんなことになるのか。
「お前は革新派の旗印になってしまった」ユリオスが説明した。「彼らはお前を『新時代の象徴』として担ぎ上げようとしている」
「でも、僕は政治には興味がありません」
「それが問題だ」ユリオスの声に苛立ちが募る。「お前の無自覚さが、かえって状況を悪化させている」
レオンは混乱していた。純粋に研究をしていただけなのに、いつの間にか政治的な争いの中心に立たされている。
「兄上、僕はどうすれば...」
「研究を止めろ」ユリオスが再び断言した。「フィルミナとやらを処分して、元の生活に戻れ」
その瞬間、レオンの表情が変わった。
---
「処分?」
レオンの声に、今まで聞いたことのない強さが宿った。
「フィルミナを処分するということですか?」
ユリオスは弟の変化に気づいたが、引き下がらなかった。
「そうだ。所詮は実験体だろう?」
「違います」
レオンが立ち上がった。普段の穏やかな表情は消え、研究者としての信念が露わになる。
「フィルミナは独立した存在です。自我を持ち、感情を持ち、僕を信頼してくれている大切な存在です」
「存在?」ユリオスが冷笑した。「スライムが進化しただけの化け物ではないか」
「化け物ではありません!」
レオンが初めて兄に対して声を荒らげた。その迫力に、ユリオスが一瞬ひるむ。
「フィルミナは...フィルミナです。分類とか種族とか、そんなことは関係ありません」
レオンの青緑の瞳に、強い意志の光が宿っていた。
「彼女は僕を『レオン様』と呼んで、毎朝嬉しそうに挨拶してくれます。実験の手伝いをして、一緒に新しい発見を喜んでくれます。そんな彼女を処分しろだなんて...」
ユリオスが眉をひそめた。
「お前、まさかその化け物に...」
「化け物と呼ぶな!」
レオンの怒りが爆発した。普段は温厚な彼が、これほど激しく感情を露わにするのは珍しいことだった。
「フィルミナは僕が守ります。誰にも渡しません」
---
しばしの沈黙が流れた。ユリオスは弟の変貌に戸惑っていた。いつも研究に夢中で、政治的なことには無関心だった弟が、これほど強い意志を見せるとは。
「レオン」ユリオスが冷静な声で言った。「お前は帝国の王子だ。個人的な感情よりも、国家の利益を考えるべきではないか?」
「国家の利益?」レオンが振り返った。「僕の研究が帝国にとって不利益だとは思えません」
「現実を見ろ」ユリオスが立ち上がった。「お前のせいで宮廷は混乱し、他国は帝国を警戒している。これのどこが利益だ?」
レオンは少し考えた後、静かに答えた。
「知識の発展は、短期的には混乱をもたらすかもしれません。でも、長期的には必ず人類の役に立ちます」
「理想論だ」ユリオスが首を振った。「現実の政治はそんなに甘くない」
「だからこそ、僕は政治家ではなく研究者なんです」
レオンの答えに、ユリオスは言葉を失った。
「僕は帝国の未来のために研究をしています。でも、それは政治的な意味での未来ではありません。知識と技術による、より良い世界のためです」
ユリオスの深紅の瞳に、複雑な感情が宿った。弟の純粋さと、現実の厳しさのギャップ。
「レオン、お前は...」
「僕は研究を続けます」レオンが断言した。「フィルミナを守り、新しい発見を追求します」
そして、一歩前に出る。
「兄上がそれを止めようとするなら...」
レオンの瞳に、決意の光が宿った。
「僕は兄上と戦うことになってしまいます」
---
ユリオスは弟の言葉に衝撃を受けた。いつも穏やかで、争いを好まない弟が、自分に「戦う」と宣言したのだ。
「戦う、だと?」
ユリオスの声に困惑が混じる。
「僕だって、大切なものを守るためなら戦います」レオンが真剣な表情で答えた。「フィルミナは...僕にとって、それほど大切な存在なんです」
ユリオスは弟を見詰めた。この純粋な研究者が、政治的な争いに巻き込まれることを望んではいない。しかし、彼の頑固さも理解した。
「分かった」ユリオスがため息をついた。「今日のところは引き下がろう」
レオンが少し安堵の表情を見せる。
「ただし」ユリオスが続けた。「お前が何を選択しようと、帝国の安定が第一だ。いずれ決断の時が来る」
レオンは頷いた。
「その時は、僕なりの答えを見つけます」
ユリオスが窓際に戻る。夕日はもう西の地平線近くまで沈んでいた。
「行け、レオン。お前の『大切な存在』が心配しているだろう」
レオンが一礼して部屋を出ていく。扉が閉まった後、ユリオスは独り言ちた。
「純粋すぎるお前が、この複雑な世界で生き抜けるのか...」
---
レオンが実験室に戻ると、フィルミナが心配そうに迎えた。
「レオン様、お帰りなさい。お疲れ様でした」
「ただいま、フィルミナ」
レオンが彼女の頭を撫でる。その温かい感触に、先ほどの緊張が和らいだ。
「第一王子殿下とは、どのような...」リヴィエルが気遣わしげに尋ねる。
「ちょっとした意見の違いだよ」レオンが微笑んだ。「でも、大丈夫だ」
フィルミナが不安そうに見上げる。
「レオン様、私のせいで何か...」
「君のせいじゃない」レオンが彼女の手を握った。「君は何も悪くない」
「でも...」
「フィルミナ」レオンが真剣な表情になった。「僕は君を守る。どんなことがあっても」
フィルミナの紫の瞳に涙が浮かんだ。
「レオン様...」
「君は僕にとって、とても大切な存在だ。研究対象とか、実験体とか、そんなことじゃない」
レオンの言葉に、フィルミナの頬がほんのり赤くなった。
「大切な...存在...」
彼女にとって、それは愛情の告白のように聞こえた。しかし、レオンは研究者としての純粋な愛情を表現しただけだった。
リヴィエルがため息をつく。
「坊ちゃま、もう少し状況を理解していただかないと...」
「分かってるよ、リヴィエル」レオンが振り返った。「でも、僕には僕の道がある」
そして、実験室の窓から夜空を見上げる。星が瞬き始めていた。
「研究を続ければ、もっと大きな嵐が来るかもしれない。でも、それでも僕は進む」
フィルミナが彼の隣に立った。
「私も、レオン様と一緒に」
「ありがとう、フィルミナ」
レオンが微笑む。その笑顔は、嵐の前の静けさの中で、希望の光のように輝いていた。
しかし、宮廷の奥深くでは、ヴァレンタス宰相が密かに次の手を準備していた。純粋な研究者と、複雑な政治の世界。その衝突は、やがて帝国全体を巻き込む大きな変化をもたらすことになる。
兄との対立は、レオンにとって新たな決意の始まりだった。
厳格な石造りの廊下に、使者の声が響いた。レオンは実験室で魔素濃度の調整をしていたところだったが、手を止めて振り返る。
「はい」
「第一王子ユリオス殿下がお呼びです。至急、殿下の私室までお越しください」
使者は深々と頭を下げたが、その表情には緊張が漂っていた。皇宮の使者が緊張するということは、ただ事ではない。
「分かりました。すぐに向かいます」
レオンは実験器具を片付けながら、フィルミナに振り返った。
「フィルミナ、少し兄上のところに行ってくる。リヴィエルと一緒に待っていてくれ」
「はい、レオン様。でも...」
フィルミナの表情に不安が宿る。第八話の宮廷会議以来、城内の空気は微妙に変わっていた。廊下を歩く貴族たちの視線、使用人たちの会話の微妙な間。何かが変わろうとしている。
「大丈夫だ」レオンがフィルミナの頭を撫でた。「ただの兄弟の話し合いだよ」
リヴィエルが心配そうに口を開く。
「坊ちゃま、第一王子殿下は最近政務でお忙しくされています。もしかすると...」
「政治的な話だろうね」レオンが肩をすくめた。「でも、僕は研究者だから。兄上の心配は杞憂だと分かってもらえるはず」
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ユリオスの私室は、レオンの実験室とは対照的だった。重厚な調度品に囲まれ、壁には帝国の歴史を描いた絵画が並んでいる。机上には山積みの公文書と、各地から届いた報告書が整然と分類されていた。
「失礼いたします、兄上」
レオンが扉をノックして入室すると、ユリオスは窓際に立って外を眺めていた。金髪が夕日に照らされ、その横顔は帝国の未来を背負う者の重みを感じさせる。
「レオン...来たか」
ユリオスが振り返る。深紅の瞳には、普段の冷静さとは違う感情が宿っていた。怒りか、それとも失望か。
「お忙しい中すみません。お呼びでしたね」
レオンが軽く頭を下げる。彼にとって、これは単なる兄弟の会話だった。しかし、ユリオスの表情を見て、少し違和感を覚える。
「座れ」
ユリオスが応接用の椅子を指差した。レオンが腰を下ろすと、ユリオスも向かいの椅子に座る。しばしの沈黙が流れた。
「レオン、お前の研究について話したい」
ユリオスの声は低く、威厳に満ちていた。第一王子として、帝国の将来を考える立場からの発言だった。
「研究ですか?」レオンが首をかしげる。「何かご質問があれば、喜んでお答えしますが」
「質問ではない」ユリオスが立ち上がった。「忠告だ」
レオンの眉がわずかに動く。忠告とは穏やかではない。
「その研究を止めろ」
ユリオスの言葉は断言調だった。部屋の空気が一瞬で張り詰める。
「止める?」レオンが困惑した。「なぜです?父上からは継続の許可をいただいていますが」
「父上は甘すぎる」ユリオスが拳を握った。「お前が何をしているのか、本当に分かっているのか?」
レオンは純粋な疑問を顔に浮かべた。
「スライムの培養と育成です。基礎的な生物学研究ですよ」
「基礎的?」ユリオスの声に苛立ちが混じる。「人工生命体を作り出すことが基礎的だと?」
「ええ」レオンが当然のように答えた。「培養環境を整えて、適切な栄養を与えて、魔素濃度を調整しただけです。前世...じゃなくて、以前勉強した知識の応用です」
ユリオスは弟の無邪気な返答に言葉を失った。
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「レオン、お前は分かっていない」
ユリオスが窓際に歩いて行く。夕日が西の空を染め、城下町に影を落としていた。
「お前の研究は帝国に混乱をもたらしている」
「混乱?」レオンが眉をひそめた。「具体的にはどのような...」
「保守派と革新派の対立が激化している」ユリオスが振り返った。「お前の『人工生命体』を巡って、宮廷が二分されているのだ」
レオンは本気で理解できないという表情を見せた。
「でも、それは学術的な議論でしょう?新しい発見があれば、議論が起きるのは当然です」
「学術的?」ユリオスが苦笑いを浮かべた。「カドリア王国と東方連合から調査団が来ていることを忘れたか?」
「ああ、あの研究者の方々ですね」レオンが明るく答えた。「同じ分野の専門家とお話しできて、とても有意義でした」
ユリオスの表情が厳しくなった。
「あれは調査団ではない。スパイだ」
「え?」
レオンが驚いた顔をする。彼の世界観では、研究者は純粋に学術的な興味で動くものだった。
「お前の技術を盗み取るために来たのだ。そして、その技術を軍事利用する可能性を探っている」
「軍事利用?」レオンが首を振った。「そんなことをする理由がありません。フィルミナは戦うために生まれたわけではありませんよ」
「お前がそう思っていても、他国はそうは考えない」
ユリオスがレオンの前に立った。深紅の瞳が弟を見据える。
「人工的に兵士を作り出す技術。不死身の肉体を持つ戦闘員の量産。敵国にとって、これほど魅力的な技術はない」
レオンの表情が曇った。
「そんな...フィルミナは優しい子です。誰かを傷つけるなんて」
「問題はフィルミナ個人ではない」ユリオスが声を荒らげた。「技術そのものが問題なのだ」
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「それに」ユリオスが続けた。「お前は帝国内の政治情勢も理解していない」
レオンが困った顔で聞き返す。
「政治情勢?」
「ヴァレンタス宰相が動いている」
その名前を聞いて、レオンの表情が少し引き締まった。宮廷会議での宰相の威圧的な雰囲気は印象に残っている。
「宰相閣下がどうかしましたか?」
「お前の研究を危険視している。神への冒涜だ、帝国秩序の破壊だ、と主張している」
ユリオスが歩きながら説明する。
「そして、保守派の貴族たちがそれに同調している。お前を帝国から追放すべきだという声さえ上がっている」
レオンが驚愕した。
「追放?でも、僕は何も悪いことをしていません」
「悪いことをしていないかどうかではない」ユリオスが立ち止まった。「問題は、お前の存在が帝国の安定を脅かすということだ」
「安定を脅かす?」
レオンには理解できなかった。研究をしているだけなのに、なぜそんなことになるのか。
「お前は革新派の旗印になってしまった」ユリオスが説明した。「彼らはお前を『新時代の象徴』として担ぎ上げようとしている」
「でも、僕は政治には興味がありません」
「それが問題だ」ユリオスの声に苛立ちが募る。「お前の無自覚さが、かえって状況を悪化させている」
レオンは混乱していた。純粋に研究をしていただけなのに、いつの間にか政治的な争いの中心に立たされている。
「兄上、僕はどうすれば...」
「研究を止めろ」ユリオスが再び断言した。「フィルミナとやらを処分して、元の生活に戻れ」
その瞬間、レオンの表情が変わった。
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「処分?」
レオンの声に、今まで聞いたことのない強さが宿った。
「フィルミナを処分するということですか?」
ユリオスは弟の変化に気づいたが、引き下がらなかった。
「そうだ。所詮は実験体だろう?」
「違います」
レオンが立ち上がった。普段の穏やかな表情は消え、研究者としての信念が露わになる。
「フィルミナは独立した存在です。自我を持ち、感情を持ち、僕を信頼してくれている大切な存在です」
「存在?」ユリオスが冷笑した。「スライムが進化しただけの化け物ではないか」
「化け物ではありません!」
レオンが初めて兄に対して声を荒らげた。その迫力に、ユリオスが一瞬ひるむ。
「フィルミナは...フィルミナです。分類とか種族とか、そんなことは関係ありません」
レオンの青緑の瞳に、強い意志の光が宿っていた。
「彼女は僕を『レオン様』と呼んで、毎朝嬉しそうに挨拶してくれます。実験の手伝いをして、一緒に新しい発見を喜んでくれます。そんな彼女を処分しろだなんて...」
ユリオスが眉をひそめた。
「お前、まさかその化け物に...」
「化け物と呼ぶな!」
レオンの怒りが爆発した。普段は温厚な彼が、これほど激しく感情を露わにするのは珍しいことだった。
「フィルミナは僕が守ります。誰にも渡しません」
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しばしの沈黙が流れた。ユリオスは弟の変貌に戸惑っていた。いつも研究に夢中で、政治的なことには無関心だった弟が、これほど強い意志を見せるとは。
「レオン」ユリオスが冷静な声で言った。「お前は帝国の王子だ。個人的な感情よりも、国家の利益を考えるべきではないか?」
「国家の利益?」レオンが振り返った。「僕の研究が帝国にとって不利益だとは思えません」
「現実を見ろ」ユリオスが立ち上がった。「お前のせいで宮廷は混乱し、他国は帝国を警戒している。これのどこが利益だ?」
レオンは少し考えた後、静かに答えた。
「知識の発展は、短期的には混乱をもたらすかもしれません。でも、長期的には必ず人類の役に立ちます」
「理想論だ」ユリオスが首を振った。「現実の政治はそんなに甘くない」
「だからこそ、僕は政治家ではなく研究者なんです」
レオンの答えに、ユリオスは言葉を失った。
「僕は帝国の未来のために研究をしています。でも、それは政治的な意味での未来ではありません。知識と技術による、より良い世界のためです」
ユリオスの深紅の瞳に、複雑な感情が宿った。弟の純粋さと、現実の厳しさのギャップ。
「レオン、お前は...」
「僕は研究を続けます」レオンが断言した。「フィルミナを守り、新しい発見を追求します」
そして、一歩前に出る。
「兄上がそれを止めようとするなら...」
レオンの瞳に、決意の光が宿った。
「僕は兄上と戦うことになってしまいます」
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ユリオスは弟の言葉に衝撃を受けた。いつも穏やかで、争いを好まない弟が、自分に「戦う」と宣言したのだ。
「戦う、だと?」
ユリオスの声に困惑が混じる。
「僕だって、大切なものを守るためなら戦います」レオンが真剣な表情で答えた。「フィルミナは...僕にとって、それほど大切な存在なんです」
ユリオスは弟を見詰めた。この純粋な研究者が、政治的な争いに巻き込まれることを望んではいない。しかし、彼の頑固さも理解した。
「分かった」ユリオスがため息をついた。「今日のところは引き下がろう」
レオンが少し安堵の表情を見せる。
「ただし」ユリオスが続けた。「お前が何を選択しようと、帝国の安定が第一だ。いずれ決断の時が来る」
レオンは頷いた。
「その時は、僕なりの答えを見つけます」
ユリオスが窓際に戻る。夕日はもう西の地平線近くまで沈んでいた。
「行け、レオン。お前の『大切な存在』が心配しているだろう」
レオンが一礼して部屋を出ていく。扉が閉まった後、ユリオスは独り言ちた。
「純粋すぎるお前が、この複雑な世界で生き抜けるのか...」
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レオンが実験室に戻ると、フィルミナが心配そうに迎えた。
「レオン様、お帰りなさい。お疲れ様でした」
「ただいま、フィルミナ」
レオンが彼女の頭を撫でる。その温かい感触に、先ほどの緊張が和らいだ。
「第一王子殿下とは、どのような...」リヴィエルが気遣わしげに尋ねる。
「ちょっとした意見の違いだよ」レオンが微笑んだ。「でも、大丈夫だ」
フィルミナが不安そうに見上げる。
「レオン様、私のせいで何か...」
「君のせいじゃない」レオンが彼女の手を握った。「君は何も悪くない」
「でも...」
「フィルミナ」レオンが真剣な表情になった。「僕は君を守る。どんなことがあっても」
フィルミナの紫の瞳に涙が浮かんだ。
「レオン様...」
「君は僕にとって、とても大切な存在だ。研究対象とか、実験体とか、そんなことじゃない」
レオンの言葉に、フィルミナの頬がほんのり赤くなった。
「大切な...存在...」
彼女にとって、それは愛情の告白のように聞こえた。しかし、レオンは研究者としての純粋な愛情を表現しただけだった。
リヴィエルがため息をつく。
「坊ちゃま、もう少し状況を理解していただかないと...」
「分かってるよ、リヴィエル」レオンが振り返った。「でも、僕には僕の道がある」
そして、実験室の窓から夜空を見上げる。星が瞬き始めていた。
「研究を続ければ、もっと大きな嵐が来るかもしれない。でも、それでも僕は進む」
フィルミナが彼の隣に立った。
「私も、レオン様と一緒に」
「ありがとう、フィルミナ」
レオンが微笑む。その笑顔は、嵐の前の静けさの中で、希望の光のように輝いていた。
しかし、宮廷の奥深くでは、ヴァレンタス宰相が密かに次の手を準備していた。純粋な研究者と、複雑な政治の世界。その衝突は、やがて帝国全体を巻き込む大きな変化をもたらすことになる。
兄との対立は、レオンにとって新たな決意の始まりだった。
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これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました
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「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」
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彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。
幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。
記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。
新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。
この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。
主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。
※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。
戦えない魔法で追放された俺、家電の知識で異世界の生存率を塗り替える
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異世界に転生したら?(改)
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事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
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物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
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