PINK

ヴァンター・スケンシー

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第六話「コンビニ」

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コンビニの無人化が急速に広まった。
ワンオペ問題や、従業員不足、セキュリティ、さまざまな理由があったが、今ほとんどのコンビニが無人化されている。
繁華街や、オフィス街のほぼ100%と言っても問題ないと思う。
ただ、商店街や、少し郊外の駅前のコンビニには、店員がいるコンビニも存在していた。
特に昼間のご高齢者の対応が必要な店舗によく見られた。

俺の近所のコンビニ、仕事帰りに必ず寄るコンビニにも店員がいるコンビニだった。
仕事が終わり、大体20時くらいに寄ると必ず同じ店員さんがいる。
正直に言おう。
別にこのコンビニに毎日寄りたいわけではない、その店員に会いたいのだった。
俺の推しのアイドルにちょっと似ている、おそらく20代半ばの女性店員。
彼女に会うために俺は毎日このコンビニに寄っているのだった。

レジはほぼセルフレジ、商品の補給もロボットでオートで行われているので、彼女はいつも一人で店に立っていた。
夜のコンビニに女性が一人で・・・・セキュリティ的には問題がありそうだが・・・・
彼女はアンドロイドだ。
多くの店員がいるコンビニもそうなのだが、ミスがなく、教育が簡単に行えるアンドロイドを店員として使っている。
アンドロイドを雇うのもタダでないので、24時間ワンオペをさせることはないようだった。
そして、このコンビニチェーンには可愛いアンドロイドが多いという噂があった。
可愛い女の子目当てで、顧客をつかむ戦略だと言われている。
もしそうだとしたら、俺はまんまとその戦略に乗せられているわけだ。

買い物はいつも彼女にレジ打ちをしてもらっていた。
セルフレジが空いていてもだ。
彼女が人間だったら、気持ち悪がられるとは思うが、アンドロイドの彼女はいつも嫌な顔をせずにレジを打ってくれる。

「いらっしゃいませ、いつもありがとうございます。お弁当温めますか?」

「はい、お願いします」

「レジ袋は・・いらないんですよね」

「はい」

毎日通っているので、顔は覚えられていた。
俺がエコバッグを持参していることもわかってくれていた。
仕事に疲れて帰ってきて、彼女の笑顔を見るのが俺の癒しになっていた。
一応アンドロイドも名札をつけていた『伊藤さん』
『伊藤さん』がいなくなったら、俺はもうあのコンビニには行かなくなるんだろうな。

ある日、残業で帰りが遅くなった。23時・・・・
伊藤さんまだいるかな・・・
あまり遅い時間に寄ったことがなかったので、少し心配だったが外から店を覗くとレジにたつ伊藤さんの姿を確認することができた。

『よかった。いた・・っていうか遅くまで働いているんだなぁ・・・』

そんな事を思いながらコンビニに入り、弁当を見ていると・・・
この時間は流石に売り切れが多いな・・まあ・・食品ロスの事を考えて、最低限の仕入れをしているんだろうな。
コンビニが無人化されてから、食品ロスが減ったというニュースを見た。
人間が発注するのではなく、データを元にしっかり商品の発注を行えるようになったとの事だった。

『新発売のラーメンか・・・まあ食べてみるか・・・・』

俺はラーメンと缶ビールをカゴに入れてレジに向かった。

「いらっしゃいませ、あ・・・このラーメン美味しいですよ」

「え?」

初めて伊藤さんから話かけてきてくれた。

「ほんとですか、じゃあ楽しみだな」

「温めますか?」

「あー、麺が伸びちゃいそうだから、大丈夫です」

「かしこまりました。あっ・・・・・」

「え?」

「あの・・お節介だったらすみません、トイレットペーパー大丈夫ですか?」

「あっ・・・そうだ・・・すみません、ちょっと待ってもらっていいですか?」

「はい、もちろんです」

俺はトイレットペーパーをとってもう一度レジに向かった。

「すみません、ありがとうございます」

「いえ、2週間に一回、水曜日にいつも買っていただいていたので」

「はぁ・・なるほど・・・さすがですね・・・」

「いえ、すみません気持ち悪かったですよね・・・」

「いえいえいえいえ、助かりましたよ」

さすがアンドロイドだ・・・客のデータをしっかり記録しているんだろう。
しかも、こんな可愛い店員さんから話かけられて気持ち悪いはずがない。
このシステムを採用したこのコンビニチェーンはなかなかやるな・・・・
家に帰り、新発売だったラーメンを食べてみた。
確かに美味かった。
無人になり効率が上がり、利益も増えたと聞いているが、このアンドロイド店員システムもなかなかすごいと思った。
俺みたいに、伊藤さんとのちょっとしたコミュニケーションで癒しをもらっている人は、おそらく他にもいるだろう。
効率化も大事だが、ああいうちょっとした会話は、地元のコンビニには必要なのかもしれないな。

次の日の会社帰り、俺はまた伊藤さんのいるコンビニに寄った。
昨日食ったラーメンが美味しかったので、リピートしてしまった。
伊藤さんのいるレジで向かうと。

「いらっしゃいませ。あ・・美味しかったですか?」

「ええ、ちょっとハマりそうですね!」

「よかった、でもこのラーメン結構カロリーが高いんで、気をつけてくださいね」

この日から、レジで伊藤さんと一言二言会話をするようになっていた。
人間の店員なら、毎日同じくらいの時間に来て店員と会話を交わす・・・・
そんな状況だったら、バックヤードできっとおかしなあだ名をつけられているだろうな笑
アンドロイドだから、気軽に話かけやすかった。
俺はすっかり、このコンビニの常連になっていた。

自分でも良くないとは思っていた。
コンビニの策略にまんまとハマっている自分に。
伊藤さんは良い人だけど、アンドロイドだ。
わかっているのだが・・・・
それを上回る魅力が伊藤さんにはあった、仕事で嫌なことがあった日も伊藤さんに『いらっしゃいませ』と笑顔で言われると、すっかり忘れることができた。
ひょっとしたら、少し恋心を抱いているんじゃないか?と思うくらいだ。

数日後、仕事を終えて伊藤さんのコンビニに寄った。
ちょっとハマってしまった例のラーメンと缶ビールをカゴに入れてレジに向かうと。

「いらっしゃいませ、うふふ、ほんと好きですね、このラーメン、でも食べ過ぎちゃうと太っちゃいますよ笑。あっ新しいお弁当美味しかったですよ、カロリーも低くて。たまにはいかがですか?」

「あはは、いやぁ・・ハマっちゃいました、確かに太ったかもなぁ・・・じゃあ・・交換してきてもいいですか?」

「はい、もちろんです。すみません、押し売りみたいなことしちゃって」

「いえいえ」

俺はラーメンを棚に戻して伊藤さんのオススメの弁当をレジに持っていった。

「伊藤さんのオススメなら安心ですよ笑」

「美味しくなかったらごめんなさい、温めますか?」

「はい、お願いします」

伊藤さん・・いや、アンドロイドの接客は完璧だった。
さりげなく新商品のオススメもする・・・
本当に手のひらの上で踊らされていた。
しかも・・・伊藤さんのオススメの弁当は美味しかった。
おそらく、俺の買い物のデータが蓄積されて好みが分析されているんだろう。
ネットで少し調べてみたら、やはり地方のコンビニのアンドロイド店員の評判はよかった。
おじいちゃんやおばあちゃんの中には、店員がアンドロイドだと気づいていない人たちもいたようだった。


ある日会社の飲み会があった。
上司の武勇伝を聞かされ、あんまり楽しいものではなかった、そのせいもあっていつもより酒が進んでかなり酔っ払ってしまった。
ギリギリ終電に間に合って、最寄駅に着いた。
午前1時。
流石にこの時間に伊藤さんはいないだろうと思ったが、伊藤さんに会いたくてコンビニを覗いてしまった。

居た。

こんな時間まで働いているのか、いくらアンドロイドとはいえ大変だろうな・・・・
コンビニに入り缶ビールを3本とつまみをカゴに入れてレジに向かった。
あんまり楽しい飲み会じゃなかったから、飲み直してさっくり寝て忘れよう。

「いらっしゃいませ」

「はい、遅くまで大変ですね」

「いえいえ、仕事なんで」
酔っ払っていたせいか、俺は少し饒舌になっていた。

「伊藤さんも大変ですよね、いくらアンドロイドとはいえ、仕事嫌になったことないですか?」

「え?」

「いや、今日会社の飲み会だったんですけど、まぁ・・仕事してたら嫌なことありますよね・・・アンドロイドさんはどうなのかはよく理解していないですけどね笑」

「え?笑」

「え?」

「私、人間ですよ笑」

「え?」

「このお店、元々はお父さんがやっていたんですけど、引き継いでやってるんで今は私がオーナーです。こうやって毎日きてくれる人もいるんで、なるべくお店に立ってるんですよ笑」

「え?あ?・・・・あのすみません・・・・」

「あはは、全然大丈夫ですよ、いつもありがとうございます」

「あ・・本当すみません・・・・いや・・・じゃあ・・・・」

「はい?」

「連絡先交換してもらっても・・・いいですか?」

「え?・・・うふふ・・・いいですよ、なんならもう上がるんで一緒に飲みますか?」

「え?え?じゃあ・・・ちょっと待ってください」

俺はビールをカゴに追加してレジに向かった。

「いつもありがとうございます笑」

「あ・・ほんとすみません」

「いいえ、実はお客さんが毎日同じ時間にきてくれるんで、なるべくその時間にお店に出るようにしてたんですよ」

「え?ほんとに?」

俺はこの後、俺の部屋で伊藤さんと飲むことになった。
次の日から、伊藤さんと待ち合わせをする為にコンビニに寄ることになった。
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